「じゃーん!見て見て、さーや!文化祭ライブのチラシ作ったんだー!」
山吹さんの家で行われたお泊まり会の翌日、以前と同じように廊下で何やら話をしている戸山さんたちを見かける。
「へぇ〜文化祭のためにこんなのまで作ったんだ。あっ、このイラストいいかも」
「それはりみりんの力作なんだっ!」
どうやら、戸山さんたちが文化祭で行うライブの宣伝のために作成したチラシを見ているようだ。
「バンド名は・・・『Poppin'Party』?」
「それは有咲が考えてくれたんだっ」
「や、山吹さんが褒めてくれたから一応提案しただけだし・・・」
目を逸らしながらだったが、嬉しそうな顔を隠しきれていない市ヶ谷さん。
「うん。香澄たちにピッタリのいい名前だね」
「バンド名決まったのか」
「あっ!神崎先輩!」
タイミングを見計らい、会話に入っていく。
「ん?メンバーのとこに山吹さんの名前あるじゃん」
「えっ?」
「えへへ〜そうなんですっ」
はにかむように笑う戸山さん。しかし、山吹さんはそれを知らされていなかったようで、驚きの表情を見せていた。
「私はとっくにさーやもメンバーだって思ってますから」
「・・・・・・!」
戸山さんのこういう優しさが周りの人を惹き付けるんだろうな。
驚いていた山吹さんも今は顔に喜びの色が浮かんでいる。
そんな俺たちに声をかけてくる人物がいた。
「沙綾・・・」
「ナツ・・・」
山吹さんの知り合いのようだが、挨拶を交わしている二人の雰囲気はどこかぎこちない。
「そのチラシ・・・・・・沙綾、バンドやるの?」
「えっ・・・あ、いや、これは・・・」
「よかった・・・・・・沙綾が
「やらない」
強い意志が込められた否定だった。
「友達が勝手に書いちゃって・・・・・・ごめん」
結局あの後は微妙な雰囲気のまま予鈴が鳴り、解散となった。しかし、どうしても俺にはさっきの山吹さんが気にかかった。彼女らしからぬあの否定の言葉。そして、それを口にした彼女の表情。まるで苦虫を噛み潰したようなものだった。
『ナツ』と呼ばれていた少女に訊けば何かわかるのだろうか・・・。だが、温厚な山吹さんがあれだけ感情を露わにした事案だ。安易に踏み込んでいいものか・・・。
窓に移る景色を眺めながら、その後の授業を終えていった。
「あれ?戸山さん?」
「あっ・・・神崎先輩・・・」
休日にRoseliaの指導をお願いされていたので、ライブハウスに向かっている途中に戸山さんらしき人物を見かけたので、近付いて声をかける。
しかし反応が普段と違い、いつも元気いっぱいな戸山さんにしては珍しく沈んでいるように思える。
「・・・何かあったの?」
「・・・・・・さーや、昔バンドやってたみたいなんです」
やっぱり・・・この前廊下で会ったナツという少女が言っていた
「だから私、さーやに言ったんです。私たちとバンドやろうって・・・でも、さーやは・・・」
「断ったのか・・・でも、一体なんで・・・」
「さーやのお母さん、昔から体調があんまりよくないみたいで・・・さーやがバンドやってる間、お店のお仕事してたみたいなんですけど・・・」
山吹さんのあの反応を見るに、良くない話だとは思っていたが俺の勘が正しければもっと最悪かもしれない。
「ある日、倒れちゃったって・・・それでさーやは責任を感じてバンド辞めちゃったって・・・」
「なるほど・・・」
「でも、私さーやとバンドしたかったから一緒にやろうって、大変だったら手伝うよって言ったんです。でもさーやは、みんなが我慢して私だけ楽しめないって・・・・・・さーやには迷惑だったのかなぁ・・・」
山吹さんらしい。でも、彼女は気付いていない。迷惑をかけるからって、そう言って遠ざける事は優しさじゃない。現に戸山さんは山吹さんとの距離に悩み、苦しんでいる。
「・・・俺は山吹さんじゃないからわからないけど、戸山さんがとった行動は間違ってないと思うよ」
「・・・・・・どうしてそう思うんですか?さーや、泣いてました。ナツたちも香澄と同じ事言ってくれたって・・・でも、さーやは・・・」
「それなら尚更だ」
「えっ・・・?」
「泣く程その時の思い出が大事なんだ。今になっても涙が流れる程、後悔してるんだ。お母さんの事も友達との事も・・・」
「───────!」
「だから、俺は山吹さんに寄り添おうと頑張った戸山さんは間違ってないと思う。けど山吹さん自身、まだその時の折り合いがつけられていないんだと思う。だから、待つんだ。山吹さんが折り合いをつけられるようになるその日まで。そして、一日でもそれが早くなるように山吹さんの力になってあげることが大事だと俺は思う」
「神崎先輩・・・」
戸山さんは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
それでも綺麗だと思うんだから、美人って得だよなぁ・・・
「・・・大丈夫。俺も力になるよ。山吹さんにも、もちろん戸山さんにも」
限界だったのか俯いてしまう戸山さん。地面に美しい雫が一滴、また一滴とシミを作る。
俺はそんな彼女を放っておけなくて頭を撫で始める。数回撫で終わる頃には戸山さんの涙は今度は俺の右肩に跡を残した。