「ふぅ……こんな派手な演技なんてなかなか出来なかったから楽しかった〜!!」
「お疲れ様ヒカリ。相変わらず凄いね〜」
「フリアこそ!完璧なサポートありがと〜!!」
一礼を終え、拍手を浴び終えたヒカリは再びトゲキッスの背中に乗って氷の城から降りてくる。とても綺麗な氷だけど、今の季節は夏。あられもやんでしまった今、あの素敵な氷のお城は、残念だけどそう遠くないうちに溶けてなくなってしまうだろう。ちょっともったいないけど、後でこの巣穴にポケモンが帰って来ることを考えたら、むしろなくなってないと困るだろうから仕方がない。
なんてことを考えているうちに、トゲキッスの背中から降り、気づけば目の前まで来ていたヒカリと言葉を交わしながらハイタッチ。互いを称えながら行われるやり取りに、昔シンオウ地方を旅していた時の風景をちょっと思い出しそっと微笑む。久しぶりにヒカリの演技を見たけど、やっぱり凄く綺麗で、成り行きとはいえこんな素敵なものをタダで見てしまっても良かったのかというちょっとした罪悪感さえも感じてしまうほど。……まぁ、これは身内特権ということにしておこう。
「お疲れ様。お見事だったわよ」
「完璧な演技……さすがグランドフェスティバル準優勝者……」
「惚れ惚れする演技でした」
「ありがとうございます!もっとも、今回に関してはわたしの得意分野ではなかったから、ちょっと心配だったんですけどね」
「得意分野じゃなかった……?それってどういう事なんだ?」
ボクとハイタッチをした後は、シロナさん、カトレアさん、コクランさんと順番に声をかけてもらい、その3人にもしっかりと返答をするヒカリ。その際に含まれた言葉に疑問を持ったホップが質問を投げかけた。どうやらユウリとマリィ、そしてクララさんも同じ疑問を持ったみたいで、首を少しかしげていた。
「『ポケモンコンテスト』って、名前の通りポケモンの審査をするところなのよ。けど、今の演技って1番凄いのは星が輝いている所でしょ?でも、それだと1番人の目を集めているのは星を作ったポケモンたちじゃなくて、星そのもの……つまり、技なの」
「それのどこがまずかと?」
「ポケモンを審査する場所なのに、ポケモンよりも技が目立っちゃダメじゃない?」
「あ……」
ヒカリの説明でようやく理解できたマリィから声が漏れる。ヒカリの言う通り、あの演技だとポケモンよりも技が目立っちゃうせいで、本来なら目を惹かれる素晴らしい演技なのに、別の理由で減点されちゃうんだよね。だから『得意分野ではなかった』という言い方をしたわけだ。
「最初はわたしもその事わかんなくてさ~。その節は、エテボースには悪いことしちゃったなぁって……」
「エポポ?」
頭を撫でながら昔を思い出すヒカリと、その時のことをまったく気にしていないのか、なんで謝られながら頭を撫でられているのか理解していないエテボース。そんな2人の温度差に、思わず笑ってしまうボクたち。けど、あの時は確かにいろいろヒカリが悩んでいた時期でもあった。そういう意味では、ヒカリはボクたちよりもよっぽど前に挫折を味わったうえで、1人で立ち上がっているんだよね。……ジュンと言い本当に心の強い幼馴染だ。
「準優勝の裏にもォ、いろいろ壁があったのねェ」
「そんなの当り前よ。むしろ、目標への壁の大きさはあなたたちが一番理解しているんじゃない?」
「「「「確かに……」」」」
「……なんでみんな一斉にこっち見るの?」
「っはは!人気者だなフリア!!」
ヒカリの一言によって一斉にこちらに向けられる視線の雨。その視線はどこか呆れと言うか、ちょっとした敵視というか、いささか棘が鋭いものとなっていた。
「そりゃ、今を時めく優勝候補様なんだもの。ダンデさんの前にまずはあなたでしょ?」
「確かに……?」
とはいうものの、そういうみんなだってここ数日の特訓でかなりレベルアップしているはずだ。ボクだって油断をしていたら簡単に足元を掬われてしまう。みんなの壁というには、少し力不足な気がしなくもないけど……
