フーダニットゲーム   作:N-SUGAR

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はじめましての方は初めまして。お久しぶりの方はお久しぶりです。N‐SUGARと申します。オリジナル小説を書きたくなったので書き始めてみました。お楽しみください。


第0章 問題提起

0.

 

 人が死んだ。

 

 殺された。

 

 被害者がいて、容疑者がいて、証言者がいて、目撃者がいて、警察がいて、犯人がいて。

 

 そして何より名探偵がいた。

 

 名探偵は謎をすべて解き終えていて、あとは真実を明かすだけ。

 

 登場人物はすでに出揃っている。

 

 

 ──────本当に? 

 

 ──────全員が? 

 

 推理小説(ミステリ)の状況だ。

 

 名探偵。一同揃えて「サテ」といい。

 

 ここまでは定石通り。

 

 ただしここからが定番とは少し違うところ。

 

 名探偵はまだ謎を解かない。

 

 前口上と脱線は名探偵の十八番ではあるけれども。

 

 事件についてはまだ語らない。

 

 その代わりに、名探偵は一つの疑問を一同に呈する。

 

 人が死んで、犯人がいる。

 

 殺人事件。

 

 残酷極まりない事件。

 

 推理小説。

 

 その登場人物たちは、誰から誰まで見渡しても、どこからどこまで見通しても。

 

 その全員を不幸と呼ぶにふさわしい。

 

 だとするならばどうだろう。

 

 そろそろ決めてもいいんじゃないか。

 

 推理小説の定番たる登場人物たち。

 

「被害者」「容疑者」「証言者」「目撃者」「警察官」「犯人」「探偵助手」「名探偵」……

 

 ──────────この中で一番の不幸に見舞われている人物とは、果たして誰なのであろうかということを。

 

 名探偵のこの問いに。

 

 果たして全員が即答した。

 

 そんなものは決まってる。

 

 そして全員が一様に、同じ答えを紡ぐのだ。

 

「推理小説で一番不幸に見舞われている人物」

 

「それは自分だ」と。

 

 ──────────────────────自分とは一体?

 

 

 

 

 

 1.

 

 推理小説(ミステリ)という分類の書籍群がこの世には存在する。大抵の場合エンターテイメント小説として発売されるそれは、ものによって書かれる状況は多種多様。登場人物も、土地も、ストーリーも、実に様々なバリエーションが存在する。しかしよほどのことがない限り推理小説には全て作中に何らかの(クイズ)があり、伏線(ヒント)があり、そして解答(アンサー)が用意されている。読者が謎の答えを予想し、推理しながら読むことができるからこそ、かの小説群は「推理」小説と呼ばれているわけである。

 

 そして推理小説(特に探偵小説)の中でも一番ポピュラーな「謎」の形式は、作中で何らかの事件が起こるというものであり、その事件の真相やトリックを問うといったものだ。そんな中推理小説界で最も頻繁に起こる事件といえば、だれもが予想する通り、殺人事件と呼ばれるそれである。この業界では何とも恐ろしいことに、「人の死なないミステリー」が「個性」となってしまうレベルで殺人事件というものが横行しているのだ。小説界においてはおよそ時代小説や軍記ものの次くらいにはいとも簡単に人が死ぬ小説群であるともいえるだろう。読者にインパクトを与えやすく、なおかつ犯人当て、トリック当て、動機当てなどストーリーや問の構成が定型化していて作りやすいという利便性から、たびたび殺人事件を題材にした推理小説は書かれているのだろうと思われる。それに事が事であるだけに「命の大切さ」や「人殺しの残酷さ」等といったわかりやすいお題目が立ちやすく、名作が作りやすいというのも理由としては上げられるかもしれない。殺人事件という現象そのものが読者に与えるスリルでショックなサスペンス要素もその題材の人気に一役買っていることだろう。

 

 さて、そんな風に推理小説界ではたびたびおこる殺人事件だが、謎解きとなれば、そこには必然的に最低限登場しなければならない登場人物が三役存在する。

 

 すなわち、「被害者」「犯人」「名探偵」の三役だ。

 

