268話
「……」
ビートとの激闘から数日後。次のバトルについての対策だったり、どうのように戦うかの構築だったり、疲れない程度のみんなの動きをチェックしたりしているとあっという間に日は流れ、気づけば1回戦当日となっていた。
正直ここまで来たら何をやっても満足いくことなんてあまりなく、常にまだやることがあるのではないかという不安に駆られてしまうものの、かと言ってそんな不安を打開できるだけの案なんて簡単に出ないし、例え思いついたとしても、こんな短期間で出来るわけもないので、もうあとはなるようになるしかない。もちろんこれはなげやりの気持ちではなく、ある程度割り切った気持ちであるため、精神状態的には大分調子のいい状態に持っていくことは出来ていると思う。これも、途中からボクたちのところに顔を見せてくれたシロナさん、カトレアさん、コクランさんのおかげだろう。3人がボクの試合を現地で見たいからという理由で、フリーズ村からこっちに来てくれたと知った時はちょっと嬉しかった。
いつものメンバーに加えて、そこにシロナさんたちの応援も乗っかってきた。相応のプレッシャーはあるものの、それ以上に応援して貰えていることがただひたすらに嬉しく、ボクの心も少し軽くなる。
(……頑張る!!)
心を引きしめて、閉じていた瞳をゆっくりと空け、少し周りを見渡す。
相変わらず大きく響く歓声にようやく慣れたボクは、0回戦の時と同じく、シュートスタジアムの中心にて対戦相手が来るのをじっと待つ。
前回と同じく待たされる側に回っているボクだけど、今回は時間内にジムリーダーが来ないのではないかという不安は一切なかった。何故なら、今日のボクの対戦相手の姿が、ボクが入ってきた廊下の反対側から姿を現し始めていたから。
「来た……ルリナさん……!!」
現れたのはボクの1回戦の相手であるルリナさん。
健康的な褐色肌と、黒の色のロングヘアに水色のメッシュが入った髪型が特徴的なスタイルのいい女性。
モデルの仕事もやっているとても綺麗な人だけど、今はそのモデル雑誌に載っている時の雰囲気とはまるで違う姿で、このバトルコートの中心へと歩いてきていた。
1歩。また1歩とこちらに歩いてくるルリナさんの歩みは、その度にステージ全体が重く、そして狭くなるような錯覚を感じる。
(バウタウンで戦った時と全然違う……これが、本気のジムリーダーの圧力……)
ただ歩いてくるだけ。それだけの動作に、とてつもない圧力と威厳を感じるのは、ここに立つためにそれほどまでの死戦を潜り抜けてきたということなのだろう。ガラル地方という、ポケモンバトルに対して特にストイックな地方だからこそ、ここまでの迫力を出せるのかもしれない。
(けど、ボクだって負けられない……!!)
しかし、ガラル地方のバトルを勝ち進んだという条件であるのならボクだって負けていない。勿論、ルリナさんのそれと比べれば圧倒的に経験値は少ないけど、少なくとも、ガラルリーグで戦った人たちは全員、ルリナさんを含めたジムリーダーたち相手に戦い抜くことの出来る実力は持っていたと思う。そんな少数精鋭の中を勝ち進み、ここに立つ権利を取ることが出来たボクにだって、自惚れじゃなければ戦い抜く自力はちゃんとあるはずなんだ。
なら、恐れることは無い。
(みんな応援してくれている。そしてその上で、ボクはジムチャレンジャーの代表としてここに立っている……経験値みたいなどうしようもないところでは絶対に負けているんだから、せめて気持ちだけは絶対に負けるな!!)
首から下げているネックレスと、首元に巻いているマフラーを同時に握りしめ、かすかに漂ってくるおこうの香りを吸い込みながら深呼吸。
『フリア……頑張って……!!』
(……うん!!)
