【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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248話

「戻って、エルレイド。……ごめんね、こんなことになってしまって」

 

 壁にもたれ掛かりながら座り込み、ピクリとも動かないエルレイドをボールに戻しながら謝罪の言葉を口にする。

 

(エルレイドが一撃で……とんでもない火力だ……)

 

 エルレイドは決して防御が高いポケモンという訳では無く、どちらかと言うと特殊面に対して強い耐性を持つポケモンだ。だからこういった力任せの攻撃に弱いというのは納得はできる。けど、いざこうして現実として突きつけられるとさすがにくるものがある。ユウリには悟られないように表情こそ作ってはいるものの、ボクの内心は全く穏やかでは無い。

 

(タイレーツの『はいすいのじん』重ねがけ自体は、カミツルギと戦っているところを見ていたから知ってたけど、あの頃よりもそれを昇華させている)

 

 ボクが見た時は1回ずつ行っていたはいすいのじんを、1度で6回分行うというとんでもない荒業。ホップの時にも使わなかったということから、最初からボク用に隠していたのか、はたまたホップとの戦の後に気づいたのか……多分後者であろうこの作戦は、しっかりとボクの予定を狂わせてきた。

 

(さて……どうするか……次は何を出そうか……)

 

 赤いオーラをまといながら縦横無尽に駆け回るタイレーツを眺めながら、ボクは次にどうすればいいのかを考える。

 

(交代、陣、体力、技、盾を捨てた上で、止まることを禁止した多重縛り……そんなことをすればタイレーツにかかる負荷はとんでもないことになる。体力もほとんど残ってないだろうし、当然長期戦なんてもっての他だから、多分放っておけばそのうち勝手に倒れる。けど……)

 

 ボクが思考を続けている間も走り続けているタイレーツの速度はとても速く、その速さは走ったあとに赤い軌跡を残している程で、とてもじゃないけどあれが体力をかなり削られている姿だとは思えない。それに、いくら時間経過でいつか倒れるとわかっていても、あれだけ速く動かれると、逃げに徹したところで避けきれない。必ずどこかで被弾してしまうだろう。無茶苦茶非情な判断をするのなら、このまま迷っているフリをしてボールを投げるのを待てば、その分タイレーツは疲労してくれると思う。けど、それをするのはボクの心が許さない。ここまで待ちに待った戦いを、そんな逃げ腰の一手で切り抜けたくない。それは実質ボクの負けだ。

 

 では、一体どうすればこのタイレーツを止められるのか。誰なら抗うことが出来るのか。

 

(マホイップとモスノウは無理だ。モスノウは物理には強くないし、マホイップは物理に強くなるのにクリームの展開や『とける』が必要だ。けど今のタイレーツにそんなことをする暇がない。そもそも技を『アイアンヘッド』に固定されている今、こうかばつぐんで技を受ける2人には荷が重すぎる。かと言って物理に硬いブラッキーにお願いするかと言われると、『でんこうせっか』ですら追いつけない速さを持ってる今のタイレーツには、ブラッキーだと攻撃手段がない。そうなると、インテレオンの速さもダメだ。簡単に追いつけない上に、インテレオンは防御面はかなり脆いから下手をすれば一瞬でやられちゃう……)

 

 ボクの手持ちのポケモンたちが戦うとどうなるのかを順番に頭に思い浮かべては却下を繰り返す。あのタイレーツをどうにかするには、速度、防御、攻撃力……その全てを一定水準以上持っておく必要がある。どれかひとつに秀でているタイプだと、それ以上に能力が強化されているタイレーツに勝てない。

 

 そうなると、答えはひとつしか出なかった。

 

(……わかってたよ。ユウリに狙いは最初からこれだったんだって)

 

 ユウリの考えにたどり着きながら、しかしそこから逃れる方法を今のボクでは思いつかなかったので、ボクはこの状況に唯一対抗出来るポケモンが入ったボールをぎゅっと握りしめる。

 

(本当に……やってくれるね……!!)

