【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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215話

「ゾロアーク!!『ナイトバースト』!!」

「ゾロッ!!」

 

 ゾロアークから放たれる渾身の黒い波動。自身が今放てる最高火力は空気を揺るがし、見るものの動きを一瞬止めてしまうほどの威力と迫力を内包していた。

 

 ゾロアークの調子はすこぶる良い。むしろ最高クラスと言ってもいい。しかし、そんな頼れるパートナーから放たれた渾身の一撃は虹色にうっすら光る透明な壁と、ふくよかに丸まった柔らかいお腹にてあっさりと弾かれてしまう。

 

「カビゴン!!『じしん』だぁ!!」

「カ~……ビ……」

 

 こちらの攻撃に対してビクともしないカビゴンは、そのままゆっくりと右腕を持ち上げて地面へと叩きつける。

 

「ゾロアーク!!跳んで避けると!!」

 

 動きはまるでスローモーションなのではないかと思うほどゆっくりで、本当にじしんをすることが出来るのか怪しい速度。しかし先程この技に一撃でズルズキンを持っていかれたあたしにとって、このスローモーションはまるで走馬灯を見せる時間を与えてくる死神の執行猶予のように感じてしまう。当然こんな技を真正面から受けてしまえば、あたしのポケモンは誰も耐えることが出来ない。本来なら宙に浮いているポケモンで対処するのが一番なのだろうけど、残念ながらあたしにそういったポケモンはいない。だから頑張ってタイミングよくジャンプして、何とかやり過ごす必要があるのだけど……

 

「ゾロ……ッ!?」

「……これ、どうやって避ければよかと……」

 

 どれだけ高く跳んで避けてもカビゴン自身の力がありすぎて、ゾロアークが跳んで着地した上でまだじしんが終わらない。勿論、普通に直撃を貰うってしまうよりかは幾分かダメージを抑えることには成功している。

 

「ゾ……ロ……ッ!!」

「ゾロアーク……っ」

 

 しかし、そのうえでゾロアークの体力をほとんど削りきられてしまっている。これではひかりのかべの時間耐えて、そこから少しでもダメージを蓄積させて次へ繋ぐということすらも難しい。

 

(ゾロアークでは突破は無理と。せめて最初に『わるだくみ』をしておけばまだ何とかなったかも知れんけど……ううん、たとえ出来てたとしても勝てなさそう……)

 

 ひかりのかべは確かにダメージを抑えることはできるけど0にする訳じゃない。半減にされるだけでダメージはちゃんと通る。けど、カビゴンの耐久力が高すぎて1回わるだくみをした程度ではカビゴンは倒せない。そうなれば当然返しのじしんで即敗北だ。

 

(かと言ってここで交代しても、控えのポケモンも誰も受けられなかと……)

 

 じゃあカビゴンに有利なポケモンを出すかと聞かれたら、これこそNO。あたしの手持ちの中で一番の守備を誇るズルズキンが一撃でやられてしまっている以上、たとえオーロンゲでダイマックス権を切ったとしても、おそらく耐えることは出来ない。そうなってしまえば、無意味にカビゴンにポケモンを1人倒されるだけになってしまう。

 

(倒すまでの贅沢は言わない。せめて、少しでも多くカビゴンの体力を削って、あの子がかろうじて勝つことが出来る体力までは減らさないと……!!)

 

 ここまで来たらゾロアークは倒され、次のポケモンもかなり削られることを覚悟した上で動かないといけない。

 

(せめてあと1回はカビゴンの攻撃を避けて、その間にゾロアークの攻撃を3、4回は叩き込みたか……)

 

「カビゴン!!もう1発行くぞ!!」

「カ~ビ……」

「ッ!?」

 

 頭の中を思考で埋めていると、とうとうカビゴンの腕がまた動き始める。

 

 あれが地面に叩きつけられる前に、明確な対処法を思いつかないとゾロアークは確実にやられてしまう。

 

(何か……何か方法は……)

 

 あちこちに視線を動かして何とか避ける方法を模索するあたしだけど、じしんの攻撃範囲が広すぎて逃げ場所がどこにも存在しない。フリアがよくする、いわなだれによる障害物の作成みたいなこともされていないこのフィールドは、現状まっさらな状態だから何かを利用するという工夫すら許してくれない。

 

 カビゴンの拳が地面に当たるまであと数秒。のろいのせいで遅いその拳は、しかし着実にゾロアークの終わりの時間を刻んでいく。

 

(この『じしん』を避けられる明確な方法……っ!!)

