【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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299話

「……ええ。……ええ、わかったわ。ありがとう。こちらも出来る限り急いで向かうことにするわ。じゃあ、気をつけてね」

「……深刻そうな表情ね、なにかあったの?」

「ええ、どうやら凄くヤバい状況になっているみたいよ」

 

 突如ひかりだし、そして数を増やしたウルトラホールより現れた伝説のポケモンたち。その知らせは瞬く間に拡がっていき、ジムリーダーたちの踏ん張りによって広がっていた平穏の気持ちが、徐々に崩されていく。それでも、決して諦めることのないジムリーダーの姿のおかげもあって、まだ心が折れる所まではいってはいないものの、それでも、今までと比べて決して安心できるような状況ではなくなったことに間違いなは無い。

 

 それは、他の人に移動手段を譲ったゆえに、未だにバウタウンに帰ることが出来ていないルリナにとっては、心を焦らせる要因でしか無かった。幸い、こんな状況になっても、未だにバウタウンにはウルトラホールが空いたという話は聞かないので、まだ何とかなっていると言うのはまだ安心できるところ。しかし、急に空いた穴から伝説のポケモンが出てくるなんて言うとんでもない話を聞いた以上、それは恒久的な安心材料になることはない。むしろ、自分が着くまでどうか開かないでくれと祈るばかりである。

 

 そんなルリナの感情を、運転しながら故に正しく理解はしていないものの、同期の絆として気持ちを強く感じとっているソニアは、疑問をなげかけながらアクセルをさらに踏み込み、バウタウンへの道をさらに爆走していく。

 

「っ!?っとと……飛ばしてくれるのはありがたいけど、事故だけはしないでちょうだいよ?あなた運転荒いんだから……」

「そんなに荒いつもりはないのだけど……」

「お願いだからユウリやフリアたちは乗せるんじゃないわよ……んん、各地の空に新しくウルトラホールがいくつか開き、そこから伝説のポケモンと呼ばれる存在が現れたらしいわ」

「え……?」

「ちょ、お願いだから前見て運転しなさい!!」

 

 荒い運転で跳ねながら突き進む車のハンドルを握りながら、隣から聞こえた現状報告に思わず頭ごとルリナの方に向けて驚きの感情を見せるソニア。その姿に、割とマジめに自身の命の危機を感じたルリナが慌てて指摘することで何とか正気を取り戻したソニアは、首を前に向けながら、しかし今しがた聞いた言葉に対して、悪い冗談でも聞いてしまったかのように、少しだけ戸惑いながら言葉を返す。

 

「う、嘘でしょ?なんでそんなポケモンたちがガラル地方に……」

「そんな事言われても分からないわよ。けど、少なくとも、ルギアやホウオウと言ったポケモンが確認されている以上、わたしたちも急いで帰らないといけないということに変わりはないわ。だから、頼むわよソニア」

「分かっているわよ!!わたしの役目は一分一秒でも早く、あんたをバウタウンに届けること!!その点においては任せなさい!!こんな暗い道でも、絶対に届けるわ!!」

 

 自信満々に答える同期に、少しだけ安心感を覚えたルリナは、表情を緩めながら外に景色に目を動かす。

 

 ブラックナイトが始まって、空が黒におおわれたことで確かに視界はあまり宜しくない。ルリナ自身は普段車を使わないため、『自分はこんな場所では絶対に運転したくないなぁ』なんてぼんやり思いながら、まずバウタウンに戻ったら何をするべきかを考えていく。

 

 そんな中で、ふとその視界に違和感を覚える。

 

(……ブラックナイトで確かにガラル地方は暗い。けど……()()()()()()()()()()()?)

 

 車の外が明らかに暗い。それはまるで、なにかの陰に潜り込んでしまっているかのような暗さ。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

「何……この音……」

「え、何か聞こえるの?」

 

 1度気になってしまえば、周囲に対する警戒度は一気に上昇。すると、ルリナの耳になにかの音が聞こえてくる。この音に対して言葉を漏らしたルリナに対して、運転に集中していたソニアは、ルリナの放った言葉の意味を確かめるべく、少し窓を開けていく。

 

 

 ゴゴゴゴゴゴゴ……

 

 

「え、ほんとに変な音が聞こえる!?なにこれ!?」

 

 窓を開けたことによって、聞こえていた音がさらにはっきりと聞こえるようになった。これにより、ソニアも音がなっていたことに気づく。

 

「音の聞こえ方からして……上、かしら?」

 

