【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

198 / 374
1回戦 第1試合
198話


 ユウリから謎の約束をお願いされたボク。その瞬間は、ユウリの覚悟と、彼女の目と思いから伝わる熱にあてられて少しだけ身体が動かなかったけど、程なくして動けるようになり、そして自分でも驚くくらい身体が落ち着きと眠気に襲われていたので、すぐにベッドへと身体を沈みこませていた。

 

 確かに、やけに緊張する瞬間ではあったけど、思いのほか落ち着いて寝られたことから、ボクの心が本能的に、『この約束は緊張しなくても大丈夫だ』と理解しているということなのだろうか?それとも……期待をしているのかもしれない。……いや、何に期待をしているのかは分からないんだけど……でも、とにかく、自分にとってはいい事なんだろうなと言う不思議な感覚があった。

 

「……うん。目覚めも大丈夫」

 

 ベッドから身体を出し、洗面台で顔を洗って鏡を確認。身だしなみを軽く整えて、自身の顔色がおかしくないことを見たボクは、頬を軽く叩く。

 

 ユウリとの約束は気になる。けど、今は優先するべきものがあり、そしてユウリ自身にも、『本気で戦おう』と言われた。

 

 そのお願いには、しっかり答えなくては。

 

「よし、じゃああとは軽く準備を済ませてっと……」

 

 服は着替えた。

 

 リュックは背負った。

 

 マフラーは巻いた。

 

 おこうのペンダントはつけた。

 

 そして、ホルダーに今日の戦いを共に駆け抜ける仲間も携えた。

 

「さ……行こっか」

 

 準備完了。それを確認したボクは、仲間にそう声をかけながらホテルの部屋を出ていく。その時、仲間たちがボクの声に反応するかのように、カタカタと揺れたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁさぁ皆様!!ついにこの時がやってまいりました!!ジムチャレンジを突破した実力者たちが一同に集う大会!!この大会の優勝者は、今年1年の顔として確かな注目が約束されていると同時に、この先の活躍次第では現チャンピオン、ダンデ選手への挑戦権も得ることが可能となります!!去年はこの大会から勝ち続け、チャンピオンへの挑戦権を手にした選手が現れましたが、今年はいったい━━』

 

「うんめぇ!!やっぱりこういう空気で食べる焼きそばって格別に美味いよな!!」

「気持ちはわかるけど、こういう場所の料理ってちょっと高いのよねぇ……あまり食べすぎて気持ち悪くなったり、お金無くなっても知らないわよ」

「平気だって」

「まぁ、さすがにそこまで馬鹿じゃないだろうからいいけど」

 

 街中に響き渡るアナウンスをBGMに、ガラル地方1の都市であるシュートシティを歩くわたしとジュン。遊園地や空港、観光地があり、常に人で溢れて賑わっているこの都市は、今日はさらにそれを超えて賑わっている。その理由はもちろん、今日から始まるトーナメントが理由だ。

 

 1年に1回開かれるガラル地方の祭典。ひいては、ガラルの地方の未来のポケモン界を担うかもしれない人物の最初の活躍の場……いや、なんならチャンピオン交代という歴史的瞬間を起こすかもしれないこの大会は、注目をするなというのが難しいほど。となれば、ここまでの盛り上がりようは、必然なのかもしれない。とは言え、さすがにこの盛り上がりには驚かざるを得ない。

 

「ほんと、凄い盛り上がりね……」

「あむ……んぐ、そうだよな。スズラン大会の時だって、無茶苦茶盛り上がっていたけど、ここまでじゃなかったもんな」

 

 わたしの口から漏れた感想に、焼きそばを豪快に食べながら賛成するジュン。こいつの言う通り、シンオウ地方の大会でもここまでの盛り上がりは見たことがない。わたしが出たポケモンコンテストの大会でも、ここまではいかないだろう。それほどまでの熱気を既に感じている。

 

「こんな大舞台で戦えるって……いいなぁ、オレも出てみたかったぜ……ジムチャレンジ」

「あんたはシロナさんについて行くのを自分で決めたんでしょ?なら文句言わないの。……でも、気持ちはちょっと分かるかもしれないわね」

 

 この盛り上がりにあてられると、わたしもみんなの前に出て活躍したいという欲が刺激されるのはよくわかる。わたしだって、パフォーマーとして、注目を浴びたいという気持ちはあるのだから、そんなわたしよりもずっと目立ちたがりなジュンにとっては、この大舞台はただただ自分のテンションをあげるそれにしか見えてこないだろう。

