【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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222話

「お疲れ様、ストリンダー。ゆっくり休んでね」

「お疲れ様ですオトスパス。ゆっくりお休みを」

 

 2人重なってダブルノックダウンになっているところに、私はモンスターボールを、サイトウさんはハイパーボールを向けてリターンレーザーを当て、労いながら戻していく。

 

 ストリンダーが攻めていた展開から一気にまくられて、かろうじてとはいえ相打ちにまで持っていった今の戦い。戦いの流れという意味では、最後のやり取りでサイトウさん側に寄っていた。けど、手持ちの状況としては、私の方が体力を削られていた状態から完全なイーブンに持っていけてるため、結果だけを見るのなら勝っている。

 

 1度離されていた差をすぐに取り返すことが出来ている。それは少なくとも、昔よりは着実にサイトウさんとの距離を詰めることが出来ているということの証明になっていた。

 

(追いつくことは出来てる。なら、あとは追い抜くだけ……!!)

 

 絶対勝って次にコマを進める。その思いが溢れ、3人目の仲間が入ったボールを握る手に自然と力が込められる。

 

 前を見据え、相変わらずハイライトの消えたその瞳と向かい合いながら、私はサイトウさんと同じタイミングでボールを宙に放った。

 

「お願い、タイレーツ!!」

「頼みます。タイレーツ」

 

 出てくるポケモンはどちらもタイレーツ。

 

 6人で1人のこのポケモンが同時に現れ、元気に『ヘイ』と声を上げる姿は綺麗に揃っており、ちょっとした大合唱になっている。その様はとても綺麗で、聞いているだけでちょっと心地良さを感じるほどだ。

 

 ただ、私の心の中は穏やかじゃない。

 

(タイレーツミラー……予想してなかったわけじゃないけど、出来ればしたくなかったなぁ……)

 

 ミラーバトル自体は私にとって苦手でも得意でもない、無の感情の対戦相手だ。けど、こと今回に限っては、相手があのかくとうタイプのエキスパートであるサイトウさんという事実が、どうしようもなくこちらに圧をかけてくる。

 

 ミラーバトルである以上、タイレーツのことはお互いよく知っているが、サイトウさんはそこから更にかくとうタイプの知見を広げている。1つの知識に特化しているわけではない私と比べたら、純粋に手札の数が違う。私の旅の例で上げるなら、フリアとポプラさんのマホイップミラーや、フリアとメロンさんのモスノウミラーがそれにあたるだろう。……モスノウに関しては、ユキハミからの進化も含んでいるから、少し違う気もしなくはないけど。

 

 とにかく、私にとっては一番不利な相手と言っても過言じゃない。あまり弱気な発言はしたくないけど、ことここにおいては正直自信はない。実際、当時のフリアもかなり苦戦していたのを見ているわけだしね。

 

(だからと言って、簡単に負ける気はないけどね。こういう時こそ、気合を入れなきゃ!!)

 

「「タイレーツ、『はいすいのじん』!!」」

「「ヘイ!!」」

「「「「「「「「「「へヘイ!!」」」」」」」」」」

 

 お互いが見合った状態でまず行われたのははいすいのじん。一歩も下がるつもりのない両者が更に退路を断つ陣形を組み、自身のすべての力を一段階進化させる。

 

 背中に荒まく波と焔を携えた両者が、声をあげながら前傾姿勢を取った。

 

「「『インファイト』!!」」

「「へヘイ!!」」

 

 私とサイトウさんの指示が重なり、同時に爆音。自身の力をあげたタイレーツたちが、地面を爆ぜさせながら踏み込み、一瞬で相手との距離を詰め、渾身の拳をぶつけ合う。12対12の、計24発もの拳が高速で何発も発射され、それらが空中でぶつかり合ってとてつもない数の破裂音が響き渡るそのやりとりは、近くにいる私たちの下まで振動と風圧を運んでくる。

