「おいっすフリア!!調子はどうだ?」
「おはようホップ。うん、気分はいい感じだよ」
「いよいよダンデさんとのバトルだもんね。……頑張ってね」
「うん。ありがとうユウリ。全力でぶつかって来るよ」
「コンディション、悪くなさそうとね」
「ばっちりだよ。自分でもびっくりするくらい身体軽いや」
チャンピオンリーグが終わって数日後。テレビからのインタビューや、息抜きの観光、そして、ダンデさんとのバトルの対策を色々考えているうちに、いよいよダンデさんとの対決の日がやってきて、その日の早朝にホテルのロビーで集まったボクたちいつもの4人は、挨拶もほどほどに、ホテルの外に出てシュートスタジアムへの道を歩き出していた。
外の天気は気持ちのいいくらいの快晴。雲が全く見当たらないこの天候は、お日様もボクとダンデさんのバトルを特等席にて観測するために作り上げた天候なのではと錯覚してしまう程だ。空を見上げながら伸びをするだけで心地よく、ともすればこのままピクニックにでも行きたいような心地い天気だった。
(絶好のチャンピオンタイトルマッチ日和だ)
この心地いい天候と同じくらいボク自身の体調も良く、腰元のホルダーに収まっているみんなを確認すれば、みんなの調子も良いみたいで、戦う時を今か今かと楽しみながらカタカタと震えていた。マリィに既に返答しているけど、本当に自分の身体じゃないくらいに軽く、調子がいい。
(いや、もしかしたら少し浮かれている可能性もあるのかな?そこはちょっと注意かもしれないね)
けど、そんな体調でも冷静に見つめて、決して慢心しないように注意しておく。なんせ相手はあのダンデさんだ。調子の良さだけで勝てる相手ではない。しっかり地に足をつけて、空気に飲まれないように戦うとしよう。
「いやぁ、なんだろうな……オレが闘うわけじゃないのに、なんか緊張してきたぞ」
「確かに、なんか観戦するだけのはずの私までちょっとドキドキしてきたかも」
「知り合いが大舞台に立つって、なんかちょっと当てられるとよね……」
「なんでみんなの方が硬くなっているのさ」
なんて心を引き締めながらシュートスタジアムへの道を歩いていると、スタジアムに近づくにつれてホップたちの表情が少しずつ硬くなり始めていく。その様が、昔ボクがホウエン地方で迷子になってしまった時に両親が見せた表情に少し似ていて、あきれ半分と、懐かしさ半分と言った感情を受ける。少しくすぐったい。
「大丈夫だよ。絶対勝つ……って約束までは出来ないけど、でも、勝つつもりではいるからさ。しっかりと見守っててくれる?」
けど、それだけボクのことを真剣に思ってくれているということはよくわかったので、みんなを安心させる意味も込めて、ボクは声に優しさを乗せてみんなに伝える。すると、ボクの喋り方から意図が伝わったのか、みんなの表情から硬さが少しずつ消えていった。
「……そうだな、任せろ!!アニキに勝ってほしい気持ちもあるけど、それと同じくらいフリアには頑張って欲しいからな!!大声で応援してやるぞ!!」
「うん!!声援は任せて!!」
「なんならエール団のみんなにも声をかけるとよ!!」
「あ、あはは……エール団の人たちまではいいかなぁ……」
そうなってしまえば、ボクたちの間に流れる空気はいつものそれとなる。硬い表情も空気もなくなり、心なしかボクの心も浮足立っていたのが消え、足元がしっかりとし始めた。やはり、ボクも少し硬くなっていたみたいだ。
「……ありがとね。みんな」
「「「?」」」
いつものやり取りのおかげで大分心が軽くなったことに、小さな声で感謝を告げるボク。しかし、声が小さかったことと、聞こえたとしても何についてお礼を言われたのかわかっていないみんなはそろって首をかしげる。その様子を見たボクは、急に恥ずかしさが顔をのぞかせてきたので、ごまかすように笑顔を浮かべながら首を振る。
「ううん、何でもない!さ、行こ!!」
「あ、ちょっと!!」
恐らく赤くなっているであろう表情を隠すように前を向いたボクは、そのまま少し速足気味に前に歩いて行く。後ろからはユウリの慌てた声と、ボクを追いかけるような足音が聞こえてくるので、ついてきてくれてはいるのだろう。そのことに安心感を感じながら、とにかくスタジアムに向かって足を運んだ。
これなら、今日も安心して戦えそうだ。
『あ、フリア選手だ!!』
『ホップ選手とユウリ選手にマリィ選手もいるぞ!!』
『凄い!!勢ぞろいしている!!』
『今声掛けたらサインとかもらえるかしら?』
