【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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幕間 隣
362話


『ブラックナイトと言う大きな事件の衝撃を吹き飛ばすような大激戦!!延期されていたチャンピオンのダンデさんと、挑戦者のフリア選手による激しいチャンピオンタイトルマッチ!!歴史に名を刻むと言われている名試合!!いやぁ、もうすでに数日経っているとはいえ、未だにこの興奮は冷めませんね!!』

『ええ、特に最後のリザードンとヨノワールによる全身全霊の突撃。あれはたとえポケモンバトルを詳しく知らない人が見たとしても、手に汗を握る展開だったでしょう』

『そうですね~、私的には、インテレオン同士の対決も凄く興味深い展開だったのですが、いかがでしょうか?』

『勿論そちらのバトルも素晴らしかったですよ。私が挙げたものも、あくまで私個人が一番印象に残っているのを強いて挙げただけなので、いくらでも挙げていいのであれば、もっともっと語らう事が出来ますから』

『やはり、沢山の試合を見てきた専門家の方すらもそう思ってしまうほど素晴らしい試合だったのですね!!では、今回もその試合について改めて振り返ってみましょう!!まずは━━』

 

「……本当に……この振り返り何度するつもりなのかしら……」

「とか言いつつ、なんだかんだで見ちゃうあたり、あなたもあなたよね」

「お嬢様はフリア様のことを気に入っていらっしゃいますからね」

「2人ともうるさいわよ……」

 

 電源の付いたモニターから流れてくるのは、先日行われたチャンピオンマッチの振り返り。

 

 私の目から見ても素晴らしかったとしか言えないほどの激戦は、ポケモンバトルが大好きなここ、ガラル地方の人にとっては劇薬以外の何物でもなく、もう既に何回も振り返っているはずなのに、未だにこうやって見直しが行われ、そのうえでみんなが見てしまう程のコンテンツにまで昇華してしまっていた。

 

 歴史に名を刻むバトルなんて表現はよくされるけど、このバトルはまさしくその名の通りに語り継がれるだろう。そう思わせるレベルで、内容的にも世間の反応的も素晴らしいバトルだった。

 

(下手したら、学校の教科書とかにも載りそうね……)

 

 そんな感想を抱きながらカップに注がれた紅茶をひと口含み、ゆったりとテレビを眺める。

 

 コクランが入れてくれたもので唇を濡らしながら、カトレアたちと見るテレビにはいつ見ても熱いと言わざるを得ないバトルがリプレイされており、シンオウ地方にいた時から知っている彼がここまで成長してくれていることに感慨深さを感じる。

 

「本当に……強くなったわね……」

「あたくしはまだ付き合いが浅い方だけど……それでもヨロイ島の頃から考えるだけでも同じ気持ちを抱いてしまう……付き合いのもっと長いあなたは……尚更でしょうね……」

「願う事なら、昔のフリア様を見てみたいものです」

「本当に昔からいい子たちだったわよ?色々波はあったけどね」

 

 そう言いながらふと思い出す、あの子たちが歩んできた道。

 

 色々まきこんだりしてしまったけど、それでも彼らの道を見るのはとても楽しかった。

 

 今回のバトルだって、そんな彼が歩んできた道の集大成と言ってもいいレベルのものだ。

 

「きっと、フリア自身もかなりの手ごたえを感じたのではないかしら?」

 

 このバトルの後、またすぐに気絶してしまったみたいだけど、今はもうちゃんと目が覚めて、いつも通りの姿で生活できているらしい。起きてすぐ私の下に連絡が来たからそこは安心だ。

 

「この子はまだまだ強くなる……それこそ……今度こそダンデを越える可能性も十分ある……」

「ですね。未来がとても楽しみです」

「だからこそ……これからどうするのかしらね……」

 

 フリアの未来を想像して期待を寄せる私たちは、最後に続くカトレアの言葉を聞きながら、これから彼がどのように動くのかに興味を向ける。

 

 もう、ガラル地方ですることは今の彼にはない可能性がある。

 

 その場合彼は一体、どのような道に進むのか。

 

「シンオウ地方に帰るのか……はたまた別の地方に進んでいくのか……」

「どの道を進んでも、きっとフリア様にとってプラスの何かとなってくれるでしょう」

「その道の行く先を、見ていてあげたいわね」

 

 そういいながら、もう一度紅茶で喉を潤す。

 

