【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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352話

「ぅん……ふぁ……」

 

 ふと起き上がっていく意識。

 

 瞼は重く、身体はだるく、どちらも中々持ち上がらず、なんならこの誘惑に負けてこのまま二度寝を決めこんでしまおうかとさえ感じてしまう。が、そんな自分の甘えた考えを阻止するかのごとく、窓から差し込んできた光が顔に突き刺さり、微睡む意識をどんどん上へと押し上げていく。

 

「ふああ……はぅ」

 

 結果、二度寝をするという考えはどんどん小さくなっていき、意識は覚醒。特に理由がある訳では無いけど、起きてすぐの頭では何かを深く考えることも出来ないので、とりあえず頭を色々な所へ向けて、自分の周りをそれとなく確認していく。

 

「……」

 

 何の変哲もないただの部屋……と言うにはちょっと豪華すぎるけど、それでもここ最近は見慣れてしまった、ホテルロンドロゼの部屋は、今までと変わらない姿で寝起きのボクを迎え入れてくれた。

 

 寝ぼけ眼を擦りながらも、特に何も変わっていない部屋にちょっと安心しながら、ふと視界に映った黒いリモコンにそっと手を伸ばし、ディスプレイに向けて電源ボタンをポチ。小さな電子音を響かせた後に、真っ黒なディスプレイが急に色をつけ始め、その大きな画面に番組を映し出していく。

 

『今日のワイルドエリアの天気は、ナックルきょうりゅうは晴天。げきりんのみずうみ付近は晴れ時々雪。きょじんのぼうしは雷雨。さじんのくぼちは砂嵐。きょじんのかがみいけは━━』

 

 内容はニュース番組で、その中のコーナーの1つであるワイルドマップの天気予報。相変わらず荒れに荒れていて、初めて聞いた人にとっては冗談でも言っているのではないかと感じてしまうほどのとんでもないことを、当たり前かのごとく平然とした顔で告げてくるのは若干のシュールさを感じるだろうけど、ボク自身が既にこのことに違和感を感じなくなってしまっているので、なんだかんだ染まっているということなのだろう。そう考えると、ボクのガラル生活も中々長いものだと感慨深くなる。

 

『では次のニュースです。先日発生した『ブラックナイト事件』に関して━━』

「あ……」

 

 なんて感傷に浸っていると、いつの間にか天気予報は終わっており、次の内容であるブラックナイトに関しての報告がされていた。

 

 あの日、ディアルガたちが街を直したのを見届け終えたボクたちは、とりあえず解散の流れになっていた。ダンデさんはまだやることがあると言って、リザードンに飛び乗って一足先に飛び立ってしまったけど、ボクたちはダンデさんが手配をしてくれたアーマーガアタクシーにてホテルないし、自宅に帰還。本当なら話したいことが沢山あったし、特に、コウキとは久しぶりの再会だ。話したいことなんて山ほど出てくるし、すぐにでも空いた時間を埋めたかった。けど、同時に体力の限界が来ていた……いや、既にオーバーしていたみたいで、そこまでの元気がなかったボクたちは、解散に賛成。どうせこの後たくさん時間があると言うことで、明日また集まって話そうと約束したボクは、自分に当てられた部屋に戻ると同時にベッドにダイブ。潜ると同時についに限界が来てしまったみたいで、意識が一瞬で闇の中に沈んでしまっていた。それでようやく目を覚ましたのがついさっき、と言うわけだ。

 

 ニュースを流し見しながらこれまでのことを一通り振り返え終わったボクは、テレビから聞こえてきた、『ローズ委員長が自首した』と言う見出しを確認したのちに、電子音を小さく鳴らしながらディスプレイを消した。どうせこの辺の話はダンデさんから追って聞かせてもらえるだろう。テレビを信じていないわけではないけど、又聞きから報道されるものよりも、一番この事件に関わっているであろうダンデさんから話を聞けるならそっちから聞いた方がより情報としては正確なので、正直ここで聞く必要性をあまり感じなかったからだ。

 

「っと、そのあたりダンデさんから何か連絡来ていたりするのかな?」

 

