【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

318 / 374
318話

 9番道路。またの名を、スパイクタウン外れ。

 

 文字通り、スパイクタウンから少し離れたところであるこの場所は、スパイクタウンと同様常に曇り空に覆われており、あまり気分のいい場所とは言えない。そんなスパイクタウン外れが、ブラックナイトの影響で黒い雲に覆われてしまって、ただでさえ少ないはずの日光をさらに遮断してしまっているものだから、もう環境は暗すぎるの一言に集約されてしまう。

 

 幸い、最低限の明かりは確保されているおかげで、足元が見えないほど真っ暗という訳では無いが、それでも視認性は悪く、人によっては歩くことすら怖くてままならないという意見が出てもおかしくないだろう。それほどまでに、今この場所はとても生活しづらい環境になっており……

 

「全く、嫌になるほど()()()()()()……」

 

 だからこそ、今この場を照らし出す太陽の光は、いつも以上の輝きを持って、この場とおれたちを眩しくライトアップさせていた。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 この真っ暗な場所を照らし出す、太陽のようなポケモン。

 

 あまり他地方のポケモンについて詳しい方では無いおれでも、その名前を聞いたことがあるくらいには有名なそのポケモン。

 

 炎を連想させる朱色と黄色の体色をしており、広げられている翼と尾羽は虹色に彩られ、その姿はまさしく太陽を象徴したポケモンと言うにふさわしい輝きと姿をしていた。

 

 ジョウト地方にて、生命の蘇生の伝承を持つ伝説のポケモン、ホウオウ。

 

 暗い場所に住むことを好むおれにとって、嫌になるくらい眩しいその姿を持って照らし出すその姿は、それだけでこちらが跪かされてしまいそうなほどの威厳をもって、存在感と圧を放ってくる。

 

 いや、今も羽ばたく度に、付近に虹を作り出してしまっているその姿を見てしまえば、本当に膝まづく人も沢山いるのだろう。このポケモンを攻撃しようものなら、それだけで一部の人から猛バッシングを受けること間違いナシだ。

 

「けどその眩しさは、ここにとっては強すぎていらないんですよ」

 

 しかし、そんなこと知るもんかと言うつもりで、おれはみんなと共に、この太陽の化身とも呼べるポケモンに歯向かっていく。

 

「行くぜお前ら!!ズルズキンは『かみくだく』でカラマネロは『サイコカッター』、バルジーナは『イカサマ』でどんどん攻めちゃいましょ!!」

 

 指示を出すと同時に、名前を上げた3人がダッシュ。空中に浮かぶ太陽に向かって臆することなく進軍し、それぞれが指示された技を構えて突き進む。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 この進撃に対してホウオウがとった行動はだいもんじ。口元に溜め込んんだ超高温のエネルギーを躊躇うことなく自身の足元に吐き出すことによって、自分の周りを一瞬のうちに火の海に変えてしまう。こうなってしまえば簡単に近づくのは難しい。

 

「ルジィッ!!」

 

 しかし、そんな状況であろうとも、空を飛んでいるため自由に行動できるバルジーナは、炎に焼かれない距離を維持しながら進軍を続行。自慢の足を黒く染め、相手の力を利用して蹴りを放つために近づいていく。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 炎を無視して近づいてくる敵を前に、警戒度を一段階あげたらしいホウオウは、自身の翼を白く輝かせ、ダブルウィングの構えを見せる。バルジーナに対しては炎ではなく、羽で迎え撃つみたいだ。

 

 そんなホウオウの思惑通り、空中でぶつかり合う足と翼は派手な音を立て、しかしそこは伝説のポケモンの力か、鍔迫りあうことすらなくバルジーナが大きく弾き飛ばされる。当たり前だが、1対1では逆立ちしたって勝てないだろう。しかしこちらのポケモンは1人では無い。

 

「ストリンダー!!『オーバードライブ』!!スカタンクは『バークアウト』!!音で相手の『みがわり』をすり抜けて殴ろうぜ!!」

「リッダァ!!」

「カァッ!!」

 

 別にホウオウがみがわりを行っているという訳では無いけど、いつもの癖で色々バラしながら技を指示すると、そんなおれのテンションに合わせて、2人も声を上げながら技を放っていく。

 

 黒と黄色の波動は、掛け声の大きさに比例してどんどん強くなっていき、宙に浮かぶホウオウに向かう頃には、2つの波動が綺麗に重なってさらに大きな攻撃となる。ここまで来れば、いくら伝説であろうと小さくないダメージが期待できるはずだ。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 しかし、そんな簡単に話が上手くいくわけがなく、こちらに負けないように声を上げたホウオウは、同時に全身に虹色に輝く焔を纏い、辺り全体を激しく照らし出す。

