「え、香澄が・・・?」
「はい・・・ここ最近すごい練習頑張ってて・・・それで体壊しちゃったみたいで・・・」
沙綾からの話をまとめると、ポピパの5人で『SPACE』のオーディションを受けることになったらしい。そして、1回目は残念な事に不合格となってしまったとのこと。そこから香澄が弦で指が傷つくほど必死に練習し始めた。しかし、その事で体に無理が祟ったのか2回目のオーディション時に声が出なくなってしまったらしい。
「香澄は大丈夫なのか?」
「声が出ない事以外は大丈夫みたいです。今は休む事だけ考えてもらってます」
「そっか・・・・・・・・・なぁ沙綾。SPACEってどこにあるんだ?」
「ここがSPACEか・・・」
目の前に1軒のクラブハウスが建てられている。入口の上に木製の看板で『LIVE HOUSE SPACE』と表記されている。
(思わず来ちゃったけど男の俺が入っても大丈夫なんだろうか)
実は沙綾の話ではSPACEはガールズバンドの聖地らしいのだ。今更ながらそれを実感して入りづらくなって、店の前で立ち往生してしまう。そんな明らかな挙動不審な俺に声をかけてくる人物がいた。
「あんた、客かい?」
振り返るとそこにいたのは杖をついている壮年の女性だった。髪は白髪で前髪の一部分に薄い紫のメッシュが一筋入っている。
「え、あ、そうなんですけど・・・ここって男が入っても大丈夫なんですかね?」
「客だったら別に構いやしないよ。ステージで演奏はさせられないけどね」
「ステージで演奏・・・?あの、貴女は一体・・・?」
「まだ名乗ってなかったね。私はここのオーナーで『
「オ、オーナーさん!?す、すみません!!俺、知らなくて・・・」
「見たところSPACEに来たのも初めてみたいだし構わないよ」
オーナーさんが懐深い人でよかった・・・
「そんな事より、ライブはもう始まってるから急ぎな」
「あ、いや・・・俺、ライブを観に来たわけじゃなくてここで行われてるオーディションについて訊きに来たんです」
「オーディション・・・?あんたは男だから──────────」
「あ、いや!出るわけじゃなくて・・・」
オーナーさんはますますわけがわからないといった表情だ。
「じゃあ、一体何を訊きたいんだい?」
「・・・少し前にここのオーディションを受けた『Poppin'Party』ってバンドについてお訊きしたいんです」
「Poppin'Party・・・あの子たちかい」
「ご存知なんですか!?」
「ああ。困っていた時に助けてもらったし、ボーカルの子が印象的でね」
「教えていただけたらで結構なんですけど・・・その、どうして香澄たちは不合格だったんですか?」
「・・・・・・・・・あんたも察しはついてるんじゃないのかい?」
「・・・・・・・・・」
「あんたが思ってる事そのままだと思うよ」
「やっぱりそうですか・・・」
だとしたらおそらくオーディションの時の皆は・・・
「それにしてもあんた中々面白いね」
「お、面白い・・・ですか?」
「ああ。その年でよく『音楽』をわかってる」
「そんな大層なものでは・・・香澄たちの事も感覚的なものですし・・・」
「それでも、だよ。・・・・・・・・・あんたの演奏聴いてみたくなった」
「へ?」
「この後時間あるかい?」
「えーと・・・どうして俺はステージに?」
出演予定のライブも全て解散し、お客さんも帰った後のステージに俺は1人立たされていた。
「楽器はステージにあるもの使って構わないから準備できたら始めな」
(なんて強引な人なんだ・・・)
おそらく今から断るのは無理だろう。なら、やるしかない。
「じゃあ、ギターをお借りします」
オーナーさんは首肯して了承の意を示す。
ひとつ深呼吸をいれて、弦を弾き始める。オーナーさんは険しい表情で瞳を閉じたまま黙って聴いている。
俺自身、こんなオーディションみたいな場でギター弾いた事ないけどそれなりに緊張するもんだなぁ・・・
ただ、ギターを弾き始めるとあとは指が勝手に動いてくれる。周りも徐々に気にならなくなってくる。色も、音も、匂いも全てが遠ざかっていく。
ああ、やっぱり音楽は最高だよな。
そんな事を思っている間に演奏が終わってしまったようだ。
そっとギターを肩から外す。
「・・・・・・・・・あんたにはやりきったかどうかなんて訊くまでもないね」
「・・・はい。俺はいつだってその時その時やりきれるように音楽と向き合ってますから」
「ふん。・・・・・・・・・良い演奏だったよ」
「──────────!ありがとう・・・ございます・・・!」
(オーナーさんの圧力すごかったな・・・運び間違えたらどうしようかと思った)
SPACEでの演奏を終えた俺は、先程を思い返しながら1人帰り道を歩いていた。
(でも、SPACE閉店しちゃうのか・・・)
帰り際にオーナーさんに聴いた話なのだが、もうすぐSPACEを閉めるらしい。なんでも、もうやりきったそうだ。本当にカッコイイ人だと思う。俺もオーナーさんみたいに歳をとりたいものだ。
そんな事を思いながら歩き続けていると、ふと前方に人影が見える。もう夜も21時を回った頃だ。こんな時間にも散歩している人がいるんだなぁ、なんて事を考えているうちに徐々に人影の正体が露わになる。
「あれ?香澄?」
「良哉さん・・・?」