道場のバトルコートにてフリアとマスタードによる手合わせが行われている時、裏ではもうひとつの特訓が行われていた。その会場は一礼野原の砂浜。道場からでは死角となっており、深夜ということもあり、唯一の駅ももう閉まっているため、今この場にいるのは秘密の特訓をしているものだけとなっている。
では肝心の特訓をしている人は誰なのか。それは……
「いいわよエルレイド。だけどあと少し踏み込みを前に出来れば、あなたのその切れ味はもっと素晴らしいものになるわ。このあと少しの踏み込みがあなたをより成長させるの。踏ん張りどころよ」
「エ……エル……ッ!!」
「いい気合いね。ガブリアス、もうちょっと付き合ってもらってもいいかしら?」
「カブァ!!」
エルレイドと呼ばれた僕と、雄たけびをあげながら相対するガブリアス。そしてそのガブリアスの主であるシロナ様だ。
主様とヨノワールが急に飛び出したことが気になった僕は、インテレオンが外に出ていったのをきっかけに、少しまどろんでいた意識をしっかりと覚醒させて外に出る。すると、開け放たれていた窓から何やら凄い戦闘音が聞こえてきたため、もしかしたら主様に何かがあったのではないかと思い、慌てて駆け寄る。するとそこには、とても楽しそうに戦う主様と、いつもの姿とは違う、そして物凄い力を感じるヨノワールの姿だった。
(凄い……)
空中を飛び回り、ウーラオスと対峙するヨノワールは今まで見たことの無い動きで打ち合っていた。と同時に、動きもパワーも何もかもが違うその姿を見て、僕は素直に見とれ、憧れてしまった。
洗練された技は鋭く相手の急所を捉え、かといってたまに混ぜられる力任せな一撃は、より強力なものとして相手の身体を薙いでいく。柔と剛。そのバランスがとても綺麗で、見ているだけでこちらの心まで熱くさせられてしまう程。
こんなすごいバトルを見させられて何もしないなんて絶対できないし、何よりも、ヨノワールの強さを改めて知ったボクは、ここで引き離されてしまったら主様を守る時にそばに立てない可能性があると思った。ただでさえ、1度イワパレスの件で失敗してしまいそうになったのに、2度目なんてあっていいはずがない。
能力の出力がへたくそで仲間から外されて、1人でさまよっていた時にダイマックスの力に囚われたボクを助けてくれた主様。そんな主様を危うく傷つけてしまう事となったあの事件。結果としてはエルレイドに進化することができ、より主様をしっかりと守ることが出来るようになったけど、まだまだ力不足は否めない。あのヨノワールの戦いを見ていたら、その気持ちはさらに大きくなってしまった。なら、僕が今からやることなんて1つしかない。どうやらインテレオンも何かを感じているみたいだし、ここでインテレオンにまで差をつけられるわけには絶対に行かない。
ヨノワールとの差があるのはまだ納得できるけど、ほぼ同期であるインテレオンとの差が出来てしまうのはさすがに看過できない。向こうは何も思っていないかもしれないけど、少なくとも僕は対抗意識を抱いている。そんな相手が何かを得るために動くというのなら、僕だって動かないわけにはいかない。そう思い至った結果、外に出た時にたまたま見かけたシロナ様に師事をお願いしたというわけだ。
本来なら僕たちポケモンの言葉というのはなかなか主様たちには通じにくいのですが、そこはかんじょうポケモンから進化した僕の能力の見せ所。流石にそのあたりはサーナイトの方が優秀なため、エルレイドである僕には完全に伝えることは不可能だけど、それでもある程度を伝えることはできる。それに、シロナ様ほどのトレーナーとなれば、その『ある程度』を伝えるだけでも十分受け取ってくれる。
「成程ね……いいわよ、付き合ってあげるわ。……ふふふ、本当罪な子ね。フリアも」
そんな僕の狙い通り、しっかりと意味を受け取ってくれたシロナ様はそのまま僕とガブリアスを連れて、一礼野原のビーチへ移動。その砂浜にて特訓をはじめ、冒頭に戻るというわけです。
ガブリアスと僕によるぶつかり合いは、道場の方から聞こえてくる戦闘音に比べたらまだまだ静かなものかもしれないけど、音が小さい=戦闘の規模が小さいという訳では無い。マスタード様もシロナ様も、どちらも1度頂点にたった実力者。その腕前に優劣などつけられるはずもなく、2人とも等しく強い。マスタード様が力で押すタイプなら、シロナ様は戦術で相手を撹乱して自分のペースに引き込む、いわば主様と同じ戦い方のトレーナー。つまり、このガブリアスの動きを理解すれば、間接的に主様の戦い方も理解出来る。
