【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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190話

「レイスポスとバドレックスの身体……どんどん強く赤色に光っているわね」

「あの光を見てから一気にシャドーボールの火力が上がったように見えたぞ……」

「いや、実際にあがっているんだよ」

「その通りである」

 

 ヒカリ、ジュン、ボクの言葉に肯定を示すバドレックス。そのままバドレックスはこの赤い光についての説明をしてくれた。

 

「この光はレイスポスの特性、『くろのいななき』である」

「『くろのいななき』……」

「左様……効果は、相手を倒すたびにとくこうを強化するというものである。そしてこの効力は、人馬一体となっているヨにも効果を及ぼす」

「っつーことは、今は2人とも3段階強化されてるってことか……あのシャドーボールがさっきよりも強くなってるとか、考えたくもないな……」

「受け止めることはもう不可能でしょうね……」

 

 バドレックスの説明を聞いて険しい顔を浮かべるジュンとヒカリ。ボクもヒカリの意見には賛成だ。1段階強化された時点でさえ、タイプ有利のズルズキンと、防御に定評があり且つひかりのかべを作ったアーマーガアでさえも耐えきることの出来なかったあの技がさらに強化されていると考えると、いよいよもって一撃も喰らことなんてできない。特にエルレイドなんてこうかばつぐんで受けてしまうから、間違いなく一撃で戦闘不能だ。

 

「本当なら、ブリザポスも同じようにこうげきを強化できたのであるがな……」

「ブリザポスも似たような特性なんだね」

「うむ。あちらは『しろのいななき』であるな。効果はレイスポスとほぼ一緒である」

「シロォ……」

「無理をするでない。よく頑張ってくれた。ゆっくり休むのだ」

 

 バドレックスの言葉に悔しそうな声を浮かべるブリザポスをしっかり労うバドレックス。元の関係に戻ったばかりだけど、キズナのタヅナの影響かその関係はもう昔のそれに戻っているようだ。……いや、もしかしたら、この戦いを通じて昔よりもキズナは深まっているのかもしれない。

 

「戻ってタイレーツ。ありがとうね。ゆっくり休んで……フリア、ごめんなさい」

「よくやったぞ、アーマーガア。……オレたちが負けたから、レイスポスが強くなっちまったな……」

「お疲れ、ズルズキン。……本当にもうしわけなかと」

 

 一方こちらも、戦闘不能になってしまった仲間をモンスターボールに戻したユウリたちが、申し訳なさそうにしながらこちらに来る。悔しいという気持ちはもちろんあるんだろうけど、それ以上にレイスポスが強くなってしまったことに対して申し訳ないという気持ちが大きいようだ。

 

「全く、何気にしてるのよ。あなたたちがいなかったら、そもそもブリザポスを倒せてないんだから気にしなくていいのよ」

「そうだぜ。むしろありがとな!!」

「あとは任せて。絶対に勝つから」

 

 そんな3人の気持ちを背負って、ボクたちは改めてバドレックスと向きなおる。

 

「では……行くぞ!!『シャドーボール』!!」

「「避けて!!」」

「躱せ!!」

 

 お互い仕切り直したところで、バドレックスがバトルの再開のきっかけを放つ。

 

 鋭く、そしてくろのいななきによって威力の上がったこの攻撃に対してすぐさま回避行動を選ぶボクたち。避けられた攻撃はそのまま神殿の壁にぶつかり、派手な音を立てながら大きな破壊痕を残していく。やはりあの火力を貰うわけにはいかない。

 

「『サイコカッター』!!」

「ムゥッ!!」

 

 返す刀でサイコカッターを飛ばして反撃に出るものの、こちらはバドレックスのサイコキネシスで止められ、それどころかそのまま反射されてこちらに返って来る。

 

「『ダブルアタック』!!」

「『メガホーン』!!」

 