「少なくとも、ユウリたちはそう思っていないんだから、しっかりしないと本当に足元掬われるわよ」
「……うん。気を付ける」
ヒカリの言葉で思い出したけど、そのことはスパイクタウンの1件で心に誓ったはずだ。あの時のクララさんの言葉を思い出して、しっかりと心の緒を引き締め直そう。
「みんなお話はいいけど、そろそろ地上に戻るよん」
「巣穴がもう崩壊することはないけど、私たちがこれ以上ここにいたらポケモンたちが返ってこれないからね」
「それに今は深夜……流石に眠たいわ……」
「まずはシャワーなりお風呂なり入りなおしてからにしましょう。長時間歩いたり、土埃の多い洞窟を長いこと歩いているので、汗や汚れがひどいでしょう」
「当り前よ……流石にこのまま寝るわけないじゃない……」
マスタードさんとシロナさんの言葉で今のボクたちの現状思い出し、慌てて帰る準備を行う。カトレアさんの言う通りあれから時間がかなり経っているから夜もかなり深くなっているし、ここにいたら人間を警戒しているポケモンたちが帰って来ることが出来ないからボクたちの退場は早々に行うべきだ。ただ、強いて気になることがあると言えば……
「巣穴、このままで大丈夫かな……」
「もうズガドーンとデンジュモクいないけど、それでもまだボロボロなのには変わらなかと」
ユウリとマリィの言う通り、現状の巣穴のまま開け渡していいのかという事だろうか。家に帰ってこれたとしても、崩れるまで秒読みになってしまっているここを明け渡されても困るだけのような気はしてしまうけど……
「そこはウルガモスちんたちが決めることだよん。ここの巣穴を直すのもよし。この巣穴を捨てて新しい道を探すのもよし。生態系やわしちゃんたちがいる場所まで危ない可能性があったから今回はこうやって手を出したけど~、野生のポケモンのことに過干渉はよくないからねん」
「そんなものなのか……」
「自然を大事にするガラルだからこそ、なのかもねん」
最低限の手助けやもしもの時の協力は惜しまないけど、野生は野生でちゃんとルールがある。そこに関わりすぎてしまえば、それはガラルの誇る素晴らしいところをつぶすこととなる。厳しいようだけど、だからこそ作られる環境もここには必要。マスタードさんはそういいたいのだろうか。ホップにはあまり深く刺さらなかったのか、はたまた刺さってはいるけど理解するにはまだ見てきたものが少なすぎるのか、曖昧な返事をすることしかできていなかった。
「ま、これから知っていけばいいよん。ささ、帰ろうかねん」
難しい顔を浮かべながらウンウンうなっているホップに微笑みを零したマスタードさんは、ここに来るまでと同じように先頭に立って外へと向かっていく。行きよりも心なしか足の軽いその動きに慌ててついて行くボクたち。
「まァ、何はともあれ無事に解決してよかったわァ」
「それはほんとにそうと……」
「解決が平和的だったのもよかったぞ」
「これで今夜も安心して熟睡できるゥ……」
「なんか発言がちょっと危なか……」
「そうか?というか、俺たちの中で一起きるのが遅いクララには関係ない気が……」
まずはホップたちがこの事件の解決に安堵しながらついて行き……
「なぁなぁ、さっきの演技……星と一緒に氷を降らしたり、でんきバチバチさせたりした方がもっと派手じゃなかったか?」
「何言ってるのよ。あれ以上は技が相殺し合って勢いが死んじゃうからもう足せないわよ。何でもかんでも足せると思ったら大間違いなんだから。最後の『サイコキネシス』での操作だってかなり繊細なのよ?」
「ただ技でまとめているだけじゃないのかよ?」
「真ん中にほしぐもちゃんいたんだからそれだけでうまくいくわけないでしょ。まったく、これだから何も知らない脳金は……」
「お前には言われたくねぇ!!」
