転校生とバンド少女たち   作:なぁくどはる

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とある休日

 

 波乱?の文化祭も幕を閉じ、俺は落ち着いた時間を過ごしていた。

 

「ん〜山吹ベーカリーにしよっかなぁ・・・いやでも、羽沢珈琲店もなぁ・・・」

 

 そう。休日にこんな平和な悩みを抱えられるくらいには落ち着いていた。

 しばし悩んで数分。俺は良案を思いつく。

 

「両方行けばいいのか!片方しか行けないわけじゃないんだよ、そうだそうだ」

 

 しょーもない結論に至ったところで、善は急げとばかりに家を飛び出した。

 しかし、今日の俺は家で大人しくしておくべきだったのだ。まさかあんな事になろうとは・・・

 

 


 

 

 カランコロンと音を立て山吹ベーカリーへと足を踏み入れる。すると、すっかり見慣れたポニーテールの少女が挨拶してくれる。

 

「いらっしゃいませ!・・・って良哉さん!」

「やっほ、沙綾」

 

 こうして沙綾と会うのは最後があの文化祭の日だったので実に数日ぶりだ。

 

「ちょっと待っててくださいね・・・・・・はい、いつものです♪」

「いつもさんきゅ」

 

 俺がいつも同じものを買うのでそれを覚えてくれた沙綾がいつしか袋に詰めてくれるようになった。

 ピッピッピッと、沙綾が慣れた手つきでレジを操作しながら問うてくる。

 

「そういえば、良哉さんいつポピパの練習見に来てくれるんですか?」

「ポピパ?」

 

 聞き慣れない単語だったので訊き返す。

 

「あれ?まだ言ってませんでしたっけ?『Poppin'Party』の略なんです」

「あっ、なるほど。それでポピパなのか」

 

 納得したところで沙綾が視線で、で?いつ来るのかと催促してくる。

 

「んー・・・いつって言われてもなぁ・・・」

「今日とかダメですか?」

「ん?今日練習するのか?」

「はい!午後から市ヶ谷さんの蔵に集まるんです」

「はぁ〜なるほど。確かにあそこ広いもんな・・・・・・よし、わかった。行くよ、今日」

「ほんとですか!?」

「お、おう・・・」

 

 沙綾がレジ越しに体を寄せてくるので思わず引き下がってしまう。それを見た沙綾は若干顔を顰めたような気がしたが、すぐに元に戻ったので気のせいだろう。

 なんにしても沙綾がPoppin'Partyに馴染めているようでよかった。悩んでいた時の表情が嘘のように今の彼女の顔は晴れている。やっぱり可愛い女の子は笑顔が一番だな。うん。

 なんて、一人で考えていると沙綾が心配して声をかけてくる。

 

「良哉さーん、おーい」

「・・・え、あ、なに?」

「急に黙っちゃったから・・・」

「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ」

「ならいいですけど・・・・・・あ、良哉さん。折角だし市ヶ谷さんの家まで一緒に行きませんか?私が手伝い終わるまで待っててもらわないといけないですけど・・・」

「ん、大丈夫。待ってるよ。なんなら俺も手伝うし」

「え!?それは流石に・・・」

「いーからいーから」

「良哉君の言う通りよ、沙綾」

「もう母さんまで・・・・・・・・・って母さん!?いつから!?」

「ん〜『いらっしゃいませ!・・・って良哉さん!』からかしら?」

「それ一番最初じゃん!!」

 

 びっくりした・・・沙綾のお母さんいつの間に後ろにいたんだよ・・・。びっくりしすぎて変な声出そうになったわ。ヒャア!的なやつ。

 

「とにかく。良哉君もこう言ってくれてるんだし、手伝ってもらいなさいよ」

「うーん・・・・・・ほんとにいいんですか?」

「もちろん。俺から言い出した事だし」

 

 すると、沙綾のお母さんがパンっと手を叩く。

 

「そうと決まれば・・・・・・・・・・・・はいっ、良哉君♪」

 

