【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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302話

 オーナーさんから聞いた話を順番にまとめていくとこうなった。

 

 ローズ委員長のあのライブが終わり、空に異変を感じたオーナーさんは、まずはここに預けられているポケモンたちをボールに戻し、1箇所に纏めて管理。その後、あの吹雪による災害を想起し、またここが一時的な避難場所になると判断してすぐさ受け入れる体制を作成。たまたま近くにいたサイクツ兄弟はこのタイミングで合流し、これを手伝い、身体を休められる場所作りや、食料、燃料の調達を素早く行ったらしい。その準備が功を奏して、ブラックナイト開始と同時に、暴れだしたダイマックスポケモンから逃げるように駆けつけてきた人を、スムーズに案内できたらしい。

 

 この時に、この人たちと混じってアオイさんたちも合流。この預かり屋内が一気に騒がしくなり、人で溢れ始めたので、避難してきた人を落ち着けるためにアオイさんたちもオーナーさんの手伝いに参加。その時、外で大きな音が聞こえ、そちらに視線を向ければ、どうやら逃げてきた避難民を追いかけてきたらしいポケモンが何人かおり、預かり屋の前で暴れ始めたので、そのポケモンを止めるべく、サイクツ兄弟が外へ出てバトルをし、ここの防衛を始めていた。という時系列と役割分担だったらしい。

 

 その結果、預かり屋内のことは何とかなったものの、やはりここに進軍してくるポケモンに対する守備がかなり難しいらしく、サイクツ兄弟の2人では限界があったみたいで……ボクたちが到着したのは、本当にその限界が訪れるちょっと前だったらしい。ワイルドエリア駅に向かっていたら絶対に間に合っていない時系列なので、本当にこっちに顔を出して良かった。

 

「面目ない!!おれたちがもっと強ければ……!!」

「まだまだ特訓が足りなかった……!!」

 

 オーナーさんの説明の後に、悔しそうに声を上げながら頭を下げるサイクツ兄弟。話し方と、見た目通りの性格をしている彼らは責任感も一層強い。今回自分たちだけだったら確実に負けていたという事実に、本当に悔しさを感じてしまっているのだろう。けど、そんな彼らを責めるものはここには誰一人いない。

 

「いえ、あなたたちが勇敢に立ち向かってくれなければ、ここはもっと酷いことになっていました。おそらく、フリア君たちが来る前に、建物も壊されていたでしょう」

「そうなったら本当に一大事。避難してきた人やポケモンの中に、犠牲者が出ていた可能性もあるわ」

「わたしたちは戦えないから……むしろ、責任を全部押し付けちゃってごめなさい!!そしてありがとうございます!!」

 

 逆に、この一番大変な役割を託すしかないスミレさん、ヒマリさん、アオイさんは、サイクツ兄弟に対してお礼をする。バトル経験がない彼女たちにとっては、こうやって前に出て戦ってくれるだけで十分嬉しいし、助かっている。実際、彼らが頑張ったおかげでボクたちは間に合うことが出来たのだ。その事は本当に凄いし、誇るべきだ。

 

「ボクからもお礼を言わせてください。友達を守ってくれてありがとうございます!!」

「あたしからも!!本当に助かったと!!」

「お前たち……」

 

 アオイさんたちにならってボクとマリィも頭を下げて礼を言う。

 

 このことが意外だったのか、サイクツ兄弟の2人は驚きで固まってしまったが、ボクたちの瞳から、今言ったことが本心であるとしっかり伝わったのか、2人は表情を柔らかくしながら口を開く。

 

「……そう言って貰えるなら、頑張った甲斐があるってもんだ!!」

「アニキの言う通りだ。本当に、守れてよかった!!」

 

 そういう2人の表情はとても明るく、いつものテンションに戻っていく。うん。これでこそこの2人って感じだ。

 

「以降の守備はボクたちに任せてください。絶対に守り抜いてみせます」

「今回に関しては、あたしたちだけじゃなくて助っ人もいるけんね」

「フリアの友人として、一緒に恩を返します」

「腕には覚えがあるから任せてちょうだい」

「オレもしっかり守らせて貰うぜ!!」

 

