「マホイップ!!クリーム流して!!」
「させるかよ!!『ハイドロポンプ』で押し流せ!!」
どく状態という明確なタイムリミットが出来上がったこちらは、なんとしてでも攻めきらないといけない。だから、その足がかりとしてクリームを広げようとするけど、一方で時間を稼ぐだけで勝ちが確定しているキバナさんは、その勝ち筋をしっかりと拾うためにハイドロポンプでクリームの動きを阻止してくる。
(獰猛で攻めっ気が強いけど、こういうところはちゃんとしているのが本当にクレバーだ)
広がりかけていた陣地がハイドロポンプで押し流され、マホイップの元まで後退してくクリームたち。
「ヌメルゴン!!そこから更に、地面に向かって『ハイドロポンプ』だ!!」
「ヌン……ゴッ!!」
それだけに飽き足らないキバナさんはさらにハイドロポンプを追加。今度は地面に放ち、ヌメルゴンを中心に全方位へと地面を流れる水の動きを作り出すことによって、クリーム柱の崩壊が原因でヌメルゴンの足元にあったクリームたちもまとめて洗い流されることとなる。
「ふぅ……これで落ち着いて戦えるな。さぁ、どっからでもかかってきな!!」
「ヌンゴッ!!」
自身の周りからクリームがなくなり、心置きなくどっしりと構えるヌメルゴン。こうなってしまったヌメルゴンに対して、こちらが有効打を与えるというのはかなり難しいだろう。近づくための動線がなく、かと言って真正面から特殊技を放っても、高い特防と広い技範囲で簡単に受け止められかねない。この牙城を超えるには相応の時間が必要になる。
「マホ……ッ」
「……」
しかし、その時間をどくが短くしてくるし、たとえどく状態になってなかったとしても、先程マジカルシャインとヘドロばくだんの爆発に巻き込まれているマホイップの体力はそれなりに削られている。めいそうのおかげでこちらも特殊方面に強くは慣れているものの、素の体力はどうやったってこちらの方が低いのでこの時間の足りなさは正直仕方がない。
(……落ち着いて考えろ。大事なことを見失うな……しっかり計算に落とし込んで……)
焦りそうになってしまう気持ちをぐっとこらえ、どうすればキバナさんに勝てるかを模索する。ここで色々急いてどツボに嵌ってしまうのが1番良くない。慌てて攻めたところで、その攻撃は全ていなされてしまい、ただいたずらに時間を使って、そのままどくに倒れるだけになるだろう。
(時間をかければどくでやられ、かけなければこちらの攻撃は届かず、向こうの反撃を受けた上で、どくのせいでさらに体力が減る。嫌な二択だけど……これが正解のはず!!)
「マホイップ!!クリームありったけをヌメルゴンに!!」
「マホ……ッ!!」
頭の中で答えを出したボクは、現在フィールドにある全てのクリームをマホイップに操ってもらい、大きなクリームの波を作成。それを全てヌメルゴンにただただ叩きつけるために動かしていく。
一瞬で出来上がったクリームの波は壮観で、正しくなみのりのクリーム版といった規模でヌメルゴンい襲いかかる。
「壮観だな。だが、今更そんな攻撃は効かないぜ!!『ハイドロポンプ』!!」
「ヌン……ゴォッ!!」
しかし、クリームはあくまでもサポートのためだけにあるものであって攻撃技では無い。だから、ヌメルゴンの攻撃によって簡単に弾かれることとなる。先程のクリームの柱の崩壊と違って、真上から沢山迫ってくるのではなく、真正面から堂々とくるのであれば、ヌメルゴンからすれば充分対処できるものでしかない。
けど、これでヌメルゴンの時間は少しだけ奪うことが出来た。
「マホイップ!!『めいそう』!!」
「マホ……」
「は!?どく状態だぞ!?」
その間にこちらはめいそうを行い、マホイップの能力をあげていく。
この動作に驚きの声を上げたのはキバナさんだけでなく、実況や解説の人、果ては、観客席からもだった。それもそうだろう。めいそうを行うということは、この先の展開を有利に進めようと準備をするということだ。しかし、今のマホイップはどく状態になっているから、そもそもその『先の展開』というものに辿り着けるかが怪しい状態になっている。どく状態になっていない先程までならともかく、今からするのではいくらなんでも悠長すぎる。
けど、そんなことはよくわかっている。わかっているからこそ、この手は予想外の一手として確実に通る。
(どうせせめても、あそこまでガチガチに固められたらこっちが反撃でやられる。……なら、どくで倒れるギリギリまで強化して、最後に全てを持っていく!!)
