まだまだ書き続けようと思っていますのでこれからもよろしくお願いします。
立候補?
かつての友人たちとの和解を果たした俺はその後、以前のようでしかし確実に何かが違う日々を過ごしていた。
「今日も平和だなぁ・・・」
羽沢珈琲店で昼食を食べながら窓の外を見て感慨に耽ってみる。最近はこんなしょうもない事を考えられるくらいには心に余裕もできていた。
そこに入店の合図であるベルが店内に鳴り響く。
「いらっしゃいませ・・・あ、蘭ちゃん!こんにちは!」
つぐみが挨拶しているのを軽く盗み聞いていると知り合いの名前が聴こえてきたので、そちらに顔を向けるとそこには俺の大事な友人である蘭が立っていた。
俺が蘭の方を向いた事で蘭も俺に気付いたようでつぐみと何かを話した後、こちらへ歩いてくる。
「ここ、座っても大丈夫?」
「ん、どーぞ」
蘭が俺の腰掛けていた四人掛けのテーブルを示しながら訊いてきたので、了承の意を示す。
そして蘭は何かを決心したかのような表情をした後、俺の隣の椅子を引きそこに腰掛けようと・・・って!
「え、なんで!?」
「な、何が?」
「いやいや!普通そっちの席じゃないの!?」
俺は向かい側の席を指差しながら訊ねる。
蘭が聞き返してくるから一瞬俺の方がおかしいのかと思っちゃったよ・・・。
「・・・・・・・・・ここも空いてるからいっかなって」
「何その間!?」
蘭の意図はどうもわからないが何を言っても無駄な気がしたので諦める事にした。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
両者の間に流れる雰囲気は『気まずい』という一言に尽きた。
(いや、これはまずい。四人掛けのテーブルに並んで座ってる時点でただでさえ距離感近いのに、その上なんかいい匂いもする・・・って!これじゃ変態じゃねーか!)
ちらっと蘭の方を盗み見るが蘭も恥ずかしいのか俯いたまま微動だにしない。
(とりあえず、この状況はまずい。なんとかしなければ・・・よし!)
「な、なぁ蘭」
「は、はい!」
「なんで敬語なんだよ・・・」
「〜〜〜っ!な、なんでもない!で、何!?」
「えぇ・・・なんで俺怒られてんの・・・」
「べっ、別に怒ってないし!」
怒ってないとは言っている蘭だがその顔は真っ赤に染まっており、どこからどう見ても俺には怒っているようにしか見えない。
とにかく、あまり刺激しないようにと細心の注意を払い蘭に先程言おうとした事を伝える。
「と、とりあえず何か頼んだらどうだ?」
「え、あ・・・うん」
差し出されたメニューをおずおずと受け取る蘭。軽く目を通した後、メニューを閉じてつぐみに注文をお願いする。つぐみは了承の意を伝えてから厨房へと消えていった。
(・・・しかし、蘭がメニューを閉じたタイミングでつぐみが現れたな。向こうからこっちの様子を伺ってたのかもな)
つぐみの観察力に舌を巻いていると隣の蘭が口を開く。
「・・・ねぇ、良哉」
「ん?」
俺は昼食の続きを食べながら顔だけ蘭の方へ向ける。
「もう・・・大丈夫なの?」
おそらくかつての友人たちの事を訊いているのだろう。この見た目故誤解されやすいが蘭はすごく優しい。舌足らずな事もあってわかりにくいが蘭の優しさには暖かさがあるから俺は好きだ。
「ああ。蘭たちのお陰だよ」
しっかりと蘭の目を見て答える。蘭が安心できるように表情や雰囲気からもそれが伝わるようにと願いながら。
「────────っ!そ、そっか・・・。ならよかった」
しかし肝心の蘭本人は目を逸らしてしまう。これでは俺の気持ちが伝わっているかはわからないが伝わっている事を祈り、コーヒーを口に含む。
「・・・・・・・・・何今の・・・反則でしょ・・・」
「ん?何か言ったか?」
「べ、別に!」
「────────?」
気にはなるがあまりつつくとやぶ蛇になりそうなので、それ以上は追及しない事にした。
「蘭たちは最近どうなんだ?」
「・・・あのライブが良い影響だったのかな。みんな最近は特に熱心に練習してるよ。もちろん、あたしも」
「そっか。あ、つぐみの事は────────」
「わかってる。もうあんな事嫌だし、つぐみが無理しないようにみんなで気を付けてる」
「そりゃ素晴らしい」
「ひまりなんか毎日、体調チェックしようとしてたし」
「・・・それはやり過ぎなような」
「さすがにみんな止めたけどね」
少し表情を綻ばせながら話してくれる蘭。
(よかった・・・ぎこちなかった雰囲気もだいぶ解消されてきたな)
そんな風に一安心していると蘭から唐突に爆弾が落とされる。
「・・・そういえば良哉と松原さんってどういう関係なの?あと白鷺さんも」
「──────────」
思わず固まってしまった。
「良哉・・・?」
「あ〜・・・なんというか・・・・・・・・・友だち?」
そう答えると訝しげにこちらを見やる蘭。
「・・・・・・・・・ほんとに?」
「ほんとだって!」
「どっちかが彼女とかじゃない・・・の?」
「ないよ。俺みたいなやつ相手にされるわけないだろ。二人とも俺にはもったいないくらい美人だし、千聖に至っては女優兼アイドルなんだぞ」
「ふ〜ん・・・」
「な、なんだよ・・・」
「・・・なんでもない」
それだけ言うとフイッとそっぽを向いてしまう。
よくわからんと思いながら残っていた昼食の最後の一口を放り込んで咀嚼していると、蘭が呟く。
「・・・じゃあ、あたしが立候補しようかな」
「げほっ!ごほっ!お、おまっ!」
あまりの衝撃発言に思わず咳き込んでしまう。
「・・・・・・・・・本気、なのか?」
「・・・さあ、どうだろうね」
頬を赤く染めながら不敵に微笑む蘭の顔はしばらく忘れられそうになかった。