 サイクツ兄弟が繋いだバトンは、今度はボクたちが握る番だ。それをしっかりと伝えるために、ボクとマリィだけではなく、一緒に来ているコウキ、ヒカリ、ジュンも、自信たっぷりに声を上げる。そんなボクたちの言葉に安心感を感じたサイクツ兄弟は、穏やかな声をもって返答する。

 

「リーグでも大活躍だった2人と、そんな2人が信頼している友人たちなら、オレたちも安心して任せられるな」

「申し訳ないがオレとアニキのポケモンはどっちももう戦えない。オーナーたちの手伝いは出来るが……そっちは任せるぜ」

 

 未練がない訳では無い。けど、自分以上に安心できる相手がいるのなら、そちらに任せられる。そういった大人な対応をしたサイクツ兄弟は、改めてボクたちに『頼む』といった視線を向けながら、預かり屋の奥の方へと足を進めていく。おそらく、備品の確認などをしに行ったのだろう。

 

「さて、ここまでの振り返りはもういいわね」

「はい。おおよそのことはわかったので振り返りは大丈夫です」

「それじゃあ次は、これからあなたたちにして欲しいことを伝えるわ」

 

 話が一段落した所で、オーナーさんから告げられるのはこれからの話。

 

 ボクたちがここに来て、サイクツ兄弟の代わりにポケモンを退け、一時の平穏こそ受けることはできたものの、ブラックナイトが解決したわけではない。もう少し時間が立てば、再びここにポケモンたちが進行してくることだろう。だから、ここからさらに何かしらの対策や行動をたてる必要がある。さもなければ、ここにいる人たちを守ることはできないだろう。それをわかっているボクたちは、オーナーさんの言葉にしっかりと耳を傾ける。

 

「フリア選手は泊まったことがあるから分かるかもしれないけど、この施設は宿泊施設ではないからそこまで広いわけではない。でも、一応ここは緊急時の避難場所にはなっているの」

「はい、その節は本当にお世話になりました」

 

 あの時もたくさんの人がここにお世話になったことによって、今回と同じくらいの人数が泊まっていた。あの時も、なかなかに大変なことになっていた覚えがある。

 

「いえいえ。……それで、緊急避難場所になっているこの預かり屋なのだけど、この施設、実はちゃんとSOSを受け取る受信機みたいなものも置いてあるの。これはワイルドエリア内で危険な目にあったトレーナーを助けるための措置で、ワイルドエリア内の施設や、ワイルドエリア内を巡回する人たちの端末に、SOSの信号が届くシステムね。フリア選手が遭難してきたときは、吹雪が強すぎて通知が機能しなかったから、使われることはなかったけどね」

「確かに、あの時は救援要請とか通信がつながらなかったですもんね……」

「フリア、そんな目に合ってたんね……」

「なんというか、ここに来ても相変わらずの巻き込まれ体質なんだな……」

「あ、あはは……ボ、ボクのことはいいので先の話を……」

「え、ええ……」

 

 マリィとコウキから同情の視線を向けられて思わず苦笑い。その様子から、普段から変なことに巻き込まれているのかと悟ったオーナーさんからもちょっとかわいそうな視線を向けられてしまい、ちょっといたたまれない気持ちになってしまったので、空気を変えるためにも無理やり話題を断ち切る。それを察してくれたオーナーさんは、苦笑いを浮かべながらも続きを話し始めた。

 

「で、問題はこのSOSの受信機なのだけど……今もひっきりなしに響いているのよね」

「……ってことは、今この瞬間にも、助けを求めている人がいるってことですね」

「ええ。あの吹雪と違って今は通信施設が全部生きている。そして、あの時以上に被害が拡大している。勿論、この施設以外にも避難所として機能している所はあるでしょうけど、それでも、ワイルドエリア内で一番整っているのはここだと思うわ。だから、今助けを求めている人は出来る限りここで引き受けてあげたい。でも、残念ながら今の私たちに、その人を迎えに行くだけの力も余裕もない」

「その役割を、わたしたちに担って欲しいってことね」

 

 

 オーナーさんの悔しそうな声に対して乗っかるヒカリ。この言葉に、オーナーさんは申し訳なさそうに頷きながら言葉を続ける。

 

