【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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132話

「ここが……」

「ヨロイ島の道場……」

 

 マスタードさんに案内されること数十分。砂浜から内陸に伸びていく一本道を歩いて行くと、目的の道場はすぐに目に入った。ユウリとホップのつぶやきのような言葉を聞き流しながらボクも視線を前に向けると、そこに建てられているのは黄色い屋根の真ん中にヒメグマのようなポケモンの看板が飾られた、少し左右に長めの一階建て(少なくとも見た目はそう見える)の道場だった。

 

 ヨロイ島は一礼野原と呼ばれる場所にそびえるその建物は、ここ十数年のうちに建てられた道場というだけあって、歴史が深いラテラルタウンにある道場に比べると外観は綺麗だけど、その代わりに大きさはあちらに軍配が上がる形となっている。しかし、大きさが劣っているからと言って迫力がないわけではなく、その道場から感じる厳格な雰囲気は、じっと見つめているとなんだか飲み込まれてしまうような不思議な圧があった。と同時に、ここに住んでいる人たちは自給自足をしているらしく、道場の周りには畑も広がっており、もうすぐ収穫ができる時期となる夏野菜たちが瑞々しく実っている様は、道場の雰囲気とは違って温かみを感じるものとなっていた。視ているだけでも美味しそうなその野菜たちは、料理をしてあげればさらにおいしくなりそうな気配を発しており、料理好きのヒカリは目をキラキラさせながらそれらを眺めていた。

 

 畑を守る柵の高さが思ったより低い所にあるのが若干の不安感があるけど……それでも特に誰かが見張っているとか、大きな案山子が並んでいるというわけでもないみたいだから、もしかしたら畑を荒らすような存在自体がいないのかもしれない。元々ワイルドエリアクラスに自然が豊かな島みたいだし、餌には困らない可能性を考えたらちょっと納得だ。

 

「それじゃあ、わしちゃんの道場……ごかいちょ~」

 

 そんなちょっとずれたことを考えているうちに、どうやら道場の入り口まで到着していたらしいボクたちは、マスタードさんのその一言とともに道場の中へと案内される。

 

「みんな~戻ったよ~ん」

「師範!!おかえりなさいっす!!」

「お疲れ様です!!」

「師範!!また後でオレの動き視てください!!」

「うんうん。みんな元気だね~」

 

 扉を開くと同時にボクたちを出迎えてくれたのは、マスタードさんの帰りを歓迎するたくさんの門下生の声。みんなそれぞれ何かしらの特訓の最中だったにもかかわらず、マスタードさんの姿を見かけた瞬間にその手を止めてでも声をかけるあたり、マスタードさんがこの道場でどれくらい慕われているのかよく分かる。

 

 そこからマスタードさんと門下生さんたちによるちょっとした会話が始まるんだけど、その間にボクはこの道場の内装に目を向けていた。

 

 道場の中は、ぱっと見3つのエリアに分かれているに見えた。

 

 まずは扉を開いて真正面に見える、今ボクたちがいるエリア。

 

 一番広いこのエリアは木造りの床が広がっており、この道場のおよそ半分以上の面積を占めている。端の方には水分補給用の自動販売機や休憩用のベンチ、トレーニング用の器具が並んでおり、今でこそマスタードさんの帰還によってその器具たちは動きを止められたり、地面やベンチの上に置かれていたりするけど、普段は全部がせわしなく稼働しているのだろうことが予想できるくらいには使い込まれているように見えた。そんな門下生たちの訓練場として使われるこの場所で一番目を引くのは、この部屋の真ん中で少し掘り下げられた場所に作られたポケモンバトル用のバトルコートだろう。緑と青色のツートンカラーで出来上がったそのバトルコートは、周りが木製の床であることも相まって物凄く浮いて見えるため、嫌でも目に付くこととなる。そんなバトルコートの中心にはゴロンダとオトスパスが向かい合って立っており、さっきまで戦っていたのがわかる。また、バトルコートの床を見れば、所々焦げた跡や擦れた跡が残っているあたり、さっき見た器具同様、何回も何回も使い込まれたのだろうという記憶が刻まれていた。

 

 次に見るのは道場の左側。

 

 特に仕切りがあるというわけではなく、扉すらないその場所は、ここからでもその部屋の中の一部がよく見え、その範囲にコンロや冷蔵庫があるあたり、キッチンになっていると思われる。またヒカリが目を輝かせているのはご愛嬌だ。