 ここまではっきり音が聞こえれば、音の出処もおおよその想像が着く。聞こえてくる謎の音に引っ張られるように、ルリナとソニアは、車の窓から顔を出して視線を上に向けた。

 

「なっ!?」

「何よあの緑の物体!?ポケモン!?大きすぎない!?」

 

 その視線の先にあったのは巨大な緑。門松と、十二単の着物を来た女性を合わせたような姿と説明すれば、さぞ雅な見た目のポケモンという感想が出てきそうなものだけど、1番注目するべきはその大きさ。ダイマックスをしていることを加味してもとてつもない大きさをしており、下から見上げている今も、その全長を視界に収めきることが出来ていない。しかも驚くことにこのポケモンは、身体を倒した状態で、足元からロケットのように炎を噴射し、車と並走……つまり空を飛んで移動していた。

 

 あまりにも規格外なその姿に、ルリナたちは唖然するしかない。周りがいつの間にか暗くなっていたのは、この巨体の影に入り込んでしまっていたからだった。

 

 そのポケモンは、コードネーム、『UB04 BLASTER』。またの名をテッカグヤと呼ばれたポケモン。

 

 当然ルリナもソニアもこのポケモンのことは知らない。しかし、この存在が放つプレッシャーから、只者では無いことは理解出来た。

 

 と同時に、ルリナはあることに気づくと同時に、窓から身体を思いっきり外に出す。

 

 先程も言った通り、このテッカグヤは車と並走して空を飛んでいる。大きさの兼ね合いもあって、現在は少しずつ追い抜かされる形となって、徐々に離されていこうとしているが、向かっている先はどちらも同じだ。

 

 つまり、テッカグヤがこの後たどり着く場所は、ルリナたちと同じ場所……バウタウンとなる。

 

「っ!?ソニア!!車をさらに飛ばしてちょうだい!!」

「え!?えっ!?ってちょっとあんた何をするつもり!?」

「あのポケモンを止めるのよ!!このままだとバウタウンに直撃するわよ!!」

「っ!?」

 

 テッカグヤが目的を持って行動しているかどうかは分からない。しかし、このまま放っておいたらバウタウンが危険なことに変わりはない。こんな巨大なポケモン、通過するだけでどんな被害が出るかなんて考えただけで背筋が凍る。そのことを口にすれば、ソニアも直ぐに理解し、慌ててアクセルを踏み込む。

 

 速度をぐんとあげた車は、テッカグヤを猛追。追い抜かれ始めていた距離を再びゼロに戻し、テッカグヤの真下に潜り込んだ。

 

「ルリナ!!足は任せて!!でも振り落とされないように耐えてくれないと、この速度でそこまでは無理よ!!」

「わかってるわ。そこら辺の体幹は船に乗ってた時間が長いから慣れてる。平気よ」

 

 位置に着いたところで、ルリナは車の窓から身を完全に乗り出し、そのまま車の上で立ち上がり、腕を組んで仁王立ちする。

 

「こいつは、わたしが絶対に止める」

 

 相変わらず物凄い速度で走る車の上で、しかし、一切ぶれることなく立つルリナは、決意に満ちた瞳でテッカグヤを見つめる。

 

 バウタウンへ向かいながら、ソニアとルリナ対テッカグヤによるカーチェイスバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……みんなは無事だろうか……いや、心配している暇などないか。今の俺に出来ることは、みんなを信じて、早くこの夜を止めることだ」

 

 シュートシティから1番に飛び出し、そしてナックルシティに到達すると同時にキバナと別れ、ナックルシティにある地下施設に駆け込んだ俺は、その施設内の景色に目を奪われそうになるのをグッとこらえて、頂上へ登っていくエレベーターを探し回っていた。

 

 施設内はそこそこ広く、リザードンがいなければ方向音痴でまともに進めない俺にとってはかなりの迷宮になっていた。しかしここで迷う訳には行かない俺は、この施設内でもリザードンを呼び出し、リザードンに地図を見てもらうことで何とか目的地まで移動をし、程なくして目的のエレベーターを見つけることが出来た。

 

 これなら間に合う。そう思った俺だったが、そんな時にスマホロトムから連絡が入り、衝撃的な連絡を受けることとなる。

 

 それは、各地で伝説と呼ばれるポケモンが同時に呼び出され、暴れ始めたという知らせ。

 

 幸い、全てのポケモンに対して誰かしらが対処出来ているため、フリーになってしまっているものは存在しないが、だからといって安心は一切できない。俺の目が届かないところで、とんでもないことが起きているというのが、どうしても気になってしまう。

 

