『わあああああああああっ!!!』
ジム戦最初の一体がまさかのダブルノックアウト。なかなか見ることの出来ない、お互いの力が拮抗した激しい展開により会場の歓声は留まることを知らない。
ほのおのジムリーダーによる熱さを持った攻撃をも上回るほどの熱気に包まれた会場は、空気の熱さだけで言えば当事者であるボクたちなんかよりももっと熱くなっているかもしれない。
「戻って、キルリア……お疲れ様……」
「キュウコン、戻れ。よく頑張ったね」
しかし、当の本人たちはむしろかなり冷静に、静かに構えている。お互いがお互いのポケモンを戻し、労いながら次のポケモンの準備をする。
「さすがだフリア君。キュウコンの動きに驚きながらもちゃんと対策を取ってくる……見事な観察眼。それにマジカルリーフを足場にした空中機動も。これだから新しい風との戦いは楽しいんだ。ぼく自身が学べることも多いからね」
「ありがとうございます」
微笑みながら、しかし目の奥の炎はさらに燃やしながら話しかけてくるカブさんに汗を流しながら答える。
強い。
ただその一言が頭の中を占める。
ひかりのかべで止められないように尻尾におにびをつけて叩きつけるようにしてきたり、本来攻撃技では無いおにびを尻尾の勢いとひでりの効果を使って威力を上げて補ったり。豪快な火力によるパワープレイがよくよく目に映りがちだけどその影には経験と努力による細かいテクニックがたくさん隠されている。本来の手持ちでは無いはずなのにこの練度。カブさん自身のトレーナーとしての実力の高さがよく伝わってくる。
(これが登竜門……)
気合いを入れ直す。ここからもっときつくなることが予想されるから。
「さぁ、次はどんな手で来る?……行くぞ、ウインディ!!」
「ガルルオオオォォォッ!!」
気を引き締め直している間にカブさんの2匹目が登場。キュウコンのしなやかな上品さとは真逆の雄々しく力強い逞しい体格の四足歩行ポケモン。その大きなたてがみが彼の存在感をより一層引き立てている。
でんせつポケモン、ウインディ。
対するボクの2体目。
「……行くよ!!イーブイ!!」
「ブイッ!!」
預かり屋で孵り、ボクに懐いてくれた、ウインディと比べるととても小さく可愛らしいポケモン。意外なポケモンの登場なのか観客から若干の戸惑いの声が聞こえるけど気にしない。むしろこれでカブさんが少し油断でもしてくれれば御の字なんだけど……
「……ウインディ、気を引き締めていくぞ」
「ガルル」
(まぁ、そりゃそうよね)
一切無し。
「ガルルルッ、ガウッ!!」
「ブイッ!?」
「イーブイ、大丈夫!!いつも通り、頑張ろう!!」
「ブ、ブイッ!!」
ウインディの特性いかくにより少し及び腰になってしまい攻撃力を下げられてしまうもののすぐにフォロー。確かに怖いかもしれないけどイーブイにはボクがついている。安心させていつも通りのパフォーマンスをさせてあげたい。
「ウインディ、『おにび』!!」
「イーブイ、『スピードスター』!!」
一通りのやり取りが終わりすぐに攻撃に移る両者。飛んでくる紫の火の玉を星型の玉が相殺して爆発。
「イーブイ、『でんこうせっか』!!」
その爆発の煙が残っている間に駆け抜けてウインディに突撃。煙が晴れた時に映る状況はウインディにしっかりと攻撃を当てて帰ってくるイーブイ。今度のファーストヒットはこちらだ。
「続けて『スピードスター』!!」
「ブイッ!!」
尻尾を振り回し大量の星型弾を飛ばしまくる。孵ったばかりでもポケモンはポケモン。内包されている力は凄まじく、弾幕とも言えるその量が全てウインディに向かって飛んでいく。
「ウインディ、『かえんぐるま』!!」