「無理を言っているのは分かるわ。やることも多いし、ここを守る必要もあるのだから、ここを守りながら遠くの人を助けるという矛盾したことを言っているもの。でも、あなたたちが来てくれたのなら、それもできると思ってしまった自分がいる。……ここに連れてきた人たちの世話はこちらで責任もってやり遂げる。だから、あなたたちにはそれまでの案内と、その環境を守る役目を頼みたいわ」

 

 オーナーさんから、いつになく真剣な視線を向けられる。

 

 普段からお客様の大切なポケモンをしっかりとあずかり、面倒を見ているこの人にとっては、人間だってその対象に無意識になっているのだろう。きっと、吹雪の時にしっかりと受けきれなかったことに対する後悔も大きいはずだ。

 

 自分の出来る範囲で、とにかくたくさんの人を助けたい。そしてその手を届かせられる範囲が他の人との協力で伸びるのなら、伸ばしたい。そんな優しい心がしっかりと見え、同時に、頼らないと自分の手を広げられないという悔しさも感じるその姿を見て、ボクは是が非でも手を貸したくなった。

 

「わかりました。要約すると、ここを守ることと、助けを求めている人の回収……それがボクたちにやって欲しいことですね」

「やることが明確化してきたな!!燃えてきたぜ!!」

「……ありがとう、お願いします」

 

 ボクとジュンのやる気に満ちた声を聴いて頭を下げるオーナーさん。その姿を見て、コウキとヒカリ、マリィも、やる気を滾らせながら頷く。

 

「フリアさん、マリィさん……皆さん、頑張ってください!!」

「危なくなったらすぐに戻ってきなさい。その時はわたしたちがしっかり看てあげるわ」

「あなたたちは保護する側の人間でありながら、される側でもあります。無茶はしないでくださいね」

 

 やることを決め、今から行動しようとするボクたちに対して、今度はアオイさんたちから応援と安心させてくれる言葉を贈られる。

 

 ボクたちには、帰る場所がちゃんとある。そのことを再確認させてくれることによって、緊張に強張った身体が少し解れる。

 

「ありがとうございます!絶対にちゃんと帰ってきます!!」

「あたしたちが帰ってこなかったら、アオイたちも悲しむもんね。そんなことはさせたくなかと」

「だな。それにダンデさんの件もあるし、ここで倒れるわけにはいかないぜ」

「ユウリとホップも頑張っていることだしね。わたしたちが頑張らなくてどうするのって話よ」

「現シンオウチャンピオンとして、恥ずかしい所は見せられないからな」

 

 言葉を受けて、いつも通りのテンションで臨むボクたちの言葉は、いい意味で誰も緊張していない。これなら、問題なく戦うことができるだろう。それを感じ取ってくれたアオイさんたちも、安心したような表情で預かり屋の奥へと歩いて行く。これからまた備品の整理とかをするのだろう。彼女たちも彼女たちで、ボクたちとは別の戦いが待っている。

 

(お互い頑張らないとね)

 

「これがSOS受信地点を表示する端末よ。持っておいてちょうだい」

「ありがとうございます」

 

 奥に向かっていくアオイさんたちを見送ると、オーナーさんからワイルドエリアのマップが表示された端末が渡された。そのマップにはいくつかのオレンジ色の点が点在しており、おそらくこの点の所にSOSを発信した遭難者がいると思われる。ここに行くことが、ボクたちの目的のうちの半分なのだろう。

 

「……気を付けてね」

「はい!!……行ってきます!!」

 

 これで準備は整った。後は外に出て、やることをこなすだけだ。

 

「いくよみんな」

 

 ボクの言葉に頷いたみんなは、言葉は返さなくても伝わるくらい自信満々な笑みをもってついてきてくれる。

 

 みんながいるなら、安心して戦える。

 

「ギャォ!!」

「キキィ!!」

「フォォ!!」

 

 扉を開けて外に出ると、そこにはファイヤーたちが待っていた。

 

 地面に足をつけて、悠々と翼を広げ、プレッシャーを放つことで、ここに来るポケモンを牽制してくれていたらしい。本当に頼りになる子たちだ。

 

