牙狼〈GARO〉-宿命ノ縁-   作:公男爵

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ロベルトの人となりについて書けなかったので、今ここで書かせていただきました。

※解釈違い注意※



第二話 釣糸-SWINGING LINE-

ウンベルトが修行を始めて一ヶ月が過ぎた頃。

その日の修行内容は、魔戒剣の持ち方であった。

 

魔戒騎士の操る魔戒剣の重量は、担い手の精神性によって自在に変動する。

並の心で持ち上げれば岩のように重くもなるが、強く柔軟な心で持ち上げれば羽毛の如き軽さにもなる。

故に師のレオンは日頃からこう説いている。「力だけで持とうとするな、魂で持て」と。

 

この魔戒剣を操る術こそが、魔戒騎士にとって最も重要な要素の一つとなっている。

邪気を浄化し、鎧を喚び出し、ホラーをその刃の内に封じ込める魔戒剣を持つこと叶わなければ、如何に体術や剣術に長けていようと騎士にはなれない。

故に魔戒騎士を目指す者は、7歳の頃には修行用の魔戒剣を握らされる事となる。

 

既に7歳の頃から剣術を習わされていたウンベルトは、同年代の魔戒騎士志望の子供と比べると差はそこまで開いている訳ではない。

しかし、魔戒剣の制御に関しては別。故にウンベルトは、魔戒剣の持ち方を他者と比べて重点的に鍛えられている。

父は20歳に修行を始め、剣の腕前もウンベルトよりは遥かに上のはずだったが、同じく魔戒剣の制御を優先的に叩き込まれたらしい。

 

 

無論、対人だけではなくホラーとの戦闘におけるあらゆる状況を想定した型の習得、筋力強化、体幹強化、精神修養、その他諸々……と、幾ら剣の心得があろうとメニューの数が減っている訳ではない。

ただ、魔戒剣の持ち方を教える量が他よりもある程度優先的になっているに過ぎない。

 

 

 

 

 

天井が開き、日光が姿を顕にしている廃墟を再利用した修行所。

支えるべきものを失った支柱に、練習用の魔戒剣を握ったウンベルトが立ち塞がる。

まだまだ重い魔戒剣を持ち上げんと、剣の柄を握る両の手は震えている。

 

師に教えてもらった通りに、深く息を吸って吐く。

雑念を吐き出して精神をクリアに近い状態に変えたまま、目前の壁に目を向ける。

魔戒剣が一気に軽くなり、またほんの少し重くなったのを確認した後、時計の二時の方向から振りかぶって支柱に切りつける。

支柱が半分だけ切断されたのを確認すると、後ろで見ていたレオンが目の前にやってきた後、ウンベルトが半分まで切った支柱の断面を目で眺め、手で触れて確認する。

その後、ウンベルトをしっかり見据えつつも数歩下がり、赤鞘の魔戒剣を引き抜く。

 

「切っ先の軸が歪んでいる。今朝鉄剣を振るった時は、今よりずっと整っていたし、力も通っていた。」

 

相変わらず、師は手厳しい。半分しか支柱を切れなかった所ではなく、剣先がブレている点まで指摘してくる。

 

「魔戒剣を握った状態でのお前の太刀筋を、今一度じっくり見させてもらう、来い!」

「はい!」

 

赤柄の魔戒剣を逆手に構えるレオンを目前に向けて、ウンベルトは再び剣を構える。

 

 

 

 

それから、日が暮れるまでウンベルトは魔戒剣を振り続けた。

が、決して今日の課題を全てクリアしきったとは到底言い切れない。

ウンベルトの才覚は確かではあったが、一朝一夕で強くなっていける程の物ではないことぐらいは自他共に理解しきっている。

魔戒騎士の強さは、長い時間をかけて積み上げられていく物だと、レオン達からは何度も語られている。

……とは言っても、これほど剣を振っても未だに至らない所があるのは、どうしても堪えてしまう。

 

