「あ!良哉さん!」
「ん?ひまり・・・だけじゃないな。蘭以外Afterglow大集合じゃん」
「ふっふっふ〜天才美少女モカちゃんさんじょー」
「ちょうどそこの道で偶然会って」
「ほんとビックリしたよ」
どうやら各自時間に間に合うように家を出たらたまたまここで揃ったということらしい。
あとは蘭がいれば完璧だったのに、なんてくだらないことを考えながらひまりたちと今後について話し合いながらCiRCLEへと入る。するとロビーには、何やらブツブツ言っている蘭が立っていた。
「えっと・・・来週は火曜と木曜が・・・」
「何のことだ?」
「何って華道の・・・って、いつからいたの!?」
「え?ついさっきだけど」
「だったら普通に声かけてくれる・・・!?」
「え、何怒ってんの?」
今にも殴りかかってきそうな蘭に思わず腰が引けてしまう。
え、マジでなんで?あれか?まずは挨拶をしろ的なあれで怒ってるのか?それはごめんなさい。以後気をつけます。
「・・・そういうことじゃないんだけど」
「・・・俺の心を読むなよ」
そして、最後にはそっぽを向いてしまう。
相変わらず気難しいやつだ。そんなんだから友だちできな─────
「・・・殴るよ?」
「─────ごめんなさいなんでもないです」
一瞬だった。間違いなく今までで1、2を争う反射神経だったと自負している。
「え、えーっと・・・そ、それで蘭はなんでこんなに早かったの?」
そんな茶番もそこそこに、いつもは待ち合わせ時間ギリギリに来てメンバーの中でも集合が遅い方の蘭が一番乗りであった理由が気になったであろうひまりが問う。
「練習の前に華道の集まりがあってさ。それが終わってからそのまま来たから早かったのかも」
「なるほどな。お疲れ、蘭」
キチンとバンドも華道も頑張っている蘭を巴が労う。
「あたしも気になってたんだけど・・・みんな、一緒に来たの?」
ひまりの質問から一転、今度は蘭が俺たちに訊いてくる。
「ううん。たまたまお店の前の道で会ったんだ。スタジオの時間までまだあるし、ちょっと待ってようか」
蘭の疑問につぐみが答え、スタジオが使える時間まであと少しあったので談笑でもしながら待つことになった。
「で、蘭は何やってたんだ?」
「華道の集まりの確認してた。予定、逐一確認しないと。忘れたりしたら大変だし」
「なるほどなぁ」
俺の何か含みのある言葉に蘭が気づく。
「どうしたの?何かあったの?」
「実はライブに出ようか、って話をしてたんだけど・・・蘭、忙しそうだね」
「なるほどね・・・」
そうなのだ。入店前に軽く話していたのだが、最近はスタジオでの練習ばかりだったためライブでも出てみようか、言っていたのだ。
「そんでせっかくライブに出るんだし新曲とか演れたらいいなー、なんて思ってたんだけど・・・難しそうだな」
「ごめん・・・・・・でも、あたしも賛成。だから、ライブも新曲も演ろうよ」
「まー蘭がこう言ってるんだし〜演ってみようよ〜。いつ演るかは考えないとだけど〜」
「確かにな。蘭がこう言ってる間は信じてあげよう。どうしてもダメだと思ったら俺たちが止めればいいんだし」
「ん〜・・・・・・分かりました!蘭、お願いだから無理はしないでね?」
ひまりがメンバーを代表して了承の意を示す。きっちりと釘を刺すのも忘れずに。
こういう気遣いができるところも彼女の美点の一つだろう。
「あ!あとチャットのスケジュール表、ちゃんと更新しといてね!」
「あれ使い方よく分かんないんだけど・・・」
「え〜モカちゃんが頑張って教えてあげたのに〜」
「モカの説明は雑過ぎてよく分かんなかったの」
蘭に厳しく指摘されモカはひどいよ〜ヨヨヨ〜と流れていない涙を流していた。それを蘭は鮮やかにスルーして、ひまりに使い方を教えてもらっていた。
ここの関係は変わらないなぁ、なんて思っているうちに使い方の説明が終わったようで。
「あとは完了を押せばOK!」
「完了・・・っと」
「それと蘭、アルバムに写真、ちゃんと追加してよ?」
それを言われた蘭は不貞腐れたように。
「あたしが全然写真撮らないのひまりも知ってるでしょ?」
「そ、そうだけど〜・・・」
「写真はひまりが担当してよ」
暴論でねじ伏せられていた。
可哀想に、なんて思っている間に蘭の更新されたスケジュール表がギッシリであることにみんな驚きが隠せないでいた。
「蘭、かなり予定詰まってるな・・・」
「りょーやさんは蘭いじょーですな〜」
え?俺?もうかれこれ何ヶ月休みないか分かんないよ?バイトとか各バンドのコーチとか、いろいろやることあるからな。週7で働いてるよ・・・・・・あれ?これってかなりブラックじゃない?ていうか、真っ黒じゃない?暗黒でしょこれ。具体的に言うと、ブラックホールぐらい黒い。
そんなボランティアだから許されているとはいえ、通常の社会人ならアウトな労働形態をもう何ヶ月か続けている。
ちなみに改善要望を常々訴えてはいるが、通ったことは一度もない。
「ホントだ!ていうか、私が一番暇だ・・・」
え、マジじゃん。ひまり暇すぎでしょ。華の女子高生ってこんなに暇なの?毎日男連れ歩いてるもんじゃないの?(ド偏見)
「華道の勉強会かぁ・・・頑張ってね、蘭ちゃん!」
「ごめん・・・」
「いいっていいって!ライブの予定とかは今決まったことだししょうがないよ!」
練習にあまり参加できないことに負い目を感じている蘭を巴が励ましの言葉をかける。
「来週は練習参加できないけど、時間見つけて新曲の歌詞とメロディーは考えてみるから・・・」
「それじゃあたしたちはその間、今ある曲の練習だね〜」
「だな!新曲、楽しみにしてるよ、蘭!けど、無理はしないでくれよ?」
巴の言葉に首を縦に振ることで答える蘭。
「そういえば〜ひーちゃん・・・アレやらなくていいの〜?」
「確かに・・・いつもならアレやりそうだけど」
「え?何かあったっけ?」
こういう場面ではいつもアレをやっている気がするが、当のひまりは何のことだかさっぱり分かっていないようだ。
「わかんないならいいよ〜」
「─────?」
「えーっと、多分アレのことだろ・・・その・・・」
「えいえいおー、かな・・・?」
その単語を出されてようやく得心いったという表情を見せるひまり。しかし時すでに遅く。
「あーあ、今ならやってもよかったのになー」
蘭が少しニヤつきながら言う。
「えー!絶対嘘でしょー!」
「ひーちゃん、残念でした〜」
そうしてひまりはメンバー全員に同情の感情が含まれていない同情をされ、そんなこんなをしているうちにスタジオを使用できる時間になったので全員で部屋へと向かうのだった。
しかし、この時に俺は僅かではあるが確かな違和感を感じていた。