【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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275話

「ガ……メ……ッ!!」

「ノ……ワ……ッ!!」

 

 ギリギリと音を立てながら鍔迫り合う2人の攻撃。

 

 左手に感じる痺れも相まって、見ているだけで拳に力が入ってしまう両者の力比べは、しかし徐々にヨノワールが有利の方向に傾いていく。やはり、ダイナックルによる強化とダイホロウによる弱体化、そして雨の消失という3コンボが、カジリガメにとってはかなり痛手らしい。

 

「振り……抜け!!」

「ノワッ!!」

「ガメッ!?」

 

 このまま一気に流れを引き込むため、左腕に力を込めて、ヨノワールと一緒に思いっきり振り抜く。すると、ついにカジリガメの力を上回り、カジリガメの回転がストップ。左手に纏っていたポルターガイストは砕け散ったものの、カジリガメは完全に勢いを失ってしまい、殻に籠っているままとはいえ、その身体を少しだけ空中に無防備な状態で滞空してしまう。

 

「『かわらわり』!!」

 

 この好機を当然逃すなんてことはせず、動けないカジリガメに対して、右腕でかわらわりを縦に振り下ろし、叩きつける。

 

「ガメッ!?」

「追撃!!『いわなだれ』!!」

「建て直しなさい!!『ストーンエッジ』!!」

 

 かわらわりによって吹き飛んだカジリガメに、さらに追撃を入れるべく放たれる岩の弾幕。ヨノワールとボクの指示によって生み出されたこの攻撃は、正確に真っ直ぐ飛んでいく。

 

 これに対してカジリガメは、甲羅に入ったまま地面を転がっていた状態から、一瞬だけ水を吹き出して態勢を整え、殻の中から四肢と顔を露出させて綺麗に着地。そして、この時に両足に岩のエネルギーを溜め込み、着地と同時に叩きつけたことによって、カジリガメからヨノワールのいる方向に向かって次々と岩の柱が出現。この柱が壁となってヨノワールのいわなだれを防ぎ、さらに、これだけでは勢いの落ちなかったストーンエッジは、ヨノワールに向かって突き進み始める。

 

 やはり、いわタイプの技の扱いはカジリガメに分があるようだ。

 

「『じしん』!!」

「ノワッ!!」

 

 今度はこちらが対応する番。

 

 右手をぎゅっと握りしめ、ありったけの力を決めたボクとヨノワールは、そのまま拳を地面に向かって振り下ろす。リーチの関係上、ヨノワールの拳は地面に当たるけど、ボクの拳は地面には当たらない。当たり前っちゃ当たり前だけど、地面にボクの拳が当たったら、ただ拳を痛めるだけだからね。それでも、地面を殴ったというフィードバックは感じるので、結果ボクの拳は強く痺れることになっているのだけど、ヨノワール自身、かなり気合を入れたのか、想像よりも右手の痺れが強かった。それほどまでに力を入れられて放ったこのじしんは、ヨノワールを中心に全体に一気に拡がっていき、カジリガメが放ったストーンエッジの前進を止め、岩の柱を全て砕き、その上でカジリガメの元まで一瞬で到達する。

 

「『シェルブレード』で止めなさい!!」

「ガメ……ッ!?」

 

 一瞬で広がるエネルギーの暴力に対して、このまま受ける訳には行かないカジリガメは、両手に水の刃を形成して地面に突き刺し、無理やり相殺しようと画策。しかし、じしんのエネルギーが強すぎて、威力を軽減することは出来たけど、相殺しきることは出来ずに後ろに弾かれる。

 

「カジリガメ!!」

「ガ……メッ!!」

 

 自身の横を通り過ぎて、後方まで飛んでいくカジリガメに心配の声をかけるルリナさん。この声を聞き届けたカジリガメは、主を心配させまいと、身体を甲羅の中に収納し、縦向きになって回転。まるで車のタイヤのような姿となって地面を転がることで、衝撃を逃がしながら高速で移動できるようになる。

 

「なっ!?」

「ノワッ!?」

 

 ここに来て、カジリガメのアドリブによる行動は、ボクとヨノワールの意識を一瞬だけ停止させた。

 

「ナイスよカジリガメ!!そのまま行きなさい!!」

「ガメッ!!」

 

 この隙にヨノワールとの距離をぐんぐんと詰めていくカジリガメ。じしんの破壊力を見た以上、遠距離戦はまず勝てないと決め、とにかくインファイトへ持ち込む気であるその考えは正しく、気づけばあと少しでヨノワールを轢ききれる距離まで近づいてきていた。