 

「もしかしたら、シロナさんに頼めば来年の推薦状は出して貰えるかもしれないわね」

「なるほど!そいつはいいな!!カンムリ雪原に戻ったら頼み込んでみるぜ!!」

 

 来年のこの大会に出られる方法を提示したら、さらにテンションをはね上げるジュン。喜んでくれるのは良かったけど、これから観戦するというのにこんなにはしゃいで体力は持つのだろうか。心配では無いけど、これでダウンされたらめんどくさいので、少しはペース配分を気にして欲しいところだ。

 

 ちなみに、今この場にはわたしとジュンしかいないのだけど、シロナさん、カトレアさん、コクランさんはこちらには来ていない。というのも、UB関連で国際警察から連絡があったり、考古学の件で新しく調べることがあったりと、何かとやることが増えて大変だということで、来ることができなくなってしまった。現地でみんなで応援したかったのだけに残念だ。それに伴って、わたしたちのポケモンも1部シロナさんに預けている。元々ガラル地方に居ないポケモンをここに連れてこられている理由は、あくまでも『元チャンピオンであるシロナさんの手持ち』という扱いだからだしね。今頃、向こうで何をしているのかしら。

 

「っと、いつまで食べてないで早く会場に行くわよ。時間はまだあるけど、この調子だと混雑でいつ入れるか分からなくなるわよ」

「おう!!もう食い終わったからいけるぜ!!ヒカリこそ遅れんなよ!!」

「誰のせいでこうなってると……ってもう先に行ってるし……全く……」

 

 時間を見てそろそろだと感じたわたしは、焼きそばを頬張るジュンに先を急ごうと促していると、気づけば焼きそばは食べ終わり、容器もゴミ箱に投げ捨てて走り出してしまっていた。このまま立ち止まってしまえば、程なくしてあいつの後ろ姿を見失うことだろう。

 

(……なんというか、フリアの気持ちが少しだけわかった気がするわ)

 

 どちらかと言うと振り回す側の人間の自覚はあったけど、わたし自身ジュンと2人きりになることがあまりなかったから、こうして振り回される側に回ってみるとその面倒くささがちょっとわかった。これを毎回されていると言うと、確かにため息がこぼれちゃいそうだ。

 

(……ま、フリアを振り回すのは辞めないんだけど)

 

 そのうえで、こういったことも最終的には笑って許し、着いてきてくれるフリアにはついつい甘えてしまう。みんなそれをわかっているからこそ、フリアに対してはあんな行動を取ってしまうのであろう。

 

「そう考えると、ユウリが惹かれるのもわかるわね〜……いや、ユウリが一番惹かれているところは別みたいだけど」

 

 料理もできて気遣いもよし。バトルも強くて甘えさせてくれて、その上で見た目が男の子とは思えないほど可愛い。

 

「……あれ、もしかしてフリアって超優良物件……?」

『おーいヒカリ〜!!まじに置いていくぞ〜!!早く来ないと罰金だかんな〜!!』

「……はぁ、それに比べてあいつは間違いなく事故物件ね……」

 

 フリアとユウリの事を考えていると聞こえてくるジュンの大声。何年経っても変わることの無いこの様子にもはや呆れを通り越して感心してしまう。まぁそれでも、この破天荒さに助けられていることも少なくないから、あいつを憎めないところではあるんだけど……

 

「やれやれ、本当に退屈しないメンバーよね。わたしが言えた義理じゃないんでしょうけど……ちょっとジュン!!チケット持ってるのわたしなんだから、あんたが先に行っても入れないでしょ!!」

 

 そんな昔からの腐れ縁なジュンを、なんだかんだと言い、あきれる顔はしながらも嫌な顔は浮かべずに追いかけるわたし。どうやらわたしたちのつながりは、それだけ強固なものになってしまっているらしい。

 

(さて、あいつがこの輪に戻ってくるのはいつになるかしらね~)

 

 そう思いながら、わたしは先に行ったジュンを追いかけるために足を動かして……

 

『━━━━』

「!?」

 

 遠くから、かすかに聞こえてきたような気がした声に反応して振り返る。

 

「今の声……」

 

 その声はわたしにとってはとても聞き覚えのある声で、何よりも当の本人をさっきまで思い浮かべていたため、必要以上にその声に関して敏感になっていた。今でも余裕で脳内再生可能なその声を、わたしが聞き間違えることなんてまずない。といいたいけど……