 

 火力面は、やはりかくとうタイプの育成が得意ということもあって、サイトウさんのタイレーツの方に分があるけど、それでも押し切られないほどにはこっちのタイレーツも喰らいついていた。少なくとも、このやり取りだけで負けるなんてことはないだろう。その証拠に、ヘイたちが拳をぶつけ終わって、その反動で少し距離があいたところで、ヘイチョー同士が最後の拳をぶつけ合い、それすらも互角になってお互いが距離を離す。

 

「「スクラム!!」」

 

 しかし、ここで攻めを休めるような両者ではない。すぐさま陣形を並び替えて、縦2、横3の列を作って突進。まるでラグビーのぶつかり合いのような展開が出来上がる。

 

「「ヘイ!!」」

「「「「「「「「「「へヘイ!!」」」」」」」」」」

 

 お互いの構える盾のような装甲が、金属の擦れるような不協和音を響かせながらつばぜり合う。今回もやはり互角の押し合いとなっており、お互いのタイレーツがぶつかり合い、全力で相手を押しのけようとするものの、バトルフィールドの真ん中からやっぱり動かない。

 

「良いタイレーツです。しっかり育てられていますね」

「かくとうタイプのエキスパートに褒められるのは、素直に嬉しいね」

「その実力なら、ガラル空手の道場でもかなり戦えると思いますよ。いかがですか?」

「あ、あはは……申し訳ないですけど、私はやりたいことがあるので……」

「ふふ、言ってみただけです」

 

 少しだけ空気が弛緩するのを感じたけど直ぐに引き締まる。こんな会話をしている間にも、タイレーツは全力の押合い中だ。気なんて一切抜けないし、なんなら現在進行形で少しずつ戦況が変わろうとしていた。

 

 私のタイレーツの身体が浮き始める。

 

 こういった身体同士の押し合いは、基本的には相手よりも低く潜り込んだ方が有利になる。理由は簡単で、下に潜り込んで突き上げほうが、足腰の踏ん張りが効きやすいからだ。また、重心を相手よりも低い位置に持ってくることが出来るため、体幹が安定しやすい。そのため、今回のようなぶつかり合いの時は、基本的に相手の下に潜り込むように突っ込むのが正解なんだけど……

 

(こういう駆け引きだとサイトウさんの方が上手い……)

 

 さっきも言った通り、こちらのタイレーツの身体が徐々に浮き上がってしまっていることから、その下側というのをサイトウさんに取られそうになっている。1度こうなってしまえば、挽回はかなり難しい。するとなると1度引いて、すぐさま頭を下げ、相手と同じ高さでまたぶつかりにいく必要があるのだけど、当然サイトウさんは態々下がらしてくるれるような隙なんて作らない。そんなことをしてしまえば、一気に押し切られるだろう。かと言って、下に潜り込まれた以上、前に進んでも負けが確定しているこの状況。なにか手を下さないと、一方的にやられてしまう。

 

「このまま押し切りましょう!!タイレーツ!!」

「ヘイ!!」

 

 サイトウさんの声に返事を上げた相手のタイレーツがさらに下に潜り込み、またこちらのタイレーツが少し浮く。

 

 もう時間は残されていない。出し惜しみは負けにつながってしまう。

 

「……やるしかない。タイレーツ!!『はいすいのじん』」

「ヘヘイ!!」

「っ!?『はいすいのじん』!?」

 

 私のタイレーツが行う2回目のはいすいのじん。本来は1度しかできないと言われている技の使用に、さすがのサイトウさんの表情にも驚きが現れる。

 

 組み合いをしながらも自身の盾を左右に投げ出し、防御という行動を代償にしてさらに自身を強化したタイレーツは、下から突き上げてくるタイレーツを力技で無理やり押さえつけ始める。急にくる上からの圧に押しつぶされるサイトウさんのタイレーツは、苦しそうな声を上げ始めた。押し切るならここだ。