 その返ってきた刃を更に跳ね返すようにエテボースとギャロップが技を振り、反射を更に反射されたサイコカッターが再びバドレックスの方へ。またこの刃を反射されるのでは?とすこし身構えたけど、今度はこれをレイスポスの素早さを利用して回避。そのまま 神殿内を走り回った彼は、走りながらシャドーボールをこちらに打ちまくって来る。

 

「『つじぎり』!!」

「『ドリルライナー』!!」

「『アイアンテール』!!」

 

 4方から飛んでくるため回避が難しく、仕方なく技での相殺ないし逸らしを選択するけど、やはり相手の火力が高すぎて、回避に対してリスクが高すぎる。それに、氷山での攻防でサイコキネシスによる機動操作も確認している以上、やっぱりこういった技を技で消すという行動はとりたくない。となるとやっぱり回避行動を大目にする必要があるんだけど……

 

(その回避をレイスポスの速さで抑え込んでるんだよね……本当にうまい……)

 

「フリア……お前がカギだぞ」

「そうね……わたしとジュンであなたを完璧に援護してあげるわ」

「ジュン?ヒカリ?」

 

 そんなことを考えているところにジュンたちから投げられる言葉。その言葉の意味が一瞬理解できずに首を傾げそうになるけど、すんでのところでその意味を何となく理解できた。

 

「まず前提だ。こっちは体力削れてて、向こうはレイスポスに対して限定とはいえ回復技がある」

「それに、レイスポスの特性で火力はここからさらに上がるわよね?そうなれば……」

「長期戦は論外だし、細かい技でちびちび削るのも無理。となると、一撃ですべてを決める必要があり、現状ボクたちの中でそれが可能なのが、ボクのエルレイドだけ……ってコトだね」

 

 ボクの言葉にコクリと頷くヒカリとジュン。

 

「オレのギャロップだと火力が足りない」

「わたしのエテボースはそもそもゴーストタイプを攻撃しづらい」

「……わかってる。バドレックスを仕留めるなら……」

 

 エルレイドのきれあじを乗せたつじぎりを叩き込むしかない。

 

「けど、どうやって攻撃するの?このままだとレイスポスが速すぎて、とてもじゃないけど力を込めた一撃なんて……」

「そこはほら、オレに任せろよ!!」

「え……?」

 

 ボクの疑問に対して自信満々に答えるジュン。それに対して今度は本当に意味が分からなかったので首をかしげるボク。それに対しジュンは胸を叩きながら答える。

 

「ギャロップが足になる!!」

「……え?」

「何それ、バドレックスへの対抗意識?」

「良いじゃないか、かっこいいだろ?」

 

 その案はいたってシンプル。エルレイドをギャロップの背中に乗せて駆け回るというもの。それはまるでレイスポスに乗っているバドレックスの真似をするようなもので、間違いなく彼に影響されているものだと気づいたヒカリは少し呆れたような表情を浮かべながら答える。だけどまぁ確かに、かっこいいかどうかは置いておいても、ジュンの言うことはかなり理にかなっていたりはする。移動するのをギャロップに任せることが出来れば、エルレイドは攻撃に集中するだけでいい。これなら、バドレックスに大きな一撃を与えることが出来るだろう。

 

「じゃあ、わたしがサポートしてあげたらいいのね」

 

 ヒカリも呆れてはいたものの、この案が現状だと割といい線いっていることを理解しているため、すぐさまこの行動に合わせる旨を告げる。

 

「エルレイド!!」

「ギャロップ!!」

 

 作戦が決まったのならあとは行動するだけ。すぐさま指示を出してエルレイドをギャロップの背中へ。

 

「エル」

「グロォッ!!」

 

 背中に乗ったエルレイドがギャロップに声をかけると、ギャロップが大きく嘶く。すると、ギャロップの炎が強く燃え盛り、しかし一方でエルレイドをやさしく包み込んでいく。

 

「ギャロップの炎はなついた相手には熱くない炎になるからな。その炎を利用すれば、ちょっとした守りにはなるだろ?」

「ここまでされると確かにかっこいいかも」

 

