修学旅行、それは学生生活の楽しみの一つであり、人生でもたった三回しか体験できない旅行である。ただし、勉強を目的としているため実際に行うのは歴史的建造物の見学や戦争体験者の話を聞くなどであり、自由気ままな旅行からはかけ離れている。
そんな中唯一学生に設けられた自由な時間、それが自由行動である。修学旅行の場所にもよるが大半の生徒がその場所でしかできない体験や限定品、お土産の購入をする。
しかし中には自ら見学に回る生徒も少ないが存在する。
彼は歴史が好きな少年である。しかもそれは史実についてではない。
そんな彼が中学校の修学旅行で京都に行くとなれば、テンションが上がるのは当然のことであった。
こと日本神話においての京都はかなり重要視される都市である。古来より首都や政治の要としての役割を果たしていたここは、数多くの歴史的建造物や遺跡などが残っている。できるだけ多く回りたい彼が夜な夜なGoogleを使って下調べをし、プランを練り上げるのも頷けるだけの場所なのだ。
彼がオカルトに目覚めた理由、それは
幼い頃から彼に見えていたそれは本来人に害をなすものである。しかし、彼の周りでは被害は一切上がらなかった。理由は彼の体質にある。彼は昔から呪霊が見えた。それだけではない。彼は呪霊と意思疎通できた。
天与呪縛と呼ばれるそれに彼は気が付かなかった。彼の環境では寧ろそれが普通だろう。誰にも聞くことができなかったのだから。
彼は心優しい人間である。意思疎通が図れることを知った彼は極力人を襲わないようにと呪霊に願った。幸い彼の周りにいた呪霊は強くても準二級。彼のお願いは聞き入れてもらえたし、お礼としていろいろなものも与えたため彼の周りに害は出なかったのである。
また彼には特別な力も宿っていた。所謂呪力と術式である。彼のそれは呪具操術と言われる、呪具を自由自在に操ることができるものである。
しかし彼にとっては、「なんか知らんけど特定の物を動かせる」程度の認識だった。
そんな彼の人生はこの修学旅行で一転することとなる。
「ここが大江山か…なんというか、空気が異様だな…酒呑童子はここから京都を狙ったのか」
俺は今、修学旅行で京都に来ている。自由時間だから行きたいとこに行こうとしたら先生にすごい目で見られたけど。まぁ確かに大江山とか寺巡りばっかしようとしてる学生はなかなか珍しいもんな。
このあと回るところを考えながら歩いていたところ、獣道を見つけた。どうやら意外ときちんとした道になっているみたいで、周りにはなんの看板もない。よし、行ってみよう。
「おぉ…なんか祠が出てきた…。これ絶対なんかやばいやつが入ってるわ」
何が入ってんだろな…昔の書物とか仏像とか、歴史的価値のあるものならいいけど。でも道として認識できたくらいだしすでに誰かが役所には言ってそうだな。
「んじゃまぁ開けますか」
しめ縄に御札という封印スタイルすら気にせずに解いていく。意外と縄って重いのな。途中になんか電流が流れたようにしびれたけど無視して開ける。するとそこには…
「…瓢箪?まさかこれ神便鬼毒か?いやそんなわけ…だいたいあれは源頼光や童子切の逸話として残ってるわけで…いや、でも…」
考えているとどこからか声が聞こえてくる。
「何百年ぶりやろ…人様の声が聞こえるんはやっぱええなぁ。なぁ旦那はん、取引なんやけどな、うちを平等院の宝蔵まで連れてってくれへん?お礼はちゃんとするさかい、頼まれてくれへん?」
…えーなんか瓢箪から声聞こえてきたんだけどどうしましょ。流石に幻聴が聞こえる歳じゃないし、まさかこれ酒呑童子そのものだったり?
「…手伝うことでのメリットは?」
「めりっと?なんや、ウチの知らん言葉を話さんといてほしいんやけど…めりっとちゅうのはお礼のこと?」
「助けるのは良いけど、タダってのもあれだし。しかも平等院の宝物庫は立入禁止だから入れるかわかんないし」
「もし入れたなら一つだけ何でもいう事きいたるさかい、頼んます。あ、すけべぇなことは…堪忍な?」
「別に頼まねぇから!?んじゃまぁ行きますか」
「そや、旦那はんの名前聞いてもええ?ほら、赤の他人っちゅうのもなんや、味気ないやろ?」
「名前?童由比。そっちは…瓢箪に名前あんのか…?」
「ウチは酒呑童子。よろしゅうな?旦那はん♪」
「結局名前教えた意味ないじゃんか…」
てことで瓢箪をゲットしました、テッテレー。てかこれなんか中に液体入ってるんですけど。神便鬼毒酒じゃんこれ。
とりあえずリュックに入れて運ぶか。職質受けて中身確認されたら捕まるけど、まぁ大丈夫でしょう。根拠ないけど。
「てことで着きました、宇治の平等院。これが十円玉の裏側の鳳凰堂か」
「じゅうえんだまってなんなん?」
「ん?この国で今使われてる貨幣の裏にこれが彫られてるんだよ。てか人が多いんだからあんましゃべるなよ」
「あぁ、それは大丈夫や。ウチは呪霊っちゅう、幽霊に似たもんやから。ほとんどの人間には聞こえへんのよ。聞こえるのは呪霊が見える人間だけやねん」
「あー、呪霊ってあれか、よく道にいるやつ。話せばわかる分人間よりいいよな」
「……ウチももう長いことこの世に居るけど、旦那はんみたいな物好きははじめてみるわ」
「そうか?どんなやつも話せば分かるし、話が通じるんだし。人間よりも友好的だと思うけどな」
「…まさかとは思うけど旦那はん、今までも呪霊と会話したことあるん?会話が成立するやつはそこそこの強さやし、最初から襲ってくるやつもおると思うんやけど…」
「襲われたことはないし、そこのハエみたいなやつも会話はできるぞ?」
「こりゃ驚いた、旦那はんは特別な人間やったんやねぇ…」
「そうなん?」
「呪霊の強さによらず会話ができるっちゅうのはウチは今まで聞いたことないさかい、旦那はんは特別な人間なんやで?ふふふ…ええなぁ…骨抜いて酒に溶かして飲み干したくなるわぁ…」
なんかやばいこと言ってるんですけど!?どうしましょ、これ俺食われるやつやん!!