 

「タイレーツ!!『メガホーン』!!」

「ヘイヘイ!!」

 

 押さえつけながら自由に動かせる角をのばし、緑の光を携えて横に薙ぐ。

 

 角と言いながらも、力任せに振り回される巨大な角はもはや大剣のそれと言っても遜色なく、実際にこれを受けたサイトウさんのタイレーツは、6人そろって後ろに吹き飛ばされる。タイプ相性ゆえダメージは見た目以上には入っていないけど、それでも勝っている状況からいきなり巻き返されて吹き飛ばされたら、少なくない衝撃を受けるはずだ。

 

(ここを起点に攻めていきたいんだけど……)

 

「成程、『はいすいのじん』の解釈を変えているのですね……とても興味深いです」

「ヘイ……ッ!!」

 

 しかし、攻撃を喰らってなおサイトウさんの表情はすぐに戻ってしまっている。

 

 2回目のはいすいのじんをした瞬間の時こそ、その表情を驚愕に変えて目にハイライトを戻していたものの、メガホーンから受け身を取って、こちらを見つめ直した瞬間にはまた光の灯っていない瞳に戻っていた。タイレーツも、びっくりはしたものの、ダメージ自体は少ないからすぐさま構えを取って、反撃の準備を始めていく。

 

「本来は交代が出来なくなることを代償として発動しますが……代償は別でもいい、という事ですか……残念ながらわたしにはその代わりとなる代償をすぐに思いつくことはできませんが……そうですね、試してみましょうか」

 

(……嫌な予感がする)

 

「タイレーツ、気を付けて」

「ヘイッ!!」

 

 私の心の奥からはいよるこの気持ち悪い感覚に嫌な予感を感じ、すぐにタイレーツに構えるように指示を出す。タイレーツも私と同じ気持ちだったのか、ヘイたちに指示をしてすぐに陣形を整え、次の攻撃の準備をした。

 

 そんなわたしとタイレーツが見つめる中、サイトウさんは何にもなさそうにそっと言葉を零す。

 

「タイレーツ。盾を捨てて『はいすいのじん』」

「へヘイッ!!」

「なっ!?」

 

 その言葉は、私がした2回目のはいすいのじんを真似するというもの。私のタイレーツと同じく、盾の機能を果たしていたサイトウさんのタイレーツのヘイたちの装甲が横に動いて行く。

 

 同時に輝くつぶらな瞳とタイレーツたち。それはサイトウさんのタイレーツの能力全てがまた1つ進化したことを証明するものだった。

 

(たった一度見ただけで……真似された……!?)

 

「これは……本当に凄いですね。おかげでわたしはまだ戦えそうです!!『インファイト』!!」

「ヘイ……ッ!!」

「っ!!こっちも『インファイト』!」

「へヘイ!!」

 

 はいすいのじんの重ね掛けを真似して強くなった勢いのまま、サイトウさんが攻撃を畳みかけて来る。これに合わせてこちらもインファイトを選択。再び最初と同じようなインファイト合戦が始まった。

 

 どちらも2段階強くなっているのなら、この拳のぶつけ合いもまた互角となる。最初の時と同じように拳と拳がぶつかり合う膠着展開。けど、私の心中はむしろ、追い詰められている時のそれに近づいていた。

 

(『はいすいのじん』の重ね掛けは私のタイレーツにとっては結構な切り札のはずだったんだけど……こうも簡単に真似されたら簡単に使えない……)

 

 私のタイレーツは、カミツルギとのバトルを思い出すのなら後3回ははいすいのじんを行うことが出来る。

 

 全能力5段階上昇。

 

 これだけを聞けば、間違いなく私の切り札になりうる強力な手札だけど、こと今回においては相手が悪すぎた。かくとうタイプのエキスパートであるサイトウさんに対しては、例え切り札を持っていたとしても、それがかくとうタイプであるのなら再現を許してしまう程の技量がある。

 

 今はまだ、はいすいのじんという技の経験値は私の方が上だ。だから私が使わない限りサイトウさんがこのはいすいのじんを進化させることはないだろう。勿論、サイトウさんの実力ならいつかこの答えにも辿り着きそうだけど、少なくともこのバトル中は平気なはずだ。

 

(ごめんタイレーツ……せっかく強くなれたのに、今はあなたを存分に生かしてあげられない……!!)