 

「いやまさか……だって、ここガラル地方よ?いるわけが……」

『ま、まってくれ!本当にチケット持ってるんだって!!あ、あれぇ?どどこに……ああもう!!なんだってんだよー!!』

「……はぁ」

 

 ガラル地方にいるはずのないその声の主について考えていると、遠くから聞こえてくるもう一つの利き馴染みのある声。こちらももちろん脳内再生余裕ではあるけど、こっちは既にもう聞きたくなくなり始めていた。人が悩んでいるうちにも止まることの知らないあいつは、次々と問題を呼び込んでくる。

 

(ほんと……退屈しない……)

 

「はぁ~い!すいませ~!!その人のチケットはわたしが持ってます~!!」

 

 このままではジュンがいろいろ迷惑を振りまいてしまうため、急いでジュンの行ったであろう方向へと駆けていく。

 

 その頃にはもう、わたしの耳に届いていたかすかな聞き覚えのある声のことについては、忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?なんかトラブル?……まぁ、委員の人が何とかするから、大丈夫か」

「これがガラル地方のシュートシティ……凄く大きい街です……」

「あはは、ですよね。本当に広くて、俺も初めて来たときには同じような反応をしましたよ」

 

 遠くから聞こえてきた、何か抗議するかのような声を無視して、俺は久しぶりに帰ってきた地元の祭り騒ぎに懐かしさを覚えていた。隣を見てみれば、ただでさえ大きく賑わっているシュートシティが、この祭り騒ぎで更に盛り上がっている様子に声を上げることしかできないミカンさんの姿があった。

 

 俺が妹のユウリの様子を見るために里帰りをする際に、ミカンさんも特に急ぎの用事がないという事だったので思い切って誘ってみたのだけど、この様子だと楽しんでくれているみたいなのでよかったよかった。

 

「わたしもジムリーダーの仕事でこういう盛り上がるバトルスタジアムに顔を出すことはあるのですが……ここまで大盛り上がりなのは初めてです……!!」

「やっぱり、他の地方から見てもこの様子は異端なんですね。むしろ俺は他の地方の静かさにびっくりしたくらいですよ」

 

 シンオウ地方で初めて挑んだジムリーダー戦……というか、シンオウ地方で行ってジムリーダー戦はどれも観客がいなかった。観客の声援によって空気が出来上がり、その空気にあてられて更にパフォーマンスを上げていく俺たちガラル地方のトレーナーにとって、その静かなフィールドでのバトルというのは逆に新鮮だった。勿論、観客のいないバトルをしたことがないわけじゃない。スパイクタウンなんて中継すらないから、いよいよもって現地の人だけだし。けど、やっぱり経験が一番多いのは観客が沢山いるスタジアムでのバトルだ。だから、俺としてはやはりこれくらい盛り上がっている方が闘いやすい。

 

「さて、それじゃあ中に入りましょう。ユウリのバトルは第4試合みたいなのでまだまだ時間はあるけど、どうせなら他の人の試合も見たいですからね」

「特に第1試合は一番の注目株ですからね……」

「ですです。俺も、ユウリの試合に次いで気になっているので。それに……」

 

 俺とミカンさんで気になる試合を上げていきながら、最後はとある方向に視線を向ける。

 

 その先には、もう1人の同行者がいた。

 

 その人物は、光の伴っていない、空っぽの瞳で、しかし何かにすがるような、寂しそうな雰囲気をだしながらシュートスタジアムを見つめていた。

 

「フリア……」

 

 そんな彼から、もう何度目かわからない、今回のトーナメントの一番の注目選手の名前が紡がれていた。

 

 この人と、フリア選手の間に、どんな関係性があるのか。

 

 里帰りのついでに、ミカンさんと一緒に彼、コウキさんを連れてきた俺は、そのことがどうしようもなく気になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?今の気配……?」

「ん?どうかしたのか?フリア」

「あ、ううん。何でもないよ」

 

 ふと、どこか懐かしい空気を感じたけど、ホップに声をかけられたことでその気配もすぐになくなったので、気のせいということにして視線をホップたちに向ける。

 

 シュートシティはシュートスタジアム。いよいよ大会を目前に控えたボクは、ホップたちとスタジアム内の控室に入っていた。とはいっても、こちらの控室に全員いるわけではない。今この控室にいるのは、ボク、セイボリーさん、ホップ、ユウリの4人だ。残りの4人は、反対側の控室に待機している状態で、今は今大会の実況と解説を担当する人が、この試合でのルール説明を諸注意を行っている状態なので、あと数時間もすれば、それぞれの控室から戦う選手が1人ずつ入場する手はずになっている。