 しかし、それでもパニックをこじらせたポケモンたちは多いみたいで、こちらに迫ってくるポケモンたちは多くいた。

 

「ありがとうファイヤー、サンダー、フリーザー。けど、もっとお願いしてもいい?」

「ギャォ」

「キキィ」

「フォォ」

 

 ここまで頑張ってくれたファイヤーたち。けど、ボクたちがこれからやることを考えればここからが本題だ。その本題に、ファイヤーたちも巻き込むことに少し申し訳なく感じながら声をかけてみると、ファイヤーたちは『気にするな』とでもいうように優しく返事を返してくれた。それが嬉しくて、少し微笑みを浮かべる。

 

「ありがと……じゃあ、ここの防衛を任せていい?ボクたちは遭難者を助けるために、いろいろ回りたいからさ」

「ギャォ……?」

「ううん、そっちは大丈夫だよ。ファイヤーたちで移動しちゃうと、見つけた遭難者を移動させる手段に困るからさ」

「ギャゥ……」

 

 ボクの提案に対して、『自分たちが乗せて移動した方がいいのでは?』と提案してくれるファイヤーだけど、そうなると遭難者を回収できないので、ありがたい申し出だけど断っておく。すると、少し申し訳なさそうな声をあげながらしょんぼりとした声をあげる。……ちょっとかわいい。

 

(ちょっと申し訳ないけど、ファイヤーたち伝説のポケモン特有のプレッシャーは、ポケモン避けに凄く役に立つからね。適材的所を考えるのなら、多分この方がいいよね)

 

 頭を下げているファイヤーの嘴をやさしくなでて、改めて前を見るボクたち。その視線の先には、また集まり始めた沢山のポケモンの群れ。これに対して、コウキから順番に口を開く。

 

「まずはこの群れを突き抜けて、ワイルドエリアの各所へ移動開始だな」

「勿論、別行動するわよね?」

「だな。その方が効率がいいぜ」

「けど、個人すぎると緊急時の対応が遅れそうと」

「ならボクたちを3つの班に分けよう」

 

 ヒカリとジュンが別行動を提案し、マリィが別れすぎることに対するリスクを考えた。なので、ボクは2つの意見の折衷案を提唱する。

 

「ヒカリとコウキで北のナックルきょうりゅうに、ボクとマリィは南西のこもれびばやしで、ジュンは南東のきょじんのこしかけ方面に移動で」

「オレだけ1人かよ!?」

 

 サッと頭の中で思い浮かんだ、このワイルドエリアに来るまでの3グループを再び活用し、ボクたちのグループを分ける。すると、唯一単独行動になるジュンが文句を言いだしたけど、それに対する反論をぶつけていく。正直、ジュンは一人でも十分な要素がこれでもかってくらい揃っているからの判断なんだけど、本人はそれに気づいていないみたいで。

 

「だからその分近い所を選んだつもり。それに……」

「キキィ!!」

「おわぁ!?サンダー!?」

 

 その最たる例である、隣のサンダーの姿にようやく気付いたジュンが、変な声をあげる。

 

「ジュンにはサンダーがついてきてくれるみたいだよ」

「え、でもここの防御はいいのか?」

「そこはファイヤーとフリーザーが張り切ってくれるみたいね。良かったわね、気にいられているみたいよ」

「そうなのか……じゃあ、頼んでいいか?」

「キキィ!!」

 

 ボクとヒカリからの後押しを聞いて納得をしたジュンは、少し嬉しそうにサンダーに言葉をかける。これに対し、サンダーも自信ありありと答えるあたり、本当にヒカリの言う通りなのだろう。まけんきなサンダーと、せっかちなジュン。なるほどなかなか似ているところがあるような気がし始めた。

 

「じゃあ話はこの辺にして、そろそろ行くか!!」

「まずは、このポケモンの群れを突っ切って、外に出るところからとね」

「キキィッ!!」

「サンダー?どうした?」

 

 話が纏まったところで、いよいよ救出作戦開始。端末のマップ画像を全員のスマホに送り、準備が整ったところで、コウキとマリィの言葉を合図に早速動き出そうとした瞬間、サンダーが大きく吠える。このことに驚いたジュンが声をかけるが、サンダーは気にした素振りを見せることなく、両足に電気を貯め始め、そのまま思いっきりポケモンの群れに突っ込み始める。