 私たちも、そろそろここを離れる時だ。そうなれば、またしばらく彼らとはお別れとなるだろう。

 

 それでも、私はき絶対に彼らのことを常に頭の片隅に置いておくだろう。

 

(次に再開した時、どれだけ成長しているのか……楽しみね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぇ~……」

「あはは……魂抜けてるな~……」

「まぁ、それだけ凄いバトルだったし、ずっと関わっていたジムチャレンジ関連のあれこれが完全に終わったもんね。あたしもちょっと気持ちわかるし」

 

 大激戦であるフリアとダンデさんのバトルを見届けた私は、そのあとの表彰式やら閉会式やらに参加して見届けた後、やることをすべて終えたということで、一旦我が家があるハロンタウンに帰宅し、たまたま一緒に来たホップと、単純にわたしの家に興味を持ったマリィもつれて自室でゆっくりしていた。

 

 かといって、特に何かをするわけではなく、私はつけているテレビをぼーっと見ながらまったりとした時間を過ごしていた。

 

 別に目標がなくなったとか、やる気がなくなったとか、そんなわけではない。むしろ、あれだけの試合を見せられたのだから、やる気に関しては漲っている方ではいる……んだけど……

 

「単純な燃え尽き症候群だよな。オレもやる気はあるんだけど余韻が凄すぎてまだ手を出すか悩むレベルだぞ……」

「あたしも、アニキからジムリーダーの話が来てるからそろそろ動かないといけないんだけど……ちょっとお腹いっぱいと……」

 

 みんながみんな、先日のあれこれの結果が凄すぎてどうしても一歩動くのに時間がかかっていた。

 

 きっと、今はガラル中の人たちがこの燃え尽き症候群に囚われていることだろう。それほどまでにこの前のバトル結果はすごかった。

 

 今もこうやって目を閉じて振り返れば、その時の映像を鮮明に思い出すことができるくらいには、しっかりと記憶にこべりついている。

 

(あのバトルがもっと続けばいいのになぁ……また見たい……)

 

 その度に、こうやってあの時の感覚を思い出したいという欲が湧き出て、でもそれはもう無理で、結果また燃え尽き症候群がぶり返してと言う、あまりよくないループにはまっている。

 

「う~ん……」

 

 心だけは凄く燃えているのに、脳がまひしたかのように動かない。そんなちょっと不思議な感覚。とはいうものの、正直そんな危機感は覚えておらず、少しずつこの感覚も薄れてはいるので、そう遠くないうちにいつも通りに戻ってくれはするだろう。

 

「それにしても……ユウリはいいと?」

「え?なにが?」

 

 そんなポワポワしている状態で話していたら、急にマリィが私に質問を投げかけてきた。けど、その質問に主語がなかったため、うまく理解できなかった私は少し浮ついた声でマリィに質問を返す。すると、マリィは特に気にした様子もなく、純粋な疑問を浮かべながら質問の内容を詳しく話してくれた。

 

「ジムチャレンジが終わったってことは、フリアたちはもう帰るんじゃなかと?もしそうなら、あたしもだけど、今のうちに話せることはしっかり話しておいた方がよかとよ?」

「あ……」

 

 マリィに言われて気づくフリアたちの事情。

 

(そうだ……フリアたちはガラル地方の人間じゃない……ってことは……)

 

 ずっと旅をしてきていたから感覚がマヒしていたけど、よくよく考えればフリアたちはシンオウ地方の人間だ。いろんなところを旅しているとはいえ、ホームはシンオウ地方なのだから、一区切りついたら一度家に帰るのは普通の考えだ。

 

 となれば、フリアたちはそう遠くないうちに帰ってしまうことになる。

 

「そっか……フリアたち、帰っちゃうのか……」

「そう考えると……急に寂しさがこみあげてきたぞ……」

 

 マリィの言葉を受けて、フリアたちが帰るところを想像すると、急に胸にぽっかりと穴が開いたかのような感覚に襲われた。それはホップも同じらしく、私の横で少し空を見上げながら溜息を吐くかのように言葉を漏らしていた。

 

 しかし、私が感じていたのは寂しいという感情だけではなく、なんなら寂しさ以上に焦りの感情を抱えていた。

 

(ど、どうしよう……結局話せていない……!!)