しかしそれは相手も同じ。むしろ進化している分、素の力で劣っているため押し切られてしまう。体を丸め、前転を高速で繰り返しながらその身を炎で包んだウインディは、そのまま地面を走りながら星の波をモーセの奇跡の如く綺麗に半分に割り、その勢いのままイーブイの方へ駆けて来る。その様はまるで巨大なタイヤが転がってきているようだ。
「イーブイ、横に避けて側面にもう一度『スピードスター』!!」
ただ、スピードスターを掻き分けるのに威力を使う分、ウインディはその間に方向転換が出来ない。なら横に避けるのは簡単で、その側面に攻撃を当てれば容易にバランスを崩すことも出来る。
「ガウッ!?」
「『でんこうせっか』で追撃!!」
かえんぐるまの側面にスピードスターを受け、バランスを崩して倒れたところにすかさずでんこうせっか。再び攻撃をクリーンヒットさせる。だけど……
(きっついな……)
いかくで攻撃を下げられているうえ、レベル、体格、能力、どれをとっても相手の方が格上。着実にダメージを与えられてはいるものの、相手の攻撃ひとつでこちらが致命傷になりかねない。こうなってしまった理由はさっきあげたレベルとか能力とかは勿論ある。けどそれ以上に誤算だったのはこの天気だ。
(キルリアでもう少し戦いを長引かせておきたかった……)
キルリアとキュウコンの戦いが思いのほか早く終わってしまったことが大きな原因だ。
1度言ったけど天候変化は永続ではない。
時間が経てば勝手に戻るのだからジメレオンがいることもあり、こちらは時間を稼げば稼ぐほど有利になる。本来ならば離れて敵の攻撃をいなして時間を稼ぐつもりだったのに、尻尾におにびを纏って中距離主軸のでんこうせっか混じりの高速攻撃なんて仕掛けられたらこちらから懐に飛び込むしか勝機がなくなってしまう。恐らくそれも計算に入れてのあの攻撃。何とか引き分けに持っていけたものの全然時間を稼げていない。思惑としては間違いなくカブさんの計算通りに試合は進んでいる。
「ウインディ、『かえんぐるま』!!」
「くっ、『スピードスター』!!」
ひでりにより轟々と燃え上がる炎の車輪は再びイーブイに向かって飛んでくる。それをスピードスターで勢いを抑えてさっきと同じように避けるために動く。しかし……
「さすがに2度はないよ!!『かみつく』!!」
「なっ!?」
スピードスターをあらかたかえんぐるまで消し飛ばしてすぐにかえんぐるまを解除。自由に動けるようになった瞬間目の前で回避行動を取ろうとしているイーブイに向かってその狂暴な口を大きく開く。
「ガウッ!!」
「ブイッ!?」
「イーブイ!?」
「ウインディ、叩きつけろ!!」
逃げようと動いていたところにかみつかれるイーブイ。尻尾にしっかりと直撃している攻撃にイーブイが思わず声を漏らす。さらに追撃とそのまま振り回し地面にぶつけようとする。
「イーブイ、『スピードスター』を口の中に!!」
「ブ……ブイッ!!」
「ガウッ!?」
「ウインディ!!無理せず離れるんだ!!」
けどただやられるつもりはもちろんない。こちらには尻尾を起点に発動できる技がちゃんとある。口の中で一気に溢れていく星の弾幕にさすがのウインディもたたらをふみ下がらざるを得ない。
「イーブイ、大丈夫?」
「ブ、ブイッ!!」
若干怯んでいるものの大丈夫と大声で叫び返してくれるイーブイ。手痛いダメージではあるもののまだまだ元気な様子だ。初めての大舞台での戦いってこともあり張り切ってくれている様子だ。無茶はしてほしくはないけどこの様子ならもう少しは耐えてくれるかもしれない。
(けどやっぱり火力不足は否めない……長期戦はどっちにしろ望むところだからここはやっぱりスピードスターでしっかり牽制して、うまくでんこうせっかの連撃を決めないと厳しそうかな?ここはじわじわと!)