 

 次に右に視線を向ければ、今度はリビングのような空間が目に入る。いろんな人が特訓しているこの空間に対して、まるで普通のお家のような生活感あふれたその空間は、マスタードさんの休憩場所か、はたまた居住ペースとしてオフの時に過ごしている場所に見える。

 

 果たして、普段からあんな喋り方のマスタードさんにオンとオフの概念があるのかは謎だけど……。

 

 とりあえず、今ボクのいる場所から見える範囲はこのくらいだろうか。こうやって観察してみると、どうもマスタードさんの道場兼住居みたいな立ち位置らしいこの建物をじろじろ見るのはちょっと失礼なのでは?と思い始めたので、見るのをやめたと言った方が適切なような気がするけどね。

 

「さて、それじゃあ改めて自己紹介だよん。わしちゃんマスタード。一応、この島を買い取ったオーナーって事になってるよん」

「か、買い取った……」

 

 改めて行われた自己紹介にて、この島がまさかの買われた島だと言うことに、ジュンの言葉に同調するように固まってしまうボクたち。いや、シロナさんとコクランさんの表情はあまり変わってないし、カトレアさんにいたっては、小声で『これくらい買えるでしょ』と呟くレベル。なんとなく、トレーナートップ層の給料関係の格の違いを見せつけられた気がした。

 

 と、ちょっと脱線した話を戻して……

 

「もしこの島にしばらく滞在するなら、この道場の居住スペースを使ってもいいよん。わしちゃんからみんなに話は通しているし、基本的に部屋も余ってるから自由にしてくれて大丈夫よん」

 

(10人近くを余裕で泊らせてあげるほど部屋余ってるってどんだけ広いのこの道場……)

 

 さっき外観を見て『ラテラルタウンの道場よりも小さい』と言ったけど、もしかしたら勘違いかもしれない。屋根が占める縦幅が広すぎて1階建てに見えただけで、実は屋根裏部屋にあたる部分が広く、2階もしっかりあったのかもしれないね。

 

「わざわざお部屋まで用意して頂いて……感謝します」

「いいよんいいよん。わしちゃんもこの道場がさらに賑やかになって嬉しいからねん。ただ、その代わりと言ってはあれだけど、1つお願いはしたいかな〜」

「お願いですか……」

 

 ほのぼのとした会話が少しだけピリッとするものの、マスタードさんが『そんなに難しい事じゃないよん』と言ったことですぐに霧散する。本来だったらもうちょっと警戒するべきところなのかもしれないけど、なんというか……マスタードさんの喋り方が柔らかすぎて、警戒するのが馬鹿らしくなってしまうんだよね。その独特な雰囲気にはかのシロナさんでも流されてしまうらしく、今もちょっと苦笑いを浮かべていた。

 

 再び空気が和らいだことを実感したマスタードさんが嬉しそうに頷きながら、お願いの続きを口にした。

 

「簡単なことだよん。みんながこの道場に泊っている間、わしちゃんの道場のみんなと一緒に、組手とか修行をして手伝ってほしいんだよん」

「修行の手伝いですか……」

「うんうん。知っての通りここは道場。日々さらなる強みを目指して研鑽を積み重ねている門下生でいっぱいの場所……」

 

 マスタードさんの言葉につられて周りを見渡せば、いくら広い柔道場と言えども、さすがにちょっと手狭になってしまうくらいにはたくさんの門下生がいた。伝説を打ち立てた元チャンピオンから師事するというのは、それだけたくさんの人にとって受けたくて仕方がないくらいには貴重な体験だという事だ。

 

 ボクも、ガラル地方の住人でこの情報を持っていたのだとしたら、間違いなくこの道場の戸を叩いていたことだろう。

 

「おかげでこの道場は毎日とっても賑やかで楽しい所になってるよん。でもね、さすがのわしちゃんもここまで人が集まるとは思ってなかったんだよねん」

「確かに、教えるにしてはちょっと人数が多いですね……」

 

 ただその人が多すぎるという状態は、マスタードさんにとっても嬉しくはありながらも同時に悲鳴も上げてしまいたくなるような状況みたいだ。確かにいくら優秀なトレーナーと言えども、一線から退いているご老体の身では今ここにいる全員の指導をするのは確かに骨が折れそうだ。

 マスタードさんが音を上げるのも頷ける。

 