しかし、翌日は休みにすると、レオンから告げられる。

レオンは厳格な師ではあるが、一方で休養の間を与えない程という訳でもなかった。

最も、ロベルトによれば昔は遊ぶ時間すら与えてはくれなかったらしいが。

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

「それじゃ、そろそろ行こうか。」

 

翌日、ウンベルトともうひとりの従伯父・ロベルトは、出発の準備を整える。

手にしているのは釣り竿にバケツと、明らかに魚釣りに出かけていくための道具ばかり。

ロベルトによれば、ウンベルトの父…アルフォンソ王がよく魚釣りに連れて行ったのがきっかけで、釣りに出かけることが多くなったとか。

 

「ああ、気をつけていってこい。」

 

しかし、この日はレオンは見送る側となっている。

 

「レオン殿は、ご一緒なさらないのですか?」

「生憎、指令でな。今日は遠くまで向かわなくちゃならない。」

「そうですか……。」

「ま、黄金騎士は多忙だからね。じゃ、俺たちは自由に気ままにやらせて頂きましょうか、殿下!」

「ロベルト。」

 

ふとレオンが、眉間に皺を寄せて腹違いの弟を睨む。

 

「ん?どうしたのレオン。」

「お前、自由に気ままにとは言うが、一体何を自由に気ままにやらかすつもりなんだ?」

「それは勿論、釣り糸を垂らしつつ、清らかな大自然を楽しむに……」

「真っ昼間から鼻を垂らしつつ、女遊びを楽しむの間違いじゃないんだろうな?」

「ひどいなぁ、俺がそんな事する様な男に見える?」

「見える!!」

「大丈夫だって、俺も流石にそんな事はしないよ。」

「俺はお前がいつそうするのかと、気が気で仕方がないんだがな…!」

 

レオンの苛立ちと、それを飄然とした笑みで受け流すロベルトの兄弟同士の会話を、何とも言えない表情でウンベルトは見届けるしかなかった。

聞いての通り、ロベルトは自由奔放な性格で、女遊びがとにかく激しい。

余暇には娼館に入り浸る事も多く、宿屋に女性を連れ込んで昼間から抱くこともある。

無論、人は外見ばかりではない。この程度で兄弟子への敬意が揺らぐことはないが、流石に破廉恥だと、ウンベルトもこればかりには内心辟易している。

レオンも、こういう人となりに育てたつもりはないらしい。どうやらロベルトの父…ウンベルトの大伯父の性質を受け継いでいるとの事らしいが…。

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

草木に囲まれた川のほとりで、ウンベルトとロベルトは共に崖に座りつつ釣り糸を垂らしている。

釣り糸を垂らしてそれなりに時間は経つが、一向に釣れる兆しは見えない。

中々魚が引っかからないあまり難しい表情を見せれば、直ぐに隣のロベルトが声をかける。

ウンベルトとは対照的に、ロベルトは気楽な表情を崩すことはない。まるで、釣ること自体を楽しんでいるようであった。

 

「そんな風に焦っていたら、焦りが届いた釣り竿が揺れる。そうすると、魚は尚更寄って来なくなるよ。」

魔戒剣と同じだよ。魔戒剣も心が揺らげば、一気に鈍ってしまう。深く深呼吸してごらん?」

 

言われた通りに深く息を吸って、吐く。

そうすると精神が、波なき湖の如く落ち着いてくる。

風の吹く音や川の流れる音が、やや鮮明になっていく。

 

「そう、その調子。そのまま、釣り竿をなるべく揺らさないように、体の軸を保つ。

魔戒剣を握るのと同じ感覚で釣り竿を握ってみると良いよ。心の平静さを保つ訓練…ってのはちょっと大げさだとは思うけど。」

 

言われた通り、釣り竿をなるべく揺らさないように、腰に力を集中して釣り竿を握ってみる。

それから暫くの時間が経つが、未だに釣れる兆しはない。

落ち着きを保つ様に育てられてきたウンベルトには、然程苦でもなかったが。

すると、ロベルトの方から話を振ってきた。

 

「ウンベルトはさ。」

「はい。」

「気に入った女の子とかいるの?」

「!?」

 