 淡い焔を纏ったエルレイドの姿は普通にかっこいい。これでマントをつけた日にはいよいよ騎士に見えるだろう。

 

「んじゃいくぜ!!ギャロップ!!」

「グロォッ!!」

 

 エルレイドがしっかり乗ったのを確認したギャロップは、ジュンの指示の下駆け始める。

 

 飛んでくるシャドーボールを細かいステップで避けながらかける姿はさながら宙を走るねがいぼしのようだ。しかし、そんな綺麗な動きを見せるギャロップよりも素早く動けるレイスポスがギャロップの動きの上を行くため、シャドーボールをよけきることが出来ない。けど、そこを埋めてくれるのがエテボース。

 

「『アイアンテール』!!」

 

 鈍色の尻尾を携えたエテボースが果敢にシャドーボールへ向かっていく。が、シャドーボールの威力が高すぎて、軌道を少し逸らすことが精いっぱい。何なら、弾くために動いたはずのエテボースの方がその威力の高さにのけぞらされている。

 

「ムゥ!!」

 

 そんなエテボースにとどめを刺すべく飛んでいくのはエナジーボール。態勢を崩しているため、避けることが難しいこの攻撃は、だけどギャロップが駆けてエルレイドが手を伸ばし、その腕に尻尾を巻き付けることで回収してもらう。

 

「フリア!!」

「わかってる。エルレイド!!」

 

 エテボースが回収されたのを確認してすぐに視線を送って来るヒカリ。それに頷きすぐさまエルレイドに指示を出す。その内容は、先ほどバドレックスが……いや、正確にはブリザポスが作り上げた氷山の残りにエテボースを投げ飛ばしてほしいというもの。それに従ってすぐさまエルレイドはエテボースを投擲する。

 

「『ダブルアタック』!!」

 

 その狙いはこの氷を削って辺りに散らばらせ、レイスポスの足場を奪っていくというもの。削られた氷はまきびし以上に鋭く、歪な形として地面に転がり始めていく。踏めばもちろんダメージを負い、大きなものはそもそもの走行の邪魔になる。それによってレイスポスの機動力を奪う形になっている。しかもこの氷のトラップ、便利なのがギャロップに対しては影響がないこと。

 

「『フレアドライブ』!!」

「レイスポス!!」

 

 ギャロップが炎を纏えば、この氷たちは溶けてなくなるためギャロップに牙をむくことはない。それを利用し、炎の塊と化したギャロップが、動きづらそうにしているレイスポスを追いかけるべく猛進する。これに対してバドレックスがエナジーボールを複数発射。効果いまひとつとは言え、とくこうが3段階もあがっていれば、さすがのギャロップの足も順調とはいかない。

 

「来るぞギャロップ!!」

「グロォッ!!」

 

 飛んでくる緑の弾幕に気合を入れるように声をかけるジュンと、それにこたえるギャロップ。嘶きながらさらに炎を燃やすギャロップに襲い掛かる緑の弾幕は、ギャロップとの距離を確実に詰め……

 

「ハッ!!」

「エポッ!?」

 

 バドレックスの掛け声とともに軌道が曲り、氷を砕いていたエテボースへと突き刺さる。

 

「エテボース、戦闘不能だ!」

「……頼むわよ」

 

 エテボースを戻しながらそうつぶやくヒカリ。機動力でも火力でも、そしてタイプ相性でも追い付けないと悟っていたヒカリは、こうなることを理解していたからこそ、ここで倒れること分かっていてなお、最後の場づくりに専念した。

 

 この意志は絶対につなぐ。そんな思いが通じたのか、レイスポスがいつの間にか氷の罠に囲まれたところに動かされていた。これでレイスポスは自由に動けない。けど、そんな状況でもレイスポスは落ち着いて真正面のギャロップをじっと見つめる。

 

「クロォースッ!!」

「グロォ―ッ!!」

 

