【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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364話

 ユウリとのお出かけを終えたボクは、残りの時間を今までお世話になった人たちへのお礼巡りに当てていた。

 

 今まで冒険してきた場所を順番に巡りなおし、ジムリーダーやお世話になった施設の人に挨拶して回るのはそこそこ時間はかかりはしたものの、アーマーガアタクシーや、列車を乗り継いで行われた少し忙しない移動によって、思ったよりも時間をかけることなくすべてを回ることが出来た。

 

 この時間の短縮具合を見て、便利になったなぁと改めてボクは思った。シンオウ地方にはそういう移動手段は多くないから、基本的にそらをとぶによる移動になっちゃうからね。

 

 そうやって、思い出を振り返るように回って言った時間はとても懐かしく、同時に背中を押すように応援してくれたみんなに勇気をもらえた。

 

 いよいよもって別れの時間が近づいてきたことに凄く寂しさを感じはするけど、それを上書きするくらいにはみんなからの言葉が暖かい。

 

 特にカブさんは、あの時エンジンシティから送り出してくれた時よりもさらに熱のこもった応援でボクを送り出してくれた。どうやらボクがガラル地方を大切に思っているのと同じくらい、ガラル地方のみんなもボクのことを大切に思ってくれているらしい。これはいよいよもって、第二の故郷と言うものが確立されている気がする。

 

「……」

 

 それゆえに、未だにユウリへの解答が出きっていない事に、ちょっとした不安が募っていく。

 

「……で、どうするの?いよいよ時間がないけど?このままだと、間違いなく後悔するわよ?」

「わかってはいるけど……肝心のユウリが話す気がないっぽいからさ……」

「……あっちもあっちでなかなかの意気地なしね……これはマリィと色々作戦を……」

「え、えと……無理やりはダメだからね?」

 

 目のハイライトを消しながらスマホをポチポチと操作するヒカリに若干の恐怖を感じながらも、最低限のことは言っておこうと言葉を残すボク。

 

「けど、実際問題どうするのよ。ずっと待つのもなかなか変な気分でしょ。その調子で闘えるの?」

「まぁ……そこは大丈夫だと思うけど……」

 

 これでももうそこそこ大きな舞台で何度も戦ってきている身だ。いざバトルとなった時の気持ちの切り替えはもうだいぶ慣れてきてはいるから、ここでのもやもやを持っていくことはないだろうけど、だからと言ってそれで後悔なくここを発てるかと言われると、それはまた話が変わってくる。

 

「お~いフリア~!!こっちにいいお土産あるぞ~!!これナナカマド博士に持って行ってやろうぜ~!!」

「……いくらガラル地方がカレー流行地方とはいえ、おれは博士に対してのお土産でレトルトカレーを選んでいるお前の未来が心配だよ」

 

 なんて悩んでいるところに遠くから聞こえるジュンとコウキの漫才。

 

 大声でこっちを呼ぶもんだから若干注目されているのが嫌なところだし、レトルトカレーパックをもって手を振ってくる彼とは出来る限り知り合いと思われたくないので、出来れば知らんぷりをしたいところだけど、そうもいかないので、ボクとヒカリはそろって溜息を吐きながら2人の方に歩いて行く。

 

「相手はポケモンの進化に関する研究者なんだからせめてそれ関連を選びなさいよ……」

「まぁ、そもそもそういうアイテムを取るのなら、シュートシティよりもラテラルタウンの方がいいと思うけどね……」

「まじか……いいと思ったんだけどな……」

「本気でそう思っているんなら一回病院行った方がいいぞ」

 

 そして集まるシンオウ地方4人組。

 

 一時期はギスギスしてしまっていたけど、もう和解した今となっては、集まった場所はそのまま落ち着く場所だ。……いや、さっきまではジュンのせいで少し怪しかったけど、それでもなんだかんだ一番心が休まるメンバーでもある。

 

 そしてこのメンバーで揃ってシンオウ地方に帰る日ももう決めている。

 

 その日は今から2日後の朝。

 

 もう、別れの時は目の前にまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 フリアとのお出かけを終え、家に帰ってきた私は、ここ数日ため息を零しながらベッドの上でゴロゴロ転がっているだけの時間を過ごしていた。

 

「バース……」

「ティ~……」

「よしよ~し、エースバーン~……ポットデスもありがとね~」

 

 そんなのんびりしている私に倣うように寝そべってリラックスしているエースバーンと、私たちを更に癒そうと心地いい香りを漂わせているポットデス。

 

 2人とも、悩んでいる私を落ち着かせようとしてくれているみたいで、その気遣いを強く感じた私はお礼を言いながら2人をそっと撫でる。

 