「わたしたちの中で一番の脳金はどう考えてもあんたでしょ……」
続いてヒカリとジュンがいつも通りのテンションで軽口を叩き合いながら歩いて行く。
「にしてもウルトラビースト……不思議な存在ね。あれだけの破壊力を備えているのも驚きだけど、何よりあの異形さ……本当にポケモンと言っていいものなのかしら?」
「とりあえず、今回のことはわたくしの方から国際警察の方に連絡しておきますね」
「ええ、お願いするわ……シロナも、このことに興味を持つのはいいけど……知っての通り国際警察が関わっているのだから……あまり変なことはしないでよ……?」
「するわけないじゃない。ただ純粋に興味を惹かれただけよ。一考古学者として、ね?」
「そう言えばあなたそんな職業だったわね……」
「これでも、その方面でもかなり名をあげている方だと思うのだけど?」
「変わりませんねぇ……」
その後ろではシロナさんとカトレアさんが砕けた口調で話し合い、コクランさんが苦笑いを浮かべながらついて行くという、これまたちょっと暢気な空気感を漂わせている集団がついて行っていた。
「んぅ~……ボクも返ってシャワーを浴びて、のんびりしたいなぁ」
そんなみんなを見てボクの中の緊張感もなくなり、完全なOFFモードへと切り替わる。夜も深いことだし、そうなって来ると先ほどまで緊張によって遠くに飛ばされていた眠気も一気に押し寄せてきた気がする。さっきのクララさんじゃないけど、本当に今夜は熟睡できそうだ。
「……て、あれ?ユウリ?」
と、そこまで考えて、改めて先を歩いているメンバーに視線を向けていると1人足りないことに気が付く。前を向いてもその人がいないので、後ろを振り返っていると未だに足を止めて広場を見つめているユウリの姿。
「どうしたの?何かあった?」
「え!?あ、ううん、何でもないよ!!さ、帰ろ?」
「う、うん……」
その姿が妙に気になって声をかけてみると、なんだか少し焦っているような空気を出しながら前に走っていく。それが心に引っかかってしまったけど……
「う~ん……ま、いっか」
ボクに何も言わないということはたいしたことではないか、もしくはボクや他の人に聞かれたくない内容ってことなのだろう。あまり関わりすぎるのもよくない。そう思い改めて帰路につくボク。
「ウルトラビースト……まだいるのかな……」
今日起きたあの出来事に、少しだけ後ろ髪を惹かれながら。
☆
「はぁ……」
ダイマックス巣穴から帰ってきた私たちはマスタードさんからのお礼を受けた後に解散という形をとって、各々が自由な時間を取っていた。ある人はお風呂に向かい、ある人はさっきの出来事で空いてしまったお腹を満たすために食堂へ向かい、またある人は疲れからベッドに飛び込んで熟睡をしている。みんながそんなひと時の休息を楽しんでいる中私は何をしているかというと、再び外に出てちょっと夜風に当たっていた。
本当なら明日に備えて、私もみんなとおなじ様に体を休めるのが良いんだろうけど、どうにもそういう気分になれなかった。
「はぁ……本当に壁は大きいなぁ……」
思い出されるのヒカリさんの言った壁。次の大会前にぶつかり合う事となるみんなの姿。私とみんなが闘う姿を何度も何度も頭の中でシミュレーションをするのだけど、どうにももやもやして上手くいく気配がしてこない。
特訓はしているし、その成長はしっかりと感じることはできている。昨日の自分より今日の自分の方が絶対に強いし、今日の自分よりも明日の自分の方が絶対に強いと言い切れる。けど、それでも勝てるビジョンがなかなか固まらなくて……その理由は明白だった。
「あのバトル……凄かったもんなぁ……」
私の頭の中で再生されるのはジュンとフリアのバトル。エンペルトのパワーとゴウカザルの技術がぶつかりあったあのバトルはとても面白く、そしてハイレベルなものだった。今の私が闘ったら間違いなく負ける。圧倒的な実力差の前にその事を嫌でも思い知らされてしまう程だ。それに……