目を閉じ、聞こえてきた気がする応援に頷いて、1拍置いて目を開ければ、ルリナさんからの圧力のせいで重く、そして狭く感じたバトルコートが元に戻った気がした。
「……凄い。この空気を跳ね除けるんだ」
圧力から解放され、気持ちいつも通りのコンディションに戻ったボクを見て、いつの間にかボクの目の前にまで歩いてきていたルリナさんが、ボクの雰囲気の変化に気づきながら声をかけてくる。
やはりこの会場に入ってすぐにボクを威圧したのは故意らしい。ジムチャレンジの時とは違うボクへの対応の差から、今回のバトルが前回とは別物であるということがひしひしと伝わった。
「お久しぶり!ちょっと見ない間に、さらに逞しくなったわね」
「ありがとうございます」
腕を組みながら、ボクをじっと見つめ、嬉しそうに言葉をこぼす姿は、バウスタジアムでバトルした時とかさなっており、少しだけ懐かしさを覚える。
あの時も、バトル前はこんな風に笑顔で話してくれた。
しかし、あの頃とは立場も状況も全然違う。
「さすがシンオウチャンピオンとして名を馳せていたシロナさんが推薦していただけはあるわ。あなたの成長速度も、そしてポケモンバトルへの理解度も、下手をすればチャンピオンに届きうるかもしれない……それほどまでにすごい力」
「そ、そこまで褒められると……少し照れますね。ですが……うん、ありがとうございます!」
「……器量も成長しているわね。少なくとも、昔のあなたはこの言葉を謙遜して受け取らなさそうだもの」
「今でも、真正面から受け取るのは少し怖いですけど、少なくとも今は、他にも背負っているものがあるので……!」
「……ふふ、本当に凄いわね」
実況者と解説の話の中行われる、もはや恒例となった話し合い。内容は和やかだけど、お互いの瞳から溢れる闘志は収まるどころか、むしろ燃え上がる。
「あなたの力は確かにチャンピオンクラスになっているわ。けど……それはあくまで他の地方ではの話!!」
その瞳の焔につられていくように、ルリナさんの喋る勢いも激しくなる。
「このガラル地方ではあなたはチャンピオンじゃないし、なることも出来ない。だって……このリーグを超えて、ダンデに挑んでチャンピオンになるのは……このわたしだから!!」
「負けません。もしそうだとしても、意地でくらいつきます!!」
「ふふ、よりにもよってわたしに『くらいつく』ね……いいわ!!その心意気が本物だって見せてみなさい!!わたしも、ジムチャレンジの時の試すバトルじゃなくて、あなたを同格のトレーナーと判断して、本気で倒しに行くから!!」
ルリナさんの言葉が終わると同時に頷きあったボクたちは、どちらが言うでもなく一緒に後ろに振り向き、そのまま定位置へ移動。
1歩ずつ歩いていく間に、実況と解説の言葉も終わったのか、束の間の静寂がバトルコートを包んでいた。
静かな空間の中、ゆっくりと歩いていたボクの足が、定位置に着いたことでピタリと止まり、その場で反転。同じタイミングで振り返ったであろうルリナさんと、再び視線を合わせる。
(……行くよ!!)
目が合ったと同時に、ボクはモンスターボールを、ルリナさんはダイブボールを右手に持ち、突き出す。
「今度こそ、わたしの全力の大波をもって、あなたのチームを流し去る!!」
「負けない……今度だって、その大波を乗りこなして、跳ね除ける!!」
ジムリーダーの ルリナが
勝負を しかけてきた!
「行って!!エルレイド!!」
「行きなさい!!グソクムシャ!!」
ついに切って落とされたチャンピオンリーグ1回戦。ボクとルリナさんの開幕の声を拾ったマイクによって、大きく響き渡る掛け合いに会場の熱気が一気に上昇。まるで地響きのような歓声が巻き起こる中、ボクはエルレイドを、ルリナさんはグソクムシャを繰り出した。
「『であいがしら』!!」
「ムシャッ!!」
バトル開始と同時に動き出したのはグソクムシャ。ボールの中から飛び出したと同時にエルレイドに向かって突撃を仕掛ける。
「エルレイド!!『つじぎ━━』」
「遅い!!」
「っ!?」
その動きに反応して何とかエルレイドに指示を出すものの、エルレイドが迎撃のために黒い刃を構えた瞬間に、グソクムシャがさらに加速。ルリナさんの言葉を証明するかのように、エルレイドが動き出そうとする前に懐に飛び込んだグソクムシャの右腕によるアッパーが炸裂。顎を打ち抜かれたエルレイドは、まるで空からつるされているかのように、身体を上に伸び切らされてしまう。
「『アクアブレイク』!!」
「ムッシャ!!」