『で、結局どうすると?』

「う~ん……」

 

 そんな私にかけられるもう1つの声。それは、ベッドの横においてあるスマホロトムから聞こえており、通話相手はマリィ。

 

 あれからスパイクタウンのジムリーダーを引き継ぐために、一度家に帰っている彼女と、これからどうするのかの話をそれとなくしていた。

 

『もう明後日にはフリアたち、ガラル地方を発つって言ってたとよ?』

「知ってる……」

 

 マリィの口から改めて伝えられるフリアたちの旅立ちの日。

 

 今までは何となくで頭にあったその時が、いよいよもって目の前にまで迫ってきていた。だというのに、私の覚悟はまだもうちょっと足りていなくて……

 

(もしフリアが帰って、約束の1つを果たしちゃったらまた1つ先に行っちゃう……そうなったら、また背中が見えなくなる……隣に立てなくなる……)

 

 自分が隣になれば、それはフリアの夢の妨げになる。

 

 隣に立ちたいけど、足を引っ張る存在にはなりたくない。そんなことを考えると、どうしても頭がぐるぐるして、言う事が出来ずにいる。そのことはマリィもわかってくれてはいるはずだけど、彼女はどちらかと言えば言うことを推奨している側だ。

 

 正直、なんでそう背中を押してくれるのかわからない。マリィが私と同じ立場だったら、どういう行動をとるつもりなのだろう。

 

 別に不満があるというわけではなく、純粋に疑問に思った私は、マリィに投げかけてみた。

 

「ねぇマリィ。もし私が隣にいることそのものが、相手にとって邪魔になるかもしれなかったらどうするの?」

『え?急にどうしたと?』

「純粋に気になったから質問だよ。マリィは私の気持ちもフリアの約束も知ってるでしょ?でも、ヒカリも含めてみんな背中を凄く押してくれる……どうしてなのかなって……」

『そんなの、さっさとくっついて欲しいからしかなかとよ?応援しているから速く結ばれなさいって』

「そ、そういう事じゃなくて!!」

 

 マリィのさも当然と言ったような感じて告げられた言葉に、恥ずかしさからつい強めに返事をした私は、いました質問の意味を伝える。

 

「今の私はフリアの横に立てるレベルだと思うけど、シンオウ地方に帰って約束を果たしたらまた先に行っちゃうでしょ?そうなったら、また離されちゃうなって……」

『……え?』

「な、なに……?」

 

 その意味を伝えると、マリィから返ってきたのは疑問の声。

 

 一体どこに疑問を持ったのだろうか。てっきりマリィは、私の気持ちに関してちゃんとわかっていると思っていたので、この反応は予想外で、逆にどこに疑問を持ったのかがわからなかった。

 

 すると、マリィは信じられないと言った口調で言葉を発する。

 

『てっきりあたしは、気持ちを伝えたせいで動揺が生まれて、フリアが目標を達成させる邪魔になるのが怖くて言えないのかと思ってたと……』

「そこは心配してないよ?だってフリアはすごいもん。確かに気持ちを伝えた直後は動揺するかもしれないけど、その動揺を別に持ち込むこまないもん。決着をつける時は気持ちを切り替えて挑んでるよ。ゼッタイ!!」

『はいはい、早口で言わなくてもわかってると。ユウリの愛が深すぎて怖か』

「ふ、深くないもん!!……いや、浅いってわけでもないけど……うぅ……」

『はぁ……』

「バ、バス……?」

「ティティ~」

 

 マリィの疑問に対して私なりの解答を返すと、マリィから思いもよらないカウンターが返ってきて慌てた私は、更に言葉を返そうとするけど、そのどれもが墓穴を掘っているような気がして仕方なく、結果布団に顔をうずめて唸ることしかできなくなっていた。

 

 エースバーンとポットデスも、そんな私の行動を心配してか、近くに寄り添いながら声をかけてくれる。

 

「エースバーン~……ポットデス~……マリィがいじめるよ~……」

『……そんなこと言うなら通話切るとよ』

「う、嘘!!嘘だから!!ごめんなさい!!」

『全くもう~……』

 

 もう数えるのも諦めるレベルの量浴びせられたため息に対して、いい加減慣れてしまった私は今一度呼吸を整えてマリィに言葉を返す。

 

「うぅ、てっきりマリィなら全部わかっているものだと……」

『むしろ全くわからなかと』

「えぇ~……」

 