「…見返りの件、忘れんなよ」
「ちゃぁんと覚えてんで?約束は守ってなんぼやさかい、安心しぃや?」
安心できねぇんだよなこれが。とゆうかここまで突っ込まなかったけどそもそも呪霊ってなんだよ、呪いとか実在すんの?色々気になるんですけど?
「ここや。ここのなかにウチの首があるんよ。頑張って中にはいってな?」
首ぃ!?あー…そういや大江山伝説のほうじゃ酒呑童子の首は帝の検分後宇治の平等院の宝蔵に…って話があったな。んでもどうして首に用があるんだ?
「これ中に入れんの?守衛の人がいるけど…」
「そこはウチに任せとき?旦那はん、瓢箪の栓抜いてくれへん?」
栓を抜いたらあら不思議、守衛さんが寝ちゃいました。
「あれ、旦那はんは眠らへんのやね」
「どういう仕組みかわからんけど匂いなら効かねぇな。俺生まれつき嗅覚がないんだよ」
「そうなんやね」
中に入るとそこには棚がいくつかある。その中でも三段目。真っ黒な箱に包まれたそれは、首というにはおかしい。なぜならきれいな水晶だったからである。理由は分からないらしい。
「これをどうするんだ?」
「これに瓢箪の中身をかけて欲しいんよ」
「そしたら復活するのか?」
「旦那はんは聡明やなぁ。これでウチは旦那はんの顔を見えるようになるんよ」
…あれ?伝説になるくらいのやつを復活させる俺、もしかして中々にやばいことしてる?死因が増えた気がするぞ?
もういっそのことここまで来たら酒呑童子復活させてなんとかしてもらおう。うん、そうしよう。
瓢箪の中身をかけると、部屋の中がまばゆい光で埋められる。少しずつ収まってきた中、恐る恐る目を開くと
「んっ…久々に吸う空気は美味しいなぁ…旦那はん、改めてありがとぉな?」
そこには可愛らしい女の子が立っていた。…いや、可愛すぎん?でもそれ以上に…
「…それは良いんだけどさ、服着てくんね?」
「へっ?あ、あぁ…服…手元にないんやけど…」
「じゃ、じゃあとりあえずこれ」
渡したのは寝間着用に持ってきた黒のパーカーとズボン。サイズは…まぁ合わねぇよな。
「ぶかぶかや…ふふっ…旦那はんの匂い、ええなぁ…」
これはこれで破壊力やべぇな…中々にまずいぞ…
「んで、これからどうすんの?てか鬼なのに角ないんだな」
「角?あぁ、これは生やしたり生やさなかったりできるんよ。戦闘時はないと力出えへんけどな。あとこれからは…どうしよかなぁ…」
「んじゃお礼の権利使うわ」
「ええよ、何でも聞いたるで?」
「んじゃ…酒呑童子、俺と一緒に来い」
「へっ?だ、旦那はん!?そんなことでええの!?」
「あー…まぁ…なんだ、現代のことなんもわかってねえ状態だと怪しまれるし、人殺したら問題になるしな。やりたいことが見つかるまででいい、俺と一緒に来い」
「…ウチ鬼やし、最近のことわからへんで?それに人間ちゃうし…それに…それに…!」
「いいんだよ。俺が良いって言ってんだから」
「…わかったわぁ、旦那はん、今後ともよろしゅうな?」
「おう」
「行方不明の神便鬼毒酒の行方、判明しました」
「そうか伊知地。で、場所は?」
「京都、大江山です」
「そうか、なら京都高専に連絡を…「夜蛾校長!京都高専から連絡が!」どうした!」
「平等院の宝物庫に侵入者!神便鬼毒酒と首で酒呑童子が受肉したそうです」
「何!?まずいぞ…早く手を打…失礼、電話だ」
『もしも〜し』
「お前…どこにいるんだ悟!」
『え、京都。酒呑童子受肉したんでしょ?僕が対処するから安心してよ』
「はぁ…わかった、京都高専には連絡しておく。だがくれぐれも…あいつ切りおったな…帰ってきたらコブラツイストだな」
「さーて、誰が酒呑童子を受肉させたのかな〜。面白いやつなら良いけど」
一部オリジナル設定なのでおかしいところがあったら感想で教えて下さい。
童の天与呪縛は呪霊との対話能力。引き換えになくなったのは嗅覚です。