主様はよく突飛な発想をして、僕たちにとんでもないことをお願いしてくることがある。けど、それは僕たちの実力を理解し、そのうえで僕たちなら出来ると信じてお願いをしてくる。
そう、先程から言っている通り、あくまでも
きっと主様のことだから、僕たちが出来ないと返事をしても、僕たちを怒ることなく別のプランを考えて勝つ道を探す手繰り寄せることだろう。けど、僕たちをまっすぐ信じて伝えられるその言葉は不思議な力を含んでおり、僕たちに勇気を与えてくれる。僕が技の出力に困っている時だって凄い奇抜な解決方法を提案してくれたけど、なぜか失敗する気はしなかったし、実際そのおかげで僕はこうして成長することが出来たのだから。
そんな主様にお願いをされれば、誰だって答えたくなるに決まっている。少なくとも、主様の手持ちのみんなは同じ気持ちのはずだ。なら、この先もっとされるであろう無茶なお願いに絶対に答えるためにも、もっともっと強くなって、もっともっと主様を助けたい。
想いは拳にのり、そのまま威力へと変換され、打ち合っているガブリアスへと叩き込まれていく。それに対してガブリアスも、どこか嬉そうな表情を浮かべながら僕との稽古を続けてくれていた。
「……よし、そこまで!2人ともお疲れ様。今日はこのあたりにしましょうか」
そんな楽しく充実した時間は、だけど僕の想像よりもあっけなく終わってしまう。空を見上げてみれば、星がかなり動いていることから思ったよりは時間が経っているようだけど、それでも個人的にはまだ動き足りないと思ってしまう。そのことを証明するかのように、僕の身体からは若干の不機嫌オーラがこぼれてしまっていた。
「オーバーワークは体調管理の大敵よ。ヒカリやフリアもよく言っているでしょ?」
「エル……」
当然そのことを感じ取っているシロナ様は、僕を諭すように柔らかく言葉を伝えてくる。
身体と心はもっともっと頑張りたいと伝えて来るけど、こうやって主様を引き合いに出されると頷かざるを得ない。強くなりたいという気持ちは大きいけど、主様に迷惑をかけるのはもっと嫌だから……。
「うん、えらいえらい。本当にいい子ね」
自分の想いを何とか抑え込みながら耐えているところに、シロナ様の手が優しく載せられる。その温かさに身をゆだねていると、シロナさんが僕の目の前に何かを見せてきた。
「大丈夫。私が教える限り、あなたに損なんて絶対にさせないわ。……あなたに渡したいものもあるしね」
それはとてもきれいな石で、色も形も全く違うはずなのに、その石を見るとどうしても心がざわついてしまい、つい僕が進化したあの瞬間に見ためざめいしを思い出してしまう。
「この石は、あなたの想いを叶えてくれるもの。だけど、今あなたに渡しても意味がないものでもあるわ」
シロナ様の指の間で輝くそれはとてもきれいな球体状の石で、1つの傷もない綺麗な新球の形をとっていた。さらにその新球の中心に見えるものは、僕の体の色を表したような緑とピンクの遺伝子が螺旋を描いている姿だった。その模様に見とれていた僕は、シロナ様の言葉が通り過ぎかけてしまう程に夢中となっていた。
「多分、フリアは元となるものを持っていないでしょうし、そもそもジムチャレンジでは使用を禁止されているからね。だからあなたがこれを使うのはきっと……」
そこまで言いかけてシロナ様はぎゅっと石を握り締めた。
「あなたも感じ取ったわよね。この石の力……」
コクリと、シロナ様の言葉にゆっくり頷く僕。
「私の特訓についてくることが出来れば、この石をあなたに託すわ。だから今日は休みましょ?」
頷く僕に差し伸べられるシロナ様の手をそっと取り、特訓で疲れた体を休めるためにそっと深呼吸。
(そうだ。まだまだ時間はある。今は焦る時じゃない)
「エル!」
「よし、じゃあ帰りましょうか」
僕の返事に嬉しそうに頷いたシロナ様は、ガブリアスをボールに戻しながら道場へと歩いて行く。その後ろについて行くと同時に、再び道場から大きな音が響き渡った。
「……どうやらあちらも落ち着いたみたいね」
恐らくこの音の発生源は、主様とヨノワールだろう。
(今度は、僕がその場所へ……!)
