貞操観念逆転世界の私の夏休み   作:イルミン

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皆さん感想ありがとうございます。あべこべ物の陰キャがあたふたするのって良いですよね。
評価も赤くしてもらってあべこべ物の人気を感じます。
また誤字報告をしてくれた方ありがとうございました。ただ申し訳ないのですが、今話の投稿で一緒に修正しようと思ったのですが、過去の誤字報告をみても内容が確認できず、お手数ですが再度報告頂けますと幸いです。


家を出る理由がない

 お昼ご飯を食べて自分が使用した食器をしっかりと洗った後、私は居間に戻ってテレビを見ていた。何年も前にテレビに出てこなくなった芸能人が、なぜか普通の恰好をしながら番組に出演しているのを不思議に思いながらぼんやり眺めていると、満お兄ちゃんが「洗濯してきたよ」と言いながら居間に戻ってきた。

 私がお礼を言うと、「どういたしまして」と返して満お兄ちゃんは四角いテーブルの右隣に腰を下ろす。二人きりになった。名前もわからない二人組の芸人が地方スポットをロケをするコーナーが流れ、芸人がよく分からないネタをするたび満お兄ちゃんは忍び笑いをしている。

 当然の事ながら私はテレビには全然集中しておらず、視界の端に満お兄ちゃんの姿が映るように座る位置や姿勢、顔の向きを調整しつつ、その姿を盗み見ることに全神経を費やしている。私は五感が急速に研ぎ澄まされている事を自覚する。 

 満お兄ちゃんが息を吐くときの微かな呼吸音。大きな喉仏がごくりと上下する動き。部屋に漂う男の子の良い匂い。無防備に寛いだ体勢の服の隙間からちらちら覗く下着。

 こんなことが満お兄ちゃんにバレてしまったら……と、私の理性が警鐘を鳴らしているのにも関わらず、私の身体は私の欲望に忠実に動いてしまう。

 

 番組がエンディングに差し掛かったころ、さもテレビに集中しているかのように振る舞う私に向かって「ねぇ」と満お兄ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。

 私が挙動不審になりながら顔を向けると、満お兄ちゃんがこちらを真っすぐ見つめていた。そしてしばらく見つめ合った後、満お兄ちゃんは唐突に口を開いた。

 

「さっきからこっち見てる?」

 

「っ、見てません……!」

 

 私はびっくりして声を上げそうになる。満お兄ちゃんは「ふーん」と鼻で息を鳴らして、じわりと目を細める。心臓が大きく脈打ち、冷たい汗がどんどんにじみ出てくる。

 満お兄ちゃんは腰を浮かせて身体を後ろにずらすと、目の前の空いた床を手で叩いて「ちょっとこっち来て」と私を呼んだ。私が盗み見していた事がばれてしまったのだと、断頭台に上がる死刑囚のような重い足取りで満お兄ちゃんの目の前に立つ。

 「そこに座って」との声に、私は怒られる事を覚悟して、土下座で何とか許してもらえないだろうかと思いながら、先ずは正座からと床に着座しようとすると、満お兄ちゃんは「ほらテレビを見て」と私の両肩を掴んで体を反転させる。

 そして中腰になっている私の足を突然払うと、尻餅をつきそうになる私を引っ張り後ろから抱きしめてきた。

 

「な、な、なにを!」

 

 私は口から心臓が飛び出るぐらい驚愕する。私の体重をすべて受け止められたかのように、満お兄ちゃんの身体に私の身体が沈み込む。全身が急速に熱を帯びはじめる。

 

「お兄ちゃんと一緒に見たいのかなって」

 

 満お兄ちゃんの両腕が私の身体の前で交差する。私を包み込むような、満お兄ちゃんの良いにおいがする。背中いっぱいに感じる暖かな体温に逞しい胸板。そしてお尻に感じる硬い感触。グニグニしてて、でもどこか芯が通って硬い感触。それはまるで、男の子の……男の子———!

