転校生とバンド少女たち   作:なぁくどはる

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迎えた当日

 

「どうでした!?」

 

 演奏が終わるとズイッと身を寄せて感想を欲しがる戸山さん。それに若干距離を取りつつ、答える。

 

「・・・うーん、バラバラだった、かな?」

「バラバラ・・・ですか・・・」

「うん。すっごく上手いおたえと市ヶ谷さん。若干リズムがズレちゃう時もあるけど基本問題なく弾けてる牛込さん。そして・・・」

 

 戸山さんがすごくキラキラした瞳で俺の顔を見る。

 

「・・・戸山さんはもうちょっと頑張ろうか」

「ええ〜!?私そんなにひどかったんですか・・・」

 

 流石にストレート過ぎたか。

 

「そういえば、戸山さんってギター始めてどれくらいなの?」

「うーん・・・まだ数週間、って感じです」

 

 ふむ、なるほど・・・それを踏まえるとあれだけ弾ければかなり才能があるかもしれない。

 

「ごめん戸山さん。俺が早とちりだったよ。まだ始めて数週間ならそこまで弾けたらすごいと思う」

「えへへ〜そうですか?」

 

 先程とは一転、今度は頬を緩ませまくっている。

 ほんと、表情がよく変わる子だ。見ているとこちらもそういう気持ちになってくる。不思議な魅力だな。

 

「じゃあ、今度は先輩の番ですよ!」

「でも俺、ギターが・・・」

「「私の使ってください!」」

 

 戸山さんとおたえの声が重なる。2人は顔を見合わせている。

 そんな2人を見ていると微笑ましくなる。

 

「あんまり人のギターを借りて、っていうのは気が進まないけど・・・おたえのを借りるよ」

「えー!!私のランダムスターじゃだめなんですか!?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど・・・」

 

 だって後ろで市ヶ谷さんが機嫌悪そうなんだもの。なんかわかんないけど、戸山さんのギターを使われる事が嫌なのかもしれない。

 その後、戸山さんをどうにか説得し、おたえのギターを借りる。

 

「よし、そんじゃいくよ」

 

 誰かが喉を鳴らした音が聴こえるくらいの静寂。それを破るように音色が奏でられる。

 

「うわぁ・・・!」

「すごい・・・」

「わあ・・・!」

「マジかよ・・・!」

 

 そして、演奏が終わる。

 

「・・・・・・ふう。どうだっ──────」

「「すごかったです!!!」」

「うおっ」

 

 飛びかからん勢いで距離を詰める戸山さんとおたえに驚いてしまう。

 

「喜んでもらえたならよかったよ」

「なんて言うかこう・・・キラキラ〜!って感じで・・・!」

「私もすっごくワクワクしました!」

 

 牛込さんと市ヶ谷さんも喜んでいるくれているみたいだ。

 2人の様子を確認していると、目の前の2人が声を揃えて口を開く。

 

「「先輩!」」

「ん?」

「「私にギターを教えてください!!」」

「・・・・・・え?」

 

 最近こういうの多くない?

 

 


 

 

 あの後、結局全員に指導することになった。

 みんな熱心だから教えがいがあるんだけど・・・俺の体は一つしかないんだ・・・もうちょっと気遣ってくれ・・・

 中でも戸山さんはすごかった。ギターを弾き始めて日が浅いということもあるのだろうが、彼女からの質問ラッシュには本当に頭が下がる思いだった。

 彼女はきっともっと上手くなる。それこそこれからのガールズバンドを導く星のように・・・・・・まあ、これは俺の勘なんだけど。

 とりあえず、近付くのは何とかしてほしいかな・・・俺だって一高校生なんだし、女の子と肩寄せあって教え合うっていうのは中々・・・

 

「まあでも、これからが楽しみだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。昨日聞いていた通りの時間に市ヶ谷さんの家に到着する。昨日と同じように蔵に向かうと既に扉が開かれており、靴もいくつか並べられていたので中へと入る。

 

「お邪魔します」

「あ!神崎先輩!」

 

 挨拶早々、戸山さんが突撃してくる。それを何とかいなし、既に集まっていたお客さん?の皆さんに挨拶する。中には山吹さんの姿も見受けられた。

 

「初めまして、神崎良哉です」

「こちらこそ初めまして。有咲の祖母です」

「そうだったのですね。昨日はお世話になりました」

「いえいえ。飲み物を持ってくるわ。何がいいかしら?」

 

 遠慮しようとしたが、おばあちゃんが遠慮しなくてもいいのよと言ってくれたのでお茶をいただく事にした。

 

「お手伝いしましょうか?」

「いいえ、お客さんだもの。それより、有咲たちの事気にかけてあげて」

「・・・わかりました。すみませんが、よろしくお願いします」

 

 おばあちゃんは返事をして蔵をあとにした。

 

「えーと、すみません。自己紹介が遅れて・・・初めまして、神崎良哉です」

「こちらこそ。りみの姉の牛込ゆりよ。牛込だとりみと被っちゃうからゆりでいいわよ♪よろしくね、神崎くん」

「・・・・・・はい、よろしくお願いします。ゆりさん」

 

 さん付けがご不満だったようだ。勘弁してください・・・

 

「おねえ・・・香澄の妹の戸山明日香です。よろしくお願いします、神崎先輩」

「先輩?じゃあ明日香ちゃんは・・・」

「はい、花咲川の中等部なんです」

「なるほど・・・明日香ちゃんは何と言うか・・・」

「・・・仰りたい事はわかります。姉がいつもお世話をおかけしているようで・・・」

「いや、そんなことは・・・」

 

 目を逸らしながら言っても効果はなかったようだ。明日香ちゃんにクスクスと笑われてしまう。

 

「でも、おねえ・・・姉が先輩のお話をされる時はいつも楽しそうにしているので、できればお付き合いいただけると・・・」

「・・・ふふっ、明日香ちゃんは優しいんだね」

「そういうわけでは・・・」

「大丈夫だよ。そもそも戸山さんが俺を逃がしてくれなさそうだし」

 

 昨日の質問攻めを思い出す。明日香ちゃんは首を傾げている。

 まあ、戸山さんがその辺の話はしてるかもだけどあれは話だけじゃわかんないよなぁ・・・

 にしても明日香ちゃん、呼びたかったらお姉ちゃんって呼べばいいのに。恥ずかしい年頃なんだろうか?

 

「こないだぶりだね、山吹さん」

「ふふ、いつもお世話になってます」

 

 こちらこそだ。やまぶきベーカリーのパンには本当にいつもお世話になっている。すっかりリピーターだ。

 

「山吹さんも招待されてたんだね」

「香澄の熱意に負けちゃって・・・」

 

 力なく笑う山吹さん。

 

「・・・確かにすごい行動力だもんなぁ」

「先輩もそういう事あったんですか?」

「つい昨日ね」

 

 俺も苦笑しながら言うと、山吹さんもつられて苦笑い。

 挨拶もそこそこに俺はずっと気になっていた()()について触れる事にした。

 

「・・・・・・なんでうさぎがいるんだ?」

 


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