 

 少し悪い笑みを浮かべながらこちらを見てくるユウリと目が合う。ユウリも、ボクがここでこの子を出すしか勝つ方法がないと確信しているかこそ、その表情を浮かべていた。

 

(……いいよ、のってあげる。……ううん、のるしかない!!だから……ここで切る!!)

 

「いくよ……ヨノワール!!」

「ノワッ!!」

「……来たッ!!」

 

 ボクの2番手はヨノワール。この選出に、観客や実況者から驚きの声が少し上がるのが聞こえてくる。それもそうだろう。ボクにとってのヨノワールは切り札の1人だし、ボク自身もこの子には並々ならない思いを込めている。本来なら、殿として出て来るポケモンだろう。

 

 けど、今この状況においては、この子をここで出す以外の選択肢が存在しない。ユウリもこの展開を望んでいるから、周りがいくら驚こうとも、当事者であるボクたちは一切驚くことはない。

 

「……出してくれるんだね。ヨノワールを」

「出さなきゃ、そのタイレーツを止められなさそうだからね……ユウリも、それをわかっててそこまで身を削ってるんでしょ?」

「……えへへ」

 

 真剣で、緊張した空気が、ユウリのあどけない微笑みで少しだけ緩和され、しかしすぐに元に戻っていく。

 

「『アイアンヘッド』!!」

「ヘイッ!!」

 

 少しやんわりした会話をしながらも、はいすいのじんの代償によって止まることを許されないタイレーツが、赤い軌跡を残しながら走っていたところから、ユウリの指示ひとつでその軌道を直角に曲げ、真っすぐヨノワールの方に突っ込んでくる。

 

「『かわらわり』!!」

「ノワ……ッ!!」

 

 これに対してヨノワールは右腕を光らせて、真正面からくるタイレーツに対して少し左に身体をずらしながら左から右に振るうことで、タイレーツの側面を叩いて突進を右に逸らしてく。しかし、この一撃で終わらないタイレーツは、ヨノワールの横を通り抜けた後、すぐさま反転し、今度はヨノワールの後ろから突撃を始める。これに対してヨノワールは、その場でバック宙をするように身体を動かすことでタイレーツの攻撃を再び躱す。

 

 文字にすればとても簡単なことのように聞こえるけど、実際はタイレーツがとてつもない速さとパワーで突撃して来ているため、時間にすれば1秒前後の出来事でしかないし、動作の方だって少しでもかわらわりを当てる場所を間違えたら、むしろヨノワールが致命傷を負っていただろう。これをしっかりと対処できるヨノワールの身のこなしとパワー、そして経験値の高さがよく分かる瞬間だ。しかし、逆に言えばここまでヨノワールのスペックを引き出しても、タイレーツの攻撃をいなすことしかできないという事でもある。そう考えると、ユウリのタイレーツの強化具合もすさまじい。全能力6段階強化は伊達じゃない。

 

(そうなると、やはりこれしか手はない……!!)

 

「ヨノワール!!」

「……ッ!!」

 

 ボクの呼びかけに頷いたヨノワールは、タイレーツからいったん距離を取り、ボクの近くに寄りながら宙に浮いて行く。この時もタイレーツは止まることは出来ないから、高速でヨノワールの周りを走り回っているけど、さすがに空中にまで逃げられると攻めの手は少し緩む。

 

 この間に、ボクはヨノワールとの間に絆を繋ぐ。

 

(行くよユウリ……これがボクたちの全力だ……!!)