「まだまだ『めいそう』!!」
「マホ……ッ!!」
「ここでその選択をできるとか正気かよ!?『ヘドロばくだん』!!」
「ヌメッ!!」
こちらの狙いに気づいたキバナさんは、受けで待つことが出来ないと判断してすかさず攻撃を指示。マホイップをどくに追いやった爆弾が、再びこちらに向かって飛んでくる。
「クリーム!!」
「マホッ!!」
しかし、距離も空いていれば、ハイドロポンプで押し返されたために自分の周りにクリームも沢山あるこの状況では、ヌメルゴンの攻撃を受け止めるのは容易く、集まったクリームが優しくヘドロを受け止める。
「『めいそう』!!」
「マホ……ッ」
これによって生まれた時間でもう1回めいそう。これで特攻と特防が4段階ずつ成長したことになる。
(もう……充分!!)
「くっ、ヌメルゴン!!『かみなり』!!」
「ヌンゴッ!!」
生半可な攻撃では突破できないとわかったキバナさんは、クリームの柱が壊れている今なら電撃を縛るものはないと判断し、かみなりを選択。あめの影響で数を増やした大量の光が、一気にマホイップに向かって降り注いだ。
けど、もう遅い。
「マホイップ!!全てを解き放って!!『アシストパワー』!!」
「マホーーーッ!!」
十分に能力を育てたマホイップの身体を中心に、ピンク色の光が一気に広がっていき、空から落ちてきたかみなりの全てを弾き飛ばす。
「ヌンゴッ!?」
「くっ、ヌメルゴン!!」
さらにその衝撃はかみなりを弾くだけに収まらず、勢いを途切れさせることなく突き進み、そのままヌメルゴンの下まで到達。体重が重く、そして高い特防を誇るヌメルゴンさえも、この一撃によって大きく後ろに吹き飛んだ。
身長2m、体重150kgを超える巨体が飛ばされる姿は圧巻で、それだけでマホイップの放った一撃の威力の高さがよくわかる。これほどの技を受けてしまえば、ほとんどのポケモンが沈んでしまうことになるだろう。それほどまでに強力な一撃だ。
「ヌ……メェ……!!」
「これを耐えるんだ……」
それでも、気合と根性でヌメルゴンは何とか耐え、満身創痍ながらもしっかりと両足で地面を踏みしめていた。
「よく耐えてくれたぜヌメルゴン!!『ハイドロポンプ』!!」
「ヌンメ!!……ッ!?」
「ヌメルゴン!?」
ギリギリのところでもちこたえたヌメルゴン。しかし、受けたダメージが大きすぎたせいかその足元は覚束ない状態となっており、キバナさんの指示で放とうとしたハイドロポンプも、上手くチャージすることが出来ずに不発で終わってしまった。どうやら立っているだけで精一杯のようだ。
「マホイップ!!もう一度『アシストパワー』!!」
「マホッ!!」
そんなヌメルゴンに対して、今度こそトドメを刺すために再度アシストパワーを指示。先程と同じ威力を備えた一撃が、どくのせいで同じく満身創痍のマホイップより放たれた。
「ヌゴッ!?」
既に大ダメージを受けてしまっているヌメルゴンにこの攻撃は当然耐えられない。2回目のアシストパワーをもろに受けたヌメルゴンは、再び身体を宙に浮かべることとなり、そのままキバナさんのそばまで転がってうつ伏せの状態で止まった。
「マ……マホッ!!」
「よしっ!!」
ヌメルゴンのダウンを確認して、どく状態でいよいよ倒れそうな苦しい表情を浮かべながら、それでも仕事をできたことに嬉しそうにポーズを取るマホイップと共に、喜びを分かち合う。この調子なら、キバナさんの次のポケモンに対して、一撃だけならマホイップの攻撃が間に合うかもしれない。
「ヌ……メ……!!」
「「っ!?」」
しかし、そんなボクの考えに待ったをかけるように、小さくヌメルゴンの声が聞こえてくる。