「イーブイ、まずは『でんこうせっか』で駆け回って!!」
ウインディを中心に縦横無尽に駆け回り、ウインディをかく乱する。その駆け回る姿はまるでアウトボクサーが相手を中心に右回りにステップをする行動に似ている。このあたりの動きはルリナさんのサシカマスを参考にした動きだ。
「そのまま『スピードスター』!!」
駆け回って攪乱しながらのスピードスター。中心にいるウインディの四方八方から星形弾が飛来していき釘づけにしていく。一発一発の威力は低いもののじわじわと、そして確実に相手の体力を削っていく。囲まれるように迫ってくる攻撃のためウインディも思うように動けずにひたすら攻撃を受け続けている。
「ウインディ、『おにび』だ!」
「弾いて!!」
苦し紛れに放たれるおにび。しかしそれくらいならでんこうせっかで動いている今なら躱せるし、万が一こちらに来たものがあったとしてもこうやってスピードスターで弾くことが……
「いまだ、飛べ!!」
おにびに対してスピードスターを放ったことによりほんの少しだけ弾幕が薄くなった瞬間をついて空に飛ぶウインディ。
「飛んだところで空中じゃ身動きが……」
「ぼくのウインディなら行けるさ!!『こうそくいどう』!!」
空中にいるウインディの姿が一瞬ぶれる。
「っ!?イーブイ!!防御!!」
「ブイッ!?」
何が何だか理解出来ていないイーブイだったけどボクの言葉を聞いて慌てて防御の姿勢を取る。その数秒後吹き飛ばされるイーブイだけど、身構えてたおかげで軽傷で済み、空中で受身を上手くとって着地。しかし……
「着地を狩るんだ!!」
着地を上手くとってこれから攻撃に転じようとした瞬間に目の前に一気に迫ってくる。こうそくいどうによってすばやさが格段に上がったウインディの姿を目に捉えるのが物凄く難しい。イーブイもいつの間にか目の前にいる大きな影に少し怯えてしまっている。このままだと延々と着地狩りされる。
(……予想通り!!)
けどこのウインディがこうそくいどうを覚えていることは他の人の勝負を見てわかっている。ワンチャン使ってこない可能性や覚えていない個体を使われる可能性もあったけど今までの傾向で技まで変わっているのは見たこと無かったから賭けに出て正解だった。この展開は最初から予想出来たのだからこちらだって相応の対策を取ってきてる!!
「イーブイ!!奥の手行くよ!!」
「ッ!?ブイブイッ!!」
「なにかする気だね……その前に叩け!!君の今のすばやさなら間に合うぞ!!」
「ガウッ!!」
手を振りあげてイーブイを叩き潰さんと思い切り手を振るウインディ。けど……
「遅い!!」
「ブイッ!!」
今度はイーブイの姿がぶれる。目の前から消えたイーブイを探すためにキョロキョロするウインディだがどこにも見つからず……
「ウインディ、上だ!!」
カブさんの声にハッとして上を向くと既に攻撃態勢のイーブイ。
「イーブイ、いけ!!」
「ブイッ!!」
背中に綺麗に攻撃を当てたあとまたすぐに後ろに下がる。
「イーブイ、もう1回!!」
「ウインディ、追いかけろ!!!!」
すぐさま追いかけて追撃にいこうとするウインディだがまたイーブイの姿がぶれる。もっと言えばイーブイの速度が
「もう1回!!」
「ウインディ、次は後ろだ!!『かみつく』!!」
ボクの指示の下、さらに速くなるイーブイ。当事者であるウインディからは見えないけど、戦場を俯瞰して見ることの出来るカブさんからは何とか視界に捉えきれている様子で、残像を残しながら後ろから迫るイーブイを見て反撃の手をうつ。
だけど今のイーブイにはそんな遅い攻撃なんで当たらない。
「イーブイ!!かいくぐってもう1回!!」
「ブーイッ!!」
「ガウッ!?」
「何っ!?」
ウインディのかみつくをかいくぐり、懐に潜り込んでイーブイが技を放つ。まるでお返しだと言わんばかりに走り込んだイーブイはウインディの体に向かってかみつくを真似て放つ。痛みから少し仰け反るウインディだが何とか踏ん張る。
「ウインディ、『かえんぐるま』!」
自分の周りに炎を纏ってキュウコンの時と同じように自分ごと焼こうと炎をため始める。しかし先程キルリアが捕まった時と違って技が発動しきった時には既にイーブイは離れており、安全圏から余裕を持って回避。あれだけ激しい接近戦を繰り広げていたのに既にボクの足元に帰ってきている。かえんぐるまが不発に終わってしまい、炎が体から消えていくウインディ。その隙に、もう少しで終わるであろうこのひでりを利用させてもらう。
「イーブイ、もう1回!!」
「ブー、イーッ!!」
掛け声とともに気合を入れるイーブイ。その体は炎に包まれていき一つの塊へ。いきなりの変化に驚く観客とカブさんを尻目にイーブイはそのままウインディに突撃。その技は先程までウインディが行っていたかえんぐるまをそのまま真似た技であった。
「ガウッ!?グゥ……」
いまひとつのタイプ相性ではあるもののひでりで威力の上がったかえんぐるまは確実に相手の体力を削っている。
(これでもうひでりも終わるだろうから時間稼ぎもバッチリ。イーブイ様々だ!!)