身体が伸びきり、おなかをさらしている姿のエルレイドは、グソクムシャからすれば隙だらけだ。当然そんなチャンスを逃すはずもなく、右腕でアッパーを放ったままの姿のグソクムシャは、そのまま左腕を後ろに引き、左拳に水をためて正拳突きのように真正面へと放ってくる。
始まってすぐの流れるような攻撃。その動きの1つ1つが洗練されているためとてつもなく鋭い。
まさにジムリーダーからの洗礼。けど、グソクムシャのであいがしらは正直読めていた。だから、まだ何とかなる。
「エルレイド!!」
「……ッ!!」
ボクが声をかけると同時に、アッパーを受けて飛んだ勢いを利用したエルレイドが、バック転をしながら足を振り上げて、グソクムシャのアクアブレイクを下からかちあげることで技を逸らし、追撃を受けることなく、右膝を地面につけ、左足を立てた状態で地面に着地する。
「『つじぎり』!!」
「下がりなさい!!」
「エルッ!!」
「シャッ!?」
アクアブレイクを跳ね上げられて、逆に隙をさらすこととなったグソクムシャに対して今度こそ黒色に染めた刃を振り切る姿を見せるエルレイド。鋭く、そして怪しく光る黒い刃に危機感を感じたグソクムシャは慌てて後ろに下がろうとするものの、足が速いわけではないグソクムシャはこの攻撃を避けきることが出来ずに直撃。下がろうとする行動と噛み合ったことで、衝撃こそは少し逃すことが出来てはいるものの、エルレイドの攻撃が強力すぎて逃し切ることが出来ず、苦痛の声をあげながら後ろに吹き飛んでいく。
「追撃!!」
「『アクアブレイク』で迎え撃ちなさい!!」
飛んでいったグソクムシャに追撃を決めるために追いかけるエルレイドと、それを迎撃するべく構えるグソクムシャ。お互い両腕に水と黒のオーラをそれぞれ纏い、真正面からぶつかり合う。
エルレイドの右腕とグソクムシャの左腕が衝突からの弾かれあいを起こし、小回りが利くエルレイドがすぐさま態勢を整えて左腕を水平に薙ぐ。これに対してグソクムシャが弾かれた勢いにわざと乗って半歩長く後ろに下がることでギリギリ回避。そこから右手を貫手の様に突き出すことで反撃。
「ジャンプ!!」
この貫手に対してエルレイドは軽くジャンプをし、グソクムシャの右手を踏み台にしてさらにジャンプ。前宙返りをしながらグソクムシャを飛び越えて、頭から地面に落ちながら右腕のつじぎりを右から左に薙ぐ。
「しゃがんで振り返りながら『アクアブレイク』!!」
一方グソクムシャはこの水平切りをしゃがむことで回避し、そのままの状態で身体を回れ右させ、回転の勢いを乗せた右腕の薙ぎ払いをエルレイドに向かって放つ。
「地面に『せいなるつるぎ』!!」
頭から地面に落ちている兼ね合いですぐに回避行動に移ることが出来ないエルレイドは、地面にせいなるつるぎを放つことで、その時に起きた反動を利用して空中に戻っていく。これでグソクムシャの攻撃範囲から逃れ、再びグソクムシャの真上を取る形となった。
「『つじぎり』!!」
「エルッ!!」
「シャッ!?」
独楽のように回転して攻撃した状態で固まっていグソクムシャに、今度こそ攻撃を当てるために、今度は左を腕を縦に振り下ろすことで避けることが出来ないように攻撃。既にしゃがんでいる状態だから、さらにしゃがむことも下がることも態勢的に難しいグソクムシャは、ついに攻撃に被弾。この攻撃が急所に当たったのか、グソクムシャの身体が更に揺らぐ。
「エルレイド!!」
「エルッ!!」
ここで畳みかけるべく、地面に着地したエルレイドは再び両腕を真っ黒に染め、グソクムシャに向かって突進。とどめを刺すべく、右腕を大きく後ろに振りかぶり……
「戻りなさい!!」
「ムシャッ!!」
「……くっ」
グソクムシャの特性、ききかいひが発動し、エルレイドの目の前からグソクムシャが消え、いつの間にかルリナさんのそばにまでもどっていた 。
ききかいひ。
体力が半分を切ると、自身の身を守るために一度下がる行動。これにより、グソクムシャは安全かつ迅速にルリナさんの控えのポケモンと入れ替わっていく。
「グソクムシャをもう半分削るなんて……やるわね。でもわたしの攻めはここからが本領よ!!ぺリッパー!!」
「ペリ~!!」
「来たか……!!」
帰っていったグソクムシャに変わって場に現れたのはペリッパー。戦場に似つかわしくない、少し間延びした声と共に姿を現したペリッパーだけど、そんなペリッパーの姿を見たボクは、警戒度を一気に跳ね上げる。
理由は、ペリッパーの特性にある。
「ぺ~リ~!!」
場に出ると同時に翼を羽ばたかせ、空中に向かって声をあげるペリッパー。すると、太陽がぎらぎらと輝いていたバトルコートが一瞬にして暗くなり、更にフィールド全体に雨が降り注ぎ始める。
特性、あめふらし。