次の戦いに対してさらにコンディション良く立ち向かう事が出来そうになったところで、ボクたちから少し離れたところから話声が聞こえてきた。そちらに視線を向けてみると、どうやらボクたちのファンの人たちみたいで、ボクたちの姿を見かけることが出来たことが嬉しいのか、喋り声が聞こえるか聞こえないかギリギリの距離でもじもじとした様子を見せていた。話の内容的に、ボクたちのサインが欲しいみたいだけど、その人数がなかなか多く、全員に応えればしばらくは動けなくなることが想像できる。
しかし、時間に余裕をもってホテルを出ているボクたちにとっては、ここでの足踏みはそんなに問題じゃい。今からスタジアム入りしたら、間違いなく時間を持て余すし、どうせ早く向こうに着いたところで、1人さみしく控室で集中力を高めるだけの時間になってしまう。その時間が長すぎたら、かえってまいっちゃいそうだ。
つまり何が言いたいかと言うと、今は割と余裕があるタイミングだ。ガラル地方の住人は、こういった時のマナーはかなりいい方だし、ここでちょっとくらい対応したところで、混乱が起き来たり、他の通行客に邪魔になるようなこともないだろう。今ボクたちがいる場所が比較的広い場所且つ、回りにお店や住宅などの人通りが激しい場所も見当たらないし、以前キバナさんたちがこの近辺で対応していたのを見たことがあるから、特に問題もないはずだ。そう判断したボクは、みんなの方に振り向きながら提案をしてみる。
「ちょっとくらいは応えてみる?」
「ファン対応!!やっぱり有名人って感じがしていいよな!!……けどいいのか?これから大事なバトルだろ?」
「その前に集中しておくとか、振り返っておくとか必要ない?」
「大丈夫。まだ時間はあるし、むしろ今から行っちゃうと1人の時間長すぎて逆に気疲れそうだからさ」
「ん、フリアがそういうなら分かったと。一緒に付き合うと」
「ありがと……あの!!今少し時間あるので、対応できますよ!!」
みんなから許可がもらえたところで、ボクは未だにこちらを見てそわそわしている人たちに声をかけ、こちらに余裕があることを伝える。すると、集まっていた人たちは嬉しそうな声をあげながらボクたちの周りに駆け寄ってきた。
「応援してます!!次のチャンピオン戦も頑張ってください!!」
「今日の試合、全力で応援します!!」
「ぼくも、大きくなったらフリア選手みたいになりたい!!」
「サインと写真お願いしてもいいですか?!」
「あ、ありがとうございます!!次のバトルも頑張るので、お願いします!!」
集まると同時に四方八方から投げられる応援の声と、写真やサインをお願いしてくる圧の波。その波が想像以上に強く、思わずびっくりししてしまったため、ボクは逃げるように一番近くにいたマリィに小声で相談を始めてしまった。
「な、なんかみんなからの圧強くない?」
「多分、あたしたちがこういうことをほとんどしないから、この期を逃したらもうないって思ってるのかもしれんね……」
「ああ~……」
マリィに説明されてふと今までの自分たちの行動を思い返してみると、確かに、ジムチャレンジを突破してすぐはヨロイ島とカンムリ雪原の方に姿を隠していたし、リーグ中はこそこそと動いて人目のつかないように動いていた。ボクたちからしてみれば、変な混乱が起きないようにと言う配慮の行動だけど、ボクたちと関わりたいファンたちにとっては、なかなか会うことの出来ない人物と言う扱いになってしまうだろう。ファンサービスが旺盛なジムリーダーが多いこの地域のことを考えれば、ボクたちの行動はサービスが悪いどころの話じゃない。
抑圧されていた感情が爆発した結果が、今の状況と言う事だろうか。ふと視線を横に向ければ、ユウリとホップも同じように人に囲まれていた。
「これは予想よりも時間かかっちゃうかなぁ……」
「どうすると?先に切り上げてスタジアム入りしとく?」
「ううん、大丈夫。それでも余裕はあると思うし、なんだかんだこうなったのは自分たちのせいでもあるからさ。ちょっとくらいなら……ね?」
「そっか。じゃああたしたちも最後まで付き合うと!!」
「ありがと。さ、対応頑張ろ!!」
予想よりも大変になりそうな展開だけど、ちょっと気持ちが軽くなっている面もある。そのことをマリィに暗に伝えながら、ボクはファンへの対応を始めていった。
☆
「ありがとうございました!!大切にします!!」
「いえいえ、こちらこそ、次も頑張るので応援お願いします!!……ふぅ、んん~……これで終わりかな」