 

 そんな刹那の時間もひたすら思考を回し続ける。

 

 だってまだ、諦めたくないから。

 

(……あ、あった)

 

 そうやって諦めずに考えた結果なのか、あたしの中にこの場に対する答えが浮かぶ。

 

(これなら……避けられると!!)

 

「ゾロアーク!!前に走って!!」

「ゾロッ!!」

 

 ゾロアークにとっては突如聞こえたあたしからの指示に、痛む身体を声を発することで無理やり押さえ込みながらカビゴンに向かって走り出す。

 

「せめての悪あがきか?悪いけど、そどんな攻撃をしてもカビゴンは止まらないぞ!!」

 

 ホップはその様子を見ながら否定の言葉を投げかけてくる。確かに、今のゾロアークは相手をひるませる技は覚えていない。わるだくみもしていないため火力は足りないし、そもそもあたしのプレイスタイルは火力で押していくそれでは無いため、今回のように力でゴリ押しされると大抵不利に落とされる。

 

 いまのあたしにこのじしんを止める術は無いし、かと言ってジャンプで避けようとすれば先程の二の舞になってお終いだ。ひかりのかべとのろいの防御によってこちらの攻撃では止まらず、相手の火力と持続の長さで逃げてもそのうえで狩られてしまう。

 

 けど、良く考えれば1箇所だけ、明確に技の影響を受けず、時間いっぱい逃げられる場所があった。

 

 その場所に向かうため、あたしはカビゴンに近づいたゾロアークにその場所を伝える。

 

「ゾロアーク!!カビゴンの()()()()乗ると!!」

「ゾロッ!!」

「はぁ!?」

「カビ……?」

 

 あたしの指示を聞いたゾロアークは、素早く飛び上がってカビゴンの頭の上に立つ。この行動にはさすがのホップも驚いたみたいで、凄く大きな声でその感情を表していた。

 

 じしんという技は、本来の自然現象のじしんのように地面の奥から揺れている訳では無い。技の使用者の位置を起点に、そこから周囲にじめんタイプのエネルギーを送って地面を揺らすことによって、じしんに限りなく近い現象を起こして攻撃してくる技だ。

 

 だから、自然のじしんと違って、明確な安全ポイントというのが存在する。

 

「その安全ポイントこそが、術者と同じ場所!!じしんを行っているポケモンを中心にして、そこから周りに攻撃を発しているのなら、今のカビゴンは言わば台風の目と!!そこに行けば、攻撃は避けられると!!」

 

 もちろんそんな簡単な話では無い。警戒されたら頭に乗るなんてことはさせてくれないだろうし、そもそもこれは相手のポケモンの図体が大きくないと無理だ。

 

 けど、今回はその全てを満たしてくれている。

 

 急な行動に加えて、のろいで遅くなっているカビゴンにはこの行動を止める術がなく、カビゴンの身体の大きさなら十分上に乗れる。結果、あたしの狙い通りじしんをやり過ごすことが出来た。

 

 そして今、カビゴンと0距離の位置という最高のポジションも手に入った。絶好の攻撃チャンス。

 

「『ナイトバースト』!!」

「ゾロッ!!」

「カビッ!?」

 

 両手に貯めた黒色の波動をカビゴンに叩きつけるゾロアーク。ひかりのかべが特殊技を防ぐことが出来るとはいえ、ここまで距離を詰めればさすがに小さくないダメージが入るはずだ。事実、カビゴンからは少しだけ苦悶の声と表情が見て取れた。着実にダメージは刻まれている。

 

「カビゴン!!気合いだぞ!!打ち上げろ!!」

 

 しかし、これだけ攻撃を受けてもカビゴンは倒れない。ナイトバースを受けて少しバランスを崩すカビゴンだけど、ホップの声を聞いた瞬間表情が変わり、上に乗っていたゾロアークを気合いで空中におしのけた。これでゾロアークの動きが縛られた。

 

「まだと!!『ナイトバースト』!!」

 

 次に地面に足を着いた時が恐らくゾロアークの最後の時だ。それまでにちょっとでも多くの体力を削るためにも、両手に溜めた黒色の波動をとにかく飛ばしまくるゾロアーク。これで次にじしんを打たれるまでに、かなりの攻撃を当てることが出来るはずだ。

 