「ヒカリも絶対に強いよね……」
さっきダイマックス巣穴で視させてもらったヒカリの大立ち回り。一見ポケモンコンテストに振り切った見た目重視のそれに見えるけど、あの氷のお城を一瞬で作り上げるには、それだけ大きな水と氷の力が必要となる。最後のサイコキネシスだって、相当な出力とコントロール力がないとあんなことなんてできないはずだ。
フリアと同じで私たちよりも前から旅を続けているのだから当然と言えば当然かもしれない。けどそれは、次のトーナメントにおいて負けていい理由にはならない。勿論ヒカリとジュンとはトーナメントでぶつかることはないからいいのだけど、肝心のフリアが参戦しているうえ、その2人よりも明らかに強いのだから手に負えない。
(ジュンにはパワーで押し切られそうだしヒカリにはテクニックで抑え込まれそう……フリアはその両方を兼ね備えてて……)
こうして考えてみるとフリアの弱点が思いつかなくて、フリアの心を折ったとされるシンオウチャンピオンが本当に意味が分からなくなってきた。上には上がいるとは聞くが、本当に上が果てしない。
(うぅ、ヒカリはフリアと目を合わせるだけで完璧なやり取りしててうらやましいし……って、これはいま関係なくて!!)
ちょっと思考が脱線したけど首を振ってすぐに修正。とにかく、今私が抱えている悩みはこの先どうすれば自信をもって戦えるかだ。もしかしたら本当は私とフリアたちとの差はあまりないのかもしれないけど、現状私自身がそのことに対して前向きにとらえることが出来ていないから、このままだと気持ちで負けてしまう。
「とはいっても、気持ちの問題だもんなぁ……」
こればかりは練習や特訓でどうにかなるものではなく、完全に私の心持次第だ。相談や練習でちょっとくらいは楽になるかもしれないけど、最終的には自分でちゃんとけじめをつけて乗り越える必要がある。
「自信を持つ方法……どうすれば……ん?」
自分がここから成長するためにはどうすればいいのか。それを改めて検討していると、何やらどこからか戦闘音が聞こえてくる。それも、かえんほうしゃや10まんボルトと言った特殊技の音じゃなくて、何かを殴るような打撃音だ。
「こんな時間に特訓……?ってそんなことないか。野生のポケモン同士のいざこざかな?……でも、この近くって野生のポケモンいたっけ?」
時間をスマホロトムで確認してみればもうとっくに日付はまたいでしまっている。外に出ている門下生なんて当然いないので野生のポケモンのいざこざかなと考えたけど、この道場周辺に野生のポケモンが来ることはあまりなく、またここまで大きな打撃音をならせるポケモンもいなかったと記憶している。一礼野原にいるポケモンの中でこれくらいの音を出せそうなのはキングラーくらい……かな?それもいる場所は砂浜近くなのでここから遠い。となるとこの音の正体がますますわからなくなる。
「ちょっと見てこようかな……」
知的好奇心の刺激に従って音のほうに歩いて行く。音の発生場所は道場横手の林の中で、清涼湿原まではいかない場所だ。
暗い木々の中を音を頼りに歩くこと数分。音の発生源はそんなに遠くなかったらしく、ほどなくしてその正体を確認することが出来た。
「あの子は……」
その正体は2人のポケモン。片方はラランテス。普段は陽の光にあたるところで活動する彼女が、こんな夜に動いているのが凄く珍しくてちょっと驚いてしまうが、それ以上に気になるのはそのラランテスの対戦相手だった。初めて見るようで、どこかで見たこともあるようなそのポケモンに向かって、無意識のうちにスマホロトムを掲げていた私は、スマホロトムからの声に耳を傾けながら記憶を探っていく。
ダクマ けんぽうポケモン かくとうタイプ
頭の白く長い体毛を引っぱると気合が高まり
丹田からパワーが湧きあがる。