 

「『かわらわり』!!」

 

 反応が遅れたせいでじしんのような溜めのいる技を放てないこちらは、せめてもの抵抗で右手を光らせ、左から右に水平に薙ぎ、相殺を狙っていく。が……

 

「『ストーンエッジ』!!」

「ガメッ!!」

 

 回転しているカジリガメが、甲羅の穴の1箇所だけから足を伸ばし、地面に接触させることで、1本の岩の柱を作成。それを、自身を突き上げるように発生させることで、カジリガメは空中に浮き上がり、ヨノワールのかわらわりは急に伸びた岩の柱を横に両断するにとどまる。

 

 かわらわりを回避したカジリガメは、そのままヨノワールを飛び越えるような形で、ヨノワールの真上まで移動した。その動きを目で追いながら、今度は回避されないように着地と同時にじしんを叩き込んでやろうと右手に力を溜め込んでいく。その瞬間を見逃さないように、ヨノワールと視界を共有しているボクは、回転しているカジリガメをしっかりと観察する。

 

「……ガメッ」

「「っ!?」」

 

 その時、回転してしっかり見えるわけが無いのに、殻の中で確かに、目を光らせながらこちらを見つめるカジリガメと目が合った。

 

 同時に身体中を駆け巡る嫌な予感。感覚を共有しているヨノワールも同じことを感じ、咄嗟になにかしようと動き出し……

 

「カジリガメ!!『くらいつく』!!」

「ガメッ!!」

 

 それよりも速く、ルリナさんの指示とカジリガメの首が飛んできた。

 

 甲羅の中から勢いよく飛び出してきた、大口を開けたカジリガメの顔面は、一瞬にしてヨノワールの眼前まで迫ってきた。着地を狙おうとじしんを構えていたせいで、これをかわらわりで迎撃できないヨノワールは、しかし相手の動きが速すぎて回避することも出来ない。

 

(覚悟決めるしかない!!)

 

「っ!!」

「ノワッ!!」

 

 かと言ってこの攻撃を直撃されるのも避けなくてはいけないと思ったボクは、ほぼ反射的な勢いを持って、自身の左腕を顔の前に持っていく。この動きに従ったヨノワールも、左腕を顔の前に持っていくことで、自分の顔面とカジリガメの顔面の間に差し込むような形となる。

 

「ガメッ!!」

「ノワ……ッ!!」

「あぐっ……」

 

 左腕を前に突き出したことで、盾の代わりとなった左腕。当然そんなことをすればカジリガメの攻撃はそこに当たることとなる。

 

 カジリガメが気合いの入った声を上げながら、自慢のアギトを勢いよく閉じ、ヨノワールの左腕にがっしりと噛み付いた。その時に感じた鋭い痛みのフィードバックによって、思わず声を漏らしてしまう。

 

「そのまま殻にこもって引き込みなさい!!」

「っ!?『かわらわり』!!」

 

 左腕から走る痛みに集中力を乱されそうになるのを何とか耐えたボクは、腕に喰らいついたまま殻にこもり、甲羅の穴に腕をつっかえさせることでしめつけダメージを与えようとしてきたカジリガメを無理やり離すためにかわらわりを指示。ヨノワールもカジリガメを引き剥がすべく、全力で右腕をカジリガメに対して叩きつける。

 

「ガグッ!?……グゥッ!!」

「ノ……ッ!?」

「っつぅ……!!」

 

 しかし、絶対に離れるもんかと気合いで噛み付いてきているカジリガメの歯がしっかりくい込んでいるせいで、離れるどころかむしろ、殴った時の衝撃がカジリガメを通して自分の腕に返ってきてしまっていた。カジリガメにも相応のダメージが入ってはいるけど、それにしたって腕にかかる痛みが少しやばい。

 

 これが、まだ控えにポケモンがいるのならボクはヨノワールを1度ボールに戻して仕切り直ただろう。くらいつくという技は、噛んでいる相手を交換させないという効果があるけど、それはゴーストタイプには通用しない。ヨノワールなら問題なく交換することが出来る。

 

 けど、もうボクの手持ちに控えはいない。だから、交換して逃げることは出来ない。

 

 だったらもう、こちらからできることはひとつしかない。

 

「ヨノワール!!『かわらわり』!!」

「ッ!!ノ……ワッ!!」

 