 しかし、それでも今はムゲンダイナを止めるのが自分の役目と自覚し、不安ながらもスマホロトムを切り、エレベーターに乗り込んで、この施設の頂上に移動しているのが今の状況だ。たしかに不安だが、このガラル地方にいるジムリーダーたちはみんな強く、信頼に足る人たちであることには変わらない。

 

 それでも、移動中のエレベーターと言う密室かつ無音……そして何より、到着まで待つしかないというこの時間のせいで、どうしても頭の中には色々なことが浮かんでしまう。

 

「……ん?また連絡か?」

 

 そんなモヤモヤする時間を過ごしていたら、ポケットより振動感じる。その振動の元凶に手を伸ばせば、先程自分に伝説のポケモンが来たことを連絡してきたスマホロトムに再び着信が来ており、電話に出るように催促してきていた。表示されている番号的にも、おそらくリーグスタッフの誰かからの連絡だろう。

 

 同時に、チャンピオンとしての勘が、猛烈に嫌な予感を発する。

 

「……もしもし、ダンデです。何かありま━━」

『ダンデさん!!大変です!!』

 

 警鐘を鳴らす第六感のせいで若干の抵抗を感じたものの、ここで電話に出ない訳には行かないので、応答ボタンを押して通話を開始。その後、まずは挨拶を入れて要件を聞こうと言葉を発すると、そんな俺の言葉を遮るように、スタッフの人が慌てて叫び声をあげる。この反応にさらに嫌な予感を膨らませた俺は、フタッフからの慌てた連絡を一言も聞き漏らさないように集中して耳を傾ける。

 

 そして、スタッフの言葉に、まるですてみタックルを喰らったかのような衝撃を受ける。

 

『シュートスタジアムに新しい穴が急に生まれて、そこからまたポケモンが出てきました!!』

「なっ!?」

 

 その内容は、ここに来てまた新しい穴の発生と、ポケモンが飛び出してきたという報告。

 

 これが既に穴があった場所なら、良くはないがまだマシだった。しかし、新たに穴が空いた場所は、今まで穴が確認されていなかったシュートスタジアムだ。

 

 チャンピオンリーグのさなかだったと言うこともあって、今ガラル地方で最も人口の多いこの場所に、急に訪れたこの危機はさすがに感化することが出来ない。それに、シロナさんの指示によって行動を開始したメンバーの中には、シュートシティを担当する人がいなかったはずだ。ジムリーダーたちはそれぞれのジムにかかりきりだし、フリア君たちはワイルドエリアへ足を進めている筈だから戻れない。マスタードさんたちも参戦してくれてはいるみたいだが、こちらもこちらでシュートシティ入口の波を抑えるので手一杯と来た。

 

(1番人の多い所が守りが手薄と呼ばれるほどにまで攻め込まれるとは……今から俺が戻るべきか?いや、ムゲンダイナを放置することは出来ない。しかし……くっ、どうやったって人が足りない)

 

「穴からでてきたポケモンの特徴は分かりますか?」

 

 現状だとどうやっても援軍を送ることが出来ない。せめて、現れたポケモンが他の場所のような伝説級のポケモンで無いことを祈りながら質問をする。しかし、現実はそんなに甘くは無い。

 

『はい、現れたポケモンは……ミュウツーです!!しかも、何故か2人居ます!!』

「なっ!?」

『今はまだ大人しくしていますが、いつ暴れ出すか分かりません!!そうなれば、シュートスタジアムは……』

 

 スマホロトム越しに聞こえてくる報告に、今度こそ思考が止まる。

 

 ミュウツー。

 

 幻のポケモンであるミュウの遺伝子を元に、とある科学者が色々手を加えたことによって生み出された人工ポケモンだ。遺伝子操作を繰り返す過程で手に入れたパワーはとてつもなく強大で、その火力は作り出した科学者でさえ制御出来ないほど。戦闘能力を高めすぎた結果なってしまったその姿は、最も凶暴な心を有するポケモンと称されるほどだ。

 

 そんな危険なポケモンが、何故か2人もシュートスタジアムに現れてしまった。これでは、いくら俺が今からシュートスタジアムにとんぼがえりしたところで絶対に間に合うことは無い。なんならマスタードさんたちでさえ間に合うか怪しいレベルで破壊活動が行われてしまうだろう。

 

(くそっ、いったいどうすれば……っ!!)