 

「タイレーツ!!止めて!!」

「ヘイッ!!」

「『かわらわり』」

 

 ボクとヨノワールの周りに黒色の竜巻が発生すると同時に、その竜巻に飛び込んで来るタイレーツ。パスをつなぐ一瞬の間隙をついてくるつもりのこの攻撃は、しかしこちらももう共有化に慣れているので、タイレーツが飛び込む前につながり終えたヨノワールの手刀によって、再びヨノワールの後ろに流される。

 

「うん……いつも通り!!」

「ノワッ!!」

 

 黒い竜巻が消え、中から現れたのはおなかの口の端から青い焔を漏らし、全体的に暗い色に変色したヨノワール。黒いマフラーをたなびかせながら、かわらわりを振り終えた姿で佇むヨノワールと視界を共有しながら、ボクはタイレーツに視線を向ける。

 

「『いわなだれ』」

「ノワ」

 

 再び後ろに流されたタイレーツ。しかし先ほどと違うのは、地面から飛んでヨノワールに突撃を行ったため、流された先が空中で、一瞬とはいえタイレーツが走れない瞬間が生まれているという事。勿論、このジャンプのスピードも上がっているため、受け流してちょっと時間が経った今、ヨノワールとの距離はかなり離れてしまってはいる。しかし、それでもヨノワールの攻撃が届かない距離ではない。

 

 すぐさま振り返りながら右の掌を向けたヨノワールは、かけ声と共に岩の槍を連続発射。飛んでいくタイレーツを追いかけるように、次々と空を駆けていく。

 

「そのまま駆け抜けて!!」

「ヘイッ!!」

 

 これに対してタイレーツは、下手に対抗することはせずそのまままっすぐ飛び続け、バトルフィールドの端の壁に着地。そのまま時計回りの方向に壁を走りながら飛んでくる岩の槍を避けていく。

 

「『アイアンヘッド』!!」

「ヘイッ!!」

「『ポルターガイスト』!!」

「ノワッ!!」

 

 バトルコート外周の、およそ4分の1ほどの壁を走り続けたタイレーツは、その場から再びヨノワールに向かって突撃。これに対してヨノワールも、付近に落ちている岩をかき集めて、大きな黒色の塊を右手に纏い、これを飛んでくるタイレーツに向かって上から叩きつける。

 

「つ……っ!?」

 

 ぶつかり合う霊の塊と鋼の額。ぶつかり合う時の衝撃はすさまじく、共有化しているボクはこの衝撃を右手の拳にしっかりと感じる。

 

(これ……想像以上に重っ……!?)

 

「ノワッ!?」

 

 これはまずいと感じた時にはもう遅く、ヨノワールの右腕はアイアンヘッドに打ち負け、右腕を大きく上に打ち上げられてしまう。

 

「もう1回!!」

「ヘイッ!!」

 

 壁から真っすぐ飛んできていたタイレールは、ヨノワールの右腕を打ち上げた反動で地面に一度着地し、そこから深く踏み込んで、今度は攻撃を逸らされないように、ヨノワールのお腹の中心めがけて突進する。

 

「ッ!?」

「ぐぅっ!?」

 

 右腕を弾かれて態勢を崩しているヨノワールはこの攻撃を避けられない。せめてもの軽減行動もとることが出来ないヨノワールのお腹に直撃した攻撃は、ボクにもしっかりと返って来る。

 

(意識を逸らすな!!次が来る!!)

 

 お腹に来る強烈な痛みを堪え、しっかり前を観続けるボク。しかし、おなかに受けた勢いが強すぎたヨノワールは、そのままフィールドの壁の方にまで吹き飛ばされる。

 

(ぶつかる!?)

 

 このままだと背中にもダメージが襲ってくるので、そのために気合を入れて衝撃に備えておく。けど、予想と反してその衝撃はボクを襲うことはなく、ヨノワールはそのままフィールドの壁の中に潜ることで、このダメージを回避する。

 

(ノワ)

(ありがとうヨノワール)

 

 ボクを気遣ってその行動をとってくれたヨノワールに礼を言いながら、すぐさま視線をタイレーツに向ける。壁に吹き飛んだヨノワールを追いかけていたタイレーツは、突如壁の中に消えたヨノワールに驚きながらも、制約によって止まれないため、ヨノワールが消えた壁に足をつけて、再び時計回りに壁を走りだす。