 ヨノワールの右腕が再び突き刺さり、カジリガメの身体に大きな衝撃が伝わる。

 

「ッ!!」

「ぐ……うぅ!!」

 

 そして再び左腕に響く鋭い痛み。

 

「まだ……まだ……っ!!叩きつけて!!」

「ノ……ワァッ!!」

 

 今度は横に生えている岩の柱に向かって、左腕を振るってカジリガメを叩きつける。

 

「グゥ!?……ガァッ!!」

 

 カジリガメが噛み付いてから3回目の攻撃。さすがにカジリガメへのダメージも大きく、少し力が緩んだのが確認できた。しかし、ここで口を離せばもう勝ちはないとカジリガメも気づいており、緩んだ口に再び力を入れて、無理やり噛み付いてくる。

 

「うぐっ……『かわらわり』!!」

「ノワ……ッ!!」

 

 再び左腕に走る痛みに表情を歪めながら、それでも有利なのはこちら側と信じ、痛みに耐えながら攻撃を指示。ヨノワールの右腕がまた振られ、この攻撃にカジリガメがまた耐える。

 

 殴られ、耐え、叩きつけられ、耐え、また殴られ、また耐え……もはやただの意地の張り合いに発展している2人の我慢勝負。

 

 耐えきれず、地に伏すのが先か、はたまた、噛み砕かれ、力尽きるのが先か。

 

 徐々になくなっていく左腕の感覚に嫌な汗を流しながら、ボクはひたすら戦場を見つめてヨノワールを応援する。

 

 響く打撃音と破壊音。そして両者のくぐもった声。見るだけで拳に力の入ってしまうその光景は、しかし元々両者の体力が限界に近いこともあってそう長くは続かなかった。

 

「ノワ……」

「グゥ……」

 

 累計10回目のかわらわりが叩き込まれたところで、ボクの両腕から感覚がいよいよ無くなり始め、同時にヨノワールが右手を地面に着け、まるで膝を着くかのように前傾姿勢になって地面に倒れかける。そんな彼らの周りを見れば、何度も岩の柱や地面に叩きつけたことを証明するかのように、そこら中に岩石がゴロゴロと落ちており、そして地面には小さなクレーターが何個も出来上がっていた。これだけの回数攻撃をしたヨノワールのガッツにはただただ驚くしかない。

 

 しかし、それでもカジリガメは口を離すことは無かった。

 

 黒いオーラをまとった牙は、これだけの攻撃に晒されて尚ヨノワールの左腕にしっかりとくい込んでおり、離れる気配が一切ない。

 

 身体はとうに限界だろうに、それでも離れなかったカジリガメのガッツが、ヨノワールの気合いを上回った瞬間だった。

 

「ノ……ワ……」

「ガ……メッ!!」

 

 もう、ヨノワールに両腕を振り回すだけの力は無い。それを感じたカジリガメは、少しだけ口を開き、そこから口元にありったけのあくタイプのパワーを溜め込んでいく。

 

「カジリガメ!!よくやったわ!!決めなさい、『くらいつく』!!」

「ガメェッ!!」

 

 もう動けないヨノワールに対してトドメを放つように、真っ黒のアギトがヨノワールに襲いかかる。

 

 まるでスローモーションにでもなったかと言うくらいに、体感ゆっくりと迫ってくる真っ黒の牙は、当たれば確実にヨノワールの体力を削りきるだろう。そうなれば、ボクの負けだ。

 

 

 

 

 しかし、それはあくまで『当たれば』の話。

 

 

 

 

「ガメッ!?」

「え?」

 

 カジリガメが最後の攻撃を放とうとしたところに、突如黒色の球が飛来し、カジリガメの身体に直撃した。

 

 急な攻撃に驚いたカジリガメは、声を上げながら1歩下がり、状況を読めていないルリナさんは困惑の声を上げる。

 

「ヨノワール……」

「ノワ……」

 

 その間に準備をとっくに終えていたヨノワールは、声を小さく発すると、次の瞬間には黒く染った岩石たちが、カジリガメを中心にドーム状に浮かび上がり、全方向から包囲した。

 

 ボクとヨノワールは、最初からかわらわりや叩きつけでカジリガメを引き離せるだなんて思っていない。このカジリガメを完全に倒すには、圧倒的な力をぶつけないと意地で耐えてくる。そう思ったボクたちは、痛みに耐え、とにかく弾を用意した。

 

