あの電話があった夜から数日が経過した。いまだ俺はこちらから連絡する事はできていない。友人の方もあれからこちらに連絡してくる事はなかった。俺からの連絡を待っているのだろう。
(でも・・・)
授業中にもかかわらず思わず窓の外の空を覗いてしまう。
(俺には・・・できない・・・。俺の想いを打ち明けたあの日・・・。みんなは笑っていたけど、その奥に微かな寂しさや悲しさがあった事は確かに感じた。あの時はみんな踏みとどまってくれただけで、今度は非難されるかもしれない。そう考えただけで・・・)
そんな情けない事を考えていても空は晴れ渡っているのだから少し憂鬱だ。
「・・・・・・・・・」
「・・・ねぇ、千聖ちゃん」
「・・・良哉の事かしら?」
「うん・・・。やっぱり変だよね・・・」
「ええ。私もやっぱり気になって何度か訊いてみたのだけど・・・」
「・・・ダメだったんだね」
小さく首肯する千聖。
「・・・ねぇ、良哉くん」
「・・・ん?」
「本当に何もないの・・・?
「・・・ああ、何もないよ」
「嘘だよ、そんなの・・・」
「いや、嘘じゃ───────」
「だって良哉くん、ずっと苦しそうな顔してるもん」
「───────っ」
「そうね。最近の貴方は特にそれが顕著に出ていると思うわ。一体何があったの?私たちには言えない事?」
「・・・そうだな。これは俺自身が何とかしないといけない問題だから」
「そうだとしても、私は良哉くんの力になってあげたいよ」
「私も花音と同じ気持ちよ。以前にも言ったでしょう?貴方にはたくさん助けてもらったと」
「───────で、でも・・・」
(こんなの言えるわけがない。俺のわがままが引き起こした事なんだ。それなのに花音や千聖に助けを求めるだなんて・・・そんなの・・・)
苦し紛れと言わんばかりに俺は俯く。
「良哉くん・・・」
心配そうな花音の声。
その直後だった。強い意志が込められた言葉が耳に届いたのは。
「・・・わかった。もう私からは何も言わない。」
「千聖ちゃん・・・?」
「・・・・・・・・・」
「───────その代わり、私は私で勝手に貴方の力になってみせるわ」
「は・・・?」
「だから。もう貴方にあれこれを訊くのはおしまい。その代わり私は私のやりたいようにする、という事よ」
「いや、まっ───────」
思わず抗議の声をあげようとしたその時だった。
「私も千聖ちゃんに賛成」
「花音まで・・・」
「私、良哉くんにはいっぱい助けてもらったから。今度は私が良哉くんの力になってみせるよ」
「なんでそこまで・・・」
「───────いつも貴方がしてきた事じゃない」
「・・・・・・・・・!」
「ふふっ、そうだね。相手の気持ちなんて考えない。だけど、私はそれでもすっごく嬉しかった」
「花音・・・」
「だから待ってて、良哉くん。必ず千聖ちゃんと・・・ううん。
いつも優しげに微笑んでいる花音が珍しく真剣な表情だったのがとても印象的だった。
(あんなに嬉しいものなのか・・・)
学園からの帰り道。昼休みの花音と千聖との会話を思い出す。
俺にはとてもあの出来事を人に話すなんてできそうにない。だが、あの花音の表情。思わず心中を口に出してしまいそうな力があった。その時に思ったのだ。ああ、やっと言える・・・やっと解放される・・・、と。
しかしそんなのは俺自身が認められない。すんでのところで踏みとどまった自分を褒めてやりたい。こんなのは自分で決着つけるべきなんだ。こんな醜い想いは・・・
「良哉!」
「ん?・・・・・・・・・蘭か。それにモカたちも」
「あたしたちも同じだから」
「───────?」
「あたしたちも松原さんたちと同じだから、ってこと」
「・・・・・・・・・!お前たちもか・・・」
「当たり前じゃん。あんたにはこれからもあたしたちのコーチをしてもらわないといけないんだし。それに・・・・・・・・・早く元気になってもらいたいし」
「ん?なんだって?」
「なんでもない!!」
後ろでモカたちがニヤニヤしているが蘭はなんと言ったのだろうか。
悩んでいると蘭から声をかけられる。
「てことだから!!」
「え!?」
「覚悟してなよ、良哉!!」
「そういうことだから〜」
「え?え?どういうこと?とりあえず・・・そういうことですから!」
「ええ、そういうことですよ!良哉さん!」
「覚悟しといてください!」
それだけ言い残し蘭たちは去っていってしまった。
(なんだったんだ・・・)
一人残された俺は踵を返し帰路に着くのだった。
それから特に何も起こらず訪れた休日。本日はRoseliaのコーチングだ。
「さあ、みんな。今日も張り切っていくわよ」
「はい!」
「精一杯・・・頑張ります・・・!」
「おー☆」
「ええ、当然です。・・・・・・・・・しかし、その前に」
「───────?」
「えぇ・・・友希那・・・。良哉にあの話するって約束だったじゃん・・・」
しばし考えた後に何かを思い出したかのような反応を見せる友希那。
「わ、わかってるわよ。・・・・・・・・・良哉」
「───────?」
「私たちも同じだから」
(またこのパターンか・・・)
「・・・友希那たちも好き勝手にやるって話か?」
「ええ。貴方の意志なんて汲んであげない。私たちは私たちで好きにするわ」
「みんな俺に優しくないなぁ・・・」
後から聞いた話だが、その時の俺は
「良哉、あなた最近元気がないみたいね!それはよくないわ!ほら、一緒に笑いましょう!!」
「え、ちょ、なに───────」
急に部屋に押しかけてきたと思ったら唐突に俺を振り回すこころ。その後ろにはいつも通り儚いしている薫とこちらにダイブしてくるはぐみとやれやれとでも言いたげにしている美咲、それを見て微笑っている花音がいた。
「ちょ、花音、助けて・・・!」
しかし花音は笑顔のままだ。
(えぇ・・・好きにするってこういう事なの・・・?)
