香澄たちからライブを行うから来てほしい旨を伝えられた日から幾日か経過した休日。俺はCiRCLEの前に立っていた。
(約束したとはいえやっぱり申し訳なく感じてしまう。俺なんかのためにここまでしてもらうなんて・・・)
目的地は目の前にあるにもかかわらず俺はそこに踏み入れずにいた。そんな風に迷っていると背後から声がかけられる。
「良哉くん」
振り向くとそこにいたのはまりなさんだった。
「・・・入らないの?」
「・・・やっぱり俺なんかのために、って思ってしまって。情けない話です」
俺はやましい事があるわけでもないのにまりなさんを直視できずにいた。
「・・・そうだね」
「────────っ」
「でも・・・」
「・・・・・・・・・?」
「そうやってどこまでも人に寄り添える君だからみんなも君を助けたい、君の力になりたいって思うんじゃないかな?」
「・・・・・・・・・!」
「だったら今君がすべき事はそれじゃない。あとは・・・わかるよね?」
「・・・・・・・・・はい!」
まりなさんに背中を押してもらった俺はしっかりとした足取りでCiRCLEへと入っていった。
『ようこそ、良哉(くん)(さん)!!!』
「・・・へ?」
自動扉を潜り抜けた俺を待ち受けていたのは歓声とクラッカーの音だった。
「遅い」
「え?」
「本当よ。私をいつまで待たせるつもりなの?」
「はい?」
「ほんとだよー。デート一回ね、良哉☆」
「なんで!?」
時間通りに来たはずなのだがひどい言われようだった。なんか違うのも混ざってた気もするけど。
「とにかくいらっしゃい、良哉くん!」
「花音・・・」
「良哉くんが悩んでるから元気づけてあげたいってお願いしたらみんな喜んで手伝うって言ってくれたんだ」
「・・・・・・・・・っ」
「これだけの人が良哉くんに助けられてるんだよ?私には良哉くんが何に悩んでるかはわからないけど、良哉くんは良哉くんが思うほどひどい人じゃないと思う」
「うっ・・・くっ・・・」
みんなが俺の周りに来てくれる。
「良哉さん!」
「・・・・・・・・・?」
瞳から溢れる涙を拭いながら香澄に顔を向ける。
「良哉さんの悩みが吹き飛ぶくらいのライブにするので楽しみにしててくださいね!」
「・・・・・・・・・ありがとう、みんな」
「じゃあ、良哉さんはここに座ってください」
「ありがと」
沙綾に言われ客席の最前列の一席に腰掛ける。
「じゃあ、準備するので少しだけ待っててください」
「ああ」
それだけ言い残し沙綾は準備をするべく控え室に向かっていった。
(なんで見る側の俺がこんなに緊張してるんだろ。・・・いや、興奮してるのか。どんだけ楽しみなんだよ、俺)
みんなが俺のために開いてくれるライブ。嬉しさと期待感で腰掛けに置いた手が震えていた。
なんとか震えを落ち着けようとしていると舞台袖から蘭たち『Afterglow』が登場する。
「・・・今日だけはあんたのために歌うよ。Afterglowで『True color』」
ギターの優しい音と程なくドラムの音が混ざりあって、そこに蘭のアツい想いがこもった歌声が重なる。
(これは・・・あの時の・・・)
いつかのガルジャムで演奏した曲だ。蘭の素直な気持ちが歌詞や歌声に反映されていてとても印象的だった。
そんな風にあの時を思い返しながら蘭の歌声やみんなの演奏に浸っているとあっという間に演奏が終了してしまう。
(もう・・・終わり、なのか・・・)
とても残念な気持ちでいると蘭がマイクを握る。
「・・・あたしたちは本当に良哉に感謝してる。バラバラになりそうだったあたしたちを繋ぎとめてくれた」
「そんな・・・俺はそこまで・・・」
「だから、あたしたちは今ここにいる。これからもあたしたちはあたしたちの音楽を奏でていくから、その・・・」
「────────?」
「これからもあたしたちについてきて、良哉!」
「・・・・・・・・・ああ!」
蘭たちの後に現れたのは千聖たち『Pastel*Palettes』だった。
「どうもー!私たち〜・・・『Pastel*Palettes』です!」