シロナ様の後ろでそっと拳を握った僕は、新たな誓いを立てて道場へと戻っていく。
☆
「はぁ……はぁ……」
あがる息にかすみ始める視界。
実際にはそんなに経っていないのかもしれないけど、もうかれこれ1時間くらいはぶっ続けで戦っているような気がするほどの疲労が体に襲い掛かって来る。そんなボクの目の前には、ボクと同じように肩で大きく息をする2人のポケモンの姿。
片方はウーラオス。今ボクが相手をしているマスタードさんのエース。
片方はヨノワール。現状ボクと感覚を共有させ、新たな力を発揮しているボクのエース。
そんな両者が物凄く息を乱しながら、しかしそれでいて決して闘志を潰えることなくにらみ続ける。
「うむ……実に楽しい時間だ……。本当に、ここまで燃えるのは何時ぶりか……」
「それは……よかったです……」
ウーラオスとヨノワールによるぶつかり合いは激しく、そして拮抗していた。
新しい力にめざめたヨノワールは、その圧倒的な力とスピードで。長年の研鑽によって洗練されたウーラオスは、経験と技術によって。お互いの決め手を確実につぶし合いながら行われるバトルは、永遠に続くのではと思われるほど互角で、30を超えたくらいから数えるのをやめてしまう程拳をぶつけ合った。その数は多分3桁なんてざらに超えているだろう。しかし、その均衡した状況は、完全なイーブンではなくボクたちの不利という状況へ傾いて行く。理由は物凄く単純だ。
(この状態……維持するのに……体力の消費が……半端ない……!!)
今日初めて行ったヨノワールとの完全な共有化。発揮される力は物凄く、本来なら勝てないであろうウーラオス相手に善戦どころか、下手したら押し勝つのではないかという場面も多々あった。しかし共有化しているだけあり、ヨノワールの増加した運動能力の分、ボクに返って来る負担も比例して大きくなっていた。
今もまた、ボクとヨノワールの右手のかわらわりが左から右に振られるものの、初めてこの状態になった時のようなキレはなく、バックステップでウーラオスに避けられた技は空を切る。
(体が……重い……重心が腕に持っていかれる……空振りが1番きつい……!)
「じゃが、さすがにもう限界のようじゃな。恐ろしく強い力じゃが、まだ慣れておらん。次手合わせするときは是非とも、その力をも手中に収めてほしい……だから……」
ヨノワールのマフラーが少し形を保てなくなり始めているあたり、いよいよこの状態を維持できなくなっているのかもしれない。勿論、ここまであからさまならマスタードさんだって気づく。だからこそ……
「今回は……これで決めるぞ!!」
腰を少し落とし、右手に黒いオーラを纏わせながら意識を集中させるウーラオス。文字通り、この一撃で決めるつもりだろう。本来ならつばめがえしなどでいなして、僕の体力が尽きるのを待てばいいのにそれをしないところに、マスタードさんなりの武士道精神を感じる。
ボクも、それに応えなくては。
「ヨノワール!!」
「ノワッ!!」
怠い体に喝を入れて無理やり起こし、最後の攻撃の準備をする。
周りの岩に使っていたポルターガイスト用の霊力をすべて右手に集中させ、ヨノワールの右手を黒く怪しく光らせていく。その輝きは、まるですべての光を飲み込もうとしているかのようにも見えるほど強く、そして重く輝いていく。
正真正銘、最後の攻撃。
途端に静まり返るバトルコート。
先に動いたのは……
「ウーラオス!!」
「ウラァッ!!」
ウーラオスだった。
マスタードさんの声を引き金に弾かれたように飛び出したウーラオスは、今日一番のスピードをもってヨノワールの懐に飛び込み、右こぶしを思いっきり後ろに引き絞る。
「ヨノワール!!『かわらわり』!!」
あまりの速さにウーラオスの駆ける音が遅れて聞こえて来るけど、共有化しているボクたちには確認が可能だ。むしろ自分から近付いてきてくれたことで攻撃を合わせやすくなる。
「ノワッ!」
「ラゥッ!?」
己の全速力にまさかカウンターを合わせられるとは思わなかったのか、驚愕の表情を浮かべるウーラオス。このまま右手を右から左に薙ぎ、ウーラオスの側頭部にかわらわり叩き込めばボクの勝ちだ。
(とった!!)