 そう言って彼女が差し出したのは一着のエプロンだった。

 ・・・・・・・・・・・・めちゃくちゃ用意周到ですね!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう・・・お疲れ、沙綾」

「良哉さんこそありがとうございました。お陰ですっごく助かっちゃいました♪」

「ならよかったよ」

 

 沙綾と沙綾の母親である千紘さんとの店番を終え、現在は市ヶ谷さんの家までの道のりを二人で歩んでいる。

 千紘さんとはお手伝いが始まる前に軽く自己紹介し合い、そう呼んでほしいとお願いされた。なんなら『ちゃん』でもいいと言われたがそれは丁重にお断りさせていただいた。・・・・・・・・・・・・いやあ、でも普通にちゃんでもいけそうなんだよなぁ。

 そんなこんなで始まったお手伝いだが、体力的にというよりは精神的にキツかった。なぜなら、終始千紘さんが沙綾と俺をイジってくるのだ。沙綾みたいな美人で面倒見もいい女の子に俺なんて明らかに釣り合わないだろうに。沙綾も顔を赤くして否定していたし。・・・・・・いや、傷ついてないよ?ほんとほんと。そもそも沙綾みたいな子に俺が釣り合うわけないんだから。・・・・・・・・・・・・辛い。

 傷ついた心をなんとか取り繕っていると市ヶ谷家に到着する。

 

「もう皆集まってるかな〜?」

「ていうか何時集合なんだ?」

「14時です」

 

 スマホの時計を確認すると、『13:42』と表示されている。

 

「いつもこれくらいに来るのか?」

「はい。その時は牛込さんがいるぐらいですね」

「なるほど」

 

 市ヶ谷家のインターホンを鳴らすと、市ヶ谷さんと思しき声がインターホン越しに聴こえてくる。

 

『はい』

「あ、市ヶ谷さん?山吹です」

『山吹さんか。どうぞ、入ってくれ』

「はーい」

 

 立派な門を潜り、蔵へと足を運ぶ。地下に移動するため階段を下るとかなり広めのスペースがあり、楽器やミニテーブル、ソファが置かれている。そのソファの一角には牛込さんが腰掛けてチョココロネを頬張っている。その顔はとても幸せそうだ。

 

「ふぁ。ふぁあふぁん・・・・・・っ!?ふぁんふぁふぃふぇんふぁい!?」

(※あ、沙綾ちゃん・・・・・・っ!?神崎先輩!?)

「え、あ、どうも。神崎です」

「今のわかったんですか・・・」

 

 俺が挨拶しているうちに牛込さんもチョココロネを食べ終わったようで慌てて挨拶してくれる。

 

「ご、ごめんなさい!驚いてしまって・・・」

「いいよ。牛込さんは俺が来るって知らなかったの?」

「は、はい」

「沙綾〜」

 

 彼女の名を呼びながら横を見ると、俺とは反対側に目線をやりものすごく綺麗な口笛を吹いていた。・・・・・・・・・・・・なんなの、その曲。めっちゃ気になるんだけど。後で訊こ。

 

「って、そうじゃなかった。俺の事言ってなかったな〜」

「だ、だって嬉しかったんですもん・・・」

 

 嬉しかったからつい忘れてしまったと。なるほど、嬉しい事言ってくれるな。しかし、そんな事で騙される俺ではない。甘いな、さあ・・・や・・・

 そう思い沙綾の顔を見ると、頬を染めながら人差し指をつんつんしている。あれ?俺は一体沙綾の何を咎めようと思ってたんだろう。まあ、いいか。

 俺が自身を見つめ直していると階段から誰かが降りてくる。

 

「おーっす・・・・・・って神崎先輩!?」

「またこのくだりするの?」

 

 


 

 

 あの後、市ヶ谷さんとも似たようなくだりを行っているうちに今度は香澄とおたえが登場する。二人は驚くでもなく逆に大変喜んでくれた。ああ、美少女が喜んでくれている・・・。なんて自惚れているうちにいつの間にやら両腕を左右から掴まれる。

 