「おお〜」
俺はついパチパチと拍手してしまう。
「えへへ・・・なんか恥ずかしいや」
そう言って何故か身を捩らせる彩。
「んんっ!」
千聖がわざとらしく咳払いして話し始める。彩は苦笑いしながら頬をかいている。
「・・・私たちアイドルを私的利用するなんて貴方くらいね」
「ええ!?俺が悪いの!?」
「冗談よ」
クスクスと笑いながら訂正する千聖。
「心臓に悪いんだよなぁ・・・」
「でも、間違いではないでしょう?」
「まあ、確かにそうなんだけど・・・」
「・・・私、あの時言ったわよね。貴方の力になると」
「・・・ああ」
「私の想い全部こめるわ。後で答え合わせするから」
「・・・ははは、わかった。しっかり聴くよ」
伝えたい事は伝えたのか彩へと目配せする千聖。
「それでは聞いてください。Pastel*Palettesで『はなまる◎アンダンテ』!」
キーボードの音とドラムの音が混ざりあって、そこに彩の歌声が重なる。
(あ、また外した。でも・・・・・・ちゃんと練習したんだな)
以前の1stライブの時より格段に成長している。歌声だけじゃなくアイドルとしての魅せ方も。実際、今の俺は彼女たちから目を逸らすことができない。
(千聖も初めの頃とは比べ物にならないくらい上手になった。最近はあんまり練習付き合ってあげられなかったけど、ちゃんと練習してたんだろうな)
千聖のベースもしっかりとリズムキープされており見事に周りの音を支えていた。
そして最後はキーボードの優しい音で締めくくられる。
(こんなに頼もしくて優しさを感じさせる曲は中々ないよな)
舞台上で終了の挨拶をしている彼女たちを見ながらしっかりと彼女たちの想いを胸に刻んだ。
パスパレのみんなが舞台袖に消えていくと同時に今度は『Roselia』のみんなが現れる。
「・・・聴いてください。Roseliaで『陽だまりロードナイト』」
(ん?てっきり『BLACK SHOUT』だと思ったんだけど・・・)
しかし、ベースとドラムから奏でられる優しい音色に心が安らいでいく。
しかし、前フリ無しとは友希那らしい。言いたいことは全て歌で伝えるって事か。
(にしてもこの歌・・・。こんなに優しい歌なのになんでこんなに力強く感じるんだろう。この歌を聴くだけで何でもできそうな気がしてくる。・・・・・・・・・胸の内が暖かくなる)
思わず瞳を閉じて友希那の歌声やみんなの演奏に聴き入ってしまい、あっという間に演奏が終わる。
「・・・貴方は一人じゃないわ。私たちがついている。これでもまだ不安かしら?」
彼女の瞳からは不安なんてこれっぽっちも感じられなかった。
「・・・・・・・・・いや、そんなわけない。ありがとう、みんな」
短い言葉だったがきちんと彼女たちに伝わるように今の俺の想いを全てこめた。それがキチンと伝わっていたのかはわからないが、舞台からはけていく彼女たちは笑っていた気がした。
「次はあたしたちの出番ね!」
袖からよく通る声とともにこころが飛び出してくる。
「ああ!またあんたは勝手に・・・」
「ふふ、あいかわらずだね、君は」
「わーい!りょーやくん元気〜?」
はぐみの問いかけにしっかりと頷きをもって答える。
「良哉くん・・・」
「花音・・・」
「私の・・・ううん。私たちの演奏で必ず笑顔にしてみせるよ」
「・・・楽しみだ」
会話が終わるタイミングを見計らったのかこころが声をあげる。
「じゃあ、いくわよ!『ハロー、ハッピーワールド!』で『えがおのオーケストラっ!』」
演奏が始まりそこから少し遅れてこころの元気な歌声が響き渡る。
(みんな楽しそうだな・・・。ミッシェルのせいで表情はわからないけど美咲も楽しそうだ。それに・・・花音も。前はドラムやめるみたいな事も言ってたのに・・・。今ではあんな笑顔でドラムを叩いてる)
みんなの楽しげな雰囲気や花音の強さに感嘆していると演奏が終わってしまう。残念な気持ちはもちろんあったがそれ以上に楽しかった。思わず合いの手をいれてしまうくらい楽しかった。途中こころが客席まで来るとかいう珍事もあったが。
