【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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ガラルリーグ 決勝戦
247話


『今日のガラルニュース。最初の見出しは、『野生ポケモンの暴動!?げきりんの湖の惨劇!!』です。今朝、リーグスタッフの人間がワイルドエリアの定期確認のために周回をしていた際、げきりんの湖の奥にて、明らかにおかしい破壊痕を発見しました。調査をした結果、激しい雷が落ちた跡と、不自然に散った花びらが沢山あったことから、でんきポケモンとくさポケモンが激しく戦った跡の可能性があると判断されました。げきりんの湖の近辺には強力なポケモンが多数住んでおり、ポケモンが育っていないトレーナーの場合は襲われる危険性があるため、もともと立ち入りできる人に制限がかかっているのですが、リーグ側は今回の事件、及び原因が究明するまでは、しばらくの間この制限される水準を上げることを発表しました。詳しい制限のガイドラインはこちらより確認できますので、トレーナーの方は一度確認の方をよろしくいお願いします。それでは次のニュースです。昨日━━』

 

 ホテルの一室に響くテレビの音を消し、時計を確認。時刻はなかなかいい時間を示しており、今からこのホテルを出てスタジアムに迎えば、ちょうどいいくらいの時間に控室につくことが出来るだろう。テレビが消えて少し静かになった部屋で、時間に余裕があることに安堵しながら、私は髪型と服装を整えて部屋から退出し、外へ出る。

 

「うん……いい天気!!」

 

 ふと視線をあげてみれば、今日も清々しいほどの晴天が私を出迎える。

 

 秋も深まり始めているため、少し肌寒さを感じてはくるものの、元々寒冷よりであるこの地方ではむしろこれくらいがデフォルトと言っても差し支えないだろう。けど、そんな少しの肌寒さは、上から照り付けて来る太陽が緩和してくれており、かなり過ごしやすい季節となっていた。

 

 寒いのがあまり得意じゃない私にとっては、本当にありがたい天候だ。

 

 そんな少し心上がる天気の中歩くこと数十分。ちらほらと人目に映り、声こそ掛けられないものの、いたるところからちょっとした話声が聞こえる中、私はスタジアムの裏口近くにて待ってくれていた幼馴染と親友と合流する。

 

「おはようだぞ!……大丈夫か?ユウリ」

「おはよう!……うん、大丈夫!」

「緊張はしてなかと?」

「してるに決まってる!……でも、不思議と落ち着いているから、そっちも大丈夫」

 

 合流した親友たちであるホップとマリィに言われて、改めて深呼吸しながら自分の右手を見ると、かすかな震えこそみられるものの、どちらかというと、これからのバトルが楽しみで起きている武者震いのそれだ。これから始まる決勝戦に対して、私の心は穏やかとは言い難いものの、振れている方向はプラス寄りなので特に問題はない。むしろ、良いコンディションと言えると思う。

 

「ぴゅいぴゅい!!」

「うん!!私、今日頑張るから、ちゃんと見ててね?ほしぐもちゃん!!」

「オレたちも応援しているぞ!!」

「ユウリ。きばっていくと!!」

「2人とも……うん!!行ってくる!!」

 

 ホップとマリィだけじゃなく、ほしぐもちゃんにも背中を押された私は、3人に笑顔で返事をしながらシュートスタジアムの控室へと足を向けていく。今日ばかりは、フリアたちと一緒にここに来るのは避けたかったため……というか、戦うことが決まってから、顔を合わせるのはちょっと違う気がしたため、今日もこうやって別行動だ。

 

(戦う前に顔を合わせたら、ちょっと感情を引っ張られちゃいそうだからね)

 

 エンジンシティから始まった私のジムチャレンジは、ふと振り返ると常にフリアと一緒の旅だった。

 

 ジムに挑戦するときも、預かり屋やワイルドエリアを冒険するときも、ジムチャレンジ終わりに特訓するときも、私はフリアとずっと一緒に過ごしていたし、経験も実力も、すべてが上を行っているフリアは、自然と私たちの1歩前を歩いており、その姿は私にとって、自然と道しるべとなった。

 

 常に先に行く彼の戦いはとても面白くて、とても興味深くて、いつも私の気持ちを惹いて離さない。そんな彼だからこそ、私は憧れ、焦がれ、惚れてしまった。

 

 そんな彼と、初めて別の道を歩いて、初めて本気でぶつかり合う今日のバトル。

 

(私がどこまで歩いてこれたかの、確認だ)

 