急遽始まったファン対応から数十分後。ボクの前から最後のファンが離れていき、これで対応を全部終えたボクは、ちょっとした疲労感をため息とともに吐き出し、同時に伸びをして身体を軽くほぐしていく。
程よい疲労感が抜ける感覚がちょっと心地よく、バトル前の息抜きとしては結構いい感じだ。
「お疲れ様フリア」
「ありがとマリィ。そっちも終わった感じ?」
軽くストレッチしているところに声をかけてくれたのは、すぐ近くで対応していたマリィ。声に反応をして首を向ければ、マリィの周りにも人はおらず、対応をすべて終えた後の疲労を抜くために同じように伸びをする姿が見れた。この状況を見れば、正直聞くまでもなかったかもしれない。
「見ての通り、こっちも終わってると。っていうか、フリアが一番最後と。まぁ、最後まで勝ち残っているし、妥当っちゃ妥当とね」
「お、もう終わったのか?お疲れ様だぞ」
「お疲れ様フリア。これ、買ってきたから飲んで」
「2人もお疲れ様、そんでもってありがと。対応で沢山喋ったからちょっと喉が渇いちゃったや」
マリィにボクが一番最後と言うことを伝えられたところで、同じくとっくの前に対応を終えていたらしいユウリとホップも飲み物を片手に返ってきていた。近くの自動販売機で飲み物を買っていたらしく、自分で飲んでいるものに加え、未開封のペットボトルを2つ別で持っており、それをボクとマリィに渡してきた。
お礼を言いながら受け取ったボクは、ちょっとお行儀が悪いけど、喉を潤すためにその場で開封し、飲みながらみんなに話していく。
「さて、今何時くらい?まだ時間的には間に合うとは思っているんだけど……」
「残り1時間切ってるくらいだな。走る必要まではないけど、向かっては起きたい時間って言ったところか?」
「そうとね。フリアが向こうでしたい準備もあるだろうし」
「なら早速向かおっか。私たちも、席を確保する時間欲しいもんね」
「じゃあ、改めて出発!!」
ボクの質問に対して順番に答えてくれたみんなに頷きを返し、シュートスタジアムへ向けて足を進めていく。ホテルを出た時と同じように、リラックスし、和気あいあいとした雰囲気の中歩くボクたちの足は、ファン対応を挟んで事で更に余計な力が抜けたおかげか更に軽くなっており、気づけばシュートスタジアム付近まで近づいてきていた。
「あ!!フリア~!!みんな~!!」
「え?……あ、ソニアさん!!」
シュートスタジアムまで近づいたところで、再びボクを呼ぶ声が聞こえてきたので、また『ファンからの声援かな?』と思いながら首を向けてみると、今度はボクが知っている人がそちらの方から駆けてきた。
その人物の正体はソニアさん。
ガラル地方の伝承について彼方此方調べ回っていた、未来のポケモン博士である彼女とは、本当に久しぶりの邂逅で、ついついテンション高めの声で返事をしてしまった。そのせいで、一部の人がこちらの方に視線を向けてきたけど、それ以上に久しぶりにソニアさんに会えたことが嬉しくて、ボクは勿論、ユウリとホップも少し駆け足気味でソニアさんの方へ向けて走り出した。マリィだけは、ソニアさんと深くかかわり合いがあるわけではないので、少しだけゆっくり目に追いかけている状況だ。
戦闘直前のサプライズとしては、かなり嬉しい出来事だ。
「私たちもいるわよ。おはようフリア」
「……ごきげんよう」
「みささま、おはようごいざいます」
「シロナさんにカトレアさん、コクランさんまで!!おはようございます!!」
さらにさらに、ソニアさんの近くまで走ったことで、ソニアさんの近くにいた他の知り合いにも気づくことが出来た。話し始めた順番に、シロナさん、カトレアさん、コクランさんの順番だ。ソニアさんと会えた事と同じくらいのサプライズに、よりテンションをあげながら挨拶を返すボクは、きっと満面の笑顔を浮かべていることだろう。ちなみにジュンとヒカリは、ジュンの寝坊によりスタジアム到着は遅れると連絡がきた。まったく何やってるんだか。
とまぁ、そんなバカのことは置いておいて。
シロナさんたちがこちらに来ていることは知っていたけど、強敵とのバトル続きのボクの集中力を気遣ってか、直接話しかけてくるということはあまりしてこなかった。なので、今回もその例に倣って、話すことはないのかなと思っていたけど、今回はチャンピオンとのバトルと言うこともあってか、こうやって声を掛けに来てくれたみたいだ。
「ふふ、チャンピオンとのバトル、気負ったりしていないかと思ったけど……その様子だと大丈夫そうね」
「……ヨノワールたちから伝わる感情も……うん……全部力強い……」
