「……凄い」
私の口からつい零れたのは、そんな当たり障りのない言葉。だけどそれは、決して今見ているものが、感想をあまり言えないほど薄い内容だという訳ではなく……
「ああ、それしか言葉が思いつかばないぞ……」
今まで見た事のない展開で、ふさわしい言葉が見つからないと言う意味で、言葉が減っていた。
「今までのどんな2人よりも強か……」
私たちと戦っていた時に手を抜いていたわけじゃない。それはここにいる全員が理解している。
ただひたすらに、目の前の相手が自分にとっていい刺激になって、お互いの限界が限界を持って上塗りされていき、高めあっている。そんな状態。
まさしく、チャンピオンを決める戦いにふさわしい一戦。
「「「……いいなぁ」」」
知らず知らずのうちに、私とホップ、そしてマリィの言葉が重なる。
今なお漆黒と深紅がぶつかり合うカオスなバトルフィールドは、バリアで守られているとはいえ、1度中に入ればゴーストタイプ特有の寒気と、ほのおタイプによる灼熱渦巻く環境のせいでとてもじゃないけど長時間いられる状態なんかじゃない。そんな場所にいたら、苦しさで倒れる自信がある。
なのに……
「フリアもアニキも……楽しそうだ……」
当事者である2人の浮かべるものは、ただただ純粋な笑顔。
まだ戦いたい。もっと感じたい。
そんな感情をこれでもかと伝えてくるその姿は、ともすれば狂気に映る可能性すらある。
けど、少なくとも、ここにいる私たちは誰一人、この姿に怯えたりしない。むしろ逆に……
「次は私が……」
「俺が……」
「あたしが……」
「「「あの舞台に立ちたい……!!」」」
その姿が無性に羨ましくて、無意識のうちに拳を握ってしまうほど。
(ああ、ずっとこのバトルが続けばいいのに……)
見てるだけでこんなにも興奮し、こんな感想が浮かんでしまうバトル。
きっとフリアたちは、私以上にそんなことを感じていることだろう。
けど、始まりがあれば終わりがある。
ヨノワールを包む闇がさらに深くなり、ステージ半分が闇に覆われる。
リザードンを包む焔がさらに強くなり、ステージ半分が地獄に変わる。
「次が、最後の攻撃……」
どっちが勝ってもおかしくない、本当の最終決戦。
「「「……」」」
決着の瞬間を絶対に見逃さないために。
私たちは、ただじっと、バトルフィールドへ視線を向け続けた。
☆
身体が重い。熱い。寒い。苦しい。
これまでのダメージと、今の環境と、そして身体に闇がのしかかる現状を前に、すぐにでも開放されたい気分に襲われる。けど、あと少しだけ、耐えなくてはいけない。
「ノワ……」
「リザ……」
見合う2人も、既に限界が来ているのか、口数は少ない。
「「……」」
トレーナーであるボクとダンデさんも、もう言葉はいらないので、ただひたすら前を見る。
楽しかった。出来れば、ずっとこのバトルをしたい。そんなことを思ってしまうほど、最高の時間だった。
きっとダンデさんも同じ気持ちのはずだ。
けど、だからこそ、そんな最高の勝負を自分の勝ちで終わらせたい。
(決断は済ませた……)
これから行うのは初めての試みだ。
相手に勝つにはポルターガイストが必須。だけど、ダンデさんの徹底的な対策によって弾は存在せず、行うことができない。
けど、そんな状況でも、唯一ポルターガイストの弾にできる可能性のあるものがあった。
失敗する可能性は高い。けど、掛ける価値はある。
(……それに掛ける!!)