 

「『かわらわり』!!」

「ノワッ!!」

 

 走っているタイレーツを壁の中から観察したヨノワールは、タイレーツとは逆回りに壁を走り、タイレーツの目前へ。走っているタイレーツの足を払うように、顔と手だけを壁から出して、右腕を振るう。

 

「避けて『アイアンヘッド』!!」

「迎え撃って!!」

 

 これに対してすぐさま壁から足を離して地面に着地したタイレーツは、そこから壁に埋まっているヨノワールに向かって、頭をぶつけることを恐れずにアイアンヘッド。その動きが速すぎて、今からまた壁に潜って回避するのが間に合わないと判断したボクは、このアイアンヘッドに対して下から上に右腕を振るって、タイレーツを空へと逸らすように動く。

 

「ノワッ!?」

「ぐっ……」

 

 けど、やっぱりタイレーツの火力が高すぎて、ほんの少しだけ上にずらすことは出来たけど、自分の身体から射程を外すことは難しく、結局腕でタイレーツの攻撃を受け止める形になってしまう。そうなれば負けるのはこちら。結果、まるでタイレーツの額と壁の間につぶされるかのように圧力をかけられてしまう。

 

(腕が軋むように痛い……でも、まだヨノワールが壁に埋まっている状態でよかった……!!)

 

 腕に痛みが返って来るけど、ヨノワールがまだ完全に外に出きっていなかったため、タイレーツに押し込まれることに抵抗しないようにすることで、再び壁の中に潜っていく。そのまま壁の中を移動したヨノワールは、地面の中へ移動し、バトルフィールドの真ん中へと戻り、そこから地上に出て、再びバトルコートの外周を走り始めたタイレーツを見る。

 

(ふぅ……なんとか仕切り直しまでもっていくことが出来た、けど……っつつ)

 

 痛むお腹と右腕をさすりながら、未だに高速で走り回るタイレーツを見て、ボクは思わず表情を歪める。

 

(強いし速いし硬い……やっぱり、6段階上昇ってやばいね……)

 

 あの時は5段階だったとはいえ、カミツルギとの戦いを見ていたからある程度の火力は予想していたつもりだったけど、そんな予想なんて遥かに超えるレベルで火力がやばい。未だに痛む右腕とおなかが、『もう受けたくない』という悲鳴のようにボクに危険度を教えて来る。

 

(でも、逃げるわけにはいかない……ヨノワールで何とかしないと、本当にこのままゲームセットになってしまう……)

 

 今対面しているヨノワールだって、決して速いポケモンではない。それでもタイレーツにこうやって食いつくことが出来ているのは、ボクと視界を共有しているからこその視野の広さのおかげだ。正直これが無かったらヨノワールだって何もできずにやられてしまうだろう。それほどまでに今のタイレーツというのは強力だ。

 

(何とかして突破口を見つけないと……っ!?)

 

「ヨノワール!!頭下げて!!」

「ッ!?」

 

 なんて今の状況からいろいろ試行を回そうとすると、視界の端でタイレーツが飛ぶ姿が見えたので、タイレーツが見ている方向からこれから飛ぶ軌道を読んで頭を下げさせる。本来は意識が繋がっているから、指示を声に出す必要はないけど、それでもつい声に出してしまうくらいには慌ててしまっている。そんなボクの焦りが伝わったヨノワールは、ボクが指示を言い切る前に頭を下げ切っていた。

 

 同時に頭の上を通り抜けるタイレーツ。その速度がとてつもないせいか、ボクの髪もその勢いを受け、少しなびいて行く。

 

(こんなの貰ったら絶対に倒れる……!!)