その言葉に少なくない衝撃を受けたボクとマホイップは、弾かれたようにヌメルゴンの方に首を向け、そして同時にヌメルゴンの口元に溜まった水を見て、一気に背中を悪寒が駆け巡った。
「ヌメルゴン!!」
「ヌン……メェッ!!」
地面に倒れ、満身創痍になりながら、それでも意地だけで意識を繋いだヌメルゴンが、キバナさんから受けた最後の指示を全うするべくハイドロポンプを発射。ボロボロのポケモンが放ったとは思えない鋭い一撃は、どくのせいで同じようにボロボロになっているマホイップに向かって真っ直ぐ突き進む。
「『マジカルシャイン』!!」
「マホ……ッ!?」
「マホイップ!!」
この水を受け止めるために、妖精の光を放とうと力を込めたマホイップ。しかし、気づかない間に体力が限界を迎えてしまっていたマホイップは、マジカルシャインを打つことが出来ずにハイドロポンプが直撃。受け身も取れなかったマホイップは、ボクの足元まで飛ばされて、その身体を地面に横たえた。
「ヌメ……」
そして同時に、倒れたマホイップを見て自分の仕事の完遂を確認したヌメルゴンも、瞳をゆっくりと閉じて、身体を地面に横たえる。
「マホイップ、ヌメルゴン、戦闘不能!!」
「ありがとう、マホイップ。ゆっくり休んで」
「よくやったぜヌメルゴン。休んでくれ」
両者引き分けのダブルノックアウト。
激闘を演じてくれた両者に、それぞれ声をかけながらボールに戻していくボクとキバナさん。これでボクとキバナさんの手持ちは2対3。ダイマックス権をまだ残した上で、ここまでの差で抑えられているのであれば、上出来と言っていいだろう。
欲を言えば、次のポケモンで追いつきたい。
「頼むよ、モスノウ!!」
「フィッ!!」
「行くぜ、ジャラランガ!!」
「ジャンラァ!!」
いよいよ後半戦に突入したキバナさんとの戦い。ボクから繰り出したポケモンは、キングドラ相手に見事な快勝を見せてくれた、今回の切り札の1枚であるモスノウ。対するキバナさんからでてきた5人目のポケモンはジャラランガ。場に出ながら身体中の黄金の鱗を響かせて自らを鼓舞すると同時に、モスノウに対して威嚇を行うその姿は、引き締まった筋肉質な体型と相まって、とても神秘的な姿に映った。
モスノウが綺麗な神秘という分類なら、こちらは力強さの神秘と言ったところか。どちらにせよ、ヌメルゴン同様強力なポケモンであることに変わりは無い。
「ジャラランガ!!まずはおなじみ、『すなあらし』!!」
「モスノウ!!こっちも『ちょうのまい』!!」
「ジャンラ!!」
「フィッ!!」
もはや名刺交換。お互いのやりたいことを通すための初手が、同時に発動する。
ジャラランガが鱗をぶつけ合い、不思議な金属音を奏でると同時に、あたりは砂にまみれ、小さな粒子が空中を激しく飛び回るすなあらし状態に変化する。この状態になると、いわ、じめん、はがねタイプ以外のポケモンは、常に砂の粒子に襲われることとなり、体力を徐々に奪われることとなる。モスノウもジャラランガも、上記のタイプを持っていないため、この天候の下では等しくダメージを受けることになる。が、残念ながら今回は、ジャラランガだけはこのルールが適応されない。なぜなら、ジャラランガ自身の特性、『ぼうじん』によって、この被害を抑えられるから。と言うか、だからこそジャラランガはすなあらしを起こした訳だ。
すなあらしのダメージを受けるものとそうでないものの戦いは、それだけでダメージレースが少し傾いてしまう。ただでさえこちらが遅れを取っているのに、そこで差を広げられるのだけは勘弁願いたい。だからこそ、こちらはちょうのまいで能力を強化し、短期決戦を望んでいく。
(多分こういう天候にするってことは、ジャラランガはじっくり攻めていきたいって事……なんだよね?)