「いくらわしちゃんでも、ここの門下生全員を平等に特訓させてあげることは厳しい。かといって、わしちゃんとしてはガラル地方の未来を担う大切な種の教育に手を抜くなんてしたくないんだよねん」

「同じ元チャンピオンとして、心中をお察します」

「うんうん。お互い、色々抱えてたもんね~。……その様子だと、抱えているのは今もかな?」

「私はあなたと違って、趣味だけで研磨を続けていますから、抱える負担はまだ軽いですけどね」

「ふっふっふ、やっぱり趣味との両立は難しいよねん」

「ええ。本当に」

 

 ピリッとした空気かと思ったら、今度は保護者会のような柔らかな雰囲気へと変わっていくシロナさんとマスタードさんの会話。今回に関しては明確に自分のことを言われているというのがよく分かってしまったので、なんだか少しむず痒い。ボクと同じ立場であるジュンもきっと同じことを……

 

 

「なんか、2人の会話……大人だな!!ちょっと回りくどいのは分かりづらいけど……」

「大丈夫。あんたはその回り道すら見つけられてないから……」

 

 

 思ってないねこれ。絶対にシロナさんの言葉を何一つ理解してないや。

 

 ジュンに対して小声で注意したヒカリはこちらに視線を向けて呆れたような表情を零す。きっとホウエン地方での伝説巡りの時にも沢山振り回してきたのだろう。普段はボクが彼女に……というか、ボクがシンオウ組3人全員に振り回されまくっているので、『ボクの気持ちを少しは理解してくれたかな』という気持ちが湧いてきたんだけど、こうやって本当に振り回されているところを見るとなんだか申し訳なくなってくる。

 

(ボクって傍から見たらあんなにかわいそうなことになってるんだ……)

 

 新しく、そして見たくもない発見をしてしまい、むしろマイナスな気分に包まれた。

 

 とりあえず、物凄く話が脱線してしまったのでここで一度話を戻そう。ボクたちが変なことを小声で話したり、想像している間に、シロナさんとマスタードさんの会話は再開していく。

 

「さて、話を本題に戻すけど……ようはチミたちにお願いしたいのは、『ここの宿を提供する代わりに、門下生のみんなと戦ったり、一緒に修行してほしい』ってことなのよねん」

「なるほど……」

 

 改めてマスタードさんの口から放たれた本題は、『マスタードさんの修行に門下生と一緒に付き合ってくれ』という事。

 

 結論から言えば、ボクたちにとっては何らデメリットのない話だ。

 

 ボクがその考えに至ったのを、視線を向けるだけで悟ったと思えるマスタードさんが、表情を少しほころばせていた。

 

(この思考までバレてるのかぁ……)

 

 なんだかだんだん末恐ろしくなってきた。

 

「わしちゃんにとっても、今を時めくジムチャレンジャーの注目選手たちに、元シンオウチャンピオン、イッシュ四天王、それにシンオウリーグ3位にキャッスルバトラーと言った、すごーく有名な実力者とともに競い合える機会なんてめったにないし~、チミたちにとっても、ジムチャレンジ本戦前の最終調整だったり、ジュンちんの目的を達成してあげられるっていうのもあるから~、悪くない提案だと思うんだけど~……」

 

 さっきボクが考えた思考をそのまま口にするマスタードさん。勿論このことに関してはシロナさんもしっかり考えていたし、デメリットがないという結論にも達しているとみて間違いない。

 

 ……地味にジュンの目的も知っているあたり、誰かから話は聞いているのかもだけど、今は置いておこう。

 

 しいて言えば、カトレアさんとコクランさんへのメリットがほぼないことくらいだろうか。そこが心配になってシロナさんに視線を送ってみると、シロナさんからアイコンタクトで『そこは大丈夫よ』と返ってきた。もっと言えば、少し視線を逸らしたときに視界に入ったコクランさんもそっと微笑みをこぼしていたので、気にしなくても大丈夫なのかもしれない。

 

 どっちにしろボクがここで首を突っ込む資格はないので、今はシロナさんに任せよう。

 

「ええ、マスタードさん。あなたの意見に全面的に賛成です。あなたの言う通りこちらに基本的にデメリットはないし、私もこちらのポケモン文化を知ることができ、同時にこちらのポケモンバトルの発展に協力できそうですから。元チャンピオンという肩書関係無しに、いちトレーナーとしてとても興味があります」