 エテボースが倒れたことでくろのいななきを発動させたレイスポスと、エテボースの姿を確認したギャロップがその遺志を継ぐように大きく嘶いた。

 

「レイスポス!!」

「ギャロップ!!」

 

 ジュンとバドレックスの声が重なる。

 

 身体を更に赤く光らせたレイスポスがシャドーボールを展開し、その弾幕を一気にギャロップに解き放つ。一方のギャロップは、元々構えていたフレアドライブの火力を更に跳ね上げ、自身の身体全て炎の中に閉じ込めた。もはや地面すら溶けているのではと思わせるほどのその温度は、しかし親しきものへ害を与えることの無い性質上、ボクたちへは優しく温かいそれへと変換されている。勿論、バドレックスに対してはすべてを燃やし尽くす劫火となっているため、シャドーボールを止めるのに障害はない。

 

「クロォースッ!!」

「グロォッ!!」

 

 両者の技をぶつけ合いながら、それでも絶対に負けるわけにはいかないと嘶く声を上げる。その先に起きる衝撃はとてつもなく、思わず目を覆ってしまう程。結果として周りの雪や氷は吹き飛び、溶かされ、いつの間にか地面は綺麗な石畳のステージへと変貌しており、その石たちが戦いの熱狂に比例してほんのり赤く変色していく。

 

 とくこうが4段階もあがった状態なのに、それでも一見互角に見える状況を作り上げているギャロップの意地には目を見張るものがある。ジュンのエンペルトと戦った時に彼の成長具合はよくわかったつもりでいたけど、この様子だと他のポケモンたちもかなり強くなっているのだろう。本当に頼もしい。

 

 けど、だから勝てるかと言われると伝説は甘くない。

 

「グ……ルゥ……」

 

 やはりくろのいななきによる火力上昇はすさまじく、一瞬だけ拮抗しているように見えたこの闘いの天秤はすぐにレイスポス側へと傾いて行く。それでも諦めないギャロップだけど、ここに来てぶつかり合っている技が遠距離技であることと近距離技であることが影響してくる。

 

「レイスポス!!」

「バクロォース!!」

 

 ギャロップがシャドーボールの嵐に苦戦している中、まだ身体の自由があるバドレックスたちが、いよいよ勝負を決めるべくアストラルビットを構えていく。

 

「ギャロップ!!」

「グ……ル……ッ!!」

 

 さすがにこの状況からあれを受け止められる力なんて当然ないので、慌ててジュンが声をかけるものの、シャドーボールの嵐が強すぎて動けない。

 

 

「『アストラルビット』!!」

 

 そんなギャロップに向けて、必殺の一撃が今放たれる。

 

「フリア!!行け!!」

「エルレイド!!」

「エルッ!!」

「ヌッ!?」

 

 レイスポスの周りから放たれる漆黒の弾丸。それらがジュンに向けて放たれると同時に、ジュンから合図を貰ったボクはエルレイドに指示。すると、フレアドライブの炎をギャロップから受け取ったエルレイドが炎を纏いながら、爆風からバドレックスたちへ向けて一直線に飛び出した。その際に飛んでくるアストラルビットとは、身体をひねることで紙一重ですれ違っていく。すれ違ったアストラルビットはそのままギャロップに直撃。激しい爆風と共に、その中心でギャロップがその身体をゆっくりと地面に落とす。けど、この時生まれた爆風が、まるでギャロップからの最後の後押しのようにエルレイドの背中を押し、エルレイドの速度がさらに上がる。

 

「レイスポス!!」

 

 爆風を受けてさらに高速で飛んでくるエルレイドに対して慌ててレイスポスに声をかけるものの、アストラルビットを打ったばかりのせいで回避が間に合わない。

 

「エルレイド!『つじぎり』!!」

 

 そんなレイスポスとバドレックスに向けて、エルレイドの黒色に染まった両腕の刃がすれ違いざまに叩き込まれる。

 

「ムゥッ!?」

「ク……ロ……ッ」

 