 

「『せいなるほのお』……やはり使ってきますか」

 

 ひと目でわかるその技のやばさ。それを証明するかのようにホウオウから放たれたこの炎は、一瞬のうちにオーバードライブとバークアウトを消し去り、そのままこちらに向かって飛んできた。

 

 こんな一撃を貰おうものなら、たとえ体力が満タンだったとしても一瞬でやられてしまうだろう。安牌は避けること。それしかない。が……

 

「タチフサグマ!!『ブロッキング』で受け流せ!!そんなマッチの火みたいなしょぼい攻撃なんて、簡単に消しちゃいましょ!!」

「グッマァ!!」

 

 そんな攻撃を前に、腕をクロスさせたタチフサグマが声を上げながらぶつかっていく。

 

 ブロッキング。

 

 相手の攻撃を防ぎながら、相手の攻撃が接触技であった場合は、相手の防御も下げることの出来る強力な防御技。まもるやみきりと違って変化技まで防ぐことは出来ないが、攻撃技を防ぐために使うのであれば、こちらの方が何倍も強いからおれとしては結構好みな技。

 

 しかし、そんな強力な技でも、変化技を防げないこと以外にもいくつか弱点はある。その1つが、接触技でない攻撃は、防げても相手の防御を下げられないこと。今回のせいなるほのおも、物理技でありながらも残念ながら接触技では無いから、防いだところでホウオウの防御は下がらない。まぁ、正直ここに関しては別に大きな問題では無いから、今はあまり気にする必要は無いが。

 

 問題はもう1つの弱点で、あまりにも強力すぎる攻撃は、ダメージを減らすことは出来れど、完全に防ぐことは出来ないという点。

 

 例えば、ダイマックス技など。

 

「グッ……マァ」

「マッチの癖に、ガッツはありやがりますか」

 

 勿論、せいなるほのおはダイマックス技では無い。なので、本来ならタチフサグマの防御力をもってすれば充分防げる範囲だ。しかし相手は伝説。完全に受け止めるにはやはり難しいらしく、追加効果であるやけどこそ貰いはしないが、微小なダメージは受けてしまっているように見える。

 

 やっぱり受け止めるよりも、回避することに専念した方がいいのだろ。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

「鳥の癖に鳥頭ではないんですか!!」

 

 改めてせいなるほのおの火力を確認したところで、再びホウオウから放たれるせいなるほのお。ブロッキングみたいな自身を守る技は、連続で行えば失敗しやすくなるというリスクがある。そこを狙っての連続攻撃ということなのだろう。伝説というのは戦い方も上手いらしい。

 

「ストリンダーは『オーバードライブ』でスカタンクは『バークアウト』!!カラマネロは『サイコカッター』でズルズキンは『ストーンエッジ』!!あんな『ひのこ』、消し飛ばせ!!」

 

 その炎に対して、こちらが取る行動は全員での反撃。ブロッキングしてすぐのタチフサグマと、弾き飛ばされた衝撃がまだ残っているバルジーナだけは参加してはいないが、さすがにここまで技を重ねれば、いくらせいなるほのおと言えども、何とか止めることは出来る。

 

 虹色の焔はこちらの技4つとぶつかり合い、相殺し、綺麗に辺りにちらばっていく。

 

「タチフサグマは『じごくづき』!!バルジーナは『イカサマ』!!騙して落として狂わせましょ!!」

 

 その隙に、動けるようになった2人を走らせてすかさず攻撃。黒く染った両手と両足で攻撃する2人の攻撃は、しかしすんでのところでホウオウに気付かれ、高度をあげることで避けられてしまう。

 

(これくらいの速度では避けられますか……なら次はもっと速く攻撃しないといけませんね……ひとまず、今はもう一度『ブロッキング』が使えるようになったことを喜びましょうか)

 

 今のやり取りをみて、自分の中の情報を更新して、次に挑むための準備を整えていく。しかし、ここまで考えた上でも、ホウオウの攻撃を避けるという選択肢は一切入らない。というより、入れるつもりがない。

 

 さっきブロッキングができない時も必死にせいなるほのおを止めたのだって、本来なら全員で避けた方が絶対に確実だし、そんな事は分かりきっている。けど、その上でおれは攻撃を受け止めるという選択を取り続けていた。

 

 その理由は、おれの背中にある。

 

「ネズさん!!こっちは大丈夫だから集中してくれ!!」

「そうです!!確かに初手はしくじっちまいましたが、これくらいなら━━」

「いいから、あなたたちもシャッターの中に入りなさい!!ここはおれがくい止めるので!!どの道その怪我では戦力になりません!!」

「「……ッ!!」」

 

