闇夜の中、ナチスを調べていた武田の諜報員、一二三と湖依の背後にルガーP08を手に取った桔梗が立っていた
「これはこれは、ずいぶんと懐かしい顔に出会ったものだね。飛び加藤?」
「ええ。いずれは会うとは思いましたが、まさか私もこの地で出会うとは思いませんでしたよ。武田の諜報員『歩き巫女』の武藤昌幸殿。山本勘助殿・・・・・・・お話があります。少々付き合ってあってもらいましょうか?」
静かでそして落ち着いた表情をしてそう言う彼女に対し一二三は
「もし断ったらどうするんだい?」
「少し手荒な手を使わせてもらいますよ。できれば以前お世話になったところの人に危害は加えたくはありませんので、できれば大人しくしてもらいたいのですがね」
「穏やかじゃないね~。まいいさ。時間はあるしね」
「ご協力感謝します」
桔梗の静かで少し威圧めいた声に対し一二三は何も表情も変えずに飄々とした態度で話す。
「飛び加藤・・・・何であなたがここにいるの?それにその服装は一体・・・・」
飄々とする一二三に対し湖依は警戒した目でそう言う
「この腕に印されている鍵十字のとおり、私は那智党の党員です。そして私の任務は・・・・・・」
「ナチス総統・・・那智弘樹の護衛兼秘書。そして親衛隊「エスエス」及び諜報機関「ショッカー」の最高責任者・・・・事実上那智党・・・ナチスの二番目の権力者であり総統の懐刀・・・ただの草だった時と比べて、かなりの大出世だね?」
「さすが武田の諜報機関「歩き巫女」の責任者。知っていましたか・・・」
「噂程度でね。でもその内部は探れなかったよ・・・・それを探ろうと調査に行ったきり仲間が戻ってこないからね」
「当然です。皆逮捕して拘束していますから。我が諜報員「オルテ」を甘く見ないでいただきたい」
「殺したりはしていないのよね?」
「総統の命令です。それに人質は良い交渉材料ですから。囚人のような扱いはしていません三食もついて収容所内では自由に動けます。もちろん監視付きで」
「で・・・・返してもらう代わりに私たち武田に何か見返りを?」
「今のところは何もないですよ。返してほしければ正式に使者を送ってください。我が総統は今は武田と事を構える気はありませんので」
「そうかい?ではいつ頃、私たちと戦うのかい?」
「それはいつでしょうね・・・・明日か、来年か・・・それとも数十年後か…あなた方の動きで判断しますよ」
「そうかい」
そう言うと一二三はそう言うと
「それで飛び加藤・・・・・君は今は幸せかい?」
「ええ・・・とても」
「長尾や武田に戻る気はないかい?特に武田に」
「ひ、一二三ちゃん?」
「武藤殿・・・・確かにあなたは私を追い出そうとした武田家家臣の中で唯一私を庇ってくれた数少ない方です」
一二三が桔梗に武田家に再び仕官しないか誘うと湖依は驚く。だが桔梗は首を横に振り
「・・・・ですがお断りさせていただきます。私の今いる場所はここナチスです。それにあなたが欲しているのは私の能力。そうですよね?」
「まあね。君の才能は他国にはやりたくなかったからね・・・・君が謀反を起こすような人間じゃないのも知っていたけど。そんなに那智がいいのかい?」
そう訊くと桔梗はルガーP08をしまい
「あの方は・・・・総統は・・・・弘樹さんは。本来疎まれる存在である草である私を人として見てくれた友人として相棒として接してくれる。この日ノ本にはなかなかいないお人です。だから私はあの時決意したんです。この身をもってそしてこの一生を弘樹総統に捧げると・・・・・ナチスあっての私。総統あっての私なんです。もし総統が死にナチスが滅びるときはそれは私が死ぬ時です」
彼女にとって弘樹は自身のすべてであり、そして一生使えるべき主であり親友でもある。もし弘樹が死ぬときはそれは自分が死ぬとき。ナチスが滅びるときはそれが自分の身が亡びるとき。彼女は最後まで彼に忠誠を誓うと彼の相方として懐刀として傍に仕えると。そう決意していた。