 

 あと少しで、負けることの許されない大会が始まる。そのことを意識すると、少しずつ自分の心音がうるさくなっていくのを感じる。それはここにいる全員が同じようで、いつもは集まればすぐに談笑するメンバーが集まっているのに、控室内の空気は少し重い。けど、この重さは緊張に寄るものであって、悪い意味で重いわけではない。

 

「いよいよ始まるね……」

「うん。……ユウリは緊張してる?」

「勿論。今も心臓バクバクだよ。私の試合、まだまだ先なのにね。ホップとセイボリーさんもでしょ?」

「ああ!無茶苦茶緊張しているぞ!!まぁ、それ以上にワクワクもしてるけどな!!」

「ワ、ワタクシは一切緊張してませんが!?!?ええ!!ぜんッぜん緊張してませんが!?!?」

「……セイボリーさん、膝が笑ってるぞ」

 

 これから始まる大会に、緊張はすれど、怯えている人はいない。ホップに指摘されているセイボリーさんでさえ、膝は少し震えているけど、どちらかというと武者震いの意味の方が強く、傍から見ても意志はしっかりとしているように見える。

 

 一応緊張とは別に、昨日ホテルの部屋であった一幕から、ユウリとのあれこれで変な空気になるかもしれないというのはあったけど、それに関しても特に問題はなかった。今日控室に入って、最初に顔を合わせたのがユウリだったんだけど、その時に交わした挨拶はいつも通りのそれで、昨日のことはまるでなかったことのようにふるまってきたので、こちらも同じテンションで接することが出来た。

 

 今はちゃんと大会に集中したいという事なのだろう。なら、ボクもそれに従うだけだ。

 

(どっちにしろ、ボクとユウリがぶつかって、そのうえで納得して、ようやく大会後に分かるわけだからね)

 

 そこに到達する前に負けてしまえば意味がない。だから、なおさら今は前を見るべきだ。

 

「すぅ……ふぅ……」

 

 胸に手を当て、深呼吸をひとつ。

 

(もう少し……もう少しで始まる……!!)

 

 外からかすかに聞こえてくる、実況の人の説明が佳境に入ったのを感じる。ともすれば、ボクが呼ばれるのも時間の問題だろう。

 

「フリア……」

「ん」

 

 深呼吸を終えると同時に、背中からユウリの声が聞こえてくる。その声に従って振り向くと、そこには昨日ホテルで別れる前と同じ、全てを飲み込まんとする真っ直ぐとした瞳を持って、こちらを見つめるユウリの姿があった。

 

 けど、昨日と唯一違うのは、その瞳から感じるものが魅力ではなく温かさに変わっていることだった。

 

「……昨日の約束、覚えてる?」

「勿論」

 

 ユウリからの問いに即答するボクは、ユウリと同じように視線をそらさない。そんなボクの姿がどこかおかしかったのか、少し頬を崩しながら言葉を返してくる。

 

「約束、ああは言ったけど、多分私の方が破る可能性が高いからさ……それでも、頑張って追いつくから……だから、先に行って、待っててくれる?」

「……うん。わかった。……でも、それはむしろボクの方かも?」

「え?」

『フリア選手!!準備をお願いします!!』

「あ、はい!!」

 

 ユウリが疑問の声をあげると同時に、リーグスタッフの人から声をかけられる。もう1回戦を始める準備が出来たということだろう。その声に従って、ボクはバトルコートへ足を進めながら、ユウリに言葉の続きを伝える。

 

「今のユウリ、凄く輝いて見える。まだ戦ってないのに、君の成長を凄く感じる。きっと今の君は、物凄く強い。だから、自信を持って!そんでもって……君の成長に、ボクも全力で返すから……だから……!!」

 

 決勝で。

 

 その言葉を飲み込んで、けどこの意味をしっかりと受けとったユウリは深く頷いて。

 

「頑張ってね!!」

 

 ユウリの言葉を受けて、ボクは改めて前を向く。

 

「ユウリとフリアがどんな約束をしたかはわかんないけど、オレも応援するぞ!!」

「ワタクシからも、次に戦うかもしれない相手に言うのもおかしな話ですが……ご武運を」

 