 おれの背中から聞こえるのは、このスパイクタウンの住民かつ、エール団のメンバー。そして、そんな彼らの更に後ろに聳え立つのは、スパイクタウンの入口を守るシャッターの壁だ。

 

 おそらく、おれ以外のジムリーダーも、今はこうやって強力なポケモンたちを止めるために奮闘をしていることだろう。その場合は、ジムリーダーが1人でそのポケモンを抑える役を担っているはずだ。ジムリーダーとしての責務を重んじるこのガラル地方なら余計にだ。勿論そのガラル地方のジムリーダーにはおれも含まれているし、このスパイクタウンを守るために奮起はするつもりだが、ここでわかって欲しいのは、他の街での防衛戦とスパイクタウンの防衛戦では、そもそもの難易度が違うという点だ。

 

 他の街とスパイクタウンとの明確な差。それは、スタジアムがないと言うこと。

 

 スタジアム内に敵が現れてくれているのなら、周りへの被害は考えなくていい。なぜなら、観客を守るためのバリアが展開されるからだ。勿論、強力すぎる攻撃は止め切ることは出来ないため、完全に安心しきることは出来ないが、それでも幾分かマシにはなっているはずではあるし、気にしなくていい項目が増えるというのは、バトルに集中できるということの裏返しでもあるため、かなり戦いやすい状態で立ち向かうことが出来る。

 

 しかし、スパイクタウンにはそれがない。あるのは、町の入口を閉じる薄いシャッターが1枚のみ。そんなもの、ホウオウにとっては一撃で粉砕できるため、壁の機能すら果たせていないただの鉄くずでしかない。

 

 ホウオウが破壊行動をこのむポケモンでは無いため、意図してこの壁を壊しに来る。なんてことは無いはずだが、それでも流れ弾が後ろに突き刺さる可能性はゼロではない。となると、本来なら避けられる攻撃も、避ける訳にはいかなくなってしまう。

 

 町への被害だけは、絶対に許しては行けない。

 

 だからこそ、この予想を最初から考えていたおれは、このホウオウが現れてすぐ、スパイクジムのトレーナー何人かを連れて対処に当たったのだが、ここで予想外のことが起きてしまった。

 

 それは、開幕いきなりのダイバーン。これをかましてきたせいで、ジムトレーナーの方に大きな被害が出てしまったのだ。

 

 対面したと思ったらいきなり放ってきた大技を弾く技を準備することが出来ず、おれも反応が遅れたせいでポケモンの展開も間に合っていない。そこを、最初からポケモンを出していたジムトレーナーのみんなが、慌てて壁になりに行くことで、ダメージを肩代わりをして、難を逃れたという訳だ。

 

(おれが最初からしっかりと警戒しておけば……)

 

 どうしたってそんな後悔が頭から離れることは無い。

 

 幸い、ポケモンたちは治療できる範囲だったのと、人に怪我が及んでいなかったのだけは一息つけられる場面ではあったので、ポケモンで戦えない人たちには町の中に戻ってもらって、避難誘導や物資の調達、その他もろもろをお願いしたという形だ。しかしこちらの戦力は一気に削られてしまったことに変わりは無いため、おれがみんなの分を頑張る必要がある。

 

(こうなってしまったからには、何がなんでもおれが1人であいつを止めきってやりますよ……)

 

 ホウオウに負けてはいけないのは勿論、流れ弾をひとつたりとも許してもダメ。だから、ホウオウの攻撃は全部止める。

 

 避けられる攻撃もいくつかはあるだろうが、それでも、自分の後ろに町と人がいる以上、避けられない攻撃の方が比率はきっと高い。

 

 それでも、やらなきゃいけない。

 

 援軍は期待できない。

 

 今ここにいる数少ないジムトレーナーたちも、野生のポケモンの相手で手一杯だ。

 

(奮起しろ。おれの大事な……みんなが大好きな……そして、マリィが帰ってくるためのこの町を……守れ!!)