首を振り、気を引きしめ直すウインディ。その後ろでカブさんが静かに呟く。
「……成程、そういう事か」
どうやらカブさんもボクのイーブイが何をしていたか、何を狙っていたかわかったらしい。まぁ、ここまであからさまなら、さすがに……ね?
「まねっこか……道理で普通よりもたくさんの技や覚えないはずの技まで使うわけだ……」
「やっぱりバレますよね」
「むしろ、かえんぐるまをまねっこするのはもう隠す必要がないからだと思うのだが?」
まねっこ。
敵味方問わず、このまねっこという技を発動した時に直前に発動されたものを真似て自分が繰り出すという技。また、この直前の技と言うのは自分の技にも適応される。どういうことかと言うと、ゆびをふるをつかって本来じしんを覚えないポケモンがじしんを繰り出したあと、続けてまねっこをすれば相手がなにか技を出していない限り、最後に繰り出された技がじしんになるのでその技を真似てもう1回じしんを放つことが出来るという訳だ。
逆に言ってしまえばほかの技を出してしまうか出されてしまうと使いたい技が使えない。だからさっきまでボクのイーブイに対する指示が『もう1回』だけだったというわけだ。
1回目の奥の手でウインディのこうそくいどうを真似たことにより加速。そこからさらに2回こうそくいどうを積み、かみつく、かえんぐるまの後にそれぞれの技でカウンターをしたということだ。
本当なら途中ででんこうせっかやスピードスターを使いたかったけど、使うとまねっこで使いたかったこうそくいどうが上書きされていたから出せなかった。けどおかげで三回こうそくいどうを積めた。これで普段よりも圧倒的な速さで動けるようになっている。今ならウインディだって足の速さで抜くことができる。
「よし、このまま相手を速さで翻弄するよイーブイ!!」
「ブイ!……ブイッ!?」
「イーブイ!?」
元気よく返事してこれからだという時に突如バランスを崩すイーブイ。何が起こったのかと思いよくよく目を凝らしてみるとイーブイの体に紫色の炎が少し見える。
「火傷!?いつの間に!?」
「こうそくいどうのまねっこは驚いたが、こちらだって仕込んでいるという事だよ」
相手のウインディのふさふさした毛の中から現れるのは紫色の炎。相手の体の表面をおにびがおおっていた。イーブイがかえんぐるまで相手に触れた時、ウインディの表面を走っていたおにびが直撃してしまっていた。
「かえんぐるまの時に仕込んでいたんだ!!」
「そして素早さ勝負が望みならば……ウインディ!!『こうそくいどう』と『かえんぐるま』を同時に!!」
さらに素早さを上げて体に炎を纏わせ、火力を上げていくウインディ。おにびが混じっているせいか赤色の中に紫色も交じったまがまがしいほむらが上がっていく。あまりの火力に離れているはずにこちらの顔までもが熱に照らされる。
「な、なにこの火力!?」
高速回転することにより空気をより多く取り込んで火が強くなるのはまだわかる。けどそれにしても火力が高すぎる気が……
「フリア君……」
そんななか指を上に向けるカブさん。その指につられて上を向く。
「なっ!?まだひでりが続いている!?」
もうとっくにひでりが切れる時間は経っているはずなのに、いまだにさんさんと輝く日差し。天候の時間計算はキクノさんのカバルドンによるすなあらしを何回も体験しているから体に染みついている。今更計算ミスするなんてことはないはずだ。
「じゃあなんで……」
「どうやら昨日、ポフィンを持ち込んで面白い攻略をした子がいるらしいからね?ぼくも乗っかってみたというわけさ」
微笑みながら言うカブさんの表情を見て頭の中に電撃が走る。
(まさか、あついいわ!?)