ハロハピのみんなははける時まで笑顔だった。あの笑顔を見るとこちらも笑顔になるのだから不思議だ。
「せーのっ!」
『私たちPoppin'Partyですっ!』
花音たちが降壇してから現れたのは香澄たちPoppin'Partyだった。
「私たちが最後のバンドですっ。ここまでどうでしたか?」
「すごく良かったよ。どのバンドも自分たちの魅力を最大限発揮して・・・。その上、歌や演奏にあんな優しい想いまで込めてくれて・・・。今まで聴いた中で最高のライブだった」
「じゃあ、私たちも負けないくらい最高のライブにしますねっ!」
「楽しみにしてるよ」
笑顔でそう伝えると香澄が演奏曲を発表する。
「では、聴いてくださいっ。Poppin'Partyで『前へススメ!』」
全員のハモリから奏でられる歌声から始まる。
(これはこの前のライブの時の・・・)
あの時と同じように少しも色褪せる事なく俺の胸に響く。
(この曲を作り上げた香澄たちの気持ち・・・。この歌に込められた俺への想い・・・。全部が混ざりあって宙へと溶けていく・・・)
自身の悩みさえも宙へと溶けてなくなってしまう気がするぐらい聴き入ってしまった。そんな具合だから終わるのも一瞬だった。
「・・・・・・・・・どうでしたか、良哉さん」
「・・・・・・・・・最高だったよ」
そう伝えるとステージ上で全員でハイタッチし合う香澄たち。
「でも、良哉さん」
「────────?」
「これで終わりじゃないんですよ!」
「え?どういう・・・」
「だって、良哉さんもやりたくてウズウズしてるんじゃないですかっ」
「────────!」
こんなに素晴らしいライブを見せられてやりたくならないわけがない。でも・・・
「大丈夫だよ」
「まりなさん・・・」
「はい、これ!」
まりなさんが差し出すのは、一本のギターだった。
「これで弾けるでしょ?」
「・・・これCiRCLEのやつじゃないですか」
「い、いいの!私が許可出してるんだから!」
「・・・ありがとうございます、まりなさん」
まりなさんから預かったギターを引っ提げ今度は俺がステージにあがる。
逆にまりなさん含め、全バンドメンバーが客席に移動している。
(こりゃすごい・・・みんなこんな中で演奏してたのか・・・。でも!)
スイッチをONにして一気にギターをかき鳴らす。
演奏するのはあの日、友人たちと奏でた中の一曲。
「────────♪」
「すっごい・・・良哉さんの歌声初めて聴いたけど、とっても綺麗・・・」
「・・・うん。心が落ち着くっていうか」
「すごい・・・」
「・・・やっぱり貴方は私の見込んだ通りだったわ。必ず追いついてみせる」
「これが良哉の歌声・・・。すごいわ!!!とっても!!!」
(みんな笑顔だ・・・。みんな・・・俺たちの曲、ちゃんと届いたよ)
汗だくになるのも構わずに一心不乱に弾いて歌った。こんなに本気で弾いたのはいつぶりだろう。こんなに本気で歌ったのはいつぶりだろう。
・・・ああ、やっぱり音楽は最高だ。音楽のせいで苦しい思いもした。けどそれ以上に楽しい事や嬉しい事がたくさんあった。みんなとの事もそうだ。音楽をやっていたからこそ、こんなに素敵な人たちと出逢う事ができた。
(みんな・・・ごめん。俺、逃げてばかりで・・・。でも、やっと決心がついたよ。香澄たちの演奏を聴いて、今こうして改めて演奏して・・・。かなり遠回りしたけど・・・必ずみんなに会いに行くよ。どんな結末になるとしても・・・)
最後の一音を奏で終える。初めは誰からだっただろう。一人の拍手から伝播していき、やがて全員に拡がる。
それに俺は満面の笑みで応える事ができた。
あのライブの後、無事にかつての友人と連絡をとる事ができ何ヶ月かぶりにみんなに会った。正直2、3発は覚悟してたけど、謝罪するしかない俺をみんなは優しく出迎えてくれた。多少のからかいはあったけど・・・
その変わらない優しさに俺はしばらくの間、涙を止める事ができなかった。