「面食らったけど、こっちだってやられっぱなしじゃないぞ!!せっかくとった有利展開……逃すもんか!!カビゴン!!ジャンプだ!!」

「カ~ビッ!!」

「と、跳んだ!?」

 

 しかし、こちらが動けば当然あちらも動く。のろいで横への動きが弱いのなら、ジャンプで高く跳べばいい。理屈では分かる……いや、全然わからないけど、とにかくのろいで上がった攻撃力を足に乗せ、力いっぱいその場でジャンプをするカビゴン。その高さは、カビゴンの巨体からでは想像できないほど高く、打ち上げられたはずのゾロアークよりもさらに高く跳んでいた。その行動に思わず目が点になりかけるけど、空中に行ってくれたのならむしろこちらとしては攻撃のチャンスだ。自分から身動きの取れない場所に動いてくれたカビゴンに向かって、再び攻撃を仕掛ける。

 

「自分から空中に行ってくれるのなら都合よかと!!ゾロアーク!!もっともっと『ナイトバースト』!!」

「ゾロッ!!」

 

 これだけ身体が大きいポケモンが空中に行けば、こちらにとってはただの的だ。そんなカビゴンに向かって、ゾロアークは次々と黒い波動を放っていく。頭の上に乗った時と違って距離が離れているから、ひかりのかべの防御も相まってかなりダメージは下がるけど、それでも全く攻撃しないよりはましなはずだ。

 

(とりあえず、これでカビゴンが『じしん』を放つまでの時間はまた稼げた。この間にもっとダメージを━━)

 

「カビゴン!!一気にぶち抜くぞ!!『ヘビーボンバー』だッ!!」

「カビッ!!」

「なっ!?」

 

 ここからまたダメージを積み重ねようとしていると、カビゴンが別の技を構え始める。

 

(って、あたしはなんで『じしん』を打たれることしか想定してなかったと!!メロンさんのヒヒダルマみたいに、技の制限がかかる状況でもないんだから、『じしん』が使えないなら他の技を使うのは当たり前と!!)

 

 相手のじしんの火力が凄すぎだったのと、じめんタイプの技があたしのパーティによく通るから、頭の中で無意識に、「相手は『じしん』しかしてこない」と思い込んでしまっていた。これは完全にあたしのミスだ。

 

(何よりも、絶対ホップはそんなこと狙ってないだろうからそこが一番ムカつくと!!)

 

 言ってしまえばあたしの自爆なんだけど、なんかその事実が物凄く嫌だ。

 

「って、そんなことは今はよかと!!ゾロアーク!!」

「ゾ、ゾロッ!!」

 

 そんなちょっと変なプライドが刺激されているところに思考を奪われていたところを、無理やり頭を振って追い出してまた前を見る。ゾロアークの目前には、自身の身体を目一杯広げ、ゾロアークに向けて加速し、落下していくカビゴンの姿。

 

 ヘビーボンバー。自身の体重を使ったその一撃は、お互いの体重差によってその威力が変わる。カビゴンの体重がおよそ460kgなのに対し、ゾロアークの体重は大体80kg強。その差は実に5倍。ここまで差があると、とんでもない威力になってしまうだろう。そんな技を喰らえば当然体力の少ないゾロアークは倒される。だからこの技を止めるべく、自分の上にいるカビゴンに向かって何度もナイトバーストを放っていく。

 

「そんなものじゃ、オレのカビゴンは止まらないぞ!!」

「カ~ビッ!!」

 

 しかし、重力を味方につけたカビゴンは、自慢の大きなおなかで攻撃を弾きながら、はがねタイプのエネルギーを纏って落ちて来る。その質量と威力の前ではゾロアークの攻撃は何も通らない。かといって、ゾロアークには空中を移動する手段はないから、技を避けることもできない。

 

「ゾロ……ッ!!」

 

 何もできないゾロアークは、それでも最後まであきらめずにカビゴンに向かってナイトバーストを放つが、2人の距離は徐々に縮まっていく。そして2人の距離が0になったと同時に、2人の場所は空中から地上へと落ちていった。

 

「ッ!?……ゾロアーク!!」

 

 地面に落ちると同時に響く轟音と衝撃。落下した2人を隠すように舞い上がった土煙は程なくして晴れ、その中心にうつぶせに寝るカビゴンと、その下敷きになって目を回しているゾロアークの姿が目に入った。

 

 

「ゾロアーク、戦闘不能!!」

 

 

「……お疲れ様、ゾロアーク」

 

 カビゴンにつぶされて倒れたゾロアークにリターンレーザーを当てて戻す。これであたしの残りは3人。カビゴン1人に2人持っていかれた計算になる。

 

 そして、多分あたしがこのカビゴンに勝つには、あと1人の犠牲が必要になる。

 

(正確には犠牲までは必要ないんだけど……今のカビゴンの体力、ゾロアークのおかげでかなり削れているけど、倒し切るとなるとかなりの火力が必要……だから、あなたにはつらい役を演じてもらうけど……信じてると……!!)