ボクが意図していなかったとは言え持ち物を持ち込んでクリアした事を知っているカブさんが、その意趣返しとしてキュウコンにあついいわを持たせていたという事だろう。あついいわはそのアイテムを持ったポケモンがにほんばれや、ひでりによって日差しを強くした場合、少しその時間を延ばすことができるアイテムだ。もうとっくに日差しが切れているはずなのにまだ日が差しているということはもうそういう事としか思えない。まさかの持ち物での戦力強化。正直これは全く予想してなかった。
「イ-ブイ!!」
「ブ、ブイ!!」
どんどん燃え上がるほのおを前に逃げようと構えるイーブイだけど火傷のダメージがじわじわ響いて集中できていない。
「ウインディ!!本気で頼む!」
「グゥアアアアッ!!!」
「イーブイ、避け━━」
「キュッブイッ!?」
吠えながら最大火力のかえんぐるまでこちらに駆け出してくるウインディ。慌ててイーブイに避けるための指示を出そうと口を開くものの、こうそくいどうが乗ったかえんぐるまのスピードが明らかに速すぎる。日差し、おにび、こうそくいどう。あらゆる補助技にて極限にまで強化されたかえんぐるまが今まで攻撃を何とかいなしてきたイーブイをついに捉えて吹き飛ばす。
「イーブイ!!」
かえんぐるまの火が消え、日差しがついに終わり、おにびも収まったなか、蓄積されたダメージが今になって響いてきたのか、少しふらつきながらもまだしっかりと地に足をつけるウインディ。対するイーブイはあまりにも高い火力によって吹き飛ばされており、未だに空中に浮いている状態。
誰がどう見ても致命傷。戦闘不能は必須のダメージを受けている。火傷状態も相まって、たとえ立てたとしても戦闘は絶対に続行不可能だ。それがわかってしまうために急いでモンスターボールを構えてイーブイを戻そうとして……
「ブ、ブイィィィッ!!」
「っ!?」
イーブイの力を振り絞った叫び声が響く。
イーブイと目が合う。
まだ戻すなと。
まだ自分には役割があるだろと。
最後の指示を出してくれと。
元々考えていた作戦。それはウインディのこうそくいどうをまねっこするというだけでは無い。確かにまねっこをすればウインディと悪くない戦いはできると思ってはいた。しかし、残念ながら現在のイーブイで勝てる算段はどうやっても見つからなかった。産まれたばかりのイーブイでは力も経験も何もかもが足りない。それでも今回はイーブイに頼んだ。イーブイ本人が自分から求めた。
だから、イーブイの目がまだ諦めていないのなら、頑張ろうとしているなら、ボクは最後の指示を高らかに宣言する。
「イーブイ!!『バトンタッチ』!!」
「なっ!?」
「ブイッ!!」
突如イーブイの体から光の玉が浮かび上がり、同時にイーブイがモンスターボールへと帰っていく。同時に繰り出すのは日差しの収まった今、何者にも縛られずに本領発揮出来るエース。
「ジメレオン!!」
ボールからでてきたジメレオンはイーブイが残した光の玉をしっかりと握りしめる。同時にイーブイが確かに積み上げて来たものがジメレオンへと受け継がれる。
バトンタッチ。
自分の能力の変化を次の味方に引き継ぐ技。
「ウインディ!!『かえんぐるま』!!」
慌てて指示を出すカブさん。だけど、3回のこうそくいどうを経て、普段のおよそ4倍の速さという最速へと至ったイーブイの能力を引き継いだジメレオンのすばやさの前には無力である。
「ジメレオン……『ふいうち』」
「ジメッ!!」
「グウッ!?」
残像すら残さない圧倒的な速さ。懐に飛び込んだジメレオンの攻撃を避けるなんて当然出来ずにウインディは倒れ伏す。
『ウインディ戦闘不能!!勝者、ジメレオン!!』
「……これは。いや、ぼくは最後まで諦めない!!」