 

『ちょっと急になんですか!?あなたたちは━━』

『いいから、少しだけそのスマホをおれに貸してもらうぜ』

『あ、ちょっ!?』

「……?何かあったのですか?」

 

 この難題に対してどう立ち向かうのが正解なのか。答えを導くために必死に頭を回すが答えなんて全然出てこない。そのことに焦りを感じ、心の中で悪態をついていると、急に電話の向こう側が騒がしくなる。その事に不安を覚えた俺は、向こうの状況を聞くために質問を投げかけるが、その返答は直ぐには返って来ず、しばらく雑音がなった後に、ようやく声が帰ってきた。

 

『ふぅ、やっと取れたぜ……。ガラル地方はスタッフも体力ありありかよ……って、そんなことは今はいいな。ボンジュールガラルチャンピオン。この声ちゃんと聞こえているかい?』

「……ああ、聞こえているが……君はいったい……」

『おれたちのことは気にしないでくれ。ただの通りすがりのトレーナーさ。まぁ、ちっとばかし腕に自信はあるけどな。そこでチャンピオン、ちょっとした提案なんだが、このミュウツー2人組はおれに任せてもらえないか?』

「君にか……?」

『ああ。正確には、おれともう1人なんだけどな』

「君と……もう1人……」

 

 帰ってきた声は若干の生意気さを含んだ声だった。人によっては鼻につく声と、不満を抱くかもしれないその声は、しかし俺にはそうは聞こえず、自信満々に紡がれるその言葉からは、声しか聞こえてないはずなのに不思議な圧力があった。

 

『ああ。本当だったらそいつの声も聞かせてやりたいんだが……』

『…………』

『まぁなんだ。こいつは喋らないからわりぃ。そこはおれを信じてくれとしか言いようがないな』

「そうか……」

 

 そんな不思議な圧力を持った人と、もう1人いるらしい全く喋らない人間。その2人の話を聞いて、ふと頭の中にとある人物がよぎった。

 

「『ぼんじゅーる』と言う独特な挨拶と、全く喋ることのないトレーナーの2人組……まさか……君は……君たちは……!?」

『だ~から、おれたちのことはどうだっていいだろ?……で、任せてくれるかい?』

「どうでもいいことは無いだろう……わかった。あなたたちにシュートスタジアムを任せたい。良いだろうか?」

『OK任せな。しっかり守ってやるよ!!』

「ああ。……頼む」

 

 現状の1番の懸念点が思いもよらない方法をもって解決した。そのことに安堵した俺は、改めて今回手を貸してくれる最高の味方に託しながらスマホロトムの通話を切る。

 

 そして、役目を終えたスマホロトムをポケットにしまい込むと同時に、チンという電子音が鳴り響いた。それは、目の前の扉が開き、最上階へ到着したという合図。

 

(いよいよか)

 

 ガラル地方に発生した大量の伝説たち。

 

 確かにどれも不安で、可能ならば全てを相手して、みんなを守りたい。しかし、残念ながら俺という存在は1人しかいない。だからせめて、俺ができることを全力でやりきる事が、今の最善だ。

 

(みんなが各地で奮闘してくれている。なら、俺は俺のやるべき事を全うする!!)

 

 エレベーターを降り、そこから階段を少し登り、ついにたどり着いたナックルスタジアムの屋上。

 

 そこに待つは、黒いムゲンダイナと赤紫のムゲンダイナ。

 

「待たせたな、ムゲンダイナ」

「「ギュア……」」

 

 俺の声に反応した両者は、ゆっくりとした動きでこちらに視線を向けた。

 

 その瞳からは、今まで出会ったポケモンとは明らかに違うプレッシャーと、何故か怒りの感情を受け取った気がした。一瞬その感情に疑問を浮かべそうになるものの、ムゲンダイナが戦闘モードに移行していたのですぐに頭を切替える。

 

 このポケモン相手に、他のことを考えて勝てるとは思えないから。

 

「さぁ……勝負と行こう!!ブラックナイト!!」

 

 このガラル地方の未来は、俺の手にかかっている。そのことをしっかりと胸に刻みながら、俺はモンスターボールを投げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「OK任せな。しっかり守ってやるよ!!」

『ああ。……頼む』

「……ふぅ、これで心おきなく戦えるな。っと、サンキュー。返しておくぜ」

「ちょ、わわ……」

 

 チャンピオンダンデとの会話を終えたおれは、借りていたスマホロトムを元の持ち主に投げて返し、隣に立っている無口なライバルと一緒に足をスタジアムのバトルコートへ進めていく。

 

「あ、あの!!本当にあなたたちはなんなんですか!ここは危ないので関係者以外は……」

「さっきの話聞いてなかったのか?チャンピオンから直々にお願いされてるんだぜ?もう無関係じゃないさ。それよりも、お前も早く逃げることをオススメするぜ。じゃないと、さすがに守りながら戦える余裕は無いからな」