 

「別のことに思考を回すなんて……随分余裕ですね?タイレーツ!!」

「っ!?」

 

 私がはいすいのじんについて考えている間に、サイトウさんのタイレーツが下に潜り込んで、こちらのインファイトの拳をアッパーカットでかちあげ、隙だらけの身体をさらされた。

 

 インファイト同士の打ち合いだからずっと互角だと、無意識のうちに思い込んでしまっていた隙を的確に疲れてしまった。

 

「しまっ!?」

「このまま『インファイト』!!」

 

 無防備になってしまったこちらのタイレーツに向かって降りそそぐ拳の嵐。受け身も取れない状況で受けたこのダメージは馬鹿にならず、倒れはしないもの、こちらの体力を大幅に削ってきた。

 

(しっかりしなきゃ!!)

 

「タイレーツ!!まだいける?」

「へ……ヘイ!!」

 

 飛ばされたヘイチョーに声をかけ安否確認。苦しそうな表情を浮かべながらも返事を返してくれたヘイチョーは、すぐさま周りのヘイたちに声をかけてくれたから、立ち直りはすぐにできた。

 

「追撃!!『インファイト』!!」

 

 しかし、そんな此方にさらに追い打ちをかけるべく飛んでくる拳の嵐。威力自体は変わっていないし、攻撃力はこちらも同じものを備えてはいるけど、こちらのダメージが大きいせいで腰の入った攻撃をできないから、さっきのように打ち合ったら絶対勝てない。だからここは工夫が必要になる。

 

「左右に展開!!」

「へヘイ!!」

 

 私とヘイチョーの指示で3、3に別れたこちらのタイレーツは、サイトウさんのタイレーツの攻撃を左右に避ける。

 

「挟撃!!『インファイト』!!」

 

 分かれた2つの部隊の間にサイトウさんのタイレーツが来たと同時に挟撃。左右から拳の嵐を叩きつけて圧殺する作戦に出る。

 

「円陣を!!『メガホーン』を構えながら回転!!」

 

 これに対するサイトウさん側は、背中合わせに円陣を組み、その状態で全員が角を緑色に光らせて強化。その状態で独楽のように回転することで、緑の刃による丸鋸が完成。左右から飛んでくる私のタイレーツの攻撃を全て弾いてきた。

 

 弾かれたこちらのタイレーツはバランスを崩し、隙をさらす。しかも現在のタイレーツは3と3に別れているせいで、この状況下では戦力が半減になってしまっている。

 

 こんな状況をサイトウさんが逃すわけがない。

 

「攻めぬきましょう!!『インファイト』!!ヘイチョーの方を狙いなさい!!」

 

 絶好のチャンスを取りきるべく、サイトウさんはヘイチョーを含んだ方の部隊に突撃。円陣から三角形を描くような陣形に変えて、とにかく前に走り出す。

 

(ここでヘイチョーを倒されたら戦えない!!)