 自身にも、そしてレイスポスにもこうかばつぐんであるあくタイプの刃を貰ってしまった彼らは、エルレイドが通り過ぎて、刃を軽く振り払うと同時に膝をつく。それでもレイスポスが主を守るために少し身体を逸らしていたためか、上に乗っているバドレックスに対してはダメージが僅かに少なく、レイスポスは倒れてもバドレックスだけはまだ戦える状態だった。

 

「ギャロップ、レイスポス、戦闘不能だ」

 

 ピオニーさんの声を聞き届けながら、満身創痍なバドレックスとエルレイドがゆっくりと向かい合う。

 

「……ここまで追い詰められるか。見事である」

「みんなに託されてるからね。……気づけば、熱くなっちゃった」

 

 レイスポスを撫でながら、少し覚束無い足でこちらを見据えてくるバドレックス。エルレイドも、腕を振り抜いた状態から元に戻る動作を取るだけで凄く苦しそうな表情を浮かべている。

 

 もうお互い、あと1回の攻撃が限界だろう。それがわかっている故に、両者右腕のみに力を注いでいく。

 

「……ゆくぞ」

「エルレイド……頑張って……!!」

「エル……ッ!!」

 

 バドレックスの右手には緑色のエネルギーが。エルレイドの右腕には黒色のエネルギーが集まっていく。それぞれ、エナジーボールとつじぎりという、現状相手に1番火力の出る技を構えた両者は、力を貯めながらじっと見つめ合う。

 

 一瞬の静寂。その時間は、どこからともなく聞こえた何かしらのポケモンの鳴き声とともに打ち破られる。

 

『チル〜』

「「ッ!!」」

 

 声が聞こえると同時に前に走り出すバドレックスとエルレイド。エルレイドは近距離技だから走るのは当たり前だけど、バドレックスももうあと1発しか打てないことを理解しているから、確実に技を当てるために放つことをせずに、右手を直接ぶつけるつもりらしい。本当はエルレイドにも避ける力が残っていないからありがたい。

 

「カムゥッ!!」

「エルッ!!」

 

 今までのレイスポスとギャロップのバトルを見ていたら決して速いとは言えないその速度は、しかし両者の気迫と、最後の一撃ということもあって一瞬たりとも目が離せない。そんな極限状態の中、気づけば両者とも攻撃が届く範囲に足を踏み入れる。

 

「いけ……エルレイド……ッ!!」

 

 ボクの思わずでた小さな言葉。だけど、この言葉をしっかりと聞き取ったエルレイドは、小さく頷きながら右腕を振るう。バドレックスも同じく、右手を伸ばし、エルレイドに渾身の一撃を叩き込もうとしてくる。

 

 そんな両者の攻撃がぶつかり合い、再び視界が衝撃と爆風に覆われて、確認が出来なくなってしまう。

 

 

「エルーーッ!!」

「カムーーゥ!!」

 

 

 目を強制的に瞑らされた真っ暗な視界の中、ボクの耳には2人の最後の叫び声だけが聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カンムリ神殿で行われた激しく長いバトルを終えたボクは、綺麗に澄み渡る空を眺めながら余韻に浸っていた。

 

 お互いの意地と意地がぶつかり合ったあのバトルは、途中からはバドレックスの言うボクたちの修行時間の埋め合わせという目的を忘れたものになっていた。それだけ白熱したバトルは時間を忘れるほど楽しかったし、それが終わった今は逆にその反動が押し寄せてきたみたいに緊張が解け、軽い放心状態となっていた。

 

「ほんと……凄かったなぁ……」

 

 今思い出しただけでも実感がわかないくらいには衝撃的で刺激的な戦いだった。

 

「ム……ムゥ……」

「あ……気づいた……?」

 

 そんなバトルを思い返していると、ボクの膝元から声が聞こえてくる。そちらに視線を向けると、ようやく意識を取り戻したバドレックスがゆっくりと目を開けていく。

 

