どうしよっかなぁ・・・。
現在、大半の者が机に向かい何かを懸命に書き連ねている。中には思考のため手を止めている者もいるが、頭の中はきっと今後の予定を練るためにフル稼働していることだろう。
しかし、それだけでは足りないのだ。
ヤツらは定期的に訪れ学生を失意のドン底へと誘う悪魔だ。しかも、ヤツらは決して単体では襲ってこない。必ず徒党を組んで押し寄せてくるのだ。
中にはヤツらに適わなかったためにレベルアップを図るべくどこかの部屋に箱詰め状態にされるらしい。何とも恐ろしい話だ。
ヤツらは漢字や数字、アルファベットに変幻自在に形を変える。そのため、淘汰される者が現れても仕方ないだろう。
だが、それを乗り越えた先には素晴らしい景色が待っている。推し量れないほどの開放感と達成感。それらを手に入れたとき、俺たちはまたひとつ成長できるのだ。
ここまで前置きが長くなってしまったが、要するに絶賛定期考査前です。俺は特段嫌とは感じないが、周りを見るにやはりみんな嫌らしい。発端は先生の『定期考査まで1週間をきりました』というHR内での発言によりあちこちで悲鳴や絶叫が飛び交っている。まさに教室内は阿鼻叫喚、地獄絵図だ。
……え、そんなに嫌なの? テストなんて普段の授業聴いてたらある程度は点数取れるくない? …………あ、俺だけですか。そうですか。
こんなことを口に出したら間違いなく袋叩きに遭うだろうと思ったので、何も言わずみんなに合わせてとりあえず嫌そうなフリしときました。
よしっ! これで親近感を感じて話しかけてくれる人も───────
「良哉、貴方勉強できるじゃない。なぜ、そんなに嫌そうなフリをしているの?」
何度席替えをしようとも必ず俺の隣にやってくる千聖にあっさり嫌なフリを見抜かれてしまいクラスのほとんどの視線が俺に注がれる。それも、視線だけで人をどうにかできそうな部類の視線だ。
…………もう、なんで言っちゃうの? 千聖さぁん……
あの後、クラスの大半を敵に回した俺に居場所は無く放課後になると早々に教室を後にした。
ちくしょう、千聖め……。この借りはいずれ……。
「そんなに落ち込んでどうしたの?」
「お前のせいだよ!!!」
隣を歩く千聖が悪い顔で問うてくるので、思わず声を荒らげてしまった。しかし、千聖はそれを意に介していないようだった。
「ふふふ、ごめんなさい。まさかあんなことになるなんて思わなくて」
「いいよもう……明日学校行きたくないなぁ……」
「もう、千聖ちゃん。ちょっとやりすぎだよ」
「今後気をつけるわ」
ほんとかよ……。
目的地へと向かう俺たちと行動を共にしていた花音が今の俺を見かねて軽く千聖を窘めてくれるが、大して効果がなさそうだった。
まあでも、千聖も笑顔を見せてくれることが本当に多くなった。いい傾向だな。
そんなこんなをしているうちに目的地に到着した。いつもお馴染み羽沢珈琲店だ。
実は、放課後にひまりからSOSが発信されたのだ。なんでもテストがやばいらしい。よくよく聞けば蘭もそれなりなんだとか。いつもは巴とつぐみがフォローしているようなのだが、今回のテスト範囲はかなり難易度が高いらしいので二人とも自分のことで手一杯なんだそうだ。そこで俺が召喚された、ということだ。
うん、全然意味わかんない。なんで俺なの? 勉強得意ってわけでもないんだけど。みんな俺のこと完璧超人だと思ってない? そんなことないからね?
「いえ、貴方はそれと同等のスペックを持ってるわよ」
「さらっと心読まないで……」
隣では花音も言葉にしないだけでしきりに頷いている。
花音……君も中々ひどいよ……。
そんなやり取りもそこそこにベルを鳴らし入店する。
すると、四人がけのテーブルと二人がけのテーブルに分かれてひまりたちが座っていた。
「あっ、良哉さぁん……」
「遅い」
入って早々潤んだ瞳に見つめられ、さらにクレームが飛んでくる。
なんでだよ。放課後に連絡受けてその足で来たんだぞ。早く来た方じゃない?
