同盟上院議事録中間星域外伝~双頭の鷲は宇宙に舞う~   作:SPQR/ロロナ

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「ガラティエにとってバーラトは?」
「兄弟姉妹だな」
「なんでまた」
「兄弟姉妹は選べないが、選べないが繋がりはとても強いからな」

「ならフェザーンって?」
「隣人だよ」
「なんでまた」
「隣人を選ぼうにも、引っ越し先がないからね。追い出すってんなら別だが」
「そりゃなんでまた」


イゼルローン要塞陥落の余波

 宇宙歴796年4月末、イゼルローン要塞陥落!その報告がガラティエ共和国首脳部にもたらされた時、少なくない者はこう考えた。「地上軍のコストを減らせる」と。

 その逆、また別の利害関係を持つ者はこう考えた。「次にメスが入るのはフェザーン、自明の理だ」と。

 ガラティエ共和国ーー宇宙に燦々と輝くローマ共和国の末裔を称するこの国にとって、フェザーン航路は重要なものであった。かつて「ガラティエのカエサル」の時代、真っ先に彼等がガラティエに降り立ったのは何故か?それは交戦星域とそれ以外とを隔てる壁の役割を果たすためである。ガラティエが【バーラトの次の姉妹】てして影響力を持てるのは何故か?ガラティエがフェザーン方面の盾であり、そしてフェザーンとの重要な貿易拠点だからである。その上でフェザーン方面の抑えとして駐留艦隊を受け入れているのがガラティエである。

 つまりガラティエにとってフェザーンとはその存在意義(レーゾンデートル)を際立たせるエッセンスであり、【友好的に】取引をする隣人であり、最大の仮想敵でもある。

 そのフェザーンの価値を際立たせるのはイゼルローン要塞が帝国が支配する軍事基地であることであり、その構図が崩れた今。フェザーンの価値は【同盟政府の掌】にあった。

 

 さて、ガラティエ政府首脳部の話に戻そう。ガラティエ共和国の民会(他国における下院/衆議院)は795年末に選挙が行われ、翌796年1月から招集されている。つまりイゼルローン要塞陥落は会期の中に突然降って湧いた出来事である。

 その中で政府の対応は早かった。報告がもたらされ、それが確実なものだとわかるとすぐに閣僚級の者を招集、即座に会議へと移ったのであった。

 

「諸君、突然の呼び出しであるがよく集まってくれた。ローマ国家における安全保障上の問題が起きたが故だが、それでも皆がここに集まれたことは喜ばしい」

 

 開口一番そう告げるのは首席護民官ロマン・テュルク。その声色こそ落ち着いているが、状況は混沌としていた。その中でも首席護民官は皆を一瞥すると、ユリウス・マリネッティ国防大臣を見てから一言。

 

「さて、始めようか。国防大臣、現在我々が把握している状況を」

「ええ。お任せを」

 

 そうしてユリウスが述べたことは至極普通ーー読者諸君もも知るように、半個艦隊を率いた某提督が演習という名目でイゼルローン要塞まで向かい、そのまま擬装作戦の末に陥落せしめたという話。イゼルローン要塞はほぼ無傷で同盟軍の手に落ち、呆気なく建造した祖国に仇打つ要塞になったーーたったそれだけ。されど、ガラティエからすれば大きな情報であった。

 

「イゼルローン要塞が非常に少ない損傷のままということは我々の国防上、とても重要なことであろう。少なくとも役立たずのガラクタを押し付けられたわけではないということは」

 

 長い髭を蓄えた軍服の老人ーーガラティエ軍の重鎮、地上軍主流派の歩兵畑出身の参謀総長、セルカン・ヴァロルが重々しくも【宇宙軍は門外漢ながら】意見を述べる。

 

「ええ、その通りです。自由惑星同盟の宙域から帝国軍残存兵力を殲滅せしめれば、かつて帝国の持っていた優位がそっくりそのまま我々のものになる。これは地上軍の他構成邦への派兵を繰り返し行っている我々ガラティエからしても、動員段階を引き下げるなどメリットばかりであります」

「帝国の優位を無くしたことについては同意する。だが、ガラティエ地上軍の動員段階引き下げ等、実務段階の話は『もう一つの弁を閉めてから』だと参謀総長として考える」

 

 マリネッティ国防大臣とヴァロル参謀総長がお互いの意見を述べる。そこには同盟宇宙軍とガラティエ地上軍、その温度差も伺える。

 

「それについては理解します。しかし自由惑星同盟全体から考えれば、他構成邦が復興の段階に入ろうとするのは当然のことでありーー」

「フェザーンと睨みあう我々もそれに従う必要はない!ガラティエが帝国軍に構えておらねば、誰がこの方面での楔になれるか!駐留宇宙軍だけでは足りんというのに!」

「そこについては殲滅後に手の空いた艦隊がフェザーン方面の警戒に回されるよう『強く要請する』つもりです。何より民生あっての軍、同盟全体の復興ムードに乗っかって経済政策を策定するのもまたーー」

「国防大臣がそれを言うか!フェザーンを叩いてからが先、復興は後!返すようだが、国防あっての国家だ!」

 

 強く揉める二人。そのムードは明らかに悪い。

 

「やめないか二人とも!ここはあくまで建設的議論の場であり、お互いの政治信条の場ではない!お互い国家国民の為に意見を持ち、出自や経歴からその意見が対立するのもよくわかる!だが、決めるのはあくまで首席護民官である私だ!」

 

 場が静まり、二人が我に返る。それを見てロマン・テュルクは続ける。

 