「ムゥ……ヨは……一体……」

「おはよ、バドレックス。身体は大丈夫?」

「フリアか……うむ、身体の節々が少し痛いが……動くのに問題はないのである」

 

 ボクの膝から頭を上げたバドレックスは、身体の調子を確かめるように起き上がりながら周りの様子を確認する。

 

「クロォース!」

「シロォース!」

 

 そんな彼のすぐ近くには、バドレックスが起きたのを確認したレイスポスとブリザポスが駆け寄る。主の起床に少なくない安堵を感じているようだ。

 

「オヌシら……そうか……その様子だと、ヨは負けてしまったのだな……」

 

 その様子にほんの一瞬嬉しそうな顔を浮かべるもののその表情をすぐ曇らせる。自身の負けを悟り、少し悔しいという思いがあるのだろう。けど、ボクはその言葉を否定する。

 

「いや、引き分けだよ」

「引き分け……?」

 

 自身の身体の様子から勘違いをしてしまったバドレックスに対して、最後の状況をバドレックスに伝える。

 

 あの後、お互いの技をぶつけ合ったエルレイドとバドレックスは、相手に攻撃を当てることだけを考えていたためお互いの技をお互いの身体に貰ってしまっていたみたいで、視界が戻ったところでボクの視線に入ったのは、重なるようにして倒れていた両者だった。そんな両者を確認して、2人の戦闘不能を宣言したピオニーさんによって、今回のバトルは幕を閉じた。

 

「成程……そのような……」

「ありがとね、バドレックス」

「ム?」

 

 ボクの説明に納得するような声を漏らしたバドレックスに対して、その言葉を遮ってお礼を言う。そのことに疑問を持ったバドレックスが首を傾げたので、ボクは言葉を続けた。

 

「バドレックスとのバトル、気づけば熱くなって全部忘れて戦ってた。本当に楽しくて、刺激的で……貴重な体験だった。だから……ありがとう」

「フリア……」

 

 ボクの言葉に少し目を見開くバドレックス。そんなにボクの言葉が意外だったのかな?

 

「礼を言うのはヨの方である。オヌシたちが頑張ってくれたからこそ、今日ヨはオヌシたちとこの戦いを演じることが出来たのだ。……感謝する」

 

「……ふふ」

「……ムムゥ」

 

 バドレックスの言葉が終わると同時に、ボクとバドレックスの笑い声が重なる。この時間が少し心地いい。

 

「……そういえば、他の者は何処に?」

「神殿の入り口でみんなの治療をして、帰る準備を整えてるよ」

「そうであるか……そういえば、もういい時間であるな」

 

 空を見れば、茜色に染まった景色が目に映る。

 

「大丈夫だよ。また会いに来るから。……なんなら今日は一緒に村に帰る?」

「……それもよいな」

「じゃあ、一緒に帰ろ!!バドレックス!!」

 

 さみしそうな表情を浮かべていたバドレックスを誘うために右手を差し伸べようとして、そういえばバドレックスが手のひらが苦手なことを思い出して、開きかけた拳をぐっと握ってバドレックスに突き出した。

 

「……ヨをこうも親しく誘うのは、オヌシらくらいなのであろうな。まったく、よき人の子たちである」

 

「何か言った?」

「いや、何でもないのである。村への帰還、ヨも一緒にさせてもらおう」

 

 赤い光が降り注ぐ神殿。その中心で、ボクはそっとバドレックスと拳を突き合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決着

ということでようやく決着ですね。想像より長くなってしまいました……書きたいことが多すぎます。決着の仕方としては、どこかウーラオス戦に近しいものがりますね。そして最後はやはりグータッチ。バドレックスさん、手のひら苦手ですからね……

膝枕

??「……いいなぁ」
??「頼めばよかと」
??「というか、前されてなかったかしら?」
??「……え?」




カンムリ雪原編も終わりが近づいてきましたね。あと一つ書きたいことがあるので、それを書いたらいよいよ……




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