 

 掠っただけで感じる威力の高さに、背筋に悪寒が走る。けど、ここで身体を固めてはいけない。

 

「タイレーツ!!『アイアンヘッド』!!」

「ヨノワール!!」

 

 頭を下げたヨノワールの後ろから突撃をするタイレーツ。これに対して右回りで振り返りながらかわらわりを行い、タイレーツを右に少し逸らしながら左に移動。何とか逸らすことに成功するものの、タイレーツの足が速すぎて、ヨノワールとボクが右腕を振り切った時には、ヨノワールの右肘に対して強烈なアイアンヘッドが飛んでくる。

 

「あぐっ!?」

「ッ!!……ノワッ!!」

 

 右肘を貫く激痛にまた表情を歪めるけど、ここで動きを止めてはいけない。受けた衝撃に逆らわず、身体をそのまま左回転させて衝撃を少しでも逃がし、けど、この間にも真正面から再び飛んでくるタイレーツに対して、地面に潜ることで攻撃を避けていく。

 

「地面に『アイアンヘッド』!!」

 

 しかし、この行動すら許さないとしたユウリの指示によって、攻撃を透かされたタイレーツは攻撃先をヨノワールが潜った地面に変更。すると、地面が割れ、岩が浮き上がり、その岩と一緒にヨノワールが空中に無理やり引っ張りだされる。

 

「ここなら逃げられない!!追いかけて!!」

「ヘイッ!!」

 

 逃げ場を失ったヨノワールを襲うのは、タイレーツによる神速の連撃。岩が空中に浮かんだことによって、一時的にとはいえ空中にも足場が出来たタイレーツは、これを使ってまさに縦横無尽に暴れまわる。

 

「ぐ……うぅ……」

「ノワ……ッ!!」

 

 これに対して、かわらわりを構えて逸らし、いなし、躱していくものの、やはり攻撃全てをさばくことが出来ず、時間が経つとともにヨノワールとボクの身体に痛みがどんどん蓄積されていく。

 

(このままだと……やばい……)

 

 防戦一方。けど、この防御をやめた瞬間一瞬で刈り取られるからやめられない。

 

 前からの突撃を身体を右に半歩動かし、左手でかわらわりを左に振りながら逸らし、次に左から迫ってきた突撃を後ろに半歩下がりながら、今度は左手を後ろから前に振って前に流す。けどタイレーツの攻めの手は緩まず、今度は真上から落ちてくるように突撃してきた。これに対してこちらは、右腕のかわらわりで無理やり受け止めながら左に身体をずらしていく。

 

 先ほどの右肘への突撃が強烈すぎて、もはや感覚もマヒし始めた右腕を犠牲にするかのような防御によって、再び右腕に激痛が走るが、それを無視して戦場を見る。が、それでも痛みによる動きの鈍りは隠せない。一瞬止まってしまった動きを逃さなかったタイレーツは、今度は真下から突撃を敢行。これに対して何とか身体を後ろに下げて避けようとするヨノワールだけど、反応が少し遅れ、身体の前側を突撃がかすめてしまい、ここまで蓄積したダメージも相まってヨノワールの身体がふらついてしまう。

 

(まずっ!?)

 

「タイレーツ!!」

 

 共有化している故に分かる立て直しにかかる時間をユウリは見逃さない。

 

 逸らすことすら許さないように真正面から突撃してくるタイレーツ。この攻撃を貰ったら、多分ヨノワールは倒れる。けど態勢を崩しているから完全に避けるのは不可能だし、右腕はもう動かないことを考えると防御だって不可能だろう。

 

 絶体絶命の一手。けど……

 

(いちかばちか……それを……待ってた……!!)