「え?」

「良哉さんは私ですよね!?」

「ううん、神崎先輩は私だよ!」

「いやいや待て待て・・・・・・ちょ、ほんと待って!?それ以上やると腕ちぎれちゃうから!!」

 

 二人の謎の腕力により腕がちぎられる前に止める事に成功した。・・・・・・あぁよかった、腕がついてるよ・・・。

 

「・・・で、何がどうなってこうなったんだ?」

「実は・・・」

 

 香澄が事の顛末を教えてくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────────って事なんです」

「はぁ〜ん、なるほどね・・・」

 

 要約すると、どちらが先にギターの指導をしてもらうかでああなったらしい。なら、答えは簡単だ。

 

「二人ともちゃんと教えるから。だから、一人は待っててくれ」

「「ご、ごめんなさい・・・」」

「ふふっ、大人気ですね。良哉さん」

「笑い事じゃないんだよなぁ・・・」

 

 いつの間にやら近くに来ていた沙綾は明らかに楽しんでいた。

 

でも私も・・・

「ん?何か言ったか?」

「い、いえ!何も!」

「──────────?」

 

 そんなこんなでポピパへの指導が始まった。公平なジャンケンの結果、牛込さんから始まり沙綾で終わる事になった。

 

「神崎先輩、ここって・・・」

「確かにここ難しいよな。でも、こうやってこうすれば・・・」

「あ、弾きやすいです!ありがとうございます!」

 

「神崎先輩、あの〜」

「ん?」

「先輩だったら、ここどんな風にメロディをつけますか?」

「うーん・・・俺だったらこのラスサビでもう一段階上げるかな」

「なるほど・・・」

 

「ねぇ、先輩」

「どした?」

「先輩って、『SPACE』って知ってる?」

「いや、知らないけど・・・」

「・・・そっか。じゃあ、先輩。一緒にセッションしよう」

「え、急に話変わるじゃん。さっきまでなんかちょっと重そうな話だったよ?」

 

「良哉さーん!」

「こらこら、近い近い」

「えー!?いいじゃないですかー!」

「香澄も女の子なんだから男に近づくのとか嫌じゃないのか?」

「──────────?良哉さんならいいですよ?」

「いや、そういう事じゃなくて・・・」

 

「やっと私の番ですね」

「いやもう疲れたよ・・・ちょい休憩・・・・・・はダメですよね。はい、頑張ります」

 

 沙綾の無言の圧力に屈する。

 

「沙綾はどんな事が訊きたいんだ?」

「スティックのあつか──────────そ、その・・・」

「──────────?」

「・・・・・・良哉さんの好きな女性のタイプ・・・とか?」

「・・・それ音楽関係なくない?」

「花園さんとか香澄も関係なかったじゃないですか!」

「いやまあ、そうなんだけど・・・・・・好みのタイプかぁ・・・」

 

 そんなに真剣になる必要があるのだろうか。沙綾の整った顔が強ばっている。

 

「難しいけど・・・やっぱり音楽が好きな人、かな」

「・・・・・・・・・・・・ふふっ、良哉さんらしいです」

「どうもありがとう?」

「なんで疑問形なんですか」

「いや、褒められてるかわかんなかったし・・・」

 

 そんなやり取りをしていると香澄が会話に入ってくる。

 

「じゃあ、良哉さん!好きな女の人に弾いてほしい楽器はなんですかっ!」

「え、それも言わなきゃダメなの!?」

 

 この後めちゃくちゃ質問された。

 

 


 

 

「ふい〜・・・今日はえらい目にあったな・・・」

 

 結局、日が沈むまで沙綾や香澄、果てにはおたえまで混ざって大質問コーナーが開催された。牛込さんや市ヶ谷さんもちょくちょく参加していたのは驚いたが。

 

「でも、楽しかったな。また行こう。市ヶ谷さんもいつでも来ていいって言ってくれたし」

 

 実は本日の帰り際に市ヶ谷さんからその旨が伝えられたのだ。他にもバンドの技術指導を抱えているので頻繁には難しいだろうが、時間ができたら行こうと心に決めて瞳を閉じた。

 

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