なら、あとは突っ走るだけだ。
「リザードン!!」
「ヨノワール!!」
ボクとダンデさんの言葉により、闇が、灼熱が、さらに両者に集中していく。
その圧力は凄まじく、2人が立っているだけで、覇気によってバトルフィールドに罅が入っていく。
きっとリザードンとヨノワールにかかる負荷もとんでもないことになっている。
けど、そんなことなんてどうでもいい。
全ては、この一撃のために。
「『だいもんじ』!!」
リザードンが放つのはだいもんじ。
しかしそれはただ口から放ついつものそれではなく、全身に炎を纏い、自分自身が大きな爆炎となって羽ばたき、相手に突っ込む特攻技。
フレアドライブに似ていて、しかしそちらよりも明らかに火力が高いその一撃は、リザードンが通った道全てを溶かしながら爆走する。
「『ポルターガイスト』!!」
対するヨノワールの放つ技はポルターガイスト。しかし、肝心の弾はどこにも見当たらない。
ならばどうするか。
簡単な話だ。
自分自身が弾になればいい。
リザードンがだいもんじを纏って突っ込んできているように、こっちだってポルターガイストを纏って突撃すればいい。
「リザアアアァァァッ!!」
「ノワアアアァァァッ!!」
空気を震わす声を上げながら、ただひたすらに相手目掛けて飛び出す2人。
その速度は視認出来ないほど速く、しかし当事者であるボクとヨノワール、そしてダンデさんとリザードンにはゆっくりに見え、お互いの中心点で今、確かにヨノワールとリザードンがぶつかった瞬間を確認した。
「「いっっっけえええぇぇぇっっっ!!」」
ぶつかり合う闇と焔。
お互いの頭を突合せながら行われる最後の鍔迫り合い。
これに勝った方が、正真正銘チャンピオン。
絶対に負けられない衝突を前に、ボクとダンデさんの叫び声が重なり、そして同時に巻き起こる大爆発にかき消されていく。
(届け……届け……っ!!)
右手を伸ばしながら、心の中で念じ、ただひたすらに前を向く。
たとえ、爆発の衝撃のせいで前が見えなくても、爆発の音が凄まじくて耳が聞こえなくても、これまでのダメージと、今まさに起きている衝突のフィードバックで、もう限界をとうに超えてしまっていたとしても。
(絶対に……勝ちたいんだ……!!)
この右手だけは、ずっと前に伸ばし続けた。
☆
『いよいよ旅立ちの時だな!!ジュン、ヒカリ、フリア!!』
『ああ!!この時をずっと待っていたぜ!!』
『ようやく始まるわね、わたしたちの夢への挑戦』
『うん!!ここから、始めるんだ!!』
(これは……)
ボクの前に広がるのは、いつか見た覚えのある景色と、いつか聞いた事のある言葉。
酷く懐かしいその様子を、ボクはどこか遠いところから眺めていた。
『ヒカリはコンテスト。おれたちはジム戦……そして最後はリーグだ!!』
『誰がいちばん強いのか、誰が1番最初にチャンピオンになるのか……』
『そして、誰が1番チャンピオンを維持できるかの競走……だね』
『ふふ、燃えてくるわね』
トレーナーになったばかりの、まだまだ甘くて青くて、けどそれ故に真っ直ぐな瞳で未来を見据える子供たち。その姿はとても眩しくて、そして羨ましかった。
『なぁフリア、ジュン……約束しよう』
『ん?何を?』
『変なのだったら嫌だぞ?』
『そんなんじゃないさ。……ただ、おれたちはどこまで行っても、最高のライバルでいようぜ』
『『!!』』
『たとえ誰かが先にチャンピオンになっても、必ず1人にはしない。ずっとライバルであり続けて、お互いを高めあえる存在になろう。そうすれば、きっとおれたちはどこまでの強くなれる!!』
『……いいね、それ!!』
『だな!!乗ったぜ!!せいぜいオレに振り落とされないように頑張るんだな!!』
『お前が一番心配だけどな』
『何をぅ〜!!』
『あ〜あ、わたしにもそういう相手が見つかればいいのになぁ』
『大丈夫、きっと見つかるよ。だからヒカリも頑張って!!』
そして交わされる大切な約束。
この後のことを知っていると、ついつい目を逸らしてしまいたくなるその言葉は、しかし今は、不思議と真っ直ぐ受け取ることが出来た。
(今のボクなら、この約束……ちゃんと果たせるのかな……)
楽しそうに話す4人を前に、そんなことを思ったボクは、ゆっくりとかぶりを振る。
(ううん、果たすんだ。今度こそ……!!)
今の自分なら果たせる気がするから。
(だから、待っててね、コウキ!!)
