「こんな時間にどうしたんだ?」
「・・・・・・・・・」
SPACEからの帰り道に香澄と出逢ってから道の真ん中では落ち着いて話もできないと思い、近くの公園に移動していた。
出逢った時も移動中も常に俯いたままでいつも香澄の
(声が出ない事とは関係なさそうだな・・・)
確かに今の香澄は声が出ないらしいが、それとは別の何かがあるような気がしていた。
「香澄も可愛い女の子なんだからこんな時間に外出するのはよくないと思うぞ」
「・・・・・・・・・」
言いながらスマホの時計を見る。時刻は『21:22』と表示されている。
「・・・・・・・・・オーディションのことか?」
「・・・・・・・・・!ど、どうして・・・」
驚いた表情と掠れた声で俺に問う。
「・・・・・・・・・沙綾から訊いたよ。オーディション、ダメだったんだろ?」
「・・・・・・・・・はい」
やはりオーディションの事で悩んでいるらしい。しかし妙だ。普段の香澄ならオーディションがダメだったくらいでここまで悩むとは考えにくいのだが・・・
「・・・・・・・・・オーナーさんに何か言われたのか?」
「───────!」
問いかけに香澄が勢いよくこちらへ顔を向ける。今日初めて彼女の顔を正面から見た気がする。
「なんとなくそんな気がしてさ」
「・・・・・・・・・」
「まあ、話したくなかったら無理には───────」
「・・・・・・・・・オーナーに言われたんです。あんたは周りと自分が見えてないって。あんたが一番できてないって」
今にも途切れてしまいそうな声音で香澄が話し始める。
「・・・・・・・・・私、どうしたらいいのかわかんなくて」
(なるほどなぁ・・・オーナーさんも厳しい。期待の裏返しなのかもしれないけど)
「・・・・・・・・・そっか。それでがむしゃらに練習して声が出なくなっちゃった、と」
「・・・・・・・・・はい」
「俺はさ、香澄」
「───────?」
「どうしたらいいかわかんなくなった時って一旦音楽から離れるんだよ」
「・・・・・・・・・」
「そうして自分の中で折り合いがついた頃にまた楽器と向かい合う。それを繰り返してるんだ。でも、これはあくまで俺のやり方。香澄には香澄のやり方があるはずだ」
「・・・・・・・・・!私の・・・やり方・・・」
しっかりと言い聞かせるように呟く香澄。
「それに香澄には最高の仲間がついてる」
「───────!おたえ・・・りみりん・・・さーや・・・有咲・・・」
「うん。それに、Poppin'Partyのメンバーだけじゃない。俺だっている。一緒に考えて一緒に悩めばいいんだよ。そのための『バンド』、そのための『仲間』なんだからさ」
(俺は捨てちゃったからさ・・・)
「・・・りょーや・・・さん・・・!」
香澄の美しいアメジストの瞳から雫が一つ、二つと地面に落ちていく。
「俺は香澄が悩んでるなら全力で力になってあげたい。香澄が辛いならいくらでも分かちあってあげたい。いくらでも・・・傍にいてあげたい。だから、いつでも言ってくれ。すぐ行くから」
「はい・・・はい・・・!」
そこからしばらくの間、彼女の涙が止まることはなかった。
「ありがとう・・・ございました・・・りょーやさん・・・」
「んーん。言ったろ?香澄の手助けがしたいって」
「・・・・・・・・・やっぱりりょーやさんはズルいや」
「ん?」
「・・・なんでもないです」
何か言われた気がしたが聴き取れなかった。香澄もなんでもないと言っているし大した事ではないだろう。
それより、未だ少しの翳りが見えるものの表情が先程までとは見違えるようだ。涙とともに香澄の悩みも少しは流れてくれていたのなら嬉しく思う。
「・・・ねぇ、りょーやさん」
「ん」
「送ってください!」
声は掠れたままだが、かなりいつも香澄らしさを取り戻した彼女が笑顔で言う。
「いやまあ、送るのはいいんだけどさ・・・」
しかしいささか、腑に落ちない。
「・・・可愛い女の子、なんですよね?」
「・・・・・・・・・!はぁ、わかったわかった」
まったく。香澄はこんなにイジワルな女の子だっただろうか。
そんなことを思いながら隣に座るしたり顔の少女を見て嘆息した。
香澄と偶然逢ったあの夜から数日後。行きつけになりつつある羽沢珈琲店からの帰り道だった。陽も沈み始めた頃、あの夜と同じ公園で香澄たち五人が泣いて笑っていた。
その光景は俺の目にしっかりと焼き付いた。彼女たちはもう大丈夫、そう思えるだけの力がその光景にはあった。
そして、その日から二日後・・・
「いよいよ今日はオーディション当日か・・・」
俺はSPACEを訪れていた。香澄たちから招待を受けたからだ。
そしていざ、入店と意気込んだところでいつかと同じように声がかけられる。
「おや?あんたは・・・」
「オーナーさん。ご無沙汰してます」
「ああ。・・・・・・・・・今日はあの子たちを見に来たのかい?」
「・・・・・・・・・はい」
「悪いけどあたしは手心を加える気はないよ」
「もちろんです。そんな事しても香澄たちのためにならないですし、なにより・・・」
オーナーさんは言葉の続きを静かに待つ。
「───────受かりますから」
「・・・・・・・・・ふん、そりゃ楽しみだ」
口の端をつり上げ、それだけ告げると店内へ入っていくオーナーさん。俺も遅れないように後を追った。
オーナーについていき、いつかのステージに辿り着く。そこにはすでに五人が揃っていた。
おそらくすぐに始まるのだろう。そのためか、ステージ上の彼女たちは表情が少し硬い。それを危惧したのか、香澄が円陣を申し出る。オーナーの合図で沙綾がカウントを始める。そして、演奏が始まった。
「ご、ごめん・・・!私・・・あんなに練習したのに・・・!ミスった・・・!」
香澄たちの演奏が終わった途端、市ヶ谷さんが涙を滲ませ想いを吐露する。
他のメンバーも思うところはあるようだ。
そして、オーナーさんが香澄に問う。
「他の四人は訊くまでもないようだね。・・・あんたは?」
「・・・・・・・・・やりきりました!」
香澄はオーナーさんを真っ直ぐに見つめ、告げる。
「音楽なんてやりたいやつが好きにやる。頑張ったかどうかなんて自分にしかわからない」
オーナーさんは少しの間、瞳を閉じやがて口を開く。
「いいライブだった・・・・・・・・・合格」
その一言を聴くと香澄たちの喜びが一気に爆発した。
ステージ上には涙を流しながら喜び合う五人の姿があった。
久々にこっち書いたのでいろいろやらかしてるかもしれないです。本当にごめんなさい・・・