「モスノウ!!『ぼうふう』!!」
「フィッ!!」
ジャラランガ側の動きがいまいち上手く掴めていない所があるけど、態々すなあらしを行ったということはそう考えてもいいはずだ。その結論に至ったボクは、とにかく攻めた方がいいと判断し、モスノウにぼうふうを指示。ぼうじん故、砂を巻き込んだところでジャラランガに追加ダメージは期待できないものの、そもそもかくとうタイプの弱点であるひこうタイプの技で攻めれば、十分な火力が期待できると判断しての指示。ちょうのまいの効果もあって、規模を増した大きな竜巻が、ジャラランガに向かって突き進む。
(さぁ、どう防ぎますか!!)
自身に致命打を叩き込みかねない風の刃。この攻撃を前に、キバナさんがどう動くのかを見逃さないようにじっくり観察するボク。そんなボクの視線を受けて、キバナさんは獰猛な笑みを浮かべながら声を張り上げる。
「ふけよ風!!呼べよすなあらし!!ここがお前の舞台だぜ!!」
「ジャンラァッ!!」
風を前にして一切の怯みを見せないキバナさんとジャラランガは、テンションを上げながら竜巻と相対する。
「まずは音を奏でるぞ!!『スケイルノイズ』!!」
「ジャンラァ!!」
キバナさんが指示したのはスケイルノイズ。ジャラランガが声を上げながら全身の鱗をぶつけ合い、不協和音を奏で、その音波を飛ばすことで相手を攻撃するドラゴンタイプの大技。使用後、反動で自身の防御が下がるというデメリットこそあるけど、モスノウ相手には一切関係のないノーリスクな高火力技だ。その破壊力は、モスノウのぼうふうとふぶきにも勝るとも劣らない。
しかし、技の威力は同規模でも、特殊技に精通しているのはモスノウの方だし、ちょうのまいを行っている分モスノウの火力は上がっているため、ジャラランガのこの攻撃ではぼうふうを止め切ることは出来ない。実際、ぼうふうの速度こそゆっくりになったものの、スケイルノイズを弾いた竜巻は、いまだ消えることなくジャラランガの方へと向かっていく。直撃するまで数秒ほど時間が伸びたとはいえ、これではまだダメージを受けてしまう。
けど、キバナさんの表情は崩れない。
「その数秒があれば充分だよなぁジャラランガ!!もっとテンション上げるぜ!!『ソウルビート』!!」
「ジャララァッ!!」
竜巻の動きが遅くなったのを確認したジャラランガが、再び鱗を擦り合わせて音楽を奏で始める。しかし、今度の音は破壊力を秘めた攻撃技ではなく、自らの体力を代償とすることで能力を強化する鼓舞の音。
その上昇量は、タイレーツのはいすいのじんと同じで、全能力の1段階強化。
「っ!?モスノウ!!もう1回『ぼうふう』で攻撃速度を上げて!!」
「遅せぇ!!もう1発『スケイルノイズ』!!」
「ジャンラァッ!!」
ジャラランガの動きを見て直ぐに気づいたボクは慌ててモスノウに追撃を指示。しかし、能力強化が間に合い、ちょうのまいで有利を取っていた能力関係をひっくり返したジャラランガがそれよりも速く、鱗からの音を変化させ、再び攻撃の音色を奏でる。
「フィッ!?」
「モスノウ!!」
先程よりも規模も音量も上がった不協和音は、1度勢いを削られたぼうふうをいとも簡単に突破し、さらにその奥にいたモスノウに直撃。こおりのりんぷんで受け止めながら、しかしそれでも厳しいダメージが襲いかかり、モスノウは身体を大きく後ろに弾き飛ばされる。
「フィ……ッ!!」