「それはそれは、わしちゃんとしても嬉しい返事だよん……ただ、カトレアちんにコクランちんにはあまり得がない提案かな~って思ったんだけど~……」

「そちらに関しては大丈夫ですよ。彼女は元々とある目的のために来てもらっていますから、その絶対的な目的が動かない限り大丈夫です」

「ふむふむ……イッシュ四天王がそこまでして気にする目的……それはわしちゃんもちょっと気になるねん」

 

 ゾクリ。

 

 シロナさんの言葉が終わり、マスタードさんの言葉が終わった瞬間に、再びマスタードさんから向けられる視線。しかし、今度の視線はこちらの本質を見抜くような、とてつもなく鋭い視線。とてもじゃないけど、一線を退いた人のモノとは思えない視線に、思わず足を少し下げようとして……

 

「あら、私の可愛い教え子たちにそういった威圧をするのはちょっといただけませんね」

「ふっふっふ、ごめんね~。ここまでシロナちんとカトレアちんが入れ込むのが本当に興味深くってつい~……わしちゃんも、その悪だくみに加わってもいい?」

「あら、悪だくみなんて人聞きが悪いですね。でも、そうですね……まずはその威圧をやめてくだされば、考えてあげます」

「ふっふっふ~」

 

 ボクの前にかばうようにシロナさんが立ってくれたため、すぐに圧力から解放される。

 

 同時に頬を流れる汗と荒くなる呼吸。

 

(これで一線退いてるってホント……?今の視線、下手したら本気のシロナさんやあの子たちクラスに鋭かったけど……)

 

 

「おいフリア、大丈夫か?顔色悪いし呼吸も荒いぞ……?」

「大丈夫……?外暑かったし、ゴウカザルの熱も凄かったから熱中症……?」

「あたしの水、いる?」

 

 

 どうやら他人から見ても一目で介抱してあげたくなるくらいには調子を崩してしまっていたらしい。幸い一時的な威圧だったし、シロナさんのおかげでボクへのダメージも少ないから回復はすぐに済む。2、3回深呼吸をすれば、この激しい鼓動も止んでくれるだろう。

 

(大丈夫……ちょっと思わぬところでマスタードさんの興味を変に拾っただけ……あの人は悪い人じゃない……大丈夫……)

 

 ひとつ、ふたつと深呼吸をし、すぐさま心を落ち着かせてみんなに微笑みを返す。

 

 

「大丈夫だよ。みんな心配ありがとね」

 

 

 ボクの言葉に渋々ながら納得したみんなが、それでもちょっと納得いかないと言った顔を浮かべながら下がる。少し視線を逸らせば、ヒカリとジュンもこちらに視線を向けていたので、こちらも視線で『大丈夫だよ』と返しておく。

 

 本当に、素敵な仲間に恵まれたと改めて実感した瞬間だった。

 

 一通り心が落ち着いたので改めて前を見る。すると、シロナさんとマスタードさんの会話もいよいよ佳境を迎えたみたいで、ひとまずの着地を迎える。

 

「とにかく、マスタードさん。あなたの提案に乗ります。しばらくお世話になると同時に、あなたの門下生さんにとっても有意義な時間にしてみせます」

「うっふっふ〜。前向きな意見にわしちゃん大満足〜」

「最初から断られることなんて考えてないのでしょう?」

「さあ、どうだろね〜」

「え、えっと〜……シロナさん……?」

 

 話は終わったはずなのに、未だにお互いに探り合いをやめないことに少し戸惑いながらも何とか声をかけてみる。こういった言葉遊びはいくらでもしてもらって構わないのだけど、今だけはこのまま続けられるとボクたちがどうすればいいのか困ってしまうため、ちょっと申し訳ない気持ちを募らせながらも、間に入らせてもらう。

 

「あら、ごめんなさいね。少し楽しくなっちゃった」

 

 ボクの言葉でみんなのことを放置して遊んでいたことを自覚したシロナさんは、少しイタズラな笑顔を浮かべながらこちらに振り返る。その笑顔にみんなの反応がふわふわしている中、カトレアさんだけがまたもや呆れ顔を浮かべる。

 

(なんだろう……カトレアさんには失礼だけど、物凄く親近感が湧いてきた)

 

「フリア?」

「な、なんでしょうか……?」

「……いいえ?」

 

 シロナさんの笑顔が怖い。

 