 

「頑張って……ドクロッグ!!」

「クク……ッ!!」

 

 あたしの4人目、ドクロッグ。もうゾロアークが倒れてしまった以上、イリュージョン目的の名前隠しもしなくていい。だからあたしは、ドクロッグのやる気を引き上げるために、彼の名前をしっかりと呼んで背中を押す。

 

「次はドクロッグか……そいつもすぐに倒してやるぞ!」

「……」

 

 どくタイプを持つドクロッグはゾロアーク以上にじしんに弱い。当然一撃でも貰えば致命傷。運がよくないと耐えることすらできないだろう。

 

 けど、おそらくあたしの手持ちで唯一カビゴンを止められる可能性を持つのもこの子だけだ。

 

(なんとしてでも倒すと!!)

 

 頬を軽く叩き気合を入れる。カビゴンがじしんを放つその瞬間が一番大事だ。

 

「ドクロッグ!!前!!」

「ククッ!!」

 

 喉を鳴らしながら前に走るドクロッグ。その姿を見たホップは、まずカビゴンの頭の上に乗られないように注意を払う。

 

「カビゴン!!もう乗られたらダメだぞ!!注意しながら『じしん』で確実に仕留めるんだ!!」

「カ~ビッ!!」

 

 ホップの指示を受けたカビゴンは、再びゆっくりと、しかし全力をもって拳を握り、ドクロッグの動向を注視しながら地面にたたきつける準備をする。もし今カビゴンの頭に乗ろうとしたら、おそらくじしんのために構えている拳を直接ぶつけてくる算段だろう。

 

(そこがチャンス!!)

 

「ドクロッグ!!上!!」

「クククッ!!」

「やっぱり来たか!!同じ作戦は2度は通じないないぞ!!カビゴン!!」

「カビ……ッ!!」

 

 再び頭の上を狙って飛ぶドクロッグに対して、拳を振り上げてカウンターを狙うカビゴン。この一撃は勿論強力な威力を誇り、ドクロッグの耐久なら十分倒す火力を秘めているだろう。けど、これは本来のじしんの使い方ではないから、じしんを直接喰らうよりかはダメージは低いはずだ。

 

(合わせるなら……ここしかない!!)

 

「ドクロッグ!!『イカサマ』!!」

「ククッ!!」

「っ!?カビゴン!!」

「カビッ!!」

 

 相手の攻撃力を利用してこちらの攻撃とするイカサマ。攻撃が育ちきっているカビゴンの攻撃をもれなく完全にコピーしたドクロッグの拳は、じしんのために握られた拳とぶつかり合い、空気が痺れるような音を響かせる。

 

 イカサマによって攻撃を真似たことと、相手のじしんが本来の使い方でないことが合わさって、何とかお互い痛み分けに持っていくことに成功する。しかし、同じ痛み分けでも貰うダメージはやはりこちらが大きい。相手は防御も育てている分、どうしても受けるダメージに差が出てきてしまう。実際、叩き合わされた拳が弾かれた時、明らかに表情を歪めているのはドクロッグの方だった。

 

「『イカサマ』で発生前を無理やり相打ちに……やるな!!ならこっちの技ならどうだ!!『ヘビー━━』」

「『アンコール』からの『イカサマ』!!」

「『━━ボンバー』……って、なにぃ!?」

 

 それでも、他の技を使われるよりは確実に痛み分けに持って行けるから、アンコールで相手にじしんしかできないように縛って、ホップの言葉を無視して放たれるじしんに対してまたイカサマをぶつけていく。

 

 大きな衝撃音が2度、3度……そして4度。連続で振るわれるじしんの拳全てに相打ちを取っていくドクロッグ。この攻防と、今までのみんなの頑張りもあってか、3人掛かりで挑んでようやくカビゴンの身体がほんの少しぐらついたような仕草を見せた。あと少しで倒せるところまで追い詰められた証だ。