 ここまで考えて、昨日解散したのはまだまだお昼の途中だったこともあり、流石に一晩経った今なら、いろいろなことに話がついて進展があるかもしれないと思ったボクは、何か連絡が入っているのではないかと思い、ベッド横についている机の上に放り投げられているスマホを確認しに行く。

 

 ホテルの部屋にあるディスプレイと同じく、真っ黒な画面を映し出しているスマホの電源を入れ、ロック画面を開き、パスワードを入力しようと手を伸ばしたボクは、ここでとあることに気づいた。

 

「……あれ?」

 

 確かな違和感と共に目に映ったのは、おびただしい量の通知。友達や知人が少ないという訳では無いけど、それでも頻繁にやり取りする人が多い方かと聞かれると疑問が少し出てくるくらいの人脈のボクからしてみれば、まず拝むことのないであろうその通知量はボクの心を自然と焦らせていく。

 

 そして同時に、ここまで来てようやくボクが違和感を感じていた部分を見つけることに成功していた。

 

「ああ〜……これは……」

 

 それはスマホの画面の上の方に表示されていたとある数字。

 

 デジタル数字にて09:00と書かれているそれは、外から漏れ出ている光からしても朝の9時を指しているもので、こちらの数字に関しては別におかしな所では無い。ちょっと寝坊しちゃったかなくらいのそれだろう。

 

 問題はその更に上に表示されている数字。

 

 そこには今日の数字が書かれているわけなんだけど……

 

「……うん、3日経ってるね」

 

 そこには、本来チャンピオンマッチをするはずだった日にちから3日もすぎている日にちを表す数字が映し出されている。

 

 チャンピオンマッチ自体はブラックナイトのせいで延期になっているので不戦敗になったという訳では無いが、逆に言えばブラックナイトから3日経ったのが今日ということになる。

 

 そしてボクは、ブラックナイトが起きた日のお昼、ベッドにダイブしたのを最後に記憶が無くなっている。

 

「やっちゃったなぁ……」

 

 それはつまり、ボクが3日間も寝たきりになっていたと言うこと。

 

「……これ絶対怒られるよね?」

 

 3日も寝たきりだったことに加えてこの通知量。間違いなくみんな心配しているだろう。とは言うものの、ボクはずっとホテルにいた訳だし、その気になればここのスタッフがマスターキーで確認をいつでも出来る状態だ。その点で言えば、ある意味ボクの無事は確約されている。そう考えれば、もしかしたらこの状況をそんなに重く受け止めていない可能性も……

 

「ん?」

 

 ちょっと思考を前向きにしたところで聞こえてきた通知音。それにつられて画面に目を向ければ、そこにはたった今送られたものプラス、直近3件くらいに送られたメッセージの冒頭部分が確認できた。

 

『フリア、今日は起きるよね……?わた━━』

『頼むから無事にこのメッセージをひ━━』

『ちゃんと無事に起きてくれることを━━』

『早くお前の元気になった姿を見せて━━』

 

「ひえっ!?」

 

 上から順に、ユウリ、コウキ、マリィ、ジュンのものと思われるメッセージ。そどれもがとてつもなく心配しているものであり、つまりこれクラスに重い言葉があと3桁弱溜まっているということで……

 

「すぅ〜……二度寝、しちゃダメかな……」

 

 早くも現実逃避をしたくなった朝であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見事3日間も爆睡してしまったボク。それを自覚した途端、自分の身体が酷く汚いものに感じてしまったので、スマホから逃げるようにユニットバスに突撃し、身体を洗浄。3日ぶりということもあって驚くほどスッキリした状態になったボクは、このまま布団に逃げ込もうと一瞬考えはしたものの、さすがにあのメッセージを見て逃げるという選択を取るほどの勇気も無いので、若干の……いや、とてつもない行きづらさを感じながらも、何とか重い足を引き摺ってホテルの階段を降りていく。

 

 こんなに心配してくれているのに、行かないなんて逃げの行動はやっぱり取れないからね。

 

 そこ、エレベーターだとドアが開いた瞬間出くわす可能性があるし、ロビーからも確認し放題だから、それを考慮して階段で行ったのが既に逃げとか言わない!!