「ゆっくりでいいよ!!しっかり態勢をたて直して!!」
「走れジャラランガ!!」
「ジャラッ!!」
空中で錐揉みしながら飛んでいくモスノウは、そんな中でも翅を器用に動かして何とか態勢を整えようとする。一方で、その瞬間を隙と捉えたキバナさんはジャラランガに追撃を指示。飛ばされるモスノウを、ソウルビートで強化された素早さを活かして地面を勢いよく駆けてくる。
結果、モスノウは数秒の空中移動を経た後に、ようやく態勢を整えることに成功したけど、その間にジャラランガの走り込みも完了しており、宙に浮かんでいるモスノウの真下で、右拳を握りしめて待機状態に入った。
「『ふぶき』を打ち下ろして!!」
「フィッ!!」
「左腕で『スケイルノイズ』!!」
「ジャラッ!!」
懐に潜り込まれた状態から、何か強力な攻撃が来そうな予感がしたボクは、すぐさまモスノウに上から圧力をかける指示。こおりのりんぷんがある以上、特殊攻撃では致命打になりにくいモスノウ相手にとどめを刺すのなら、物理攻撃を当てる必要がある。となると、空を飛んでいる以上モスノウに攻撃を当てるにはジャンプをする必要があるので、それを阻止するための上からのふぶきだ。
翅を強く羽ばたかせて、氷の風を打ち下ろしたモスノウは、ジャラランガに絶対に飛ばせないためにとにかく必死に追い返していく。
これに対してジャラランガは、左腕を真っすぐ真上に突き出し、同時に左腕の鱗を激しく揺らすことで音波を発射。打ち下ろされたふぶきに対して、これをしっかりぶつけることによって相殺を起こし、打ち下ろされるふぶきを止め、右拳にさらに力を籠め始める。
(片手で攻撃は賢い……って感心している場合じゃない!!)
「ジャラランガ!!『スカイアッパー』!!」
「ジャラッ!!」
ふぶきがなくなり、ジャラランガとモスノウの間の風が消え去ったところで、ジャラランガの足が強く地面に踏み込まれ、数瞬後にジャラランガの身体が宙に跳びあがる。それと同時に、腰付近に力を込めて添えられていた右拳が勢いよく振り上げられ、宙に浮かぶモスノウに向かって真っすぐアッパーとして放たれる。
空中にいる敵に対して、強く攻撃を放つことの出来るスカイアッパー。それは、ソウルビートによって能力を強化されていることも相まって、対空中にいるポケモンに対して、特攻と言ってもいいほどの効力を持つ技となって襲い掛かって来る。
「モスノウ!!『ぼうふう』!!」
「遅せぇ!!」
飛び上がり、一瞬で目の前まで接近してきたジャラランガの渾身の一撃。それを止めるべく、慌てて翅を動かすモスノウだけど、キバナさんの言う通り少し行動が遅れているため、攻撃を避けきることは不可能だ。このまま風を発生させようとしても、ジャラランガに攻撃が当たる前に拳を受けることになってしまい。そうなれば、よくて相打ち。悪くてこちらのぼうふうが発生せず、一方的に殴られることになってしまうだろう。
だから、ぼうふうの打ち方を工夫する。
「右翅だけで打って!!」
「ッ!?……フィッ!!」
「なっ!?」
ボクが口にした急な無茶振り。このことに、キバナさんは勿論だけど、モスノウも少し驚いたのか、一瞬だけ息が詰まっていたのを確認した。正直、その反応を見た瞬間に申し訳ない気持ちが生まれてしまったけど、こうでもしないとこの窮地を脱出出来ないのはモスノウも理解してくれていたのか、すぐに返事をしながら右翅だけを器用に動かしてぼうふうを発生させる。