 控え室に入り、ロッカーを開け、ユニフォーム姿に身を包んでいく。

 

 私の誕生日である『227』が刻まれた数字を背負い、腰にボールを6つつけ、グローブをしっかりと手にはめ、深呼吸を1つ。

 

(大丈夫……どう戦うかは、昨日までの間にしっかりと考えた……)

 

 先発で出す子のボールを撫でながら目を閉じ、じっと待つ。

 

 前と違い、いよいよ最初から誰も人がいない控室。

 

 静かで、何の音もしないこの空間は、集中力を高めるにはうってつけの場所となっていた。

 

(ちょっと前の私だったら、この静かさに不安を覚えていたかもしれないなぁ……)

 

 また私の頭の中を通りすぎていくこれまでの旅路。それらが浮かんでは消え、それらの1つ1つが、私の背中を押す思い出となる。

 

『ユウリ選手。試合の準備が整いました。準備の方をお願いします』

 

「……はい!!」

 

 前回と違って、あたふたすることなく声をあげる私。

 

 心はもう決まっている。

 

(行くよ……フリア……!!)

 

 追いかけていた背中に挑む闘いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ……はぁ」

 

 息を吸いながら天井に視線を向け、しばらく見つめた後に息を吐く。けど、天井の模様なんてボクの目には入っておらず、頭の中にはユウリとの思い出を浮かべていた。

 

(あの森で出会ったユウリが、ここまで来たんだね……)

 

 まどろみの森で迷って倒れていたところから始まったあの出会いから、気づけば数か月たっていた。

 

 出会ったばかりの頃は、まだまだ前も後ろも知らない新米トレーナーで……確かに才能は感じたけど、こんな短期間でここまで登ってくるだなんて思わなかった。

 

(……羨ましいなぁ)

 

 ボクはこんなに早くリーグへの挑戦権を手に入れることはなかったし、リーグに参加できた後も、気持ち的に余裕なんかなくて、とてもじゃないけど1つ1つの試合に一喜一憂している暇なんてなかった。

 

(わかってる。きっとボクの才能は、ユウリやホップと比べて全然ないんだ)

 

 こればかりは生まれ持ったものだ、今からどれだけ羨んだってどうしようもない。きっとこの先もこの才能の差に嫌な思いをすることなんてたくさんあるだろう。

 

(でも、負けるわけにはいかない)

 

 ボクにだって意地があるし、負けられない理由がある。だから全力で迎え撃つ。

 

(さぁユウリ、約束通りの決勝戦だよ……)

 

『フリア選手。試合の準備が整いました。準備の方をお願いします』

 

「はい!!」

 

 控え室のベンチから立ち上がり、928の背番号が書かれている服の調子とマフラー、そしてユウリからもらい、マクワさんに作ってもらったおこうのネックレスを触り、心を決める。

 

 立ち上がって控室の方に視線を向ければ、そんなボクの心についてくる意志を示すかのようにボールも揺れてくれた。

 

「行こう、みんな!!」

 

 声に出して気合を入れたところで、軽く頬を叩いて歩きだす。控え室の扉から外へ出れば、もう何度目かになる真っ暗な廊下と、徐々に大きくなって来る観客たちの歓声が聞こえ始めてきた。やはり、この声が聞こえ始めると、バトルが始まるんだなんと無意識のうちに気が引き締まっていく。

 

(もう十分引き締まっているんだけどね……このまま引き締めすぎたら逆に苦しくなりそう)

 

 この感覚に少しだけ苦笑いを零すくらいの余裕はあるらしく、肩の力を抜きながら廊下を歩ききり、いよいよバトルコートへ。外へ出ると同時にボクを襲う白む視界と同時に降り注ぐ拍手を前に、少しだけ足を止めて、けど、バトルコートを挟んで反対側のにある黒い空間から出て来る今日の対戦相手が視界に入ったため、すぐさま足の動きを再開させていく。

 

 中心へと近づくと同時に、だんだんはっきりと確認することの出来るユウリの表情。

 

(ユウリの顔って、こんな凛々しかったっけ……)

 

 たった2、3日しか顔を合わせていなかった期間を作っていなかったのに、物凄く久しぶりに感じたユウリの表情は、今まで見たユウリの姿の中で一番凛々しく、かっこよく見えた。

 

 それは、思わず一瞬見惚れてしまいそうになるほど綺麗で、バトルコートの中心で向かい合い、目を合わせた瞬間に、息をのんでしまう程。

 