「……あなたたちは」

 

 そんなおれたちを必死に止めようとするリーグスタッフ。仕事熱心且つ、おれたちの心配をしているからこそのこの発言と行動は、スタッフとしては満点の動きだが、今この状況、そしておれたちに対しての行動となると赤点どころの話じゃない。いい加減うっとうしさすら感じ始めたおれは、軽く手であしらいながらミュウツーに視線を向ける。

 

「……わかりました。……シュートスタジアムを、お願いします!!」

 

 そんなおれの態度を見て、ようやく考えを改めたスタッフは、その言葉を残すと共に建物の中へと走っていく。

 

 どうやら、ダンデがおれたちに託したという点を信じるみたいだ。この切り替えの速さに免じて、さっきの赤点の下りは許してあげよう。

 

「さて……ミュウツーとのバトル……久しぶりだな。調子はどうだ?」

「…………」

「……って、聞くまでもねぇか」

 

 スタッフが居なくなったことで、この場にいるのはおれとライバルとミュウツーだけ。そんな状況について隣のライバルに声をかけてみるが、返ってくるのは相変わらずの無言。長年付き合っているからこそ、こんな反応をされても、おれはこいつが今それなりに昂っているのがわかるが、こいつを知らない人が今のやり取りを聞いたら、頭にハテナが量産されていくことだろう。いい加減少しくらいは話せるようになって欲しい。

 

「「グゥ……」」

 

 ミュウツーを前にしたおれたちの間にあるのは、いつもとさして変わらない空気。そこに緊張は見られない。そんなおれたちを視界に入れたミュウツーたちは、小さく声を漏らしながら睨みつけ、全身に力を込め始める。

 

 同時に、空気が震え始める。

 

「おうおう、あちらさんも昂ってるな。もしかして、おまえの気迫がうつってるんじゃないか?」

「…………」

「……ま、そうだな。昂っているのはおれも同じか」

 

 ライバルと会話をしている間にも、どんどんミュウツーの力は溜まり続け、やがてミュウツーを薄いピンク色の光が包み込んでいく。

 

 その姿を見て、おれとライバルは無意識のうちに、さらに闘争心に火をつけられる。

 

「…………」

「ああ……こんなにひりつく空気は久しぶりだ……楽しみだぜ」

 

 おれとライバルの手に、ボールが握られる。

 

 同時に、ミュウツーを包み込んでいたピンクの光が弾けた。

 

「「ヌ……オオオォォォッ!!」」

 

 光を弾いたミュウツー2人。その姿は、光を纏う前と比べて変化しており、片や筋肉が隆起した力強い姿に、片や身長が縮んだより神秘的な姿になっていた。

 

 その姿変化は、別の地方ではメガシンカと呼ばれている形態変化。

 

 ただでさえ凶暴なポケモンが、進化を超えた進化によって、さらに絶望的な状況へと傾いていく。

 

「メガミュウツーXとメガミュウツーY……いいねぇ、そう来ないとなぁ!!」

「…………」

 

 だが、おれとライバルは笑みを崩さない。

 

「パニクって力の制御もろくにできねぇお前たちに教えてやるよ」

「…………」

 

 なぜなら、おれたちは、自分が誰にも負けないことをよく理解しているから。

 

「おれたちが!!世界で1番!!強いってことをよ!!」

「…………!!」

 

 生ける伝説と呼ばれることの意味を理解し、その実力を自負しているから。

 

 おれたちとミュウツーの、勝敗が決まりきっているバトルが、幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テッカグヤ

伝説祭りを行うにあたって、私が書きたかったマッチアップが3つあるのですが、そのうちの1つのがこのルリナさんとソニアさんVSテッカグヤによるカーチェイスです。対戦環境では、UBの中で恐らく一番猛威を振るったポケモンによる一風変わったバトルですね。

ミュウツー

テッカグヤに続いて、書きたかったマッチアップその2。このために、ゲストとして参加していただいた初代2人組です。やはりミュウツーと戦うなら、この2人かなと。ダイマックス兼メガシンカと言う、絶望的な状況にもかかわらず、この2人が闘うとなると、不思議な安心感があるのはなぜなのでしょうか?




伝説祭りになったきっかけ。ほしぐもちゃんの登場によってと言いましたが、実はミュウツーに関しては登場の伏線が別にあったりしました。その時点で、このルートは確定していたり……と同時に、書きたいマッチアップ3つが思い浮かんだので、この展開に。カオスなガラル地方を楽しんでいただけたらと思います。




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