 私は手を床について、身をよじって何とかその場から逃れようともがく。

 

「もーあばれないでよ」

 

 そんな事を言われても、男の子の大事な部分を肌に感じて冷静でいられるような人間ではないのです。

 でもそんな事は満お兄ちゃんには言えなくて、何か満お兄ちゃんにいけないことをしているようで、だから、とにかく離れないといけない事は解っていた。

 

「それともお兄ちゃんの事嫌い?」

 

 卑怯だった。そんなの、満お兄ちゃんの事を好きに決まってるのに。でもでも、私のこの思いは、邪な気持ちが混じっていて、そんなものを満お兄ちゃんにぶつける事は、とても悪い事なんだと感じてしまって。だから、でも、まとまらない思考に身体が動かなくなる。

 

「嫌いなの?」

 

 そんなわけがない。その姿を一目見た時から、その手を繋いでもらった時から、私は満お兄ちゃんにずっと夢中だった。

 気づけば視線は満お兄ちゃんの姿をずっと追っていて、頭の中に浮かぶのはその笑顔とその手の温もりしかなくて。だから、もっともっと満お兄ちゃんのことを知りたくて、仲良くなりたかった。

 

「こうなったら好きって言ってくれるまで、ぎゅーってしちゃうから」

 

 私を強く羽交いに抱きしめて、少しの隙間も許さないように身体を押し付けてきてくる。全身に感じる男の子の肉体に、頭がおかしくなりそうで、こんな事はもう耐えられなくて、どうにか言葉を絞り出す。

 

「あ、あの お兄ちゃんのことは嫌い……じゃないです」

 

「ぶぶー、不正解」

 

「えっ」

 

「好きか嫌いかの2択しか返答は認めません」

 

「……!」

 

「ちゃんと答えないともっと悪戯しちゃうぞ」

 

 そう言うと、満お兄ちゃんは私の脇腹をこしょこしょとこそばしてきた。でも私は全然笑えなくて、それでも好きな男の子に身体を触られる事が我慢できなくて、だから止めてほしくて、私は精一杯、勇気を出して言葉を出した。

 

「あ、あああ、……す……きです」

 

 満お兄ちゃんは手を止める。そして恥ずかさのあまり俯く私に向かって

 

「お兄ちゃんも依子ちゃんのこと大好きだよ」

 

 わかってる。そんな意味じゃないって。小さな子供に伝えるような、仲の良い友達と確かめ合うような、そんな好きなんだって。だけど、そんな言葉でも好きって言われると嬉しくて、そんな風に思う自分が浅ましかった。

 

「あ、あああ、あ、あのあの、は、離してくれるって」

 

 折角勇気を出して伝えたのに、満お兄ちゃんの両腕が私の身体をさらに強く、私を逃さないかのような力で抱きしめる。

 

「いいじゃん、好き同士なんだから」

 

 悪びれもせずに、のたまう、その声を憎めない。

 

「あ、でも やくそくが ちが」

 

「えー、お兄ちゃんにぎゅっとされるの嫌い?」

 

 しょんぼりしたような、そんな言い方をされると、私が悪いことをしているかのように感じてしまう。ずるい。満お兄ちゃんに抱きしめられることが嫌なわけがないのに。

 

「……嫌いじゃないです」

 

「僕もぎゅっとするの嫌いじゃないよ」

 

 違うんです。幼い子供にするように私を抱きしめるお兄ちゃんに対して、私がどんな気持ちを持っていて、昨晩何をしていたのか。とても伝えることはできないけど、私は女で、貴方に抱きしめられるような人間じゃなくて、それが満お兄ちゃんを裏切ってしまっているように感じてしまっていて。

 

「僕たち気が合うね」

 

 身体が沸騰する。肉体が意思を持たない人形のように脱力して、私の身体を全て預けるように満お兄ちゃんにもたれ掛かってしまう。

 ずるいずるいずるい。なんで私の欲しい言葉を、嬉しくなるような言葉を伝えてくるの。そんな事を言われると、私は我慢できなくなって、満お兄ちゃんの事をもっともっと好きになってしまうのに。

 

「やっと素直になった」

 

 満お兄ちゃんが私の頭をそっと撫でる。

 

「依子ちゃんもお兄ちゃんのことをぎゅっとしてくれて良いよ」

 

 私は何も考えられない。言葉はどこか遠くから聞こえてくるようで。暖かい夢の中に居るみたいで。全身に感じる温もりが心地よくて。私は身を捩って満お兄ちゃんの方に身体を向けた。そして満お兄ちゃんを抱きしめようと腕をまわそうとして———

 

「昨日手を握ってくれた時みたいにさ」

 

 現実に引き戻される。急速に恥ずかしい気持ちが沸き起こって、頬が天井知らずに熱くなる。伸ばそうと思った腕は全く力が入らなくなって、満お兄ちゃんの顔を見れなくなって、顔を下に向ける。

 

「はは顔が真っ赤だ。照屋さんだね」

 

 満お兄ちゃんは笑顔で私をからかう。そして顔を近づけてくると、耳元で囁くように

 