ウインディを戻しながら最後の1匹を手に持つ。同時に光り出すダイマックスバンド。ボクもそれにならいジメレオンをボールに入れてダイマックスの準備をする。
『カブよ!!絶望的な状況でも頭を燃やせ!!マルヤクデ!!キョダイな焔で最後まで燃え上がるぞ!!キョダイマックス!!』
『イーブイが繋いでくれた勝利のバトンを、君に託す!!さぁ、得意のスピードで暴れてくれ!!ジメレオン、ダイマックス!!』
『ジメエェェェェ!!!!』
『グヤアアァァァグ!!!!』
両者同時に切り札のポケモンでダイマックスを切る。ボクはジメレオンを、カブさんは長いからだに牙があり、漢字の火の形に燃え上がる触手と尾が特徴のはつねつポケモン、マルヤクデを呼び出す。しかしただのマルヤクデでは無い。
1部のポケモンに存在するダイマックスの時に姿が大きく変わるキョダイマックスと言われる個体。12節の体は27節と倍以上に。足の数も100本と普通のマルヤクデのダイマックスよりもさらに大きくなっていくその姿は、もはや龍にも見えるかもしれない。
この状態のマルヤクデはダイバーンを使うことはなく、代わりにキョダイヒャッカという技を使う。天候が晴れになることは無いが、代わりにこの技を受けたものを問答無用で炎で拘束し、ダメージを与えながら逃げられなくする。
強力な攻撃だ。当たったら一溜りもない。
「マルヤクデ!!『キョダイヒャッカ』!!」
とてつもない炎の奔流がジメレオンに向けられる。けど……
「ジメレオン!!避けるんだ!!」
ダイマックスで体がでかくなったとはいえ、こうそくいどうを3回積んだ能力変化を引き継いだジメレオン。元々速さに定評のあるこの子がその変化を受け取ることによって今や通常のおよそ4倍の速さで動くことが出来る。ここまで来れば自分がダイマックス状態だろうが、本来ほぼ当たることが約束されているダイマックス技だろうが関係ない!!
今のジメレオンなら避けられるし、当たらなければどうということはない!!
「『ダイストリーム』!!」
圧倒的な速さで避け、返しにダイストリーム。激しい水の大砲は確実にマルヤクデを捉え、ダイストリームによって雨が降り出す。本来ならダイバーンで天候の上書きもあったかもしれないけど相手はキョダイヒャッカしか使えない。ならもう書き換えられる心配はなく、ひでりがキツかったこの場所はもう、今やジメレオンの独壇場!!
「くっ!!マルヤクデ!!不利でも炎を絶やすな!!『キョダイヒャッカ』!!」
「ジメレオン!!暴れろ!!『ダイストリーム』!!」
激しい火と水のぶつかり合い。しかし、雨で弱まった炎と雨で強くなった水のぶつかり合い。どちらが勝つかなんて小学生でもわかってしまう。水の蒸発によって水蒸気が辺りに広がり、視界が悪くなるものの、確かに技が当たった音が聞こえた。ボクからは見えなくてもジメレオンからなら見えてるはず。
「ジメレオン!!押し切れぇぇぇぇ!!『ダイストリーム』!!」
「ジィィィッ、メェェェェッ!!」
「マルヤクデ!!『ダイウォー━━』」
せめて耐えて次に繋ぐ。その意思を感じるダイウォールの選択。だけど4倍速のジメレオンのあまりにも速いその動きに対応仕切ることが出来ずに直撃。
水蒸気の煙が思いっきり吹き飛ばされ、視界が開けた先には……
「ヤ……ク……」
『マルヤクデ戦闘不能!!勝者、ジメレオン!!よってこの戦い、フリア選手の勝利!!』
弱点のダイストリームを3連続で受けたことによりキョダイダイマックスが解除され、目を回しながら倒れるマルヤクデの姿。
『わああああああああっ!!!!』
巻き上がる大歓声。鼓膜が敗れそうな喝采の雨の中、ボクはそっと一つのモンスターボールを胸に置き……
「ありがとう、イーブイ。君のおかげだ」
今回の試合の1番の功労者に、心からお礼を告げた。
☆