 

「ストリンダー!!『ばくおんぱ』!!激しく奏でちゃいましょ!!」

「リッダァッ!!」

 

 スタンドマイクを振り回しながら、自らを鼓舞するように声をはりあげて指示をすれば、その声に呼応するようにストリンダーも叫び、胸元の発電器官を掻きむしる。

 

 辺りに響くは耳を塞ぎたくなるほどの巨大な音波。空気を振動させるその波は、真っ直ぐホウオウへと向かっていく。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 この攻撃に対してホウオウは、翼を勢いよくはためかせてぼうふうの態勢。ホウオウを中心に荒れ狂う嵐が鎧となって相手を守り、こちらのばくおんぱを綺麗にシャットアウトする。

 

「まだまだ終わっちゃいないぜ!!ズルズキンは『ストーンエッジ』!!カラマネロは『サイコカッター』!!」

 

 この風に対してぶつけるのは、ホウオウに対して特大ダメージが狙えるストーンエッジと、それについて行くカラマネロの援護攻撃。ほのおとひこうの複合タイプであるホウオウにとって、いわタイプの技は致命的な弱点だし、今纏っているぼうふうに対してもそこそこの打開策が見込める。それでも少し威力が足りないかもしれないが、その後押しはカラマネロがしてくれる。そう信じて送り込んだ2つの攻撃は、その狙い通りしっかりとぼうふうの鎧を突きぬけ、中のホウオウへと進んでいく。

 

 しかし、ぼうふうを抜けることに殆どの威力を使い切った2つの技は、ホウオウに到着する頃にはかなり威力が下がってしまい、ホウオウが軽く翼を振るうだけで岩も斬撃もかき消される。

 

「バルジーナ!!スカタンク!!」

 

 けど、今の攻撃でぼうふうの壁に穴が空いたのは確かだ。その穴から攻撃を叩き込むために、バルジーナとスカタンクが先行。穴を通ってホウオウの近くまで接近した2人はすぐさま攻撃の準備を行う。

 

「バルジーナ!!『イカサマ』」

 

 潜り込んだバルジーナは両足を黒くしながらまたホウオウの目の前へ。そして同時に、ホウオウも両翼を白く輝かせることで、ダブルウィングの構えを取る。これで最初の2人の打ち合いの再来だ。

 

 しかし、あの時と比べて明確に違うのが、ここにもう1人、スカタンクと言う頼れる仲間がいること。

 

「スカタンク!!『ふいうち』で隙をついちまえ!!」

「カァッ!!」

 

 バルジーナとホウオウがぶつかりそうになったその瞬間、一瞬の隙をついてさらに1歩踏み込んだ位置に移動したスカタンクは、ホウオウが翼を動かすよりも速く前足を繰り出し、勢いよく叩きつけた。ホウオウからしてみれば予想もしていなかったところから来たその一撃は、自身の動きを僅かに鈍らせる。

 

 鈍くなったのは僅か1秒くらいの短い時間。しかし、接近戦においてそれだけの時間があれば、余裕で色んなことが出来る。

 

 ホウオウが怯んでいる間に、ホウオウの右側に回り込んだバルジーナは、今度こそ攻撃を叩き込むために、ホウオウの耳元まで一気に接近。そのまま両足を揃えてドロップキックをするかのように突っ込んでいく。

 

 スカタンクの攻撃で怯み、その間に動いたバルジーナを見失ってしまっていたホウオウにこの攻撃は避けられない。結果ホウオウは、右からの攻撃によって、顔を大きく左側に弾かれることとなる。

 

「いいぜみんな!!次は━━」

 

 

「ホァッ!!」

 

 

 ここが攻め時。そう判断したおれは、すぐさま他のみんなで追撃をすることを指示しようとしたところで、その声をホウオウの短い声でかき消される。

 

 気合を入れたような声を上げたホウオウは、蹴られた勢いを利用してそのまま左回転。この時、先程行おうとしていたダブルウィングをそのまま継続させて振るうことで、簡易的な360°の全包囲攻撃を行った。このせいで、範囲内にいたスカタンクとバルジーナは、大きなダメージこそ受けてないものの、大きく後ろに弾き飛ばされることとなる。

 

 ちなみに、先程までホウオウを守っていたぼうふうの壁は、スカタンクがふいうちをぶつけた時点で消えている。どうやらあの風の操作はかなり繊細らしく、攻撃を受けるだけでその操作は出来なくなってしまうらしい。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

「……来ますか。ストリンダー!!『オーバードライブ』!!ズルズキン!!『ストーンエッジ』!!」

 

 そんな、この先の戦いでちょっとだけ役立ちそうなことを頭の片隅に置いておきながら、バルジーナとスカタンクに戻るように視線を送っていると、今度は長く、天に向かって吠えるホウオウの声が響き渡る。その様子に、なにか嫌な予感を感じたおれは、何かをされる前に邪魔をするためにすかさず攻撃を指示。ホウオウの苦手とする攻撃にて無理やり動きを制御しようとするものの、ホウオウはこの迫ってくる攻撃に対してすぐに反応してだいもんじを発射。3つの技がぶつかり合い、盛大な爆発と突風が巻き起こり、それにあおられた周辺にいるほぼ全員が、飛ばされないよう耐えるのに必死で一切動けなくなる。