しかし、マスタードさんは慌てない。
「ウーラオス!チャージ!!」
「ッ!!」
マスタードさんの言葉にハッとしたウーラオスがさらに1歩踏み込んで、ヨノワールに向かって左肩によるチャージを行う。
「うぐっ!?」
「ノワッ!?」
お腹に急に襲い掛かる衝撃に、思わず呼吸が止まり、体が後ろに傾く。それでも何とか倒れないように体を支えることには成功したものの、後ろに少し下がってしまったせいでヨノワールのかわらわりはウーラオスの眼前を通りすぎて空ぶってしまう。
「しまっ!?」
本気で振っていたため、態勢は崩れ明確な隙となる。当然そんな大きな隙をマスタードさんが見逃すわけがない。
「ウーラオス!!『あんこくきょうだ』ァッ!!」
「ウラァァッ!!」
力強く握りしめられる、ウーラオスの真っ黒な右拳。
限界まで引き絞られ、ありったけの力がそそがれた必殺の一撃が、マスタードさんとウーラオスのがなり声とともに打ち出される。
音を置き去りにする必殺の一撃は、態勢を崩したヨノワールに避けるという動作を取ることを許さない。瞬きの間に繰り出されたその一撃は、ヨノワールの体の中心に吸い込まれる。
「ノワッ!?」
「あぐっ!?」
突如襲い掛かるとてつもない衝撃。
お腹の奥に響くその衝撃。
ボクも、ヨノワールも、この衝撃によって意識を揺さぶられ、次に力抜け、体が傾いて行く。
徐々に地面に近づいて行く視界が、今ボクが前に倒れようとしていることを如実に表していて。
膝も折れ、地面に落ち……
「ノワァァッ!!」
「ッ!!」
ヨノワールの叫び声を聞きながら身体に喝を入れ、無理やり身体を支える。
「ウラッ!?」
「なんと!?」
まさか耐えられるとおもなかったマスタードさんの驚く声が聞こえた。それもそうだろう。本来ならこんな一撃を貰えば、ボクたちはこんなギリギリの状態じゃなくても一撃で倒れていたはずだ。ではなぜボクたちは耐えることが出来たのか。その答えはヨノワールというポケモンの特徴にある。
「うぐぐ……腹筋……きつい……!!」
「ノワ……ッ!!」
「まさか……お主……ッ!!」
ヨノワールの身体はかなり大きい。それこそボクの身長分よりもさらに高い位置に首があるくらいには。そんなヨノワールの大きな身体にはとある特徴がある。それは身体を横切る大きな黄色い線……現在は水色の焔を両端から溢れさせているその部位。
そう、ヨノワールの
人間なら顔の下半分に存在するその部位は、ヨノワールの場合は胴体の真ん中に存在する。ウーラオスがあんこくきょうだを放ったのは、そんなヨノワールの口がある胴体だった。
ここまで言えばわかるだろう。ボクとヨノワールが耐えることが出来た理由、それは……
「お腹の口で右手首を噛んで、無理やり止めおったか!!」
「うぐぐ……」
マスタードさんが正解を口にするけど、正直それに反応するどころではない。
ボクとヨノワールの身体は感覚が共有されている。つまり、今ヨノワールがお腹に力を入れてウーラオスの拳を止めている感覚も返ってきてるわけで……
(自分の体にない部分の感覚が返ってきて妙に気持ち悪い……!!それに……おなかに力を入れ続けないといけないから腹筋がはちきれそう……!!)