ウンベルトの釣り竿が一瞬大きく揺れる。

横を一瞥すれば、ロベルトは悪戯気な笑みを浮かべていた。

 

「……何故、その様なお話を…。」

「大事な話だからだよ。君にとっても俺にとっても、跡取りは大事だからね。で、いるの?」

「……いえ、まだ貴族のご令嬢との交流は、経験はしていないもので。」

 

確かに宮廷舞踏会には、幾度か参加した事はある。

しかし、父母に付き添うばかりで、あまり同年代の異性との交流を深めたことはない。

 

「ふーん、けど今の内に覚えても損はないと思うな―、女の子のく・ど・き・か・た。」

「い、いいいいえ、け、けけけ結構です!その様な、破廉恥な…。」

「信心深くて何より。だが神はこう言っておられる。『産めよ、増えよ』と。

神との約束通りに人が人で地を満たした事で、今の俺達がいるんだよ?

それに君が死んだ後、その鎧を継ぐのは一体誰なの?領地は?ん~?」

 

ロベルトは真顔だが、真剣なのかふざけているのか、ウンベルトには見当がつかない。

羞恥心のあまりウンベルトは、顔を俯けて答える。釣り糸は、最早振り子のごとく揺れている。

 

「幸いにして、ヴァリアンテ王家は自由恋愛に対してとても寛容だ。

アルフォ…おっと失礼国王陛下も、先王陛下も、各々の御心をお掴みになった貴族の娘と結ばれておられる。

運命の女を見定める権利は君にもあるんだから、それを使わない手はないよ。」

「斯様な理由でロベルト殿は、女性と昼間から……?」

「逆にやらない理由がないじゃないか。抱けば幸せになれるし、運が良ければ、俺の鎧を次代に繋いでいけるし。

それに女の子の事を考えればホラーと戦う時、なんだか安心するんだよね。」

 

その言葉に、ロベルトの弱さが垣間見えた気がした。

 

「やはり、ホラーとの戦いは――」

「そりゃ怖いに決まっているじゃん。」

 

飄然とした、しかし憂いを帯びた表情でロベルトは即答する。

 

「けどそれ以上に、大切な人達を守れない方がもっと怖いんだ。」

 

そう言いながらロベルトは、何かを見つめるように大空を見上げる。

まるで何かを懐かしむ様な、この大空に匹敵する程大きな何かを見つめている様な眼差しであった。

 

「それに、色んな人達が俺に託してくれた想いを、無駄になんかはしたくない。

いや、しちゃいけないんだと思う。だから戦うんだよ。守りたいから、守らなくちゃいけないから。」

 

ロベルトは自由奔放な人となりではあるが、『守ること』に関しては真摯であった。

『後ろにいる守るべき人々の事を考えろ』と、ロベルトが以前説いていた事をウンベルトは思い返す。

 

「……俺が今言ったことは誰にも言っちゃダメだよ、特にレオン。」

 

ロベルトがわざとっぽく眉間に皺を寄せて、口元に左人差し指を置いてみせる。

もう片方の手で握りしめている釣り竿の軸は、全くブレてはいなかった。




・ロベルトのキャラ設定について
林監督がイベントで「ヘルマンの子なので父親譲りの性格になる」と語っていらっしゃったので、ヘルマンの性質を色濃く受け継がせております。
ヒメナさんの柔和さと繊細さ、強かさも混ぜているつもりではありますが、正直ヘルマンのクローンになっていないかと気が気でなりません。

「危険な使命の合間に女を抱くと安心する」という要素は猛竜のキャラ造形から取っています。
守りし者の心で恐怖を我が物にするのと、一時の安らぎに心を委ねるのは両立出来ると思うのです。
何だかんだで根がどこか後ろ向きなのは、母親譲りなのかなと思ったり。


・ルイス家の家族構成
ヒメナさんの生死も含めて、敢えてぼかしています。
というのも、レオンがどういう女性と結ばれるかのイメージがあまり思いつきませんし、かと言って放浪中のエマ殿とくっつかせるってのも少し安直すぎますし…。

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