「ふむ・・・・君がそこまで言うとはね・・・・・その那智弘樹殿はそれほどの御仁なのかね?」
「はい。形式、身分にとらわれず。誰にでも親しく接するお方。そして誰よりも平和を愛し民を愛するお方です。武藤…いえ、一二三さん。あなたも彼に会い話せば少しは興味を抱きますよ」
「それは、興味深いね・・・・そう言えば湖依はその総統の「さいん」とやらをもらったみたいだけど」
「そうですか。総統のサインを・・・・」
「そ、それとこれは関係ないでしょ一二三ちゃん!?飛び加藤もなんでそんな目で私を見るんですか!?」
「「いや~揶揄い甲斐があるなって」」
「やめてくださいよ!!」
二人にそう言われ、顔を真っ赤にし大声でそう言う湖依
「それで、私たちをどうするつもりかい?拘束でもする気なのかね?」
「…いえ。武田にいるときにはあなたたちにお世話になりましたので帰って結構です。代わりにナチスのことを記録したその大福帳は没収させてもらいます。ですが次はありませんよ」
そう言い彼女は湖依が持っていたはずの大福帳を手に取り、それを見た湖依は驚いて懐を探るとそこには弘樹が書いたサインのページだけ残されていた
「いつの間に・・・・・」
「本当に君はすごい能力の持ち主だね?どうやってとったんだい?」
「秘密です。草は自身の能力の正体がばれたらおしまいなので」
と軽くウィンクをしてそう言う桔梗
「やれやれ…食えない子だね君は」
「一二三ちゃんがそれを言う?」
ジト目で言う湖依。そして桔梗はその場を去ろうとするとき
「ああ、そうでした一つ言い忘れたことがありました」
「なにかな?」
一二三がそう言うと桔梗はくるりと振り返り
「もし、我が総統の暗殺を企てるようなことがあれば、その時は容赦なくあなたの首をもらいに来ます・・・・・と」
氷のように冷たさと殺気を含めた目でそう言う桔梗。その視線の思わず二人は恐怖を覚えた
「我が那智党・・・ナチスはこれからも大きくなります。総統の野望。民が平和にそして一部の権力者が牛耳ることのない国民自ら歩む国民国家を目指すために・・・それを阻害するものは武田であろうと長尾であろうと容赦なく叩き潰します・・・・・武田家当主、晴信殿にそうお伝えください」
そう言い闇夜に紛れて消えるのであった。そして残された一二三と湖依は
「飛び加藤・・・・・まさかナチスの幹部にいたとは予想外だったね一二三ちゃん」
「そうだね。しかもだ総統の懐刀として参謀としている・・・・飛び加藤は味方としてなら心強いが敵に回ると非常に厄介な人だよ」
「だから追い出すのに反対だったの一二三ちゃん?」
「まあ人柄としても私とは仲良くできると思っていたからね。まあ元気そうで何よりだよ」
そう言う一二三に湖依は
「それにしても彼女が私たちを拘束しなかったのは意外だったよね?そこら中に気配が感じられたのでてっきり」
「私たちが抵抗しようとするならそうしていただろうね。それに今は気配がない・・・・見逃してくれたんだろうね。次は本格的にとらえると思うけど」
そう、実は一二三たちが桔梗と話している間からずっと那智党諜報部隊が彼女たちを囲むようにに待機し、もし二人が抵抗する姿勢を見せ司令官である桔梗が命令したら拘束しようとしていた。だが二人は抵抗する姿勢を見せなかったため動かなかった。そして桔梗が去るのと同時に撤退した
「それじゃ、行こうか湖依あまり長くいると、今度こそ逮捕されそうだよ」
「そうだね」
そう言い二人は甲斐に向かって歩き始め一二三は
「総統の懐刀ね・・・・・懐刀にしては忠実すぎて大きすぎる刃だよ彼女は」
「え?」
「いいやなんでもないさ」
そう言い二人はその場を去っていったのであった