 

 その理由は、フリアとの約束。

 

 ジムチャレンジ突破者だけが参加できるガラルリーグ。

 

 それが行われる前の夜に、ホテルでフリアと交わした1つの約束。

 

『もし決勝戦でフリアと私が闘って、その結果から私自身の成長がしっかりと確認できたのなら……私があなたの隣に立っていいと確信できたのなら……その時は私からの大切な話を聞いてもらってもいいですか?』

 

 一部端折ったりしてはいるかもしれないけど、おおまかなことは外れていない、このような内容の約束をしたあの日から既にかなりの日数が経ってしまっているけど、未だにその約束を伝えるチャンスに巡り合えていない。ここまで来たら、もしかしたらフリアはこの約束を忘れているのではないかと言う恐れすらある。

 

 そしてそれ以上に……

 

(やばい……今の感情だととてもじゃないけど言える自信がない……!!)

 

 あの夜は不思議と覚悟が決まっていたからすんなりと言葉が続いていったけど、あれからかなり時間が経ってしまった今だとそんな覚悟なんて残っていないので、すんなり言える自信が全くない。

 

 別に隣に立てる自信がないわけでもないし、フリアとのバトルに納得がいっていないわけでもない。なんなら、ブラックナイトの時は頼ってもっらえたのだから、きっと隣にいても全然恥ずかしくはないと思っている。けど、それ以上に言う事自体に恥ずかしさを感じてしまっている。

 

 だって、言う内容が内容だから。

 

(うぅ~、今想像するだけでも恥ずかしさが……)

 

「ユウリ?大丈夫か?」

「え!?なに!?」

「……本当に大丈夫か?」

 

 そうやって恥ずかしさに悶えていると、いきなりホップが横から声をかけてきたのでそれに返事をする。けど、自分でも相当混乱していたらしく、その返事がかなりたどたどしくなってしまい、ホップに余計変な心配をかけてしまう。

 

「なんか、すっごく顔が赤いが……熱か?」

「な、何でもないよ!!大丈夫!!」

 

 純粋に心配に思ったホップが、ぐんと顔を近づけてこちらを見つめて来る。その近さが予想外で、恥ずかしさも相まって慌てて距離を取った私は、ホップを両手で押しのけながら違う方に目を向ける。

 

「……」

「な、なに?マリィ……?」

「……はぁ」

「なんでため息!?」

 

 その視線の先には、こちらに向かってジト目を向けているマリィの姿。彼女は私の姿を見るや否や、呆れたかのようなため息を零し始める。それがどこか納得いかなくて、ついつい大声で反応するけど、そんな私を見てマリィは冷静に一言。

 

「言いたいことがあるのなら速く言った方がよかと。やらない後悔よりやる後悔。大事と」

「うぅ……わ、わかってるよ……」

 

 その言葉があまりにも正論だったため、反論することが出来ずに言葉を詰まらせる私。同時に、落ち着きを取り戻した私の表情は、恥ずかしさによって赤くなっていたのが収まっていき、逆に少し落ち込んだかのようなものになる。

 

 マリィの言っていることはすごく正しい。もうこのガラル地方に用事がない彼らはいつ帰ったとしてもおかしくはない。こうやってうじうじしている時間はかなりもったいなくは感じるし、すぐにでも言いに行くべきだろうとは思う。

 

(けど、それとこれとはちょっと違うんだよね……)

 

 ただ、正しいことがわかっているのと、正しいことを実行できるというのはまた別問題だ。

 

 私の中にくすぶっているこの気持ちは、結果はどうあれ、打ち明けるだけで大きく関係が変わりかねないバクダンだ。どうしたって慎重にはなってしまう。

 

「……でも、伝えたいなぁ」

 

 だけど、そのうえでマリィの言う通り、後悔しない選択を取りたい。

 

「ううぅ~……はぁ……」

「……なぁ、ユウリはどうしたんだ?」

「と~っても複雑なことに悩んでいると。あたしたちじゃ、手助けできないくらいにね」

「ん~……?」

「ホップには……まだはやかとね」

 

 どう動くべきか、うんうんと唸る私の横で、マリィとホップが何か喋っているけど、私の耳には届かない。

 

(まずは連絡?それともいきなりストレートに言う?いやいや、やっぱりまずはちょっとした散歩とか……でも時間を掛ければその分ハードルがあるし、かけすぎたら帰っちゃうし……うう~……)

 

 横で何か言っているのを聞き流す私は、これからどうすればいいのかを、スマホロトムとにらめっこしながら、永遠と唸り続ける。

 