 

「キキィッ!!」

 

 イカヅチの如き素早さで駆け出したサンダーは、その速度を活かしたまま、強力な飛び蹴りを放つ。

 

 その技は、ポケモンの群れに当たると同時に雷が落ちたかのような轟音を鳴らし、それでも勢いの止まらないサンダーの攻撃は、ポケモンの群れを突き抜け、反対側まで到達。ポケモンの群れは綺麗に左右に別れており、真ん中に綺麗な道ができていた。

 

「っ!!ありがとうサンダー!!ネオラント!!『おいかぜ』!!」

「フィッ!!」

「みんな走って!!」

 

 その様子を見て、サンダーの狙いをいち早く察したボクは、すぐさまネオラントを呼び出しておいかぜを発動。まるでビルとビルに挟まれることで、風の速度が上がる現象を真似したかのように吹いた風は、その間を通るものの背中を押していく。

 

「ゴウカザル!!『マッハパンチ』!!」

「ドダイトス!!『ロックブラスト』!!」

「エンペルト!!『ハイドロポンプ』!!」

 

 ボクの言葉と同時に走り出したみんなは、ポケモンの群れの真ん中をとにかく突き抜ける。それでも、サンダーの攻撃に怯む事無く、割れて出来た道を再び埋めるように詰めてくるポケモンもいたけど、これはボク、コウキ、ジュンのポケモンが技を放ち、押しのけることで道を維持。全員が走り抜けるまでの時間をしっかりと稼いでいく。

 

「よし、抜けた!!」

「サンキューな、サンダー!!」

「キキィッ!!」

 

 おかげでポケモンの群れからは思ったよりもあっさりと脱出。道はもう埋めつくされたため、預かり屋には簡単に戻れなくはなったものの、このままワイルドエリアの全域に向かうのであれば、問題なく進むことが出来る。

 

 ひとまず最初の関門を抜けたことに声を上げたボクに続き、ジュンはサンダーにお礼を一言。これに対し、嬉しそうなサンダーも声を上げて答えた。やはり相性はとても良さそうだ。

 

「まだ安心しちゃダメよ。後ろから来るわ!!」

「標的がこっちに切り替わっていると!!」

 

 しかし、まだ最初を乗り越えただけで、関門はまだまだ沢山ある。ヒカリとマリィの言葉に反応し、後ろを振り向くと、そこには先程突き抜けたポケモンの群れが一斉にこちらを向く様子が見えた。勿論、半分くらいは未だに預かり屋の方を見ているけど、残りの半分はさっきの大立ち回りが気に入らなかったのか、こちらに対して明らかな怒りの感情を見せてくる。このままこちらを追ってくれれば、預かり屋の守りは楽になるけど、その分救助活動に支障が出るかもしれない。

 

「おい!!前も見ろ!!また来たぞ!!」

「うわっ!?なんだあれ!?」

 

 そして、ボクたちが注意するべき敵は後ろだけでは無い。コウキとジュンの声に反応して前を見れば、今度はモスノウの群れが顔を出し、こちらに向けて全員が揃えて翅を動かし始める。

 

「挟まれた!?」

「やばいわ!!とにかくどっちかに抜けないと!!」

「なら進むしかねぇ!!『おいかぜ』がまだ残っている以上、戻るのは無理だ!!」

「じゃあ今度はおれとサンダーの攻撃でまた道を……!!」

「キキィッ!!」

 

 いきなりボクたちを襲ってくるまずい状況。そのことに焦るヒカリとマリィに対して、何とか状況判断をしたジュンが行動を提案し、それに乗ろうとしたコウキとサンダーがすぐさま技の準備。ドダイトスの岩と、サンダーのらいめいげりが再び構えられる。

 

「……?」

 

 けど、そんな緊迫した状況下で、何故かボクが感じたものは危機ではなく安心感。それが不思議で、つい首を傾げながらモスノウの群れの先頭を張っているポケモンを見つめる。

 

 カタカタカタ。と同時に揺れる、ボクの腰のモンスターボール。

 