注目の試合が繰り広げられている中、とある洞窟ではそのダイマックスエネルギーのぶつかり合いに触発されてたくさんのポケモンが活性化されていた。そんな中、とある小さなポケモンが洞窟を楽しそうに進んでいる。
「ピピュウ〜!」
そのポケモンはわたあめのような、雲のような、もくもくとした体に星空のような体色をした不思議なポケモンだった。否、ポケモンと言っていいのかすらもわからない不思議な生き物。
「ピピュ?」
そんな小さく、か弱いポケモンは当然ダイマックスエネルギーによって活性化し、若干凶暴化している野生のポケモンにとっては絶好の的である。今も、たくさんのダイマックスしたポケモンがそのポケモンを見下ろしていた。
「ピ、ピピュ〜ッ!?」
慌てて岩陰に逃げて隠れていく小さな生き物。小さい体が幸いしてすぐにまけたようだ。
「ピュ〜……」
その事に安堵した小さな生き物は再び洞窟を探検する。
「ピピュ〜!!」
その生き物は、自分が今どこにいるかよくわかっていないまま、気楽に、のんびりと歩いていた。
まねっこ
アニメでもハイドロポンプを打つために使ってましたね。
もしかしたら少し分かりづらかったかもしれませんが、フリア君の『もう1回』の部分を『まねっこ』に変換して読んでみてください。
恐らくちゃんと繋がっているはずです。
一回目は『奥の手』が『まねっこ』を意味してます。
バトンタッチ
イーブイと言えばこの補助技。
イーブイを活躍させたいがためにこの展開にしました。
あついいわ
イーブイのせいでキュウコンが持つことになったアイテム。
これでおあいこです()
マルヤクデ
少し出番が少なくて申し訳ない……
ただ、ヤロー戦、ルリナ戦とダイマックスの後に決着なのでやっぱりどこかでダイマックス同士のぶつかり合いで決着をつける展開も欲しいなと思いこういう結果に。
ダイマックスに制限時間がある兼ね合いで描写が難しいんですよね。
一応納得はできる展開にしたつもりです。
さすがにダイストリームを3回も受け(そのうち2回は雨下)たら倒れるかなと……
技構成
今回はこちらです。
キュウコン
ひでり(もとはもらいび)
あついいわ所持
おにび
ほのおのうず
でんこうせっか
ひのこ
ウインディ
いかく
こうそくいどう
かえんぐるま
おにび
かみつく
マルヤクデ
しろいけむり(もとはもらいび)
えんまく
かえんぐるま
むしくい
とぐろをまく
VS
キルリア
ひかりのかべ
サイケこうせん
マジカルリーフ
かげぶんしん
イーブイ
でんこうせっか
スピードスター
まねっこ
バトンタッチ
ジメレオン
みずのはどう
ふいうち
とんぼがえり
うずしお
カブさん側で変更点はキュウコンの特性と持ち物追加です。
地味にマルヤクデも最初の予定では変えていたんですけど決着の付き方的に死に設定になりました()
見ての通りでんこうせっかとスピードスターしか覚えていないイーブイでウインディに勝つビジョンが見えず、せめてピカブイのイーブイなら勝てるかもとも思ったのですが、それをするならピカチュウを手持ちに入れてないとおかしい気がしてこれも却下。
他の攻撃技もあまり有効な技がなかったので頭を悩ませる結果に……
アニメ見ててまねっこ面白そうと思ったのでウインディと見比べた結果、まねっこで積み技パクってバトンでエースに繋げようというむちゃくちゃ回りくどい戦法に。
実機でするなら素直に積んでバトンした方が強いですね。ナインエボルブーストは偉大だった……。
別案としてはとぐろをまくもパクろうかなと思ったのですが……ジメレオンは特殊型なのであまり恩恵が……
???視点
究極の問題児。
この子を書いてしまったがためにこの先難易度ルナティックが確定になりましたわーい(白目)
イッタイダレナンダー
まぁ、伏線は実は既に出てるんですけどね。