「……ユウリは一体何をしてるんだ?」

「あ、マサル!!お帰りだぞ!!」

「お邪魔してます。ユウリに関しては気にしないでください。そういうお年頃なんです」

「ああ……そういう事か」

「お兄さん的にはどうなんですか?」

「まぁ……ユウリの気持ちには何んとなく気付いていたし、フリアさんにはもう、あの時に伝えたつもりだしなぁ……」

「……え!?」

「……ん?何の話だ?」

 

 そんな私の横で、何か変な話が進んでいる気がしたけど、今の私にはそちらに意識を向ける余裕はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ガラル地方はシュートシティ。そこにあるホテル、『ロンド・ロゼ』にて、チェックアウトを済ませたボク、ジュン、ヒカリ、コウキの4人は、のんびりと散歩をしながら談笑をしていた。

 

「んん~……なんか、やっとのんびりした日が返って来たって感じだね~……」

「わたしとジュン、それにコウキは別に忙しかったって感じはしないけどね」

「オレたちは試合観戦をしていただけだしな!!まぁ、ブラックナイトは大変だったが」

「おれもそんなに大変だったイメージはないな。まぁおれはみんなと違って、シンオウ地方からこっちに来て日が浅い方だから、まだまだ新鮮な気持ちなんだが」

「それもそっか」

 

 激動だと思っていたここ数日間だけど、確かにジムチャレンジに参加していなかったジュンたちにとっては、ブラックナイトで東奔西走していたこと以外はただただ観光していたにすぎない。そう考えると忙しかったのって、ここのメンバーだとボクだけだったりする。ただ、その肝心のボクが、ほぼ毎日フルバトルを行っていたことと、ブラックナイトに巻き込まれたことが重なって、とんでもない活動量になってしまっている。そのせいか、こうやってすべてが終わってのんびりみんなと話しているこの時間が、酷く懐かしく感じてしまっている。

 

 燃え尽き症候群的な脱力感も感じてはいるものの、それ以上に充実感もあるので、個人的にはいいコンディションだ。この調子で、このあとやろうと思っていることもうまくいくといいなと思う。

 

(……そう、あとであれをしなくちゃだね。……そうなると、もうこことお別れかぁ)

 

 ボクがこの後やろうと思っていること。それを実行するためには、シンオウ地方に帰る必要がある。

 

 そう、長いようで短かく、そして随分とお世話になった、もはや第二の故郷と言っても過言ではないほど、すっかり染まってしまったここ、ガラル地方との別れ。

 

 当たり前だけど、ボクは元々ここの地方の人間ではないのだから、いつかは別れの時は来てしまう。わかっていたことだけど、それでもこうやっていざ目の前にやってきたのを実感すると、中々寂しい気持ちが胸の中に宿っていく。

 

「この地方ともお別れか~……」

 

 改めて言葉に出してみると、頭の中を巡っていくのはたくさんの思い出。

 

 ここシュートシティに到着して、ハロンタウンに行き、ブラッシータウン、ワイルドエリア、エンジンシティを経てジムチャレンジへ参加し、そこからガラル中を旅して、最後にはダンデさんとのバトルまで行った。

 

 観光、そして武者修行として考えたら、完璧な結果と言っていい旅の内容だ。思い残すことも、もうないと言ってもいいだろう。

 

「あ、コウキさん。それにみなさんも」

「ん?」

 

 そうやって自分の記憶を振り返っているところに聞こえてきた1つの声。

 

 そちらに視線を向ければ、そこには1人の少女が立っていた。

 

「ミカンさん。おはようございます」

「はい、おはようございます」

 

 正体はミカンさん。

 

 ジョウト地方のジムリーダーで、シンオウ地方で縁あって、コウキとマサルさんと一緒にガラル地方に来て、ブラックナイトを共に乗り越えた人だ。

 

「今日はどうしたんですか?」

「はい、ブラックナイトからも大分落ち着いて、ジムチャレンジも最後まで見届けることが出来たので、そろそろジョウト地方に帰ろうかと思いまして、その挨拶をと」

「なるほど、それならおれからも━━」

 

 ボクたちと同じく、別地方の人間であるミカンさんもどうやら帰る準備をしているらしく、そうなるとボクたちともお別れと言うことで、一番関わりのあるコウキに、挨拶をしに来たという感じらしい。

 