 

「はぁ……でも、実際どんな顔をして会えばいいのかちょっと分かりづらい……」

 

 個人的には寝て起きただけなので、別に大したことは無い。気分としては『おはよ〜』と言ってはい終わり。なのだけど、おそらく向こう側はそんな単純じゃない。

 

「そ〜……っとのぞいてみてごらん〜」

 

 もはやどんなテンションかも分からずに、思わずそんなことを口ずさみながら階段のドアを開けて、ホテルのロビーを確認。すると、割と確認しやすい位置に見慣れたメンバーが集まっていた。

 

『……』

 

(う〜わ……)

 

 そこには、葬式ムードクラスに落ち込んでいるみんなの姿。

 

 心配をかけて申し訳ないという気持ちと、こんな空気の中、どうやって行くのが正解なのか悩ましいという気持ちが混じってしまい、中々足を動かすことが出来ない。かと言って、こういうのは時間をかければかけるだけさらに行きづらくなってしまう。

 

「ううぅ〜……よ、よし、男は度胸!!気合い入れていこう!!」

 

 寝過ごしてみんなを不安にさせたのはどう考えてもボクが悪い事なので、ここは甘んじて受け入れる覚悟を持って足を動かす。

 

 ギギィと階段の扉をゆっくり開けて、身体を滑り込ませるようにドアをくぐってホテルロビーに突入。みんなが沈んだ顔をしてうつむいて集まっているところに、ゆっくりとした足取りで近づいていく。

 

「はぁ……今日も起きないのかな……」

「大丈夫……だと思うのだけど……」

 

(うっ)

 

 近づくということはみんなの声も聞こえ始めるということで、その内容はどう考えてもボクを心配しているもの。喋っている人も、ユウリとシロナさんと言うのが余計にボクの覚悟を揺さぶってくる。けど、ここで足を止める訳には行かないので、頑張って踏ん張り、また足を前に動かして……

 

「はぁ……いっその事部屋に突撃した方がまだ……あっ」

「……あっ」

 

 最初の一言目くらいは、ボクからなにか声をかけようと思ったところで、運悪くコウキが顔を上げて、たまたま視界の真正面にいたボクとしっかりと目が合った。

 

 急な展開にどうすればいいのか分からなかったボクとコウキは、同時に声を上げた後に、ディアルガに時でも止められたのではないかと言うほど綺麗に固まり、動けなくなってしまう。

 

「コウキ?どうしたん……」

 

 急にフリーズしたコウキにつられてジュンもコウキと同じ方……つまりボクがいる方向に視線を向けてピタッと停止。さすがに2人も固まったら何かがあったのではと察した他のみんなも同時にボクの方を向いて、その全員が氷漬けのように完全停止した。

 

「……」

 

 そのまま流れる無音の空間。

 

 ここにいる全員が急に固まってしまったことに、ホテルのスタッフすらも困惑して動けない。

 

 そんな、傍から見たらシュールでしかない光景を送ること数十秒。さすがにこのままではまずいと思ったボクは、ゆっくりと右手を上げて、言葉をこぼす。

 

「お……おはよう!本日はお日柄もよく……?」

 

 

『フリア!!』

 

 

「ぴぃっ!?」

 

 懸命に振り絞って出した言葉であるおはよう。その返答は、ホテルはおろか、ガラル地方全土に広がったのではないかと言う程の大声によるボクの名前の合唱。その声の大きさに、つい変な声をあげると同時に身体を硬直させてしまうボク。

 

 そんなボクの視界に映ったのは、ものすごい勢いでこちらに突撃してくるみんな姿だった。

 

 正しく『ドドドド』と言う擬音がぴったりの突撃を前に、ボクはただ1つのだけの感想を零す。

 

(あ、これボク死んだな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんの~!!いつまで寝てるんだよ~!!」

「どれだけ心配したと思ってるんだこの馬鹿!!」

「ほんとに!!ほんとうに~!!」

「しんどかったならしんどいってちゃんといなさいよ!!」

ふぁい(はい)ふぉふぇんふぁふぁい(ごめんなさい)……」

 

 みんなからの突撃に合ったボクは、その最前線にいたジュン、コウキ、ユウリ、ヒカリの4人から頬を引っ張られたり、頭をわしゃわしゃされたりと、とにかくもみくちゃにされながら次々と言葉を投げかけられる。

 