 

「ノワッ!!」

 

 青色に変わったモノアイを輝かせるヨノワールは、ほぼ機能していない右腕を再び盾にし、タイレーツの軌道を本の少しだけ左に逸らし、それに合わせてヨノワールも左を向く。

 

「なっ!?」

「ヘイッ!?」

 

 この状態で避けられると思わなかったタイレーツとユウリから驚きの声が上がる。けど、これだけだと結局タイレーツの攻撃は止まらない。このままタイレーツがヨノワールの横を通り抜けることを許したら、再びタイレーツの連撃が再開されてしまうだろう。

 

 だから、ここで決める。

 

「お腹に力……入れて……ヨノワール!!」

「ノ……ワッ!!」

 

 ヨノワールが左を向いたことによって、ヨノワールの真正面を通り抜けるように進むタイレーツ。とはいえ、タイレーツの足が速すぎるため、通り抜けるのは一瞬だ。だから、その一瞬を逃さないように……

 

 ヨノワールがお腹の口を開き、タイレーツの角に真横からかみついた。

 

「ええぇ!?」

「ヘイ!?」

 

 まさかの行動に再び声をあげるユウリとタイレーツ。まさかお腹の口で噛まれるだなんて思っていなかったのだろう。

 

「うぐ……こ、の……!!」

「……ッ!!」

 

 お腹に力を入れて意地でも離さないとかみつくヨノワール。けど、タイレーツの力が強すぎてこの程度では止めることが出来ず、しかしヨノワールが意地でも口を離さなかったゆえに、ヨノワールを中心に左回りに高速回転する独楽が完成する。

 

(う……きつ……)

 

 感覚を共有しているため、立っているのに高速で回って三半規管を揺らされる感覚に、思わず口を抑えそうになる。けど、ここを逃すとタイレーツを倒せないから必死に耐えて前を見る。

 

 タイレーツにかみついて高速で回るヨノワールは、その勢いを殺そうとせず、むしろ身を任せてさらに回転。そ勢いを維持したまま、自身の身体を少しずつ倒していった。

 

「……まさか!?タイレーツ!!速くヨノワールの口を外して!!」

「絶対に……離さない……!!」

 

 ここでボクの作戦に気づいたユウリが慌てて声を出すけど、ヨノワールとボクの意地がそれを許さない。

 

「ヨノ……ワール……!!」

「……ッ!!」

 

 高速回転をしたままついに身体を90°横に倒すことに成功をしたヨノワールは、勢いをつけたまま地面に向かって突っ込んでいく。

 

 狙いは1つ。回っている独楽の一番外にいるタイレーツを、この勢いを維持したまま地面に叩きつける。

 

「いっけぇぇぇ!!」

「ッ!!」

 

 速度の乗った分だけ威力が何倍にも膨れ上がった叩きつけ。それがバトルフィールドの真ん中に叩き込まれることによって、とてつもない衝撃音を奏でながら、地面に大きなクレーターを作っていく。

 

「へ……イ……ッ!!」

 

 まさかのカウンターに、はいすいのじんによって体力を削っていたタイレーツは意識こそ残ってはいるものの、ついにその身体から力が抜け初め、動きが空中で止まった。

 

「『かわらわり』!!」

「ノ……ワ……ッ!!」

 

 タイレーツを叩きつけると同時にかみつきをやめたヨノワールは、ここでとどめを刺すべく、地面にぶつけられた反動で空中に浮いたタイレーツに向かって、左腕を光らせ、真上から叩きつける。

 

「ヘイッ!?」

 

 もう力が残っていないタイレーツはこれを避けられない。

 

 かわらわりが直撃したタイレーツは、そのまま地面に沈み、目を回す。

 

 

『タイレーツ、戦闘不能!!』

 

 

「けほっ……けほっ……やっと1人……」

「ノ……ワ……」

 

 ようやく大きな壁を突破したボク。けど、戦況は全然芳しくない。

 

「これが……ユウリの本気……」

「ありがとう、タイレーツ」

 

 タイレーツを戻しながらこちらを見つめるユウリ。

 

 その瞳に宿る赤い焔に、彼女の本気を垣間見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




かみつき

マスタードさんとの闘いでも見せたお腹のかみつき。腹筋チェックですね。




最近はマルチバトル用のポケモンばかり作っています。そのせいで変な方が沢山……これはこれで面白いですね。




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