「でもそこも可愛くて大好きだよ」

 

 私は顔を見られたくなくて、満お兄ちゃんの胸に顔を押し付けた。昨日の事が指摘されたのが恥ずかしい。好きって言ってもらえたのが嬉しい。

 頭の中がぐるぐるして、気づけば満お兄ちゃんの硬い胸を頬に感じているのが気持ちが良くて、怒られるんじゃないかと気が気がじゃなくて、感情がジェットコースターのように激しく変化して、お腹の中にコントロールできない熱が宿るのを感じた。

 

「ねぇところでさ」

 

 耳元に満お兄ちゃんの吐息がかかり、声が頭の中に直接届いたかのように響く。

 

「さっき僕のどこを見てたの?」

 

「え、あ、いや」

 

 見てないよって、勘違いだよって、否定しないと満お兄ちゃんが離れてしまうような気がして。本当はずっと見ていたけど、でも嘘をつこうと思って、私は顔を満お兄ちゃんの方に振り向いた。

 口を開いても言葉が出ない私を満お兄ちゃんの大きな瞳が射抜いて、艶やかに光る唇がそっと開いた。

 

「ねえ教えてよ」

 

 私は息苦しいほど胸がドキドキする。満お兄ちゃんの身体の感触が全身に伝わってくるのが恥ずかしくて、それでもぎゅっと抱きしめられていることがやっぱり嬉しくて、そして私が今何を感じているのかバレるのが恐ろしくて、大好きなお兄ちゃんに嫌われる事を想像したらとても悲しくて。感情がごちゃごちゃ渦を巻いて、お兄ちゃんに抱きしめられてからずっと胸が苦しくて、なぜだか急に目頭が熱くなる。

 

「ごめんごめん泣かないで。いじわるしすぎちゃったね」

 

 満お兄ちゃんは悪くないのに。ドロドロとした熱い思いが身体の中からあふれ出したかのように、ひとりでにこぼれる涙を私は手で拭いながら、謝らなくて良いよって、私が悪いんだよって伝えようと思っても声に出ない。

 

「恥ずかしかったよね?ほらお兄ちゃん離れるから」

 

 満お兄ちゃんの身体が私から離れていく。ピタッとくっついてた全身が離れ離れになって、できた隙間に風が流れてくる。熱いぐらい感じていた熱が小さくなって、私はそれが無性に寂しく感じて、だから自然に手が動いていた。

 

「依子ちゃん手を離してくれないと、お兄ちゃん離れられないよ」

 

 私はいやいやと顔を横に振る。

 

「このままの方が良い?」

 

 私はこくりと頷く。

 

「そっか」

 

 私のわがままに、子供をあやすみたいに優しく私を抱きしめてくれる。

 

「じゃあもう少しこのままでいようね」

 

 私は返事をする代わりに、満お兄ちゃんの身体をぎゅっと抱きしめていた。

 

 

 しばらくして落ち着いた私に思考力が戻り、先ほどの痴態を思い出す。顔から火が出るほど羞恥が沸き立って、満お兄ちゃんに抱き着いてるこの状況がさらにそれを加熱させる。名残惜しいけどやっぱり離れないと、と私は決心して口を開いた。

 

「あの、私はもう大丈夫なので、離れて良いですか」

 

「まだダメだよ。また泣いちゃうでしょ」

 

 私は顔がますます熱くなって返事ができなくなった。無言で抱き着いたまま数分たって、やっぱり今の状況はいけないと思った私は口を開く。

 

「あ、あの いつまでこの姿勢でいれば」

 

「んー、とりあえずお母さんとお父さんが帰ってくるまでかな」

 

 ちらりと壁に掛けられた時計を見ると、時間はまだ16時をまわっていなかった。少なくともあと、1,2時間はこの状況でいるということを理解して———ああ、私はもう満お兄ちゃんに溺れそうです。

 




見切り発進で書き始めたので、全然ストーリーもネタも思いつかない。
とりあえず書いてみてもキャラがぶれるんですね。
色々考えて1,2話の延長線上でセクハラしたら主人公泣いちゃったし。
なんで泣くねん。そしてこいつら外に出ない。
作品の方もストーリーにするか、セクハラ?記録にするか悩んでいます。
他の作者様みたいに短い間隔でコンスタントに続きを書ける技量がないので次の更新は未定ですが、完結目指して頑張りたいと思うので何卒よろしくお願いします。

あと私の中で田舎のイメージは変な芸人がテレビに出てくる事です。決して字数稼ぎじゃないよ。

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