 この一撃を叩き込むための、圧倒的なまでの数の弾を。

 

「『ポルターガイスト』」

「ノワ……ッ!!」

 

 準備は整った。

 

 あとは指示を下すだけ。

 

 そしてその指示を、ヨノワールが小さく告げると同時に、カジリガメの周りに浮いていた黒い岩石が一斉に集合。中心にいるカジリガメに同時にぶつかり、大爆発を起こした。

 

「ガメ……ッ!?」

「カジリガメッ!!」

 

 カジリガメの消え入るような弱々しい声と、ルリナさんの悲鳴にも近い叫び声が響く中、発生した爆発がゆっくりと消えていく。

 

 そして完全に煙の晴れた爆心地には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……メ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を回し、戦闘不能になったカジリガメの姿があった。

 

 

「カジリガメ、戦闘不能!!」

「よってこのバトル、フリア選手の勝ち!!」

 

 

「すぅ……かっ……たぁ……」

「ノワ……」

 

 同時に告げられる審判からの宣言。それを聞き届けたボクは、共有化を解除しながら、ゆっくりと尻もちをつき、天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとうございました!!」

「ええ、こちらこそ。とてもいいバトルだったわ」

 

 バトルが終わり、お互いのポケモンをボールに戻してバトルコートの真ん中に集まったボクとルリナさん。ルリナさんを待たせないように少し早く真ん中に着いたボクは、先に頭を下げて挨拶を口にする。すると、ルリナさんは言葉を返しながら右手をこちらに伸ばしてきた。

 

 ジムチャレンジでも行った、バトル後の握手。

 

 その右手を見て、ボクも慌てて右手を差し出し、ルリナさんの手を握った。

 

 あの時と、勝者と敗者は変わらないけど、立場と状況が全く違う中行われた握手。その握手は、ボクは喜びと脱力、そして感覚麻痺のせいで、そしてルリナさんは悔しさのせいで、少しだけ不自然に震えていた。

 

 ボクからの挨拶に気丈に振舞っているように見えるけど、内心は穏やかじゃないのだろう。ルリナさんは感情を表に出しやすいタイプだ。その証拠に、ボクの勝ちが決まり、ボクが空を見上げていた時に、視界の端で頭を抱えているルリナさんが映ったような気がしたから。

 

 本当は今にも色々叫びたいはずだ。でもそれを、ジムリーダーとしてのプライドが許さない。

 

(……改めて、こんな凄くてカッコイイ人に、この舞台で勝ててよかった)

 

 ルリナさんという凄いトレーナーに勝てたことを誇りに思いながら、ボクは握手を終えた右手を元の位置に戻していく。そんなボクに対して、ルリナさんは、ゆっくり言葉を紡いでいく。

 

「本気で押し流すつもりだったのに、それでも受け流されるだなんてね……」

「色々、考えましたから……」

「……本当に、成長が早いって羨ましいわ」

 

 きっとジムチャレンジの頃のボクを思い出しながら紡がれたであろうその言葉。

 

 あの時のボクは、『このメンバーでいつか本気のルリナさんに挑む』と口にした。その時と比べ、ボクもポケモンたちもぐんと強くなっている。そう考えると、あの時から随分と経ったような気がするけど、日にちに換算してみれば数か月くらいのことで、半年経ったかどうかさえ怪しいレベルだ。

 

 このチャンピオンバトルを、シンオウ地方で言う四天王の人たちとのバトルということに置き換えると、シンオウ地方を冒険していた頃よりも間違いなく成長は速い方だと思う。少なくとも、ここに来るまで未だに公式戦で無敗という記録は、シンオウ地方にいた頃は考えられなかった。あの時は敗北数も両手では足りないほど積み重ねていたはずだ。

 

 それが、ここまで成長することが出来た。

 

 当事者ですら速いと思っているのだから、昔のボクを知らないルリナさんたちからしてみたらもっと速く感じるはずだ。けど、それもこれも全部、ガラル地方に来たおかげ。

 

「それもこれも、このガラル地方で、刺激的でいい出会いが沢山あったからです」

 

 みんなと出会い、ジムリーダーたちと戦い、新しい仲間が集まり……何より、シンオウの頃よりも誰かと一緒に旅をすることが多かったこのガラル地方。思えば、どこかをひとりで歩いていた記憶がほとんどないこの旅は、常に賑やかで、同時に常に刺激がある旅だった。

 

 そして、初めて目標にされ、注目される立場というのを味わった。

 