「さて、話を戻して……私が勝手に決めちゃったのだけど……問題なかったかしら?」

「俺は全然OKだぞ!!これって場合によっては俺もシロナさんと戦えるかもしれないってことだよな!!しかもあのマスタードさんの師事も受けられる……こんなチャンス、逃す手はないぞ!!」

「あたしも同意見。少なくとも、今のままだと絶対に一部の人に勝てなか。だから、今からレベルアップは絶対必要。その機会をくれるこの状況は絶対にものにすると!!」

「私も……まだまだ強くならなきゃ追いつきたい……ううん。追い越したい背中に置いていかれちゃうから……私もマスタードさんの意見に賛成です」

 

 シロナさんの笑顔を何とかやり過ごし、今度はボクたちに先ほどの案に対する意見を募って来る。

 

 まず意見を返したのはガラル地方のみんな。

 

 まだまだジムチャレンジの本戦が残っているこのメンバーは、自分よりも間違いなく実力が上の相手……例えばマクワさんだね……と本戦でぶつかることがほぼ確定しているため、何にも変えがたいこのチャンスを絶対に物にしてやると言った意気込みとともに、賛成の意見を発する。

 

「オレも賛成だ!他の地方のチャンピオンの師事もあおげるって事だろ?2人のチャンピオンから教えてもらって、オレの自慢の攻めを更に強化すれば、だれにも止められなくなるぞ!!」

 

 続いて賛成の声を上げるのはジュン。別にこの先に大きな大会が控えたり、誰かの前で戦う必要があるわけではないけど、絶対に勝ちたい大きな目標がある彼もまた、この成長のチャンスに対して貪欲な姿勢を見せてくる。その気持ちは痛いほど分かるし、ジュンの熱気も凄く伝わって来る。

 

 ヒカリ、カトレアさん、コクランさんは特に口を挟まない。彼女たちは今回の件には特に関係ないし、かといって否定する必要もないので、ボクたちの……いや、この中でまだ発言していないボクへと視線を向けてくる。その3人の視線を受けて前に出るボクは、自分の意思をしっかりと伝えるために誰よりも前に歩き出し、先ほどボクを怯ませて来たマスタードさんの瞳を真っすぐ見つめる。

 

「ボクも……まだまだ強くなりたいし、ボクの強みを伸ばすためにもたくさんのことを知りたい。そのために、みんなが言ってる通りこの経験は絶対的な糧になる。それに……」

 

 頭をよぎるのはさっきマスタードさんの視線に怯んだボク。

 

 客観的に見たら、『伝説を打ち立てた有名な元チャンピオンに睨まれて怯むのは仕方がない』と思われるかもしれない。けど、だからと言って『みんながそういうなら仕方ないよね』と妥協するのは絶対に違うし、何よりもジュンと同じ目標を立てているのに、ここでちょっとみっともない姿を見せてしまったのは単純に悔しい。

 

 あの姿を挽回するためにも、マスタードさんの覇気に圧されないくらいには強くなりたい。

 

(じゃなきゃ多分、ヨノワールと前に進めないし、コウキの下にも歩けないから……)

 

 ボクの最後の目標のためにも、ここでは立ち止まれない。この程度の壁は超えなくちゃいけない。

 

「……ちょっと対抗意識です。……マスタードさん、許しませんからね?」

「ふっふっふ、いいよいいよん!楽しみだね~」

 

 これで全員からの賛成が得られたことになる。ただでさえ嬉しそうな笑顔を浮かべていたマスタードさんは、さらに楽しそうに笑いだす。

 

「じゃあ早速始めちゃおっか~!わしちゃんも楽しみだよん!!」

 

 笑顔を浮かべたままマスタードさんから上がる特訓の開始の声。その声に、ボクたちは勿論、マスタードさんの門下生たちも気合を入れ始める。

 

「みんな、しっかり成長してねん」

 

 同時にまたちょっと広がるマスタードさんの圧力。

 

(これに……絶対勝つ!!)

 

 みんながその圧力に少し震える中、ボクは耐えるように気合を入れる。

 

 未来のために自分を磨く、ヨロイ島の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マスタード

フワフワしてつかみどころはないですけど、実機でも一瞬で主人公のことを見抜いているみたいなので、観察力はトップクラスに高いのかなと。
その勢いで覇○色の何たらみたいになっていますが、気のせいです。




ということでここでは修行回になります。
日常会の延長として、書きたいことをのんびり書いて行こうかなと思っています。
さて、どれくらいの話数かかるでしょうかね。
地味に書きたいこと多かったりします。
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