「血色もよさそうな辺り、睡眠も食事もしっかりとられているのでしょう。これなら安心してみることができますね」
「はい!!自分でもびっくりするくらい調子がいいですから!!」
ボクの様子を見に来た3人からの評価はかなり良く、みんな優しそうな笑みを浮かべてくれていた。そのことが、今日までボクがしてきたことが正しいと認められたみたいで、余計に嬉しさが募って来る。
「成程……わたしはその手のことはよくわからないけど、シンオウ地方のチャンピオンが言うのなら、間違いはないって事よね」
「一応、『元』チャンピオンだけどね……ていうか、ガラル地方のみんなはずっと私のことをそう呼ぶわよね……」
「あ、えっと……ごめんなさい。『シンオウ地方のシロナ』って名前は、それだけわたしたちにとっても印象の強い名前っていうか……その……」
「ああごめんなさい。別に攻めているわけではないの。むしろ、海を越えてそう呼ばれるほど評価していただけていることが嬉しくあるわね。それが、バトルに関してとてもストイックと言われているガラル地方の人達からだというのなら、尚更ね」
「ほっ……ならよかったわ。失礼働いていたらどうしようかって思っちゃった……」
一方で、今回が恐らくほぼ初対面となっているソニアさんとシロナさんが、ちょっとふわふわした会話を広げていく。少し緊張した様子で話しているソニアさんが、ボクの目には少しだけ新鮮に映った。
「気にしなくても大丈夫よ。それよりも、あなたもフリアに声をかけに来たのでしょ?」
「っと、そうだったわね……フリア!!」
「は、はい!!」
そんな2人の話がひと段落ついたところで、ソニアさんは腰に手を当てながら元気よくボクの名前を呼んだ。その迫力が凄まじく、呼ばれたボクも、同じくらいの声量で答えながら背筋を伸ばす。
「あなたたちをずっと見守ってて、その時からずっと、あなたたちの中の誰かとダンデが戦うところを見ていたいって思ってたの。そんな楽しみにしていたバトルが目前に迫ってて、わたし自身が戦うわけじゃないのに観るのをとっても楽しみにしてる!!だから……」
自分の思いを吐き出しながら喋るソニアさんの表情はとても明るいもので、本当に心の底からボクとダンデさんのバトルを楽しみにしていることが伺えた。ソニアさんはきっと、このドキドキを今だけのそれにしたくないのだろう。だから、楽しみという表情の中に、真剣さを内包してこう言葉を投げてくる。
「今日の試合、みっともない姿を見せたら承知しないわよ!!」
楽しそうで、真剣で、それでいて挑発的な応援の言葉。それがとてつもなくソニアさんらしくて。
「……勿論です!!」
想像以上に期待されていることに、嬉しく思いながらボクは言葉を返した。
ボクの心の中の火が、より強く燃え上がるのを感じる。
「うん、いい返事!!こう答えられるのなら、本当に問題は無さそうね。改めて、試合頑張ってね」
「ありがとうございます」
「いえいえ~。あ、そうだ!!あれからガラル地方の伝承について調べたら、色々面白いことがわかったの!!他にもいろいろ伝えたいことがあるから、落ち着いたらまたご飯食べながら話しましょ。その時は勿論、ホップたちも」
「おお!!また進展あったのか!!」
「そっちもちょっと気になるかも……」
「このバトルが終わったら、ぜひ聞かせてください!!」
「言われなくても、たっぷり聞かせてあげるから覚悟しなさいよね!!願わくば、そのご飯が祝勝会であることを祈ってるわ……さて、そろそろいい時間ね」
久しぶりに会ったソニアさんと話をして、ふと時計を見ると、ソニアさんの言う通り、時計の針がなかなかいい時間を指していた。もうそろそろ控え室で準備をしておいた方がいいだろう。
「じゃあ、準備してきます!!」
ボクの言葉に、ここにいるみんなが同時に首を縦に振る。ここまでたくさんの言葉をなげかけてくれたので、もう話す言葉ない。あとは、舞台に上がって全力で戦うだけだ。
(……よし!!)
みんなからの声援を受け、気を引き締めてボクはシュートスタジアムの扉に向けて足を進めていく。
(沢山の人が、見守ってくれてる……)
そのままシュートスタジアムの中に入り、スタッフの人に声をかけて、選手専用の通路を通り、控え室へ。
(沢山の人が、応援してくれている……)
そこでお馴染み、白のユニフォームに着替え、みんなを腰のホルダーに着けて、深呼吸。
(何よりも、沢山の人だけじゃなく、ボク自身がこのバトルを楽しみにしている……!!)