 

「ク……グ……」

「ドクロッグ!!あとちょっと頑張ると!!」

 

 しかし、先も述べた通りただ相殺するだけではダメージレースはこちらが勝てない。カビゴンの凶悪な攻撃と立ち向かった結果、ドクロッグはもうボロボロ。

 

 もう技の相殺は出来ない。次しようものなら、間違いなく力負けしてダウンする。

 

「オマエのドクロッグ……すごい粘りだったぞ。だけど、もう限界みたいだな。なら、このまま押し切るぞ!!カビゴン!!『じしん』!!」

「カ~ビッ」

 

 十分な粘りに対して賞賛の声を上げながら、あたしにとって無慈悲な宣言をするホップ。あの拳が振り下ろされたら、相打ちだろうとドクロッグは倒れてしまう。

 

 もうドクロッグは限界だ。むしろ、今のカビゴンとここまで戦えたことを褒めるべきだ。観客の方からもそんな雰囲気を感じる。

 

 けど……

 

「ググッ!!」

「うん……いくと!!」

 

 あたしとドクロッグは諦めていない。むしろ、()()()()()()()()()()

 

(あたしの戦い方だとどうしても一撃の重さに難が出てくる。これは昔から思ってたこと。だからこそ、その一撃をあたしでも使えるように、他の人を見て、吸収して、ちょっとだけあたしの立ち回りに入れることが出来た!!)

 

「ドクロッグ!!」

「クク……ッ!!」

 

 ゆっくりと落ちる拳に向かって、痛む身体にムチ打ちながら走るドクロッグ。もう何回も見た光景に、しかし、もはや風前の灯火のような体力のドクロッグの前に、ホップの行動は変わらない。この技を相殺されたところで、ドクロッグは倒せるという考えからだろう。

 

 間違ってはいない。けどそれは、あくまであたしがイカサマを選択し、さっきまでと同じ展開を繰り返したらの話だ。

 

(見せてあげると……ホップ!!あんたから見て学んだ、今のあたしの最高火力……!!追い込まれれば追い込まれるほど威力の上がるこの技で、この壁(カビゴン)を打ち壊すと!!)

 

「ドクロッグ!!『きしかいせい』!!」

「なっ!?」

 

 このカビゴンを落とす最後の秘策。それはきしかいせい。ホップがスランプから脱出するきっかけとなった技で、今回の戦いでは見れなかったけど、今もバイウールーがしっかりと覚えている思い出の技だ。

 

 さっきも言った通り、あたしがこのジムチャレンジ期間で1番一緒にいた時間が長いのはホップだ。長い時間一緒にいて、ホップと一緒に頑張ってきたからこそ、ホップの技はよく分かる。ホップにこの技のことを聞いて、ドクロッグが本気で技を覚えたいと願ってきた時のことは今でも覚えている。

 

 身体を黄色いオーラに包み、拳にありったけの力を込めたドクロッグがカビゴンの下に駆ける。これに対してホップが慌てて技を変えるなり、じしん用に構えた拳をドクロッグにぶつけるなり、色々行動を変えようとするものの、ここに来てのろいによる素早さの低下が響いてくる。

 

「ドクロッグ!!」

 

 あっという間に懐に潜ったドクロッグは、拳を腰の横に添え、思いっきり踏み込みながらカビゴンの身体に叩きつける。

 

「決めると!!」

「ク……クッ!!」

 

 オレンジ色に輝く拳は寸分たがわずカビゴンのお腹のど真ん中を貫いた。

 

 体力がわずかしか残っていないドクロッグによるこの一撃は、自身と同じかくとうタイプの技であり、且つカビゴンの弱点をつける技。たとえのろいでどれだけ硬くなったとしてもさすがに抑えきることはできない。

 

「カ……ビ……」

「カビゴン!?」

 

 その事を証明するように、あたしの前に立ちはだかった壁が崩れ去る。

 

 

「カビゴン、戦闘不能!!」

 

 

 とりあえず山を一つ越えた。けど、総合的に見て勝っているわけではない。

 

「まだ……まだと……!!」

「クク……ッ!!」

 

 絶対に追いつくために、ドクロッグと前を見据えて吠える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




きしかいせい

ホップが立ち直ったきっかけの技をマリィが使う展開。ともに冒険していたからこそ分かるものですね。




チャデス可愛い……最初から使えていたら絶対旅パにしていた子ですね。




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