無茶な態勢による大技の行使。それは、事前に練習なり準備なりしていれば、ジャラランガのように左腕だけで発動みたいなことはできるけど、モスノウは今この瞬間が初めての出来事だ。当然うまくいくなんてことはなく、攻撃は不格好になり、規模も威力も小さなそれになってしまう。
けど、それでいい。
「フィッ!?」
ぼうふうを片翅だけで放ったモスノウは、思いっきりバランスを崩し、更にぼうふうの反動によってその身体を大きく左側に吹き飛ばしてしまうことになる。
本来なら、相手を前にして大きく隙をさらす行動になってしまうこの吹きとばされは、しかしこの場においてはとても強力な回避行動になる。
無理な態勢で放ったぼううふうによる反動は、ジャラランガにとっても想定外の軌道となってモスノウを攻撃範囲から逃してくれた。それでも、見事な反射神経をもって拳の軌道を変えたジャラランガのとっさの判断によって、モスノウの身体に少しだけ攻撃が掠る。防御力の低いモスノウにとっては、それでも充分なダメージとなって身体に刻み込まれるけど、直撃したらそれこそ戦闘不能になりかねなかったから、それに比べたら十分まし。まさしく、死ななきゃ安いだ。
そして、ピンチを乗り越えたのなら、チャンスがあるのが相場。
拳を空ぶってしまったジャラランガは、その身体を無防備に空中にさらすこととなってしまう。この状況では、回避も防御も十分にできないだろう。
「『ふぶき』!!」
「フィッ!!」
「『スケイルノイズ』!!」
「ジャ……ラッ!!」
ぼうふうの反動と、スカイアッパーの掠りによって崩れた態勢を何とか立て直したモスノウが、全力のふぶきをもって撃ち落としに行く。これに対してジャラランガも何とか腕を振ってスケイルノイズを発射し、ふぶきを相殺しようと行動。
「ジャラッ!?」
「さすがに受け止めきれねぇか……」
しかし、スカイアッパー終わりの状態では思ったように攻撃を放てなかったのか、このふぶきを受け止めきれずに直撃。威力こそ落とせたものの、手痛いばつぐんダメージを喰らったジャラランガは、そのままキバナさんの近くの地面に叩き落される。
「まだいけるか?ジャラランガ」
「ジャラッ!!」
けど、まだまだやる気を見せるジャラランガは、キバナさんの言葉に反応しながら起き上がり、ファイティングポーズを取りなおす。
「モスノウ、ここからまた無茶いうかもだけど……ついてきてくれる?」
「フィッ!!」
お互い少なくないダメージを受けて2人の戦いは次のラウンドへ入っていく。
すなあらしが吹き荒れ、少し苦しそうな顔を浮かべるモスノウを見ながら、ボクはジャラランガの行動からヒントを拾ってモスノウに言葉を伝える。
(急遽思いついた考えが通るか不安だけど、少しやってみたい)
そんな考えを浮かべながら、ボクはぐっと拳を握り締めた。
ジャラランガ
実機では使ってこなかったキバナさんの今回の手持ち。ここでわかる通り、今回キバナさんの手持ちには天候要因は一切おらず、全員ドラゴンタイプで固めています。戦いの流れを考えた結果、こうじゃないと書きづらいというのもあったのですが、せっかくのドラゴンタイプ使いなので思い切って暴れていただきました。後は、いろいろと不憫扱いされるジャラランガを、少しかっこよく書きたかったというのもありますが……片腕だけでスケイルノイズを発射するジャラランガを想像したら、少しかっこよかったです。