その覚悟を決めたと同時に、周りの景色がどんどん白くなっていき、ボクの意識はゆっくりと浮上していく。
『フリア、お疲れ様』
そうやって覚醒するボクを迎えるように、どこか優しくて暖かい、聴き馴染んだ声が聞こえたような、そんな気がした。
☆
「ん……んん……ぅ」
重い瞼をゆっくりと開け、目の前の景色を視界に収めるボク。
そこに映っているのは知らない天井……なんてことはなく、よく知っている見慣れた天井だった。
「おはよ、フリア」
「ぅぇ……?」
またスタジアムの医療室か〜なんてぼんやり考えていると、隣から声が聞こえてきた。
まさか人がいるだなんて思っていなくて、軽くぼーっとしていた所に急にかけられたものだから、その返事はとてもふにゃふにゃしており、発言してすぐに恥ずかしさが込み上げてきた。
聞いた相手もこの声が面白かったのか、くすくすと笑いながらボクからそっと視線を逸らす。
それがさらにボクの恥ずかしさをあげてきたので、それを誤魔化すように身体を起こして咳払いをひとつ。
「おはよう……おはよう?であってる?ユウリ」
「うん、あってるよ。フリアとダンデさんが戦ったのは昨日だからね」
「また気絶しちゃってたのか〜……」
誤魔化すように挨拶を変えしながら、今が『おはよう』なのか分からなかったボクは改めて時間を確認。ボクの疑問に対して優しく返してくれたユウリは、今が朝であることを肯定してくれた。
それはつまり、また一日分ボクが寝たきりだったことを意味する。
(フルバトルやブラックナイトと戦闘ばかりだったとはいえ、ホント最近ずっとこの部屋にお世話になっているなぁ……って、やば!?)
「ご、ごめんユウリ!!その、また心配かけちゃって……」
「あはは、そんなに必死にならないでも大丈夫だよ。今回は仕方ないって思ってたから。それに幸いってわけじゃないけど、ダンデさんも気を失ってて……」
「え!?」
また無茶をしてしまったことに負い目を感じたボクは慌ててユウリに謝罪。無茶はしないでと言われたのにこのザマなので、また何か言われるような気がしたボクは、しかしその次にユウリに告げられた言葉に思わず声を漏らす。
ダンデさんが気絶した。それがどうしても信じられなくて。
けど、その後に続くユウリの言葉を聞いたら納得がいった。
「最後のリザードンとヨノワールのぶつかり合いがそれだけ凄かったってことだよ。観客席から見てても本当に凄かったよ?多分バリアがなかったらまともに見てられなかったと思う」
「あ、傍から見ててもそんなに凄かったんだ……」
「まぁ、ダンデさんは昨日の時点でもう目が覚めているから、今は普通に生活していると思うけどね」
当事者だからそんなに気にはしていなかったけど、よくよく考えてみたら、周りの空気が歪むほどの力と、周りの地形が溶けるほどの力がぶつかり合っていた。そう考えると、1番近くにいたボクたちが巻き込まれるのは納得といえば納得だ。きっとあの火力は、ダンデさんにとっても今まで出したことがなかった領域だったんだろう。それほどまでにも、ボクらの思いと、戦闘中の成長が激しかったということか。
「けど、やっぱり心配はすごくしたんだから、そこはちゃんと反省して欲しいかな」
「……はい、ごめんなさい」
とはいえ、無茶をしたことに変わりは無い。共有化している以上、ボクとダンデさんではやっぱりボクの方が受けてしまっている影響が大きいので、心配度はこっちの方が上だったはずだ。正直、ブラックナイトの時よりも長く気を失っていたとしてもおかしくない。今回これだけで済んだのは、最初から専門家の人たちが手を出してくれたからだろう。またジョーイさんにもお礼を言いに行かないといけない。
「……あ、そうだ」
と、ここまで話していて、1番重要なことについて思い出したボクは、ユウリに向かって質問を投げかける。
「ねぇユウリ、結局、どっちの勝ちで勝負は終わったの?」
それは、ボクとダンデさんのバトルの結果。
ご覧の通り、ボクは最後は気絶していた影響であまり覚えていない。勝負が決着した時はまだ両足で立っていた可能性があるかもしれないけど、少なくとも審判の人の宣言と、ヨノワールがどうしていたのかまでは知らない。
みんなにとっては既知でも、ボクにとってはまだ未知だ。
「そっか、フリアはまだ知らないもんね。そうだよね」
ボクの質問を聞いて納得したような顔を見せたユウリは、1回姿勢を正して、まっすぐボクを見つめる。
「じゃあ、言うね?フリアとダンデさんのバトルの結果」
「……うん。お願い」
その姿を見て、ボクも気を引き締めて、じっとユウリを見つめて待つ。
ここだけは、ちゃんと聞いておきたいから。