 殺人事件が起きた場合、そこにはほとんどの場合被害者と犯人がいて、犯人が特定している場合は殺人事件に使われたトリックやなぜ殺人を犯したのかという動機を問い、容疑者が複数存在する場合はそれら人物を踏まえたうえで犯人を特定させる形式で謎が作られ、推理小説は作成される。もちろんその問題を最終的に回答するのは名探偵の役割だ。言うまでもないこととは思うが、ここでいう「名探偵」とは決して職業としての探偵を指す言葉ではない。推理小説特有の架空人物としての、役割としてのそれだ。それはともかく、ここで僕は、一つの疑問を呈してみたい。

 

 本題だ。

 

 推理小説における殺人事件で必ずと言っていいほど登場するこの三役。場合によってはもっと増えるがとりあえず、「被害者」、「犯人」、「名探偵」。これらの役割のうち、果たして一番不幸だと呼べる人間とは誰かということを、僕は問うてみたいのだ。犯罪に巻き込まれた被害者が一番不幸なのか、犯罪に手を染めてしまうことになった犯人が一番不幸なのか、犯罪などという危険な事件を解決しなければならなくなった名探偵が一番不幸なのか、それともそれ以外に誰かいるのか。僕は気になって気になって仕方がない。

 

 何木(いずき)(げん)は、気になって仕方がない。

 

「そんなに気になるんだったら、自分で勝手に、さっさと決めちゃえばいいんじゃない?」

 

 僕の疑問に、()()は何の気の衒いもなく、ひどくぞんざいにそんな解決策を提示した。

 

 この問題はケースバイケースなうえに、ただでさえ道徳的で倫理的な問題が複雑に絡んでくる。それぞれの主観で見ればそれぞれの言い分があるし、客観的に見ても誰が一番どうこうということを決めるのが非常に難しい。というかそんなことはまず不可能だ。推理小説というそれぞれが全く異なるバリエーションに富んだ世界観が乱立する作品群で、長い歴史をかけて何百何千何万と書き記されてきた数多の殺人事件で、役割ごとにその不幸度を量るなんて、統計を取るだけでも一大事業というものだろう。どうせ答えの見える問題じゃない。()()()()()。なればこそここでだけでも、自分達の間だけでも、誰が一番不幸なのかを決めてしまえばいいじゃないかと、僕がその出会いそしておそらく一生忘れることがないであろう存在である彼女、花茨生麻(はないばらきあさ)は言った。あまりにもその通りだと僕は思った。だから────僕は問う。

 

 自分に問う。

 

 推理小説の世界で一番不幸なのは、果たして誰なのか? 

 

 それを今から検討していこう。できうる限り真相に近い回答を、あくまで個人的にではあるけれども、僕はここで解き明かしたい。

 

 これは推理小説だ。

 

 伏線を敷いて、解答を用意しよう。

 

 被害者を出して、犯人を出して、名探偵を出して、その他を出そう。

 

 そしたら答えが見えてくる。

 

 それが推理小説なのだから。

 

 トリック当て(ハウダニット)ならぬ、動機当て(ワイダニット)ならぬ、犯人当て問題(フーダニットゲーム)

 

 誰が一番不幸なのか? 

 

 犯人ならぬ真相を、僕は推理したい。

 

 ここだけの話でも構わないから。

 

 僕が名探偵になって、推理する。

 

 この物語の結末を。

 

 この物語の結論を。

 

 そうと決まればさっそく始めよう。

 

 事件を、推理を、真相を。

 

 ちなみに僕の答えはもう決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フーダニットゲーム」参加者一覧(五十音順)

 

 

 ・甘宮未知(あまみや・みち)   〝×××〟

 

 ・鮎掛登楼(あゆかけ・とうろう) 〝×××〟

 

 ・伊壁真理(いかべ・しんり)   〝×××〟

 

 ・何木幻 (いずき・げん)    〝×××〟

 

 ・宇迦玉藻(うかの・たまも)   〝×××〟

 

 ・刑部明神(おさかべ・みょうじん)〝×××〟

 

 ・神無月薫(かんなづき・かおる) 〝×××〟

 

 ・クレイドル=マリー       〝×××〟

 

 ・涼風汐草(すずかぜ・しおぐさ) 〝×××〟

 

 ・四野夜宵(しの・やよい)    〝××××〟

 

 ・曾根亡狢(そねなし・むじな)  〝×××〟

 

 ・苗木子折(なえぎ・しおり)   〝×××××〟

 

 ・花茨生麻(はないばら・きあさ) 〝××〟

 

 

 




第一章上に続きます。
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