 

「急いでヘイチョーのところへ戻って!!ヘイチョーは『メガホーン』を構えて!!」

 

 倒されるわけにはいかないけど、6対3と数で負けているこちらに勝てる理由がない。真正面から受けるのは無理だから、せめて全員揃うまでの時間稼ぎをするための行動だ。ヘイチョーのそばに残っている2人のヘイも、全力でヘイチョーを守るために小さな角を構える。それも、いつもならヘイチョーの後ろにいるヘイたちが、自分から前に出て盾になる形でだ。

 

 ヘイチョーを先頭に突撃する側と、ヘイチョーを後ろに下げて守る側という真反対の状況。ほどなくして2つの陣形が真正面からぶつかり合った。

 

 まずはサイトウさんのヘイチョーとこちらのヘイ2人がぶつかり、鍔迫り合いへ。体格の大きいヘイチョーを止めるにはどうしても1人では足りなかったため、ヘイ2人がかりで何とか食い止める。しかしそれは、同時にヘイチョーの守りがいなくなることを意味する。

 

「ヘイ……ッ!!」

 

 そんなこちらのヘイチョーに向かって、鍔迫り合い中の3人を飛び越えて突っ込んでくる相手のヘイ。拳を構えながら迫ってくるヘイに対して、こちらは緑の角を右から左に振って、受け流すような行動をとる。その狙い通り、飛んできたヘイは身体を流され、こちらのヘイチョーの左側に態勢を崩す。本当ならここで反撃に出たいけど、この隙をカバーするかのように、左右から次のヘイが拳を構えて走ってくる。

 

 これに対して、さっき態勢を崩した子も合わせて、いっそまとめて全員ふっ飛ばそうと考えたヘイチョーはその場で一回転。緑の角による回転斬りを放った。1番近くにいたヘイはもちろん吹き飛び、続いて左右から迫るヘイに対して攻撃しようとし……

 

「「……」」

「ヘイッ!?」

 

 その2人が直前で足を止めてしまったため、回転斬りがギリギリ届かず、技を空振る。

 

「「ヘイッ!!」」

 

 技の空振りを見届けたヘイの2人は、その後再びダッシュ。後隙で動けないヘイチョーに拳を叩きつけ、たたらを踏ませた。

 

「ヘイチョー!!後ろ!!」

「ッ!?」

 

 そしてこのやりとりをしている間に、いつの間にか後ろに回り込んでいた残り2人のヘイがここが、チャンスとばかりに距離を詰め、同時にアッパーを繰り出す。これを避け切ることの出来ないヘイチョーは、攻撃を受けて空中に打ち上げられる。

 

 ヘイチョーが打ち上げられた空。その先には……

 

「ヘヘイッ!!」

「ヘイッ!?」

 

 自身を止めに来たヘイを返り討ちにし、目を回しているヘイを踏み台にして飛び上がり、拳を構えて待っていた相手のヘイチョーの姿。

 

「タイレーツ。『インファイト』」

「ヘヘイッ!!」

 

 待ってましたと言わんばかりの声を上げる相手のヘイチョーは、自身の目の前に飛んできたこちらのヘイチョーに向かって、拳の嵐を叩き込む。

 

 はいすいのじんで盾を捨てたこちらのヘイチョーに防ぐ術はなく、何発か攻撃をもろにくらってしまい、目に見えて力が抜けていっているのが感じられた。

 

「トドメです!!」

「ヘイッ!!」

 

 そんなヘイチョーを確実に仕留める最後の一振が叩き込まれ、ヘイチョーが地面に向かって叩き落とされる。その先には、必死にこちらに向かってきていた3人のヘイもおり、その3人を巻き込んで、地面に落ちると同時に衝撃音がなった。

 

「ヘ……イ……」

 

 その音の中心で目を回すヘイチョーたち。その姿は、誰がどう見ても戦闘を続行できるそれではない。

 

 

「ユウリ選手のタイレーツ、戦闘不能!!」

 

 

「みんな、お疲れ様……ゆっくり休んで……」

 

 目を回したみんなをまとめて回収し、ボールの中に休ませる。

 

(分かってはいたけど……本当にかくとうタイプに関しては越えられる気がしない……)

 

 間違いなく差をつけられた一幕に、思わず握りしめた拳に力がさらに加わり、少しだけ爪が食い込むような感覚が伝わる。けど、その時に感じた少しの痛みが、逆に私を冷静にしてくれた。