「ウ、ウラァッ!!」
今この瞬間も腹筋に力を入れ続けているせいでしんどくて仕方がない。そんな地獄の筋トレをしている中、ようやく自分の今の状況を理解したウーラオスが慌てて右腕を引き抜こうとする。しかし、ここでウーラオスの拘束を外してしまえばいよいよ勝機をなくしてしまう。だから……!!
「絶対に……逃がさない!!」
「ノワッ!!」
ヨノワールとともに左手を伸ばし、ボクは自分のお腹の前の空間を握り締め、ヨノワールはウーラオスの右腕をがっしりと掴む。
これでもう、逃げられない。
「ウラッ!!ウラッ!!」
それでも何とか逃げだそうとウーラオスが必死の抵抗を行うけど、ボクとヨノワール。2人分の力が加わったその手は、何があっても動くことはない。
その状態のまま、ボクとヨノワールはゆっくりと右手を持ち上げる。
ボクの白い手と、ヨノワールの黒い手が、真上に掲げられた。
「ヨノワァァァァルッ!!」
「ノワァァァァァッ!!」
ウーラオスとマスタードさんが挙げた雄たけび。その声に負けないくらいの声量を上げるボクとヨノワールは、そのまま動けないウーラオスの上から全力のかわらわりを叩き込む。その衝撃はとてつもなく大きく、ウーラオスを通して地面まで流れ、地震と衝撃音となって辺りに響き渡る。
「はぁ……はぁ……」
「ノワァ……」
文字通り、正真正銘最後の一撃。
全てを出し切ったボクとヨノワールは、一気に脱力。共有化も切れてしまい、ヨノワールの姿も元に戻ってしまった。
「もう、指1本も……動かせない……」
もう風が吹くだけで倒れそうなボクは、それでも何とか気力だけで立つ。だって、まだ戦いは終わっていないから。
ボクとヨノワールの視線の先には、かわらわりを受けたというのに微動だにしないウーラオス。依然として動くことの無い姿に、『もしかしたら効いていないのではないか』と不安になる。しかし、その不安は一瞬で霧散した。
「……」
「立ったまま……気絶してる……」
ヨノワールの一撃にて最後の体力を奪われたウーラオスは、しかし決して背中を地面につけることをよしとしなかった。その姿に素直に賞賛の念を送りながら、同時に安心感に包まれたボクの意識はゆっくりと閉じられていく。
「勝てた……?よかっ……た……」
ウーラオスと同じく、体力の限界を超えたボクは、そのまま身体を倒していく。
「ノワッ!?」
最後にボクを呼ぶ声と、身体を抱き上げる優しい感覚に包まれたボクは、とうとう意識を手放した。
☆
「戻れ、ウーラオス。……お主の戦い、見事じゃったぞ」
立ったまま右腕を前に突き出した状態で固まっているウーラオスに、労いの言葉をかけながらリターンレーザーを当てて、ボールの中に戻してあげる。そのボールを腰のホルダーに戻しながら視線を前に向けると、そこには大切そうに主を抱えるヨノワールの姿。
もう既にあの不思議な状態は解かれており、ワシの見慣れた姿に戻った彼は、いきなり気を失った主に対して焦りながら、しかしそのことを決して表に出さず、努めて冷静に介抱を行っていた。その冷静さにまた舌を巻く。本当に、心から信頼しあっているのであろう。
「見事じゃったぞ。お主らの本気」
「ノワ……」
そんな彼らの行動を称えて声をかける。しかし、ヨノワールは喜ぶどころか、フリアを抱えたまま少し警戒するような目でこちらを見つめてくる。
「安心せい。疲れから気を失っておるだけじゃ。すぐに道場で診て、安静にすれば明日には元気になっておるはずじゃ。……まぁ、全身筋肉痛くらいにはなってそうじゃがな」
警戒を解くために投げかけた言葉は、ヨノワールの心を落ち着けることに成功したようで、彼から感じるプレッシャーが少し落ち着いていく。この物分りの速さも、バトル中の判断力の速さに繋がっているのだろう。その結果がお腹の口によるキャッチなのだから。
と、さっきの戦いを振り返ると、落ち着いていた身体がまた湧き上がってしまうのを感じる。