「ダクマ……そういえばお兄ちゃんが持っていたポケモンがそうだったような……?」
スマホロトムによってそのポケモンが『ダクマ』というポケモンであると知った私は、その名前を聞いたと同時に前回のジムチャレンジに挑戦したお兄ちゃんの手持ちのメンバーを思い出した。テレビの中で見たお兄ちゃんの手持ちのポケモン。その中の1人がこのダクマだった気がする。正確には、この子が進化した姿だけど……
「お兄ちゃん、あのポケモンはここで貰ったんだ……」
ダクマを見たことはあるものの、ガラル本島にいないため、どうやって捕まえたのがわからなかったけど、長年の謎を解消した私は少しだけすっきりした感覚を覚えながら改めてダクマの方に視線を向ける。
「クマッ!」
「ララァ!」
「あっ……」
ぶつかり合うラランテスのリーフブレードとダクマのつばめがえし。先ほど私が聞いた音と同じ打撃音を響かせるその鍔迫り合いは、ダクマが吹き飛ばされる形となって収まっていく。もんどりうったダクマは木に叩きつけられてその身体を地面に落としてしまうけど、それでもすぐさま起き上がり、再びラランテスへととびかかっていった。
決して諦めることなく突き進んでいくダクマ。しかし、身体の大きさからして全く違う両者。当然大きい方が有利なこの勝負は、その前提を覆すことなく進んで行き、近くの木に背中を打ち付けるような形で再びダクマが吹き飛ばされてしまう。
「ク……クマッ!!」
「……」
既に何回も同じ展開になっているらしいこのバトルは、ダクマの身体に刻まれている傷の数がその繰り返しの数を物語っている。2桁を超えるその傷の数を見た私は思わず息をのんでしまった。
「あんなになるまで……」
鍔迫り合いに負けるたびに傷がつくわけではないはず。そのことを考慮すれば、今ダクマに刻まれている傷の数よりもはるかに多い数吹き飛ばされているはずだ。下手をすればもうちょっとで3桁に到達する可能性だってある。それだけの回数負け続けて、それでもなおダクマの目は死ぬことなくラランテスをにらみ続けていた。
「どうして?」
もし私がダクマの立場なら、そんな回数挑んで全部負けているのだとしたらとっくに諦めてしまっている。今だって何度も突撃しているダクマだけど、何回ぶつかっても勝てる兆しなんて一切見えていない。なのに、それでも真っすぐラランテスを見つめるダクマの表情は何1つ変わることなく、いまだにその闘志が消えることはなかった。
「クマ……ッ!」
ボロボロな身体をそれでも何とか持ち上げるダクマは、目をたぎらせながら頭の鉢巻きのような部分をぎゅっと引き締める。すると、ダクマの下腹部からオレンジ色のエネルギーがあふれ出し、ダクマの身体を包み込んだ。
「クマッ!!」
全身を駆け巡るオレンジの光は徐々にダクマの右手に集束していき、物凄いエネルギーを生み出していた。
「あれって、『きしかいせい』……だよね?」
ホップのバイウールーも覚えているその技は、自身の体力が低ければ低いほど威力の上がる一発逆転の技。最後まであきらめなかったものにのみ許される、最後の一手。
腰を下ろし、腰に拳を添えて、正拳突きの格好をしながらゆっくりと目を閉じるダクマ。
深呼吸を1つ落とし、目を見開くと同時に一気に前に駆けだしていく。対するラランテスは、いい加減何度も立ち上がるダクマにうんざりとしたのか、この一撃で完膚なきまでに仕留めるというつもりで、こちらも両手に緑色のエネルギーをため込み始める。
「こっちは『ソーラーブレード』……」
本来なら陽の光りを元として繰り出すはずのその技は、夜なため太陽こそ出ていないものの、雲1つのなく晴れ渡った夜空は私が予想しているよりも早くソーラーブレードのチャージを完了させる。
「ララァ!!」
そしてそれを思い切り上から下に振り下ろすラランテス。大地そのものを断ち切らんと振り下ろされるその攻撃に対して、ダクマは真正面から拳を叩きつける。