 

(タイレーツには申し訳ないことをしちゃった。これは後でちゃんと謝らないといけないこと。けど、今はそれを引きずっちゃいけない。今するべきは、ここをどう乗り越えるかだから……)

 

 微かに揺れるタイレーツのボールからも、どこが背中を押してきているような感覚を感じることから、多分彼らも頭の片隅では分かっていたのだろう。この思いを無駄にしないためにも、次に繋げなくちゃいけない。

 

 頭が冷静になれば、自然と次の思考もスマートになっていく。

 

(うん……自然と次の手も決まってきた。大丈夫……まだ戦える……!!)

 

「お願い……ポットデス!!」

「ティ~」

 

 私が繰り出す4人目の仲間はポットデス。真作の証であるマークをつけ、通常とは違うピンク色のポットに身を包んだポットデスは、穏やかな香りを漂わせながら現れる。

 

 色違い真作ポットデス。

 

 真作かどうかの判断はつきづらいけど、少なくとも色違い個体ではあることを理解した1部の観客から驚きの声が上がる。ジム巡りでも繰り出していたけど、このリーグで初めて私を見るという人もいるため、やはり何人かはなかなかの衝撃を受けるみたいだ。

 

 けど、そんなことに気にかけている余裕は私には無い。残り人数で負けている以上、ここは絶対に勝ちきらないといけない。逆にサイトウさんはここを取れば、勝ちに王手をかけることとなる。能力も上がってる事だし、攻めは苛烈になるはずだ。

 

「流れに乗って行きましょう!!『アイアンヘッド』!!」

「ヘヘイッ!!」

 

 そのことを証明するかのごとく、ポットデスの姿を確認すると同時に、タイレーツが陣形を組んで突っ込んできた。ヘイチョーを先頭に、槍のような形でこちらに来るその姿は、はいすいのじんの強化も相まってとてつもない鋭さと速さを秘めている。その速さは、とてもじゃないけど、場に出てきたばかりのポットデスでは反応しきれないものだった。

 

「ティッ!?」

 

 結果、避けることも出来ずに真正面から攻撃を受けてしまうポットデス。耐久が高いポケモンでは無いため、かなりの痛手となるだろう。ただでさえ追い詰められているのに、さらに辛い状況へと追いやられてしまう。

 

 ……けど。

 

「……行けるよね?ポットデス」

「……ティッ!!」

 

 私の声と共に、自信満々の声を上げるポットデス。その声は、痛みに少し震えているけど、ポットデスの身体からぱらぱらと落ちる破片が、この子への同情を抱かせない。

 

 特性、くだけるよろい。そして、からをやぶる。

 

 自身の防御を捨て、速さと火力を一瞬のうちに手に入れる。

 

「タイレーツ。警戒を……」

「『シャドーボール』」

「ティ……ッ!!」

 

 その速さを証明するようにポットデスは姿を消し、サイトウさんが構えるよりも先に動いたポットデスが、タイレーツの真後ろから黒い球を叩きつける。

 

 強化されたポットデスと、度重なるインファイトによる防御方面の弱体化を受けたタイレーツは、その一撃で沈んでいく。

 

 

「サイトウ選手のタイレーツ、戦闘不能!!」

 

 

「まだまだ……行くよ!!」

「ティー!!」

 

 甘い香りを漂わせるピンクの霊が、穏やかに揺れながら牙を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はいすいのじん

エキスパートがいるということで、簡単に後してくれない技に。やはりエキスパートは強かったです。

タイレーツ

サイトウさん側が、ユウリさん側へのとどめとして行った一連は、どこか某忍者の連弾を思い出させますね。

ポットデス

足が速いお茶。(意味が違う)




DLCの図鑑も無事完成し、早速お茶の色違いを求めて走る旅。ミライドンさんのタイヤが擦れていきますね。




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