上がる心拍。燃える心。
(はやく……バトルしたい……!!)
気分は最高潮。これなら、最高のバトルができるだろう。
『フリア選手、入場をお願いします』
「はい!!」
スタッフの人に呼ばれ、気合十分のボクは、いよいよ始まるバトルに向けて足を動かす。
夢の舞台への幕が、あと少しであげられる。
☆
「いよいよ始まるぞ……!!」
「うん、頑張って応援すると!!」
「だね」
フリアを見送った私たちは、席の場所的な問題でシロナさんたちと別れ、観客席に3人で並んで座っていた。
今やガラル地方全ての人間が見つめるこの場所で、私たちの親友がバトルを行う。それが凄く楽しみで、私もそのバトルが始まるのを、今か今かと待ちわびていた。
……そのはずだ。
「……」
「ん?ユウリ、どうしたんだ?急にそわそわし始めて……」
「具合悪いと?無茶はいけんよ?」
「あ、ううん、そういう訳じゃないの。ただ……ううん、なんでもない!!」
「「?」」
凄く楽しみな瞬間だ。だけど、その瞬間に立ち会えるというのに、何故か私の心のモヤモヤは大きくなっていく。
(なんだろう……なにかが……足りない……?)
ファンの人たちの対応をして終わったあと辺りくらいから、妙な喪失感がずっと心を襲ってくる。
(でも、その足りないものが思い出せない……)
「あ、フリアが来たと!!」
「アニキも入場したぞ!!いよいよだな!!」
しかし、そんなモヤモヤに襲われている私の事なんてお構い無しに時間は進んでいき、いよいよフリアとダンデさんのバトルが始まろうとしていた。
「いやぁ、にしても本当にいい天気でよかったぞ」
「ほんと、清々しい程晴れとうね。まさか雲ひとつないなんて……」
「雲ひとつ……雲……」
太陽に照らされ、眩しいくらいに熱く輝いているバトルコートを見ながらそうつぶやく2人につられて空を見ると、確かに快晴と言うべき天候になっており、雲なんてどこにも見当たらない。きっとこれから行われるバトルをお日様も見たいのだろうと思わせるほど気持ちのいいその空は、しかし、私の心のモヤモヤを一気に大きくした。
「雲……雲……雲が、無い……っ!?」
そしてついに、心にかかっていたモヤが晴れ、同時に私は今まで
「ユ、ユウリ!?いきなりカバンを漁り出してどうかしたか!?」
「もしかして、ホテルに何か忘れ━━」
「いない!!」
「「え?」」
急に変な行動をした私に対して質問を投げかけてくるマリィとホップ。しかし、その質問に答えるよりも、もっと大変なことが起きてしまったとようやくわかった私は、質問への返答よりも、今この瞬間の出来事を口にすることで精一杯だった。
出かける時は、いつも私のカバンの中に入っている子。
ホテルを出る時も、楽しそうに跳ねていた子。
ファン対応の途中から、何故かすっぽり頭の中から抜け落ちた子。
「ほしぐもちゃんが……いない!!」
「「え?……っ!?」」
ようやく気づいた違和感の正体を口にした私。それに対する2人の反応は、最初は首を傾げた様子を見せ、その後に弾かれたような反応に変わっていく。この事から2人も私と同じく、ほしぐもちゃんのことを忘れさせられていたことが分かった。
「い、いつの間に!?っていうか、オレたちいつからほしぐもちゃんのことを……」
「そんなことよりも早くほしぐもちゃんを探すと!!」
「で、でも一体どこから探せば……」
にわかに騒がしくなる私たちはもはや試合観戦どころでは無い。ほしぐもちゃんを見つけ出すべく、早く行動を起こそうと動き出し……
『ハロー!!ガラル地方のみなさん!!そしてダンデ君にフリア君!!』
そんな私たちの動きを遮るように、シュートスタジアムのディスプレイに、とある人物が大きく表示された。
その人物の表情は、今までに見た事がないくらいに、晴れやかな笑顔を浮かべていた。
ほしぐもちゃん
いよいよチャンピオン戦……の前に、もう1つのいよいよが始まりましたね。実機ではあのような展開でしたが、今回はほしぐもちゃんがいます。その結果、どうなるのでしょうか?ほしぐもちゃんを初めて出したとき、あとがきで言った言葉の真意が発揮される瞬間です。むしろ、この後の展開を思いついてしまったがゆえに、ほしぐもちゃんを出そうと決めました。さて、その結果とは……