「クッ……マァッ!!」
ギリギリと激しい音を鳴らせながら続く鍔迫り合い。しかし、先ほどまでの結果を見ていた私としては、今回もダクマが押されると思っている。その証拠に、攻撃の傾きもだんだんとダクマの方に向かっていた。だけど……
「……クッ……マァ~~~~ッ!!」
ダクマは一切諦めない。
さらに声を張り上げたダクマは、オレンジの光を更に発光。全身を再び輝かせたダクマは、押されていた分を押し返し、そこから更に押し込め始める。
「……凄い」
今まで全く歯が立たなかったのにここにきて一気に出力を上げていくダクマ。叫び声に呼応するように輝きを増す拳は、徐々に刃を押し返し、ついにソーラーブレードを砕ききる。
「ララッ!?」
「クマッ!!」
「……いけ!」
全力で懐まで潜り込んだダクマの渾身の一撃がラランテスに突き刺さり、まるで今までのお返しだと言わんばかりの勢いでラランテスを吹き飛ばしていく。そのまま何本かの木をなぎ倒してようやく止まったラランテスは戦闘不能へ。思わず応援してしまう程激しい攻防の結末は、負けると思っていたダクマが勝つという結果に終わった。
それと同時に、スマホロトムから声が聞こえる。
戦いに負けると発奮して、より熱心に鍛錬に取り組む。
「負けると……より……」
負ければ負けるほど強くなる。その姿を見て、ようやくダクマのことが分かった。
「そっか……そもそも負けることを恐れてないんだ……」
負けることなんて100も承知。そのうえで挑みつづけ、そして成長していく。そうすれば、いつか相手を越えられるから。
「クマ……クマッ!?」
闘いが終わり、一息ついていたダクマは、今度は私の存在に気づいてすぐに戦闘態勢に入る。
「ま、まって!私は……」
何か誤解しているダクマをなだめようとして、言葉が止まる私。
このダクマはきっと私のこともラランテスと同じような目で見ている。ボロボロの身体で戦えば当然負ける。けど、それで少しでも自分が成長できるのなら負けなど厭わない。そんな気迫が伝わって来る。その気迫受けて、ようやくわかった。
「私は……負けにおびえているんだ……」
今までと違って負けたら終わりのトーナメント。そこに名を連ねる一番の壁。負けるのが怖いのは当然だ。けど……
「うん、今絶対に越えないといけないわけじゃない」
勿論最初から負けを受け入れるわけじゃない。けど、例えここで負けても最後じゃない。負けを恐れて、手が縮こまる方が絶対もっと後悔する。
負けてもいい。けど、勝ちをあきらめるわけじゃない。そんな矛盾した気持ちを持つのは、おそらくすごく難しいことだ。けど……
「ダクマ……あなたを見て、何となくその考えがわかってきた気がする。そして……あなたと戦えば、もっとわかる気がする……だから……!!」
懐から取り出す1つのモンスターボール。そこからはタイレーツが飛び出してく。
「ダクマ!!私と勝負して!」
「ヘイ!」
「「「「「ヘイ!!」」」」」
私とタイレーツによる気合を込めた言葉。
「……クマッ!!」
そんな私たちの行動に驚いたのか、少し表情を変えたダクマは、しかし再びすぐに戦闘態勢を整える。
「さあ、勝負!!」
「クマッ!!」
深夜の林にて、誰の目にも入らない場所で、私とダクマによるちょっと変わった特訓が始まった。
ダクマ
鎧の孤島と言えば忘れてはいけないのがこの子。話の通り、ユウリさんの兄であるマサルさんは所持しています。ユウリさんがこのあたりの情報についてあやふやなのは、
マサルさんが暫くヨロイ島に滞在していたからですね。ジムチャレンジ参加前に、集中的に特訓していたみたいですよ。また、ダクマのあの頭の白い部分は、絞めると丹田から力があふれ出すそうです。丹田は道教の用語みたいですね。
みなさんアニポケは観ましたか?作者は涙を流しながら見ました。本当に凄かった……ここまで追いかけてよかったなぁと心から思いました。