そんな文句を飲み込みつつひまりたちのテーブルへと近づく。ちなみに席割りは二人がけのテーブルにひまりと蘭。四人がけにモカと巴とつぐみとなっている。
「そりゃ悪うござんした。で、どしたの」
「助けてください、良哉さん!! わ、私、もうどうすればいいか……!」
「助ける。助けるからちょっと離れてくれ」
助けを懇願するひまりが俺のシャツの胸元を掴む。その時に漂ってくるいい香りと少し俺の胸元をかすめる
こんなんやばいよ……。年頃の男子高校生なら可愛い女の子にこんなことされたら一瞬でオチちゃうよ……。
というか、マジで離れてください。後ろの二人とか蘭とか、ついでにモカとかからやばい視線受けてるんです。ハイライト消えてて怖いんだよ……。
すると俺のお願いが通じたのかひまりが離れてくれる。今は目の前で両手をあげ大いに喜んでいる。
「ふう……。で、テストがやばいんだっけか。どの教科?」
俺はやばいと言ってもせいぜい2、3教科だと思っていたのだが、俺の問いかけにひまりは動きを止め、蘭はあらぬ方向を向いている。
「え、何その反応。おい蘭、せめてこっち向け。お願い、向いて。向いてください」
背中に嫌な汗が流れるのを感じているとモカからもはやわかっていた爆弾が投下される。
「蘭とひーちゃんはねー、全教科ピンチなんだー」
俺は目の前が真っ暗になった。
「んじゃ、まずは比較的できるやつから片付けるか」
現実に戻ってくるのに数分要したが、何とか意識を取り戻した俺は素早く切り替えを行い二人の面倒を見ることにした。
千聖と花音は巴とつぐみのところへ行ってくれている。というかむしろ押し付けられた。二人にもこちらを手伝ってもらおうと思ったのだが、二人は早々に巴たちの席へと向かっていってしまった。
ちくしょう……可愛い女の子二人に相手してもらっているはずなのに、ちっとも嬉しくないのはなんでなんだ……。
幸い、範囲は俺たちが去年やったものとさほど変わりなかったので特に大きな問題もなく教えることはできそうだ。
「えーと……良哉さん……」
「ん? どした?」
「私……その……」
「…………わかった。それ以上は言わなくていい」
「………………はい」
「蘭は何か得意な教科あるのか?」
「強いて言うなら国語、かな?」
さすが作詞を担当してるだけはある。言葉を扱う教科はお手の物というわけか。
「じゃあ国語以外でいこう。その次にできるやつはあるか?」
「………………」
「わかった。それで充分だ」
やべえ。お先真っ暗じゃねぇか。どうすんだよ、これ。
「と、とりあえず路線変更だ。一番やばいやつからやってみるか。二人とも、一番やばいのは?」
「私は数学ですね」
「あたしも数学かな」
「よし、んじゃ数学から片していくぞ」
二人が頷いたのを確認してからテスト範囲を確認し、作業に取りかかるのだった。
「んで、ここがこうなって……そしたらここに代入する数字が出てくるだろ? そこまでできたら後は計算するだけだ」
「な、なるほど……」
「あんた、ほんとに頭いいんだね」
そうなのだろうか。授業を聴いて教科書に目を通していればこれくらいはできるんじゃないだろうか。まあ、怒られるのも嫌なので言わないが。
「そりゃどうも。んじゃ、そんな感じでそっちの問題解いてみてくれ。わからないところがあったら遠慮なく訊いてくれ」
「は、はい!」
「うん」
そうして二人は問題に取りかかる。こうなると俺は手持ち無沙汰になってしまう。そんな俺を見ていたのか、つぐみがコーヒーを差し出してくれる。
「どうぞ、良哉さん」
「お、さんきゅー。後でお金払うよ。200円だったよな」
確認のためつぐみに訊くと、代金は結構ですよと返されてしまう。
「いやでも……」
「ひまりちゃんと蘭ちゃんのお手伝いのお礼と思ってください。それに……」
「それに?」
「そのコーヒー……私が淹れたものなんです……」
「へぇ〜そりゃすごい。そういうことならありがたくいただくよ」
お礼を伝え、つぐみが淹れてくれたコーヒーを口の中で味わってからゆっくりと嚥下する。
「……美味い。優しくて、心が安らぐ味がする。俺は好きだな、この味」
「ほんとですか!?」
「ああ」
お盆で隠してはいるがその顔には喜色が浮かんでいた。
「良哉さん」
「良哉」
そんなつぐみを見て癒されていたのだが、背後からとても冷たい声で俺の名が呼ばれる。
振り向くとまたしてもハイライトが消えた瞳の蘭と今度はひまりも一緒だった。さらには、向こうの千聖と花音も例によって同じだ。
「な、なんでしょうか」
「ちょっとわからないところがあって───────」
「あたしもここが───────」
さっき教えたところ、というのはきっと俺の心の中に留めておいたほうがいいのだろう。
「良哉さん、今日はありがとうございました!」
「……その、ありがと」
「力になれたならよかったよ」
放課後という限られた時間のため全ての教科をカバーするなんてことは到底不可能だったが、一番苦手と言っていた数学は何とかなりそうだったので一安心だ。
まあ、あとは巴とつぐみが何とかしてくれるだろう。二人も千聖と花音に教えてもらってかなり手応えあったみたいだし。今回はこれで俺たちはお役御免───────
「明日もよろしくお願いしますね! 良哉さん!」
「おう、明日もよろしく…………って、ん? 明日?」
あまりに衝撃的な発言だったので、問い返すとひまりの方も首を傾げて不思議そうにしている。
え、俺がおかしいのこれ? とりあえず、真意を確認しなければ……。
「明日もこれするの……?」
「───────? はい、その予定ですけど……」
「当たり前じゃん。まだ教科全部終わってないんだから」
「───────」
嘘だろ、マジかよ。
俺は目の前が真っ白になった。