みずタイプの技を強化し、ほのおタイプの技を弱体化させるこのフィールドは、ルリナさんが一番得意とするフィールドだ。
なぜなら、ルリナさんはあの特性を持つポケモンを何匹も持っているから。
「エルレイド!!『サイコカッター』!!」
「エルッ!!」
「ペリッパー!!『とんぼがえり』!!」
「ペリッ!!」
エルレイドがピンク色の刃をペリッパーに向かって3発。空気を割きながら突き進んでいくこの攻撃を、ペリッパーは恐れることなく突っ込み、器用に羽を動かすことですべてを避け、エルレイドの真正面まで接近。
「直接叩き込め!!」
「反動を利用なさい!!」
「エルッ!!」
「ペリ!!……ッ!?」
目の前まで来たペリッパーにビビることなく腕を思いっきり振るうエルレイドと、大きなヒレの付いた足でかかと落としをするかのように足を振るうペリッパー。攻撃力の差も相まって、ぶつかり合う2つの攻撃はエルレイドが圧勝。ペリッパーに手痛いダメージを与え、思いっきり後方に吹き飛ばすことに成功する。
「良いわよペリッパー。戻りなさい」
しかし、その様子を見てもルリナさんの表情は崩れない。
(当たり前だよね。『とんぼがえり』ってことは、ペリッパーをここに出したのはこの雨を降らせるためだけだもん。つまり、ルリナさんの真の攻撃はここから……)
「行きなさい!!カマスジョー!!」
「シャーッ!!」
手持ちに戻ったペリッパーに変わって出てきたのはカマスジョー。尾ひれを船舶のスクリューのように回転させながら泳ぐこのポケモンは、こと速度においては他の追随を許さない速度を誇るポケモンだ。
そして、このポケモンこそがルリナさんと戦う上で1番目の壁とボクが思っている。
「エルレイド!!ここからが本番だよ!!気を引き締め━━」
「『アクアジェット』!!」
「シャッ!!」
「ルッ!?」
「━━てね……え?」
その事をエルレイドと共有するために声をかけ、エルレイドの声が返ってきたと思った時にはすでに、エルレイドはボクの横を通ってかなり後方に吹き飛ばされていた。
「エルレイド!?」
「ッ、ルゥ……」
幸い壁に叩きつけられたわけではないので、戦闘不能にこそなってはいないけど、そんなことは問題ではない。
「これは……想像以上すぎる……」
目線を前に向ければ、そこにはアクアジェットによって高速で移動するカマスジョーの姿が
いや、正確には見えているのかもしれないけど、動きが速すぎて、ボクの目に映っているのはカマスジョーが通ったであろう場所に残っている水の線だけだ。
カマスジョーの特性であるすいすいと、相手よりも素早く攻撃することに重きを置いたアクアジェットと言う技が、元々かなり速いカマスジョーの速さをさらに押し上げることによって、下手をすれば音速に届いているのではと思う程の速度で、カマスジョーは空中を飛び交っていた。今も、1回瞬きをすると、その時には水の線が5本くらい増えてしまっている。
「さぁ最強の挑戦者さん、わたしの最高速度についてこられるかしら!!『アクアジェット』!!」
「くっ!!エルレイド!!『せいなるつるぎ』を合わせて!!」
「エルッ!!」
空中を縦横無尽に飛びまわる高速の魚雷。これに対してエルレイドは目を閉じ、サイコパワーを持ってしてカマスジョーの軌道を先読みし、その途中に技を置こうと画策。そこらじゅうから聞こえる水の跳ねる音をシャットアウトし、ただひたすら集中していくエルレイドは、2秒ほどピタッと動きを止めたところで目を見開いた。どうやらカマスジョーの動きを感じとれたらしい。その感覚に従って、左を向きながら右腕を右下から左上へ、逆袈裟斬りのような形で振り上げる。
サイコパワーによって感知し、置かれたその技は1種の未来予知だ。いくら動きが速かろうとも、未来予知までは避けることは不可能。真っ白に輝くエルレイドの攻撃は、高速で飛び回っているカマスジョーにカウンターのように叩き込まれる。
……はずだった。
「だから言っているでしょう?遅いわ!!」
「シャッ!!」
「「ッ!?」」
正確に放たれたエルレイドの攻撃。それは、カマスジョーが速すぎて視認することは出来なかったけど、確かに感覚として当たる確信があった。それだけぴったりなタイミングだったと思っていたのだけど、エルレイドのすぐ左を通ったのであろうカマスジョーが残した水の軌跡が、エルレイドの真左で、僅かに山なりの軌跡を残しているのが確認できた。どうやらあんな超高速で動き回っているのに……否、あれだけ高速で動けるほどの反応速度を持っているからこそ、少々の攻撃では見てから避けることも難しくないみたいだ。
それにしたって反応速度が異次元すぎる気もするけど。
(これがジムリーダーの本気……!!)