(凄いな……ちょっと飲まれちゃったや……)

 

 目を合わせただけで感じるユウリの覚悟。それは、今響いてくる実況者と解説者の挨拶の声すら吹き飛ばしてしまう程凄いものだった。

 

「……フリア。やっと……だね」

「うん……あの夜の約束から、ずっとこの日のこと、意識していた」

「そっか……」

 

 あの日、あの夜、ユウリが言葉とともに見せてきた覚悟の姿は、今でもボクの脳裏にフラッシュバックするほど強烈な印象を与えてきていた。あの日以来ボクがユウリの言葉を忘れたことはないし、ふとした時に思い出しては、ボクの心を揺さぶって来る。今も、あの時の感覚を思い出して、足が震えそうになるのをちょと我慢していたり。

 

 ……当の本人は、ボクが覚えていると答えたことが嬉しかったのか、少し表情を緩めているけどね。そのおかげか、少しだけ威圧感というか、プレッシャーが少なくなった気がする。けど、そんなちょっと緩んだ表情もすぐに戻り、ユウリは再びきりっとした表情をボクに向けてきた。

 

「見ててねフリア。今日は、今までの私の全力をぶつけるから……!!だから、私がちゃんと成長しているか、あなたの隣にいてもいいか……それを試させて」

「試させて……ね」

 

 言葉をそのまま受け取れば、今のボクにどれだけ通用するかの腕試しのように聞こえるその発言。しかし、その実表情には腕試しどころか、可能ならばボクの首を取るとでも言わんばかりの気迫を見せていた。

 

(勝つ気満々……ってところかな?って、当然か)

 

 最初から勝てないつもりで勝負を挑む訳がない。ユウリは、最初から本気でボクに挑んでくる気だ。

 

 望むところだ。

 

「ボクも、簡単に超えさせる気はないよ。全力でぶつかって来るなら、全力で跳ね返す。だから……ユウリこそ、覚悟しててね」

「……うん!!」

 

 その言葉を最後に、ボクとユウリは背中を向けて距離を取る。

 

 時間にして数秒程歩いたボクたちは、自分が定位置にいることを確認したと同時に振り、一番最初に繰り出すポケモンが入っているモンスターボールを構える。

 

 

「ずっと焦がれてた戦い。絶対に証明して見せる!!」

「ずっと待っていた戦い。簡単には超えさせない!!」

 

 

ポケモントレーナーの ユウリが

勝負を しかけてきた!

 

 

「いって!!タイレーツ!!」

「いくよ!!エルレイド!!」

 

 ついに始まったボクとユウリのバトル。それぞれの初手は、タイレーツとエルレイドだった。

 

「へヘイ!!」

「エルッ!!」

 

 場に出たと同時に吠えるタイレーツとエルレイドは、このバトルがボクとユウリにとってこのバトルが特別なことを知っているため、今までで一番気合の入った声をあげた。その声に呼応するように、ボクとユウリの熱も一気に上がっていく。

 

「エルレイド!!『せいなるつるぎ』!!」

「タイレーツ!!『インファイト』!!」

 

 バトル開始と同時に前に走り出すタイレーツとエルレイド。あいさつ代わりに繰り出される、現時点でお互いが放つことの出来る最高火力をぶつけ合う。

 

「エル……ッ!」

「ヘイ……ッ!」

 

 ぶつかり合う拳と刃。同時に響く破裂音と衝撃は、離れているボクとユウリのマフラーと髪をたなびかせる勢いで吹き荒れる。

 

 数秒間鍔迫り合いを行っていた両者は、ある程度の時間が経つと同時に、一緒のタイミングでバックステップ。先の一撃は、本当にただのあいさつでしかないので、特に追撃や次の手を打つことなく、元の位置に戻って目を合わせ、小さく言葉を漏らして仕切り直す。

 

(さて……挨拶はこのくらいでいいとして……初手はやっぱりタイレーツか……)

 

 開幕の攻撃を終えたボクは、いったん落ちついて戦況分析から始める。

 

 ユウリの初手がタイレーツの可能性は、今までの経験から予想することは簡単だった。ホップのように固定で出すというわけではないにしろ、やはり最初の突撃部隊として、自身の勢いをつけるための役をお願いしている姿をよく見かけた。だからこそ、まずはタイレーツに対して優位に動くことが出来るエルレイドをボクも先頭に置いたという形だ。

 

(最初は読み勝ち。ひとまずはこのまま攻めさせてもらおうかな!!)