「み、美咲!た、たす──────────」
「ああ、ごめんなさい、良哉さん。あたしには無理なんで」
(諦めが早すぎるよ、美咲・・・)
頼みの綱の美咲にまでも見捨てられてしまう。俺に救いはなかった。
だけど、心のどこかで『楽しい』と感じている自分がいたような気がした。
友希那たちやこころたちに振り回された休日を終え、迎えた月曜日。あっという間に昼休みが訪れ本日は千聖と彩と食事をともにしていた。花音は今日はこころたちと食べるらしくここにはいない。
「良哉くん」
「ん?」
「千聖ちゃんから聞いてると思うけど・・・」
「・・・ああ。好きにするって話だろ?」
「うんっ!」
(満面の笑みで答えてくれちゃってまぁ・・・)
彩の笑顔を見ると諦めのような感情が湧き上がってくるから不思議だ。
(それに比べて・・・)
彩の隣で昼食を摂っている千聖も笑顔だ。笑顔の種類は彩とはまるで違うが。
(普通に怖いんですけど・・・)
千聖の笑みは何やら威圧感のようなものを感じる。
「あ、あの〜千聖さん?」
「なにかしら?」
(うわ〜超いい笑顔)
「イエ、ナンデモナイデス」
「あら、言いたい事は素直に言っていいのよ?」
「・・・イエ、ナンデモナイデス」
「ふふ、変な良哉」
あの千聖を前にして自分の葛藤を千聖に打ち明ける事は以前より不可能な気がした。
その翌日だった。今度はPoppin'Partyのメンバーが俺の教室までやって来た。なんでも昼食のお誘いらしい。
「中庭なんてどうですか!?」
「近い。近いって、香澄」
ぐいっと身を乗り出して瞳をキラキラさせながらこちらに昼食場所を提案してくる香澄。俺はそれに了承の意を伝え全員で中庭に移動する事になった。
「先輩」
「ん?どした、おたえ」
「私たち好きにしますから」
「へ?」
「おい!早いっておたえ!!」
「あ〜!おたえそれ私が言おうと思ってたのに〜!!」
「あはは・・・まさかいきなりその話をするなんて・・・」
「おたえちゃんらしいね・・・」
中庭に移動して早々この惨状だ。誰か何とかしてくれ。てか、みんな好きにするって言い過ぎじゃない?流行ってるの、それ。
「ま、まあ、話はわかった。香澄たちも俺の事なんて考えない、って事だな」
「はい。私たちも先輩の事なんて考えてあげません」
「手厳しいな、沙綾は」
「でも沙綾いつも練習ん時、神崎先輩の話───────」
「あ、あ、あ、有咲!!!」
唐突に目の前で繰り広げられる取っ組み合い。
(俺はどうすればいいんだ・・・)
そんな事を思った昼食だった。
じゃれ合いもそこそこに昼休みもあと僅かとなった頃。
「あ、良哉さん!」
「ん?」
「今度CiRCLEで
「・・・・・・・・・はい?」
「まりなさんにも許可は取ってるから大丈夫ですよ」
「いや、そういうことじゃなくてね?俺の予定とかは・・・」
「楽しみにしててくださいね!」
「ねぇ、聞いて?俺の話聞いて?」
どうやらこんなところでも『俺の事を考えない』が適応されているようだ。
「
微笑っているようだがどこか真剣さも感じさせる表情で沙綾は言う。
「・・・わかった。行くよ、必ず」
「待ってますねっ」
後ろから声をかけられたので慌てて振り向くと、そこには沙綾以外のメンバーが勢揃いだった。
「・・・ああ。約束するよ」
自分に言い聞かせるように瞳を閉じてそう答えた。