「2人のバトル……チャンピオンマッチの結果は……」
「……」
ドクドクと早まる心臓の音。
手に握られる汗。
聞きたいようで聞きたくなくて、でもはっきりさせておきたいその結果。
ユウリの口からゆっくりと告げられるその内容は……
「ダンデさんの、勝ちだったよ」
ボクの敗北というものだった。
「……はぁ……そっ……かぁ……」
ユウリに結果を告げられると同時に、強ばっていた身体から、一気に力が抜けていく。
「……フリア?……大丈夫?」
力が抜け、俯きながら小さく声を零したボクを前にして、心配そうに声をかけてくるユウリ。
そっと肩に置いてくれた掌からじんわり感じるその温かさは、心の底からボクを思ってくれているのが分かる。
「え、えっと……でも、本当に惜しかったんだよ?ほんの少し、倒れたのがヨノワールが先だっただけで……ほら、フリアのインテレオンとダンデさんのインテレオンの時みたいな!!あれは引き分けだったけど実質フリアの勝ちだったでしょ?だから今回も━━」
そこから始まるのは、ユウリによる必死の弁明。
話を聞く限り、どうやら本当にタッチの差だったらしいという事を全力で伝えてこようとするその姿勢は、俯いているボクからは確認できないけど、多分、かなり焦りを滲ませたものになっているだろうことが分かる。
そんなユウリに対してボクは、ゆっくりと顔を上げて反応する。
「……大丈夫だよ。後悔はないから」
「っ!?」
予想通り焦った表情をしているユウリの目をまっすぐ見て、心からの言葉を零すボク。
目の前のユウリはそんなボクの姿を見て、目を見開いた。
だって、自分でも驚くくらい、スッキリとした笑顔を浮かべているから。
「たしかに悔しいよ?あと少しで届いたかもしれない頂点を、掴み損ねちゃったんだから……」
驚いた表情で固まるユウリを見たボクは、それでも一応話は聞いてくれていると判断し、1度自分の右手に視線を落としてギュッと握る。
もしかしたら、優勝トロフィーを握っていたかもしれない右手。しかし今は、何も握られていない。そのことを改めて理解したボクは、ゆっくりと拳を解きながら、言葉を続けていく。
「でも、昔のボクならきっと、こんなことすら思わなかったし、こう思える場所に辿り着けもしなかった。……やっと実感できたんだ。結果という形で残せたんだ。……ボク自身の成長を」
喋っていくうちにまた熱が上がってきたのか、自然と拳が強く握られる。
「悔しいけど、それ以上に嬉しいんだ。チャンピオン全員の中で見ても最強クラスと言われるダンデさんと互角に戦えたんだよ?こんなボクが!!……今なら、胸を張ってコウキと向き合える気がする……その自信になる。……それにね?」
身体が熱い。心が熱い。
この熱を、少しでも誰かに伝えたい。
そう思ったボクは、顔を上げて、ユウリと目を合わせて、はっきり告げる。
「今のボクなら、きっとこの敗北もバネにして、まだまだ強くなれる気がする。根拠はないんだけどさ、不思議とそう思えるんだ」
「フリア……」
ボクの目を改めて見たユウリは、焦った様子の表情からゆっくりといつもの姿に戻っていく。
恐らく、ボクの言葉が本心であることを受け取り、安心したのだろう。
(本当に、いい友達を持ったなぁ)
「フリア君、目が覚めたんだな」
ユウリの献身的な姿をみて、思わずそんなことを思っていたら、第三者の声が部屋に響く。
その声の持ち主は部屋の入口にいるみたいで、そちらに視線を向けてみれば、そこにはさっきまで話題に上がっていた人が立っていた。
「「ダンデさん!!」」
「やぁ2人とも。元気そうでなによりだ」
ボクたちの声を聞いて安心そうな表情を浮かべたダンデさんは、後ろ手に扉を締めながら入室し、ボクのすぐ横まで歩いてきた。
「思ったより元気そうでよかったよ。ブラックナイト後のあれを経験したばかりだからな。少し……いや、かなり心配だったのだが……」
「その節はお騒がせしました……」
「ははは、気にしなくていいさ。こうやって元気な姿と声を見せてくれたら充分さ。きっと他のみんなも一緒だ。この後見せに行くと良い」
ボクの姿を見て、本心からそう思っているのだろうと分かる笑顔を浮かべながら、ゆっくりと喋るダンデさん。ユウリもこの意見には賛成らしく、言葉こそ出してはいないものの、横で何回も首を縦に振っていた。その姿が少しおかしくて、ついつい笑ってしまいそうになる。
そうやって少しの間歓談していたボクらだったのだが、ある程度空気が和やかになったところで、ダンデさんから少し真面目なトーンで話しかけられた。
「フリア君。昨日のバトル、本当にいいバトルだった。すごく楽しかった」