 

「エルレイド!!『サイコカッター』!!」

「エルッ!!」

 

 あれだけの啖呵を切った以上、こちらが手加減する必要なんて一切ない。いきなり全力で攻撃するべく、タイレーツの弱点をつけ、且つエルレイドの特性のきれあじが乗るピンク色の刃を複数タイレーツに向かって飛ばしていく。

 

「『アイアンヘッド』!!」

 

 これに対してタイレーツは、全員そろっておでこを鈍色に変化させ、飛んでくる刃に対して順番に突撃。しかし、真正面からぶつかり合うのではなく、飛んでくる刃の側面にそのおでこをぶつけることで、全ての刃を逸らしていた。

 

(うまい……けど、『はいすいのじん』をする時間はなさそうだね……)

 

 ユウリのタイレーツと戦う時に注意するべきは、やはりはいすいのじんだ。逃げることが出来なくなるかわりに、全ての能力を強化することの出来るその技は、1回されるだけでもそこそこの優位性を奪われることとなる。しかもさらに怖いのが、ユウリのタイレーツはこのはいすいのじんを何回も行えるという点。普通はこの技は一度しか行うことが出来ないんだけど、ユウリはバドレックスから助言を貰い、この技の仕組みをしっかりと理解したことで、少なくとも5回は連続して行うことが出来る。

 

(全能力5段階成長とか、させたら絶対にやばいからね……)

 

 そんなことをされてしまえば、その時点で勝敗が決定すると言われても過言ではない。しかし、明確な弱点もちゃんと存在はしている。

 

 それは、時間がかかるという点だ。

 

 5回もはいすいのじんを行うとなると、それ相応の時間がかかるし、陣を敷くという技である以上、タイレーツたちがしっかりと集合している必要がある。なら、その技をされないように、こちらから連続で攻撃を振り続けてしまえば、邪魔をすること自体はそんなに難しいことじゃない。現に、ユウリが今まで戦ってきたホップとサイトウさんは、その手をもってはいすいのじんの複数使用を妨害をしていた。

 

(この弱点はそう簡単に克服できる類のものじゃない。だからこそ、サイトウさんとの闘いで弱点を突かれても、ホップとの闘いでは克服できていなかった。なら、今回もその弱点を突くことが出来るはず!!)

 

「エルレイド!!隙を与えないで!!どんどん『サイコカッター』!!」

「エルッ!!」

 

 例え攻撃を防がれても構わない。はいすいのじんをされるよりはよっぽどましなので、こちらからどんどん攻撃を仕掛けていく。その結果、やはりはいすいのじんをする暇がないのか、ひたすら防御に徹しているタイレーツの姿が見えた。

 

(まずはこちらの予想通り!!……でも、さすがにユウリだってこんなことは理解しているよね?)

 

 しかし、こんな状況でもユウリは焦った様子は見せていない。ということは、ここから何かをする方法があるという事だ。

 

(……嫌な予感はすごいする。けど、ここからユウリが何をするのかが気になるボクもいる。それに、現状だとどっちにしろ対策は立てられない。なら……)

 

 じっと戦況を見つめるユウリ。その姿に、ボクは多量の警戒と、ほんの少しの興味を乗せた視線を送った。

 

(ユウリ。見せてくれるよね?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……試されてるね)

 

 飛んでくるピンクの刃の嵐に対して、何とか耐え凌いでいるタイレーツと、その先でこちらをじっと見て来るフリアの視線。その瞳からは、『こんなもんのじゃないよね?』という意志を感じる。私がこれからどう戦ってくるのかを楽しみにしているようだった。確かに今の状況は私にとっては好ましくない。タイレーツが闘うにおいて重要な技であるはいすいのじんをする暇がないため、徐々に押されている展開になっている。

 

 この展開は、サイトウさんとの闘いでもホップとの闘いでも起こったそれだ。これが理由で、本来なら何回でもできるタイレーツのはいすいのじんが上手くできずに、タイレーツを万全の状態で闘わせることが出来なかった。タイレーツが万全の状態で闘えたら、絶対に強力な手札になるのにだ。

 

 そこで私は考えた。ではどうしたらはいすいのじんを素早く行い、万全な状態で闘うことが出来るのか。

 

 はいすいのじんは、何かを犠牲にし、自身を追い詰めることで能力を上げるものと解釈している。だから、交代を禁止したり技を固定したり、陣を固定することで能力を上昇している。けど、逆に言えば陣を固定する時間がないとはいすいのじんをすること自体が出来ない。たとえ隙が出来たとしても、ここまで勝ち抜いてきた猛者が何回もはいすいのじんをできるほどの隙を与えてくれるわけもない。できて2回が限界だ。