 

 そんな中、唯一普通に動くのがホウオウ。

 

 爆風をむしろ推進力と変えたホウオウは、高度を一気にあげて、おれたちをさらに高みから見下ろす状態へと移行。ほとんどの攻撃が届かない場所まで登りきった場所で、また大声を上げながら、翼に風を纏っていく。

 

「っ!!タチフサグマ!!『ブロッキング』の準備を!!ズルズキンとスカタンク、ストリンダー、カラマネロはそれぞれ遠距離技を準備して、バルジーナはこちらに戻ってください!!」

 

 その姿を見てさらに嫌な予感を募らせたおれは、全員に指示を出して準備をしていく。

 

 みんなも、おれの必死の声に何かを感じたことで迅速に対応をしてくれてはいるが、ホウオウの動きの方が僅かに速い。

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 先に準備が整ったらしいホウオウは、風をまとった翼を1回だけ大きく動かし、自身の前に、ダイジェットの元となる風の塊を作成。ありったけの力を込めたらしい、轟々という激しい音を立てているその爆弾は見ているだけで背筋が凍るほど。そんな風の爆弾を作って、少しだけ満足そうな顔を浮かべたホウオウは、表情を元に戻しながら、その風の塊に鋭いかかと落とし繰り出し、地面へとたたき落とす。

 

 落ちていく風の塊は、地面に着弾したと同時に溜められていた力を一気に解放。辺りに暴風を撒き散らしながら、その規模をぐんぐんと成長させ、気づけばホウオウを目とした、巨大な竜巻になって、周りを無差別に襲い始める。

 

「くっ……『ダイジェット』をこんな使い方しますかっ!!」

 

 距離を取り、防御を整えていたおれのポケモンたちは何とか耐えることが出来てはいたけど、周りにいた野生のポケモンやジムトレーナーのポケモンたちは、この災害級の攻撃に巻き込まれ、1人、また1人と、倒れていっていく。

 

(このままでは被害はどんどん大きくなってしまう……その前に止めなくては……っ)

 

 焦る気持ちを抑えながら、しかし迅速に対処しようと必死に頭を動かしていく。

 

「この風を止めるには……」

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

「っ!?」

 

 しかし、そんなおれの考えなんて踏み潰すかのように、竜巻の中心にいるホウオウの身体が虹色に輝き出す。

 

「まさかっ!?」

 

 その姿を見て、ホウオウが何をしようとしているのか気づくことは出来た。だが、その時には既に全てが遅く……

 

 

「ホ……アァァァッ!!」

 

 

 ホウオウから放たれたせいなるほのおが竜巻に巻き込まれ、虹色の台風が完成。全てを焼きながら渦巻く巨大熱風が、ただでさえ大きな被害を与えていた周囲に対して、オーバーキルを叩き込んでくる。

 

「これは……まずい……」

「グマァッ!!」

「タチフサグマ!?」

 

 あたり全体に撒き散らされる虹色の破壊は、その輝きから段々と前を確認することも難しくなり、ついには眩しさに負けて目を瞑ってしまう。

 

 そんなおれが見た最後の光景は、おれたちの前に立って、必死にブロッキングを構えているタチフサグマの後ろ姿。

 

 ホウオウの放ったこの攻撃は、ダイマックス技も含めた合体技。故に、ブロッキングのような身を守る技を持ってしても、ガードすることは不可能だ。それはタチフサグマだって理解している。けど、それでも彼は前に出て、みんなを守るために力を使った。

 

「タチ……フサグマ……」

 

 爆風と極光のせいで情報を全てカットされているおれに出来ることは、こうして言葉を発するだけ。

 

 そんなもどかしい時間を送ること数十秒。ようやく光と風が収まり、前が見えるようになったところで目を開いた。

 

「……本当に、伝説っていうのが嫌いになりそうですよ」

 

 そこで目の前に拡がっていた光景。それは、あらゆる場所が焼け焦げ、野生のポケモンもジムトレーナーのポケモンも全滅し、そして……

 

「…………」

 

 

「ホワアアアァァァッ!!」

 

 

 おれたちの盾となって、そのせいで倒れてしまったタチフサグマと、その先で風と炎を散らせ、大きくはばたきながら吠えるホウオウの姿。

 

「……何が太陽の化身ですか。今のあなたは間違いなく悪魔ですよ」

 

 その姿と、この地獄のような状況を前に、おれの口はそんな言葉を零していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。