 頭をグワングワン振られながら無茶苦茶にされていることに、正直言えば苦言を申したいところではあるのだけど、別れたと思った次の日から3日間丸々音信不通となれば、ボクでも同じことをしかねないと思ってしまった節があるため、どうやっても強気に出ることが出来ず、なすがままの状態に甘んじてしまっている。

 

 特に、コウキにとっては本当に久しぶりのコミュニケーションなのに、そこから一気にこんな状態となれば、その不安もより強いだろう。

 

「マジでビビったんだぞ!!いや、ホテルの人からずっと眠っているって話は聞いてたから生きているのは知ってたけどさ?」

「いきなりすぎてこっちも全然安心出来なかったと」

「本当に人騒がせな方ですよ……」

 

 そんなコウキたちの一歩後ろでこちらを見て来るのはホップ、マリィ、ビートの3人。

 

 彼らはコウキたちほど取り乱してはいないものの、それはボクを心配していなかったというわけではなく、ボクの無事を確認できたことによる安心感から、気が抜けたことによる脱力のせいでこっちに突撃するまでの体力がないことの表れだった。

 

 恐らく心配度合いはコウキたちとそんなに差がないだろう。こちらにもごめんなさいをしっかりとしておく。

 

「全く……フリアはあの現象の危険性をしっかりと危惧するべき……」

「とはいっても、それだけ今回の敵は強力でしたからね。フリア様の考えも致し方ないかと」

「本当に心臓に悪かったわ……ともかく、無事でよかったわね」

「ああ、本当に……ガラルのために立ち向かってくれた彼に何かあっては、合わせる顔がなかったからな……」

 

 そしてそんなボクたちから少し離れたところでは、カトレアさん、コクランさん、シロナさん、ダンデさんと言った大人組が、ほっと息を零しながらこちらを見守ってくれていた。

 

 恐らくみんなが必要以上にパニックになっていないのは、シロナさんたちが宥めていたからだろう。こちらにも改めてごめんなさいだ。

 

「ちゃんと反省してるの!?」

「し、してまふ……ほへんなはい……」

 

 そうやって周りに視線を向けていると、ユウリの両手にほっぺをつぶされ、ぎゅっとされたうえで顔を合わされ、視線を逃せない状態にされてまた詰められた。

 

 凄い圧と共に放ってきたその言葉に対して、もう何度目になるかわからない変な謝罪を返しながら小さく頷く。この行動に対して、流石にみんなも一通り気持ちをぶつけ終えたみたいで、ちょっとずつボクから離れていった。

 

 これでようやく一安心だ。

 

「ふぅ……いや、でも本当にごめん。自分でもここまで疲れているだなんて思わなかったんだ。だって、今までだったら気絶しててもおかしくなかったのに、今回は最後まで立てて、そのうえで自分の足で帰れたし……」

「自分の身体の平気具合が、気絶するか否かの時点でおかしいことに気づくべきと」

「うっ……」

 

 マリィのド正論パンチに思わずうめくボクは、このままこの話をしたら間違いなく負けることを悟ったので、話題を無理矢理ダンデさんたちに向けていく。

 

「そ、そういえば!!結局あれからどうなったんですか!!」

「っと、そうだったな。その報告をしておくべきだな」

 

 話の内容はブラックナイトの後処理について。

 

 ボクの言葉を聞いて、ここに来たもうひとつの理由を思い出したダンデさんは、ボクたち全員を見渡しながら言葉を紡いでいく。

 

「まずはここにいるみんなに礼を言いたい。君たちのおかげで、この事件の被害を最小限に抑えることが出来た。君たちが勇気を振り絞って立ち向かわなければ、きっとガラル地方はもっと酷いことになっていただろう。本当に感謝する」

「オレたちは当たり前のことをしただけですよ」

「ジュンの言う通りです。気にしないでください」

「困った時は……お互い様……」

「それに、最前戦で頑張る優秀なチャンピオンがいたから、みんなも安心して戦えたのです」

「あなた自身も誇るべきよ」

「……ありがとう。そう言って貰えるとありがたい」

 

 頭を下げながらまっすぐそういうダンデさんに対し、ジュン、コウキ、カトレアさん、コクランさん、シロナさんと、他地方勢の人が順番にお礼に対する返答をする。

 