 背中にホップとセイボリーさんの声を受けながら、足を進める。

 

「……行ってくる!!」

 

 3人からの声援にボクは振り向かずに、右手をあげ、声を返して、前に進む。

 

(これで9回目……)

 

 歩き出したボクの前に広がるのは、バトルコートへと続く暗い道。

 

 スタジアムのなかったスパイクタウンを除いて、既に8回経験しているこの行動は、しかし今まで以上に通路から聞こえてくる声援の大きさのせいで過去の経験を吹き飛ばしてしまうほど。けど、そんな状況にも臆さずに足を進める。

 

 

『では選手に入場していただきましょう!!まずはフリア選手!!』

『『『『わあああああああああ!!!!』』』』

 

 

 暗い道を超え、バトルコートに足をつけた瞬間、ボクを紹介する声をかき消す勢いで聞こえてくる爆音。

 

 いつものボクなら、この音にびっくりして変な声をあげていたけど、今は不思議と何も驚かなかった。

 

 落ち着いて。一歩、また一歩と、バトルコートの中心へ。

 

 

『続いて入場するのは!マクワ選手!!』

『『『『わあああああああああ!!!!』』』』

 

 

 そんなボクの向かい側から、もう一人のトレーナーが歩いてくる。

 

「……マクワさん」

 

 先に中心に辿り着いたボクは、その場にて、あとから入場してきたマクワさんをじっと待つ。

 

 実況の掛け声とともに盛り上がっていくバトルコート。けど、そんな周りの音が聞こえなくなるくらい、ボクはマクワさんに視線を奪われている。

 

「……ようやく、戦えますね」

 

 ゆっくり入場してきたマクワさんは、コートの中心に立つと同時にこちらに向き直り、自慢のサングラスを指で押しあげながら呟いた。

 

「キルクスタウンでの約束、ようやく果たせそうです」

「ええ、本当に……とても長かったです。最も、欲張りを言うのであれば、あなたとは決勝でぶつかりたかったですがね。因縁的にも……実力的にも……まぁ、おそらく、誰しもがあなたに対してそう思っているでしょうが。流石の注目株、期待されてますね」

「相変わらず、周りからの持ち上げに混乱しちゃいそうですけど……」

 

 そこまで言葉を零しかけて、ユウリに言われた言葉を思い出す。

 

『もしこのまま勝ち進めたら』

 

 ユウリはボクが勝ちあがることを確信している。

 

 周りの人も、注目株として持ち上げている以上、予想をつけられている。

 

 そして、こう発言する以上、マクワさんも。

 

「……ううん」

 

 ここでいつも通りの謙遜を入れてしまえば、それは一種の逃げだ。こんなところまできて、そんな及び腰で彼の前に辿り着くなんて、出来るわけない。

 

(もう、逃げない!!)

 

「期待されている。求められている。そして、約束している……だから」

 

 深く息を吸い、マクワさんに向かってはっきりと告げる。

 

「その期待通り、勝たせてもらいます。マクワさん!!」

 

 ボクの言葉に、一瞬だけ目を見開くマクワさんは、しかしすぐに表情を戻して、そのうえでニヤリと笑いながら、言葉を返してくる。

 

「まさか、そんな挑発をしてくるとは……」

 

 

『では両者!!準備をお願いします!!』

 

 

 実況の人の声に言われた通り、ボクとマクワさんが背を向け合い、ゆっくり離れる。

 

 そして、お互いが定位置に着いたと同時に振り返る。

 

 その時のマクワさんの表情は、さっきと変わらないにやけ顔を浮かべており、同時にさっきの言葉の続きを高らかに叫びだす。

 

 

「燃えてきた……っ!僕の信念のためにも、今ここで!アップセットを起こしてやりますよ!!」

「させない!!ボクだって!!こんなところで立ち止まれないから!!前に進むために、期待を越えて勝つ!!」

 

 

ポケモントレーナーの マクワが

勝負を しかけてきた!

 

 

「お願い!モスノウ!!」

「頼みますよ!!ツボツボ!!」

 

 ガラルリーグトーナメント。一回戦は第一試合。

 

 その火蓋が今。切って落とされる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




観客

ニアミスしてますね。登場人物が少しずつ、集まってきています。こういうところも、終盤感がありますよね。

ガラルリーグトーナメント

いよいよ開幕。誰が勝ち、誰が進むのか。お楽しみくださいませ。




ここからはフルバトルまみれです。引き出し、足りるかな……?




  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。