「っ!?みんなストップ!!攻撃しちゃダメ!!このままモスノウたちの方に走るよ!!」

「「「「え?」」」」

「キキッ!?」

 

 このボールの揺れにより、全てを察したボクはみんなにストップをかけてすぐさま走り出す。そんなボクの突然の動きに、みんなは混乱しながらも何とかついてきてくれた。

 

 その間に、モスノウの群れは同時に翅を羽ばたかせ、ふぶきの構え。

 

「おいおい、本当に大丈夫なのか!?あんなの受けたらオレたち全員凍っちまうぞ!?」

「大丈夫……信じて」

 

 渦巻く冷気の塊にジュンを始め、みんなが焦りの表情を浮かべる。けど、1番前を走るボクを信じてとにかく走る。

 

 おそらくみんなにはとてつもない不安がのしかかっているはずだ。できるならその不安を取り除きたいけど、後ろから群れが近づいてきている以上そんな時間は無い。だから今は兎に角、ボクを信じてもらって走り続ける。

 

「フィィィッ!!」

『フィィィッ!!』

 

 そしてついに、モスノウの群れから冷気の塊が解き放たれた。

 

 空間全てを凍りつかせるその風は、まっすぐボクたちの方に飛んでくる。

 

「ほ、本当に大丈夫なんだろうな!?う、うわあああっ!?」

 

 もはや真っ白の壁がこちらに突っ込んでくるかのようなその迫力に、ジュンが声を上げながら、それでも前に走り続ける。

 

 ボクたちも走っている以上、その壁との距離は一気に縮まり、数秒と経つことも無く目前まで迫ってきた。

 

 そのままこの白い壁は、さらに勢いを増加させ……

 

「……あ?」

 

 ボクたちだけを綺麗に避け、ボクたちを後ろから追いかけるポケモンの群れに、ふぶきの塊が叩きつけられた。

 

「風が……勝手に避けた?」

「何があったと……」

 

 この現象に驚きの声を上げるヒカリとマリィ。足こそ止まってはいないけど、その視線は後ろにずっと注がれていた。

 

「……フォゥ」

 

 そんな中、ボクたちの頭上からひとつの声が聞こえる。そちらに視線を向ければ、そこには群れのリーダーのような存在感を放つ1人のモスノウの姿。

 

「フィィッ!!」

「えへへ」

「……フォゥ!!」

 

 そのモスノウを見かけたと同時に、ボクの懐からモスノウが飛び出し、嬉しそうな声を上げたので、ボクもつられて笑顔を見せる。すると、野生のモスノウは優しさと温かさを込めた声を一瞬ボクたちに返し、すぐさま視線をポケモンの群れに向けた。

 

 短いやり取り。けど、これだけで満足したボクとボクのモスノウは、お互いに顔を合わせて笑いながら、振り向くことなく前を向く。

 

「なるほど、そういう事か」

「こんなところにも繋がりね……ホント、フリアらしいわ」

「流石とね。あたしも負けらんない」

「え?どういうことなんだ?」

「キィ……」

 

 後ろから話し声が聞こえるけど、モスノウが作ってくれたチャンスを逃さないために今は走ることを優先する。

 

 あのモスノウたちが預かり屋の守備に手を貸してくれるとなった以上、もはや守りは磐石だ。もう、後ろを気にする必要は無い。

 

「これで預かり屋はもう大丈夫!!さぁ、救出作戦開始だよ!!みんな気をつけて」

「無事で合流を果たすと!!」

「ああ!!そっちも気をつけろよ!!」

「無茶はしないでよね!!」

 

 ボクの言葉が伝わったコウキ、ヒカリは、北方向へ離れていき、同じく理解したマリィはボクについて来る。

 

 ここからは別行動。迅速な行動が求められる大事な場面だ。

 

(さぁ……頑張るよ!!)

 

 スマホに映し出されているマップを見て、拳に力を込めながら、ボクは足をとにかく動かした。

 

「なぁ!!さっきのモスノウはどういうことなんだよおおおお!!」

「キキィ……」

 

 後ろから聞こえるジュンとサンダーの声を聞き流しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




モスノウ

人とだけではなく、ポケモンとの確かなつながりが、ここに。




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