「攻撃の先読みなんて、それを上回る速度でねじ伏せるだけ。カマスジョー!!『アクアジェット』!!」
「シャッ!!」
「なら……『サイコカッター』をばらまいて!!」
「エルッ!!」
先読みがダメなら手数で勝負。どこを狙うでもなく無差別にピンクの刃をやたらめったらに飛ばしていくエルレイド。しかし、この攻撃は直ぐに通らないと察してしまう。
(ダメだ。物量で押すにしては攻撃の手数が全然足りない!!)
ヨノワールのいわなだれのように、球をすぐに準備して沢山発射できる攻撃ならまだしも、いちいち腕を振って刃を飛ばしていくこの攻撃方法だと、放てる弾幕に限界がある。そんな攻撃で作られた弾幕が濃い密度になる訳もなく、そしてそんなに密度の薄い攻撃では未来予知すら速度で振り切るカマスジョーを捉えられるわけが無い。
「足りなわよ……速さが」
「シャッ!!」
「ルッ!?」
「エルレイド!?」
結果、全ての刃をくぐり抜けたカマスジョーの突進がエルレイドの身体のど真ん中を直撃。身体をくの字に曲げ、声を漏らしたエルレイドは、しかしその痛みに反応するよりも速く移動を終えたカマスジョーが、今度は左から右に駆け抜け、エルレイドの頬を貫く。
そこから始まるのは一方的な乱打。呼吸を1つした時にはもう、エルレイドの周りにはおよそ20本もの水の軌跡が走っており、それだけの攻撃にエルレイドが晒されたのを理解した時にはもう、カマスジョーの攻撃が終わっていた。
身体中に傷を作ったエルレイドは、そのまま声を発することすらさせて貰えずに地面に倒れる。
『エルレイド、戦闘不能!!』
「……ありがとうエルレイド。ごめんね」
地面に倒れたエルレイドに謝罪の言葉をかけながらボールに戻していく。
グソクムシャの体力を半分削り、ぺリッパーにも手痛いダメージを与えてくれている時点で十分な仕事ではあるんだけど、エルレイド的にはもっと活躍したかったはずだ。本当に申し訳ない。
けど、反省は後だ。
(これ、どうしようか……)
ボクの視線の先には未だに高速で飛び回るカマスジョー。雨が目に入り、瞬きする度に増える水の軌跡は、もうとっくに3桁に迫るのではないかという量になっている。
(素早さで戦ったら絶対に勝てないよね……)
ボクの手持ちで1番足が速いのはインテレオンだ。けど、今のカマスジョーはインテレオンの比にならないほどの速度を持っている。ここで挑んでも負けるのは必至だ。
(となると、素早さ以外の部分で崩すしかない……なら!!)
「お願いするよ!!」
だから別のアプローチを試してみる。
ルリナさんの最初の壁を打ち砕くべく、ボクは次のポケモンが入ったボールを力強く投げた。
カマスジョー
驚異の素早さ種族値136。すいすいなんて必要ないほど元から高い種族値……なのですが、今となってはこの数字も割とメジャーになってしまいました。一体どこの誰のせいなんでしょうね。