 みんなの言う通り、ダンデさんだって頑張っているし、それと同じくらいこの地方のジムリーダーたちが奮起してくれていた。

 

 誰か1人でも欠けていたら、それだけで相当辛かったはずだ。そういった点でも、ボクたちだけが一方的にお礼を受けるのはちょと違う気がする。

 

 しかし、ここまで和やかな話が続く中、1人だけ優れない顔を浮かべている人が1人。

 

「『最小限』……ね」

「ヒカリ……」

 

 それはボクのすぐ横にいるヒカリで、その言葉と共に意味を理解したボクは、そっと肩に手を置いて励ます。

 

 勿論この声は全体に届いており、みんなも意味を理解しているから少し静かになる。

 

 空気が一気に変わったことに気づいたヒカリは、自身の発言が原因とわかっているため慌ててフォローをし始めるが、ちょっとその言葉たどたどしかった。

 

「ご、ごめんなさい!!別に変な意味はなくて……」

「いや、ヒカリ君の言いたいこともわかる」

 

 その言葉を肯定したのはダンデさん。

 

 ヒカリに対して優しい笑みを向けたダンデさんは、すぐに表情を引き締めてみんなに言葉を続けていく。

 

「みんなのおかげで被害はかなり抑えられた。しかし、犠牲者がゼロだった訳では無い。勿論これは君たちのせいでは無く、君たち自身が自分を責める必要は無い」

 

 犠牲者はゼロではない。その事については、テレビやSNSで報道されており、具体的な数字も発表されていた。その数字は、これだけの規模の事件が起きたにしては驚くほど少ない数字だが、それでも犠牲になった人はちゃんと存在する。

 

 いくらディアルガたちが時を戻して街をないしたとしても、そこを戻すことはできない。こればかりはどうしようもない。

 

「たが、忘れてはいけないことでもある。彼らを想い、その意志を未来に繋げるためにも、俺はそれを背負って行きたいと思う」

 

 ダンデさんの言葉を、黙ってしっかりと聞き入れるボクたち。

 

 みんな、想いはダンデさんと一緒だ。

 

「かと言って、重く受け止めすぎてもきっと良くないのだろう。犠牲なった人も、ずっとしんみりすることを望んじゃいないはずだ。だから……」

 

 そんなボクたちの反応が嬉しかったのか、表情を少し緩めたダンデさんは、ボクの方に視線を向けながら言葉を続ける。

 

「ここは俺たちのやり方で、みんなを盛大に送りたいと思うのだが……どうかな?フリアくん」

「……そういうこと、ですね」

 

 ガラル地方の人間はポケモンバトルが大好きだ。それは地方をあげて行われているジムチャレンジを見れば一目瞭然だろう。実際、ダンデさんが犠牲者の親族を尋ねて行ったところ、その全てがボクとダンデさんの試合を楽しみにしていた人たちらしい。

 

 ならば、ボクたちがするべきことなんてひとつしかないだろう。

 

「君の体調が万全なら、できる限り早い段階で行いたい」

「構いません。3日間も寝たおかげで、体調はしっかり万全ですから」

 

 事件がおきて、少ししんみりしてしまったガラル地方。

 

 そんな寂しい空気を激しいもので上書きをして、そしてどこかで聞いているかもしれない人たちにも届く程の熱い出来事で盛り上げたい。

 

 人によってはそんなことをしている場合なのか?と言ってくる人もいるかもしれないが、これがガラル流のやり方なのだろう。

 

 忘れるためじゃない。乗り越えるために、そして送るために。

 

「了解だ。なら急だが、明後日には行おうか!!」

「はい!!わかりました!!」

 

 こんな時だからこそ、盛り上がることをして空気を押し上げる。幸い、それにうってつけのものが今目に前にある。

 

 なら、やらない訳には行かない。

 

「当日は、本気でぶつかろう」

「勿論です。ダンデさん」

 

 お互いの右手で交わされる固い握手。

 

 あまりの急展開に周りは驚くけど、ボクとダンデさんはもう既にモードに入っているせいで、周りの様子なんて入ってこない。

 

 チャンピオンマッチは、今この瞬間より、始まっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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