「はい。ボクも、とても楽しかったです。今出せる、自分の全力全てをぶつけることが出来たと自負しています」
「だろうな。俺も同じことが出来たからこそ、戦いを通じて成長出来た。だからこそ、昨日のバトルという最高の内容をすることが出来た」
その内容は昨日のバトルについてのもの。
最後を飾ったリザードンとヨノワールは勿論のこと、他のみんなだって素晴らしい活躍をすることが出来た。
誰か1人でも欠けていれば、あのような拮抗した熱い展開にはならなかっただろうことは火を見るよりも明らかだ。
ボクがおおよそ思っていたことダンデさんも感じてくれていた。この事実はボクにとっても嬉しくて、ついつい頬を緩ませながら返事を返す。
「ああ、最高の試合だった。だが、だからこそ、とても惜しい……」
「惜しい……ですか?」
そうやって少しの間、お互いに微笑みながら話していたが、ダンデさんの表情が少しだけ曇る。
その理由が気になったボクは、少しだけ表情を引き締めながらダンデさんに疑問を提示。するとダンデさんは、首を振りながらゆっくりと返答する。
「ああ。あんな素晴らしいバトルをしたというのに、その決着の瞬間を覚えていないことが、あのバトル最大の後悔であり、俺の汚点だ」
「!!」
悔しそうに表情を歪め、拳を握りながら発せられる理由を聞いて、ボクはユウリに言われたことを思い出す。
(そういえば、ダンデさんも気絶していたんだっけ?じゃあ、決着が着く瞬間までちゃんと立ってたのは、リザードンとヨノワールだけだったんだ……)
共有化していてダメージが多いボクは今更として、長年バトルしていて、かつダイマックスと言うさらにトレーナーへの影響の大きいバトルを何回もこなしてきたダンデさんでさえこうなっていたという事実を聞いて、改めて昨日の最後のぶつかり合いが相当な規模だったんだという事を実感する。しかもそれを行った片割れが自分だと言うのなら、余計に不思議な感じだ。
しかし、そんなすごいことをしていたのに、ダンデさんは満足していない。
「自分が勝った瞬間を覚えていないというのは、存外納得がいかないものでな」
その理由は、審判の人によって宣言された瞬間……そして、決着が着き、自分のポケモンが最後まで戦い抜いた瞬間を記憶出来ていないからというもの。
こう言われるとたしかに、勝った側からしたら、あまり実感を得られない出来事だろう。
(寝て覚めたらなんか自分が勝ってました……うん、多分ボクでも納得がいかないね)
「審判を疑っているわけじゃない。だが、自分の目で見ていない以上、どうしても引き分けや負けだったのではないか?と疑ってしまう自分がいるんだ。最も、今回に関してはちゃんと撮影された映像を見直したから、裏は取れてはいるのだがな」
今回はチャンピオンタイトルマッチ。故に、引き分けだった場合でも、防衛は成功扱いとなって結果はチャンピオンの勝利となる。その点を考えれば、あの瞬間だけを切り取ればダンデさんの方が有利ではあるけど、やっぱり確認は大事だ。もしもの事を考えたら、普通のことではあるんだけどね。
けど、そうやって確認をちゃんとした上でも、やっぱりダンデさんは納得いっていない。
「あれだけ最高のバトルだったのに、結末を覚えていないだなんてシャレにならない。決着の時はちゃんとこの目で見届けたい」
いつの間にか、悔しそうな顔からキリッとした顔に戻ったダンデさんは、ボクの瞳をじっと見つめながら言葉を紡ぐ。
「俺はまだ、今回のバトルは決着していないと思っている。だからフリア君……」
紡ぎながら差し出される右手は握られており、今のダンデさんの意志を表すかのように硬くなっている。
「いつかまた再戦して、今度こそ決着をつけよう」
「ダンデさん……」
「願わくば、その時は君が、俺と同じ場所にいることを望む」
「っ!?」
俺と同じ場所。
その意味を理解し、同時にこれからボクがしようとしていること理解されていることに驚き、そして頬が緩む。
(ほんと、敵わないなぁ……)
どうやら、ボクがこの人をちゃんと実力で越えられるのは、もう少し先になりそうだ。
「はい、今度こそ、勝たせてもらいます!!」
けど、もう挫けたりしない。
だって、今はちゃんと背中が見えているから。
(今度はもう、見失わない!!)
今度こそ約束を果たすために。
その意志を載せたボクの拳が、ダンデさんの拳にぶつかり、室内には小気味よい音が響く。
その音は、ボクの背中を押してくれたような気がした。
決着
遂に決着ですね。今回はこのような結果になりました。引き分けがチャンピオンの勝ち扱いなのは、ボクシングなどでも同じですよね。
兎にも角にも、ようやくここまで書きました。
完結まで、カウントダウンが始まりそうですね。