 そこからは、ボクたちから少し距離を取って話し込むコウキとミカンさん。その姿を見て、ボクの頭の中にはガラル地方でお世話になった何人かの影が頭をよぎっていく。

 

「……フリアも、挨拶はきちんとしなさいよ?勿論、出発直前にするんじゃなくて、今から会う時間を設けるって意味よ?」

「今生の分かれってわけじゃないけど、地方を跨いでの別れって、いつ再開できるかわからないしなぁ……そういう時間は取っておいて損はないよな」

「ジュンは絶対に意味を分かってないけど……まぁそういう事よ」

「せっかく同意してやったのになんだってんだよ~!!」

 

 と同時に、ヒカリとジュンからも、やり残したことを作らないようにと言う旨を含んだ言葉を返される。……いや、ジュンはちょっと違うけど。

 

 2人の言う通り、今ガラル地方を離れたら、次は何時ここに帰って来るのかわからない。さっきはやり残したことはほとんどないとは言ったけど、それはあくまでも旅の総評として残したものであって、例えば今から5年くらい戻ることができないと言われたとき、じゃあ今から何もせずに帰って、それであとくされなくガラル地方を離れられるかと言われたら、それはまた別の話だ。

 

 別れる前に、話くらいはしたい。そう思う相手が多すぎて困るくらいには、ボクはこの地方に染まってしまっている。

 

「ではコウキさん。また縁がありましたらどこかで!!」

「はい!!またどこかで!!」

 

 やり残したこと、挨拶をしたい人を頭に思い浮かべていると、ちょうど話し合いを終えたらしいコウキが、ミカンさんと挨拶を終えてこちらに帰ってきていた。

 

「待たせたな」

「全然待ってないから気にしなくてもいいわよ。むしろ、大切なことを思い出せたみたいだし……ね?」

 

 謝りながら帰ってきたコウキの言葉に対して、ちょっとした微笑みを返しながら、視線だけはこっちに向けて来るヒカリ。

 

 その視線からは、『わかってるわよね?』とでも言いたそうな雰囲気をひしひしと感じ、同時にボクの中でも1つの答えが出たので、小さく頷きながらスマホを取り出す。

 

(元々挨拶くらいはするつもりだったけど……多分ヒカリが言いたいのはそういう事じゃない。もっと、大事なことを話せってことだと思う……)

 

 スマホを操作しながら、ヒカリの言葉の意味を改めて考え直すボクは、1つの答えに辿り着く。

 

(正直言葉の意味はどういうものかはわかってはいないけど、ヒカリがわざわざこうまで言って時間を作ろうとするだなんて、多分よっぽど大事なことだと思う。そんでもって、そんな時間を取らなきゃいけないほど大切な人って言われると……)

 

 自然と浮かんでくるのは1人の顔。

 

 ボクがガラル地方に来て一番最初に出会い、そしてジムチャレンジでも一番長い時を共に過ごした人。

 

 ボクの首元にぶら下がるアクセサリの元をくれた、大切な人。

 

(ユウリしか……いないよね……)

 

 スマホの画面に映し出されるのは、ユウリとのメッセージ欄。

 

 ジムチャレンジ関連が終わり、落ち着いたということで一旦実家に帰省している彼女は、今何をしているのか。

 

 急に連絡して迷惑にならないだろうか。

 

 思えば、ずっと一緒にいすぎてこういう連絡によるお誘いと言うのはしてこなかった。

 

(そう考えると、なぜか知らないけど急に緊張感が……)

 

「って、わわわ!?」

 

 謎の緊張感に少しだけ心音を速くしていると、急に震えだすボクのスマホ。

 

 予想外の展開に驚いて、思わず落としそうになってしまったのを何とか耐えたボクは、今しがた来た通知の内容を確認する。

 

 そこには、ユウリからのメッセージが表示されていた。

 

『フリア。もしもう少しで帰るのなら、その前にどこかで時間を作ってくれない?』

 

「……先越されちゃってるわね。意気地なし」

「なんでボクが責められないといけないのさ……」

 

 ヒカリの言う通りだから何とも言えないけど、それでもここまで言われる筋合いはない……と思いたい。

 

「とにかく、ちょうどいいんだから返事しなさいよ」

「わかってるよ。特に断る理由もないしね」

 

 とりあえず、受けたお誘いに対して返事を返すボク。

 

(大丈夫。いつも通り一緒に過ごすだけ……)

 

 そう思いながら返すボクの指は、なぜか少しだけ震えているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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