 

 ならどうすればはいすいのじんを何回も行えるのか。それは、まず前提条件から考え直す必要があった。

 

(『はいすいのじん』は陣を敷くところから始める必要がある。こればかりは前提条件以前の話だから流石に変えることはできなかった。でも、そのあとに関しては違う)

 

 陣を敷き、何を犠牲にするかを決めることで、そのあとに能力を上昇させるというプロセスをたどる必要がある。犠牲の内容は、交代不可。技の固定。盾の破棄。体力の消費。陣の固定等々様々だ。一応最初に交代不可をしないとダメという制約こそあるものの、そのあとにどの制限を課すかは基本的に自由だ。どの順番で行ってもちゃんと能力は上がってくれる。

 

 なら、もっと単純に考えてみる。

 

「タイレーツ!!行くよ!!」

「へヘイッ!!」

 

 ピンクの刃が飛び交う中、私の声がタイレーツに真っすぐ届き、返事を返しながらタイレーツがV字の陣を敷く。

 

「攻撃を受けながら無理やり構えるつもり?させないよ!!エルレイド!!」

「エルッ!!」

 

 攻撃を受けることすら厭わないその行動に、フリアはすぐさま対応。ピンクの刃の密度をさらに増やし、タイレーツが陣を敷く前に倒し切るという作戦に見える。

 

(本当に対応が速い……流石だよフリア。こんなことをされたら、『はいすいのじん』が終わるころには倒されちゃう)

 

 いくらはいすいのじんで能力を強くしたところで、その前に沢山ダメージを受けてしまったら次が続かない。能力上昇だって、1回だけならその上がり幅は大きくはなく、簡単に逆転も許されてしまうだろう。

 

(でも……だったら……すっごく簡単なことで全部解決できるよね?)

 

「タイレーツ!!全部一気に捧げる『はいすいのじん』!!」

「ヘイッ!!」

「え?」

 

 私の指示と共に、無理やり陣を組んだタイレーツは、一回の行動で退路を捨て、構えを固定して陣の選択を捨て、盾を捨て、体力を捨て、額を鈍色に固定し技の選択を捨て、前に走り出す。

 

「ヘイ……ッ!!」

 

 ピンクの刃を無視してこの行動を行ったため、自傷のダメージを含めてタイレーツに大きなダメージが入る。もうタイレーツの体力はちょっとしか残っていないだろう。しかし、その甲斐もあってか、タイレーツの身体が赤く輝き始める。

 

「『アイアンヘッド』!!」

「ヘイッ!!」

「エルッ!?」

「……は?」

 

 力をみなぎらせたタイレーツは、一瞬でトップスピードに辿り着き、瞬きをした時にはすでにエルレイドの身体にその額を突き刺していた。

 

 フリアたちからしてみれば予想だにしていなかったその一撃は、受け身や防御行動をとる暇すらも与えない。結果、エルレイドは一撃で吹き飛ばされ、目を回しながら壁に叩きつけられた。

 

 

『エルレイド、戦闘不能!!』

 

 

 エルレイドをまるで轢き倒すように走り抜けたタイレーツは、エルレイドが倒れても足を止めることなく走り続ける。

 

 陣を敷く暇が1回しか取れないのなら、その1回にありったけの犠牲をつぎ込めばいい。

 

 最初のはいすのじんで、先ほど挙げた5つの代償にプラスして、もう1つの代償である足を止めないという制限を設けることで、一気に6段階能力を引き上げる。

 

 これでもう、タイレーツは簡単には止まらない。それでも止めようとするのなら……

 

(フリアは……あの子を出すしかないよね……?)

 

 さぁ始めよう。これが私のフリア対策。

 

 最後にぶつかるのがきついのなら、最初に無理やり引きずり出す。

 

 セイボリーさんがした、いきなりダイマックスを切る作戦から着想を得た究極のごり押し。

 

「やってくれるね……!!」

 

 私のこの行動に、フリアの表情が嬉しそうに歪む。

 

 私とフリアの待ちに待った大勝負は、最初からクライマックスの荒れ模様となる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ガンガン行こうぜを越えたもはや特攻作戦。相手の切り札を無理やり引きずり出す作戦ですね。




年明け初投稿。今年もこの作品をよしなにお願いします。




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