 一緒に過ごしてきたうえに、私のこともフリアのこともよく知っている彼女なら、客観視していることも含めて色々視えていると思っていたのでそのことを伝えてみれば、返ってきたのはなかなか厳しい言葉。どうやら私の悩みはあまり理解されていなかったらしく、この様子だとヒカリたちも同じような状況なんだろうなと言うことが分かった。

 

(マリィたちなら……わかってくれると思ったのになぁ……)

 

 その事に少し残念な気持ちを持っていると、スマホロトムからマリィの声が聞こえて来る。

 

『あたしもヒカリも、ユウリならもっと別のことで悩んでいると思ってたと』

「別のこと?」

 

 その内容は、私が悩んでいると思っていたことについて。

 

 向こうが私の悩みを知らなかったように、私も相手のその予想がわからないので、私は単純な疑問から質問をぶつけてみた。

 

「マリィとヒカリは、私が何に悩んでいると思っていたの?」

『そんなの、1つしかなかと。意気地なしのユウリの事だから、ただただ恥ずかしくてなかなか言い出せてないだけだと思ってたと』

「すっごい不名誉なんだけど!?」

 

 しかし返ってきた返答はとてつもなく単純なもので、ともすれば私を貶しに貶しまくっている言葉だったのでこちらも思わず強い言葉で返事をしてしまった。

 

「もう!!こっちは真面目に悩んでいるのに~!!」

『その悩み方がわからないって言ってると』

「なんでさ~!!」

 

 徐々にテンションの上がっていく私に対して、いつも通りどころか、いつもよりもさらに冷静な口調で告げるマリィは、ごくごく当たり前化のように発言をする。

 

『なんでユウリは()()()()()()()()()()していると?』

「え……?」

 

 その言葉は私の全く予想していなかった言葉で、その言葉のせいで私の頭は一気に冷え、しみこむようにマリィの言葉が入って来る。

 

『背中に追いつけたのに満足して視界が狭まっていると。っていうか、言ったはずとよ?次は私たちがあの場所に立ちたいって』

「あ……」

 

 その言葉を受けて、ようやく言いたいことを理解した私は、今まで抱えていた不安が嘘のように霧散していく。

 

『先にフリアがチャンピオンになったら何か問題があると?もしフリアがチャンピオンになるんなら、ユウリだってチャンピオンになればいいだけど』

「……私がチャンピオン」

『ほら、これでまたイーブン。ちょっと離れた程度で諦めるなんてユウリらしくなかと。……まぁ?次のチャンピオンはあたしが取るけん、ユウリの気持ちはもうちょっと取ってもらうことになるけど』

 

 どんどんクリアになっていく頭に入って来る、マリィの挑発するかのような声。

 

 それを聞いて、どんどん光が見えてくるような気がした。

 

「……とらせないよ。次のチャンピオンは、絶対私がなる」

『……ふふ、やっとやる気になったとね』

「うん……ありがとう。もう、迷わないから……」

『うんうん、それでよかと。あたしも、本気のユウリとてっぺん取り合いたいけんね』

 

 光が見えた先にしたマリィとの約束は、どこかの誰かたちと似たような約束となっていた。それがどこか嬉しくて、私のやる気を更に燃え上らせる。

 

 気付けば、私の頭からは燃え尽き症候群のような倦怠感は消えていた。

 

「エースバーン……ポットデス……それにみんな……やるよ……!!」

「バスバース!!」

「ティーッ!!」

 

 同時にエースバーンとポットデス、そして、ボールの中でカタカタと存在を示す他のみんなに声をかけてやる気をみなぎらせていく。

 

 目標は決まった。なら、あとはそこに突き進むだけだ。

 

(待っててね、フリア!!)

 

『……その前に、フリアにちゃんと言わないといけんね?』

「……あぅ」

『……意気地なし』

「う、うるさ~い!!いいもん!!目に物見せてやるんだから!!」

『はいはい~、期待せずに楽しみにしていると~』

「……その言葉、本気で後悔させてあげるからね?」

『……え?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュン、忘れ物はないわよね?」

「おう!!大丈夫だ!!……って、なんでオレだけ名指しなんだよ」

「なんでってお前が一番やらかすからだろ?フリアもおれも、ヒカリだって問題起こしたことないぞ?」

「ボクからしたら3人ともあんまり変わらないけどね……」

「「「一緒にされるのは心外!!」」」

「はいはい」

 

 人の声が賑わうところで少しだけ強めに響くボクたちの声。が、その声は周りの人があげている喧騒に掻き消えていく。

 

 ボクたちがいるのはシュートシティの空港。

 

 ボクがガラル地方に降り立った場所であり、ボクたちがガラル地方から飛び立つ場所。

 