「かっかっか……本当に、実に楽しかった……フルバトルでは無いとはいえ、本気のぶつかりは久方ぶりだったからな……しかもその上で負けたときた。本当にあっぱれよ」
「ノワ……」
湧き上がった感情のままヨノワールに対して賞賛を再び送るが、またもやヨノワールの反応は芳しくない。理由は、ヨノワール本人が納得していないからだろう。
さっきも言った通り、全力とはいえ今回はフルバトルでは無い。それに、確かにウーラオスは負けたが、それは最後に力比べという戦法を取ったため。ここで力比べではなくつばめがえしによるいなしを選択していたら、間違いなくヨノワールたちのスタミナが切れ、あの状態が解除されていただろう。そうなってしまえばウーラオスが負ける理由は無くなる。つまり、ヨノワールからすれば、わざわざ勝てるチャンスを与えられたと感じてしまうのだろう。
そのストイックさが、ますますワシを魅了する。
恐らく、頑固なこやつには何を言ってもこの勝負の結果には納得しないであろう。だから、ワシから折衷案を出す。
「ヨノワールよ。そんなに納得がいかぬのなら此度の勝負は、引き分けとしよう」
「ノワ……」
ワシの言葉に少し疑問の声をあげるヨノワール。だがそんなことを気にすることなくワシは言葉を続ける。
「次はフルバトルで、本気の
「……」
最初こそ疑問を浮かべていたものの、徐々にその雰囲気を引き締めていくヨノワール。
その瞳にはもう、次戦う時は勝つという決意しか映っていなかった。
(実に若く、実にエネルギッシュ。思わずこちらも若返ってしまうわい)
そんな彼からの視線にこちらも少し燃えてしまう。だが、今はまだ、抑えなくては。
「そういうことだから、まずは身体を休めるよん。……フリアちんも、大分無理をしたみたいだしね〜」
「……ッ!!」
わしちゃんの言葉でようやく落とし所を見つけたヨノワールが、慌ててフリアちんの介抱に戻っていく。その少し慌てた姿が妙に愛らしく、先程まで死闘を繰り広げていた猛者にはちょっと見えなかった。そのギャップが面白く、つい頬が緩んでしまう。
「ふっふっふ〜。何はともあれ、道場に戻るよん」
「ノワ」
けど、早くフリアちんを休ませたいのはほんと。すぐさまヨノワールを連れて、道場への道を歩いていく。
(ああ、本当に……未来が楽しみな子たちだ……)
その道中、ワシの心は、きっと明るい未来を視て、さらに湧き上がっていた。
どうやらワシも、まだまだ若いらしい。
エルレイド
ガラル地方のもう1人のエースを狙う子です。マホイップたちが狙っていない訳では無いですが、インテレオン、エルレイドの2人はちょっとほかのメンバーと比べても意思が大きいですね。出会いと過去が原因ではありますが。そして何やらシロナさんから不思議な石が……シロナさんが言うには、ガラル地方にいる間には使わなさそうみたいですね。さて、一体なんなのでしょうか?
ヨノワール
ということで、何とか勝つことは出来ましたが、マスタードさんとヨノワールは納得していませんね。当然フリアさんも納得してません。記述している通り、マスタードさんが逃げに徹していれば、間違いなく勝てますからね。公式戦ではその戦法をとったでしょう。しかし、彼らの性格ならここで安全策には絶対走らないですよね。実は当初の予定ではもうちょっと戦闘を切るか、ヨノワールが敗北するルートを考えていたのですが……この状態に初めてなったというのに、負けるのもなにか変だったので、間をとってこのような結果に。フリアさんも気絶してしまっている以上、完全な勝利とは言えない感じでもやもやするかもしれませんが、ご了承くださいませ。
さて、そろそろヨロイ島のお話も終わりが近づいていたりします。書きたいことはだいぶかけましたので……となると次はあちらですね。あちらではどんなことが起きるのでしょうか……?