「シンオウ地方から来て、注目されて、応援されて、後ろから追われる立場になって……ちょっと怖かったし、当時の自分は乗り越えていたとはいえ、挫折してすぐだったので自分に自信もあまり無かったです。でも、ボクを目標にしながら、その上で支えてくれた人がいたから、ここまで来れました」

 

 ユウリやビートという新しいライバルができた。シロナさんやカトレアさんにコクランさんという頼れる先輩たちに指導して貰えた。ネズさんやマスタードさんに道を示して貰った。

 

 このガラル地方で、沢山の人と関わって、その度に背中を押してもらった。

 

 そのひとつひとつが、ボクの中で確かに積み重なっていた。

 

「もちろん、今日のルリナさんとのバトルも、とてもいい経験になりました!!おかげで、ボクはまだまだ先に進める……まだまだ成長できそうです……だから、本当にガラル地方に来て良かったです!!」

「……ふふ」

「あ、えっと……ごめんなさい」

 

 バトルの感想を言うつもりが、気づけば旅の総括みたいなことを喋ってしまい、ルリナさんの微笑み声を聞いて我に返ったボクは、途端に恥ずかしさに襲われて視線をさまよわせてしまう。恐らく顔もほんのりと赤くなっているだろう。首元のマイクのスイッチが入っていなかったことが本当に不幸中の幸いだ。今の発言をここで公開されていたら、しばらく悶えていた自信がある。

 

「本当に眩しいわね……その眩しさこそが、あなたの存在感の理由なのかもしれないわね。これはダイマックスしても流し切ることが出来ないのに納得よ。こういうことなら、ソニアからあなたのこともっと聞いていけばよかったわ」

 

 そんな絶賛悶え中のボクに、相変わらず優しい声色で声をかけてくれるルリナさん。そのおかげで徐々に消えていく羞恥心とともに、ゆっくりと顔を上げてルリナさんと視線を合わせる。すると、ルリナさんの声色が、少しはっきりし、さっきまでの優しい雰囲気はそのままに、そこにボクを激励するかのような芯を感じるものに変わった。

 

「改めて、1回戦突破おめでとう。今頃ガラル地方のみんな、あなたに夢中よ」

 

 ルリナさんの声につられて周りを見ると、そこにはボクの名前を呼びながら、拍手や喝采を降り注いでくる観客のみんながいた。

 

 その光景が、ボクの心を高揚させていく。

 

「さ、次の試合も控えていることだし、あたしたちは退場しましょうか」

「あ、はい!!」

 

 周りからの声に圧倒され、思わず足が止まっていたところに声をかけられたことで現実に帰ってきたボクは、もうここから退場するよう歩き始めているルリナさんを見て、慌てて逆方向の出口に向かって歩き出そうとする。ルリナさんの言う通り、今日のバトルは前回、前々回と違って、ボクたちだけでは無いのだ。このあとも3つ試合が控えているのだから、終わったのであれば早く退場するべきだ。

 

(急いで退場しなきゃ)

 

「フリア!!」

「え?」

 

 ルリナさんに言われた通り退場口へ向けた足を動かし、すぐにでも外に出ようとしたその時。後ろから大きな声をかけられた。その声にびっくりして振り向けば、当然その声の主であるルリナさんの表情が目に入る。

 

「このあたしを乗り越えて言ったんだから!!この流れのまま!!絶対に決勝まで突き進みなさいよ!!」

「っ!?」

 

 さっきまで対面していた時には一切見せることのなかった、しかし流れることのないようにギリギリのところで耐えている涙と、それでも隠しきれていない悔しい感情を乗せ、その上で大声でボクの応援をしてくれたルリナさんの姿が目に入る。

 

 きっと、ずっと限界で、ずっと抑えてて、でもボクの目の前だから耐えてて、それでも耐えきれなくて。

 

 そんなルリナさんの表情を見て、ボクの背中にまたひとつ、大きなものがのしかかった気がした。

 

「……はい!!約束します!!ルリナさんの思いも乗せて……必ず!!」

 

 この言葉に返答は無い。けど、ボクの言葉が嬉しかったのか、少しだけ微笑みを浮かべたルリナさんは、そのまま出口の闇へと身体を持っていく。

 

(……負けられない)

 

 その姿を見送り、新たな決意を刻んだボクも、バトルフィールドから退場していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




予告通り、一日遅れました。

次回からはいつも通りに戻せると思います。




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