「復興ムードについても、あくまで『イゼルローン要塞が陥落したのだから、選挙的にもそうなるだろう』という予測でしかない。勿論、議会政治家としての私であるなら、ここで復興に舵を切るのも当然だが」

 

 一息置く。空気が冷え、一人の男に注目が集まる。

 

「だが、地上軍軍人としての私は参謀総長の言うような『国防あっての国家』に賛同する。しかし、だ。ガラティエに限らず議会政治というものは『お互いに一歩ずつ妥協する』ものだ。よってだが、一つ情報を加えようかーークローディア弁務官、ハイネセンポリスの状況は?」

 

 そう呼び掛けられたのは共同護民官にして同盟弁務官。ガラティエ共和国の独特な政治体制の産み出した国家のNo.2であり、同盟上院において意見を発することができる人物。クローディア・コーネリアス弁務官、彼女であった。

 

「同盟政府、いえ。上院においては中期的な戦災復興計画の策定と艦隊整備計画について方針が定まりつつあります。国防大臣の言うような『復興ムード』の機運が高まっていると言えます」

 

 銀の髪を纏めた女性、クローディアは淡々と事実を述べる。そのうえで、こう続けた。

 

「しかしながら参謀総長が望むような『フェザーンに楔を打ち込む』行為についても、私は準備をしています。国防大臣。明かしても?」

「どうぞ」

 

 そっけのない対応ではあるが、間違いなくその言葉は重みがあった。

 

「では。ガラティエ共和国情報部はサイオキシン麻薬の密輸ルートについてフェザーンの関与があるのではないかと調べており、その点において同盟政府ーー特に人的資源委員会と協力を行っています。今年中には治安戦における『楔を打ち込む準備』が出来るかと」

 

 ヴァロル参謀総長が考え込む。自分の主張を組み直すためか、或いは『妥協』するためかはともかく、この老人にとって「同盟政府がフェザーンに矛を向けている事実」は大きかった。そのうえでヴァロル参謀総長は口を開いた。

 

「……少し遅いが、それでもだ。同盟政府も無為無策で終わるつもりはないのは理解した。だが、一つ気になることがある。『楔を打ち込む準備』がそうも簡単に終わるとなぜ確信を?」

「アイランズ議員が上院安全保障委員会の委員長であるにも関わらず、法秩序委員会の傍聴に来ていました」

「アイランズというと……ルンビーニのですか?」

「ええ、そのアイランズ氏です。トリューニヒト派の。不思議でしょう?何故彼のような大物が法秩序委員会に顔を出す必要があったのか」

 

 ヴァロル参謀総長、クローディア弁務官、マリネッティ国防大臣。三者それぞれが話し、そのうえで一つの事実を述べる。

 アイランズ委員長が別の委員会に顔を出した。その事実はクローディアの言う「楔を打ち込む準備はもうじき終わる」という発言ににわかに説得力を持たせる。

 

「つまり、だ。クローディア弁務官、君は『ガラティエ国防上の懸案』が今年中に片付く可能性を示唆するわけだ」

「その通りです、首席護民官。自由惑星同盟を悩ませるサイオキシン麻薬の密輸、ガラティエを悩ませるフェザーンの存在。その二つが片付く可能性を示唆するものです」

 

 ヴァロル参謀総長が髭を撫でる。マリネッティ国防大臣は顎に手を当て、考える。先に発言したのは参謀総長からであった。

 

「よって、参謀本部としては動員段階の引き下げ等、平時体制に戻す動きについて反対はできなくなりました。が、同盟政府による明確な動きがあるまでは維持を望む。国防上の懸案がなくなるまでは、だが」

「そう、ですか。であれば国防省としてもそれを望みます。勿論、動員段階の引き下げが可能であると判断すればそれを行いますが」

 

 わかりやすく雪解けを演出する。お互い意図したものではないだろうが、それでも見栄えはなくはない。

 

「と、そうだ。他には何か意見がある者はいるだろうか」

 

と、テュルク首席護民官の発言の後、そこで手を上げたのは鷹のような鋭い目に黒い髪、浅黒い肌の40ばかりの男性――アイザック・シャヒーン財務大臣だ。

 

「一つだけ提言を。ガラティエが明確にフェザーンとの貿易を縮小する場合、財務省としてはこれだけの歳入減を想定します。勿論これは概算かつ想定であり、実際どうなるかについてはこれからですがーー何はともあれ、ガラティエにとってフェザーンは決して小さいものではないことをご了承ください。内債や他の構成邦との貿易拡大で補うのも限度がありますから」

 

 そう告げる声は内閣の方針には従うという空気を出しながらも、その選択でどうなるかということについてしっかりと釘を刺してきた。

 かくして空気はまとまり、ガラティエ政府は「同盟政府への追従」という無味無臭ながら確実な選択をする。勿論、ここから同盟政府も動きを重ねるわけだが。その中で一つだけ、直近で起こったことを出す。

 796年6月上旬、シドニー・シトレ統合作戦本部長肝煎りの「新人事案」が出てくるとーー

 

「なんなのだこれは!地上軍を舐め腐っている!!!地上軍幕僚総監に『中将級を強く要請』だと!ガラティエが地上軍の国であるとわかっての狼藉か!?それともシトレの阿呆が地上軍を舐めてのことか!」

 

と、セルカン・ヴァロル参謀総長は激怒したーーというだけのことであるが。




お久し振りです。気がついたらとんでもない時間が空いていましたが、決してこの作品のことを忘れていたわけではなく……
いえ、本当は少し匿名掲示板とかで別のことやってました。うん。

次は極力早く投稿できるよう微力ながら頑張ります。
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