 出会いと別れの玄関口とも言える場所に、フライトの時間にしっかりと間にわせるために準備を整えたボクたち4人が集合していた。

 

 いや、集合していたのはボクたちだけじゃない。

 

「いやぁ、ついにお別れか……寂しくなるぞ」

「ほんと、もうずっと一緒にいたからよけいにね」

「ぼくにしてみれば、これでようやく落ち着けるといった感じですがね」

「とか言って、わりと寂しそうにしてるくせにさ」

「ポプラさんからいろいろ聞くとよ~。少しピンクが減ってるって」

「あんのばあさんは……っ」

 

 後ろを振り向けば、そこにはホップ、マリィ、ビートの姿。

 

 3人とも、旅立つボクたちのお見送りのためにここまで来てくれたという感じだ。

 

「まぁまぁ。今生の別れじゃないし、また何かあれば、連絡入れてくれればいいからさ」

「だな。それに、それでも寂しかったらまた会いにくればいいしさ!!」

「その時は逆にシンオウ地方に来て欲しいわね。いろんなところを案内するわよ」

「お世話になったお礼に、おれも色々融通を聞かせてみるよ。まぁ、その時までチャンピオンだったらの話だけどな」

 

 見送りに来てくれた3人に対して、ボクたちも笑顔を返しながら返事をする。

 

 確かに寂しいけど、別れの時くらいは笑顔で行きたい。そんな気持ちを感じるかのように朗らかな会話が続いていた。

 

 しかし、気になることも1つあって……

 

「……ユウリはいないんだね」

「そうね」

 

 見送りメンバーにユウリがいない事。

 

 ユウリの性格とボクたちの付き合いの時間を考えれば、ここに来てもおかしくはないのに、一向に姿を見せないことに少しばかりの不安とショックを感じているボクは、隣にいるヒカリとちょっと落ち込んだ表情で話をする。

 

「ま、そのうちくるでしょ。その時にそんな辛気臭い顔を見せないように、今のうちに顔でも洗ってしゃきっとしてきなさい」

「うん、わかったよ」

 

 ヒカリの言う通り、このままずっと暗くなるわけにもいかないので、ボクはみんなに一言入れてお手洗いへと歩いて行く。

 

「はぁ……」

 

 とはいうものの、やっぱり心はどこか晴れない。

 

 このまま別れたら、間違いなく後悔するだろう。けど、あちらから来てくれないとこちらからのアプローチは出来ない。

 

(待つしかないかぁ……)

 

「っと、すいません」

「…………」

 

 現状に困りながらゆっくり歩いていたら、急に目の前に人が現れ、ぶつかりそうになったので急停止。目の前の人の顔を見ながら謝ろうと声をあげると、目の前の人は何も言葉を発することなく、ただじっとボクを見つめてきた。

 

 そのまま待つこと数秒。こちらも何をすればいいのかわからないので視線を返していたけど、こうも何もしゃべられないとどう反応すればいいのかわからない。

 

「え、えっと……」

「…………」

 

 ついに我慢できずに声を出すけど、それでも向こうは反応しない。

 

 いい加減何かしなくてはと思い、次の言葉を続けようとするボク。けど、そこであることに気づく。

 

(あれ、この人……どこかで……)

 

 赤と青を基調とした配色で、半袖ジャケットに長ズボン、そしてキャップ帽を身に着けたその姿。

 

 別にどこかで出会ったことがあるというわけではない。

 

 ただ一方的にボクだけが見た記憶のあるその姿は、しかしありえなさ過ぎて、頭が理解するのを拒否する。

 

「もしかして……あなたは……」

「…………」

「え……?」

 

 それでも確認したい気持ちを抑えられなかったボクは、声をかけ……しかしその言葉を言い切る前に、彼から拳を突き出されたため、言葉を中断せざるを得なかった。

 

 それは拳を突き合わせるとかの挨拶と言う意味ではなく、どうやらその中に握られている物をボクに渡すための行動らしく、数秒してようやくそのことに気づいたボクは、右の掌を上にして、相手の拳の下に置く。

 

 すると、ボクの掌に何かが落とされた。

 

「これは……」

 

 それは七色に光る小さな石。その中心には、螺旋状の模様が刻まれており、その形は、本で見たことのある遺伝子のそれに似ていた。

 

「あの、これって……あ、あれ?」

 

「お~い、どこに行ってたんだよ~」

「…………」

「ああ、あれを渡しに行っていたのか。今回は機会がなかったもんな。次会った時に全力で戦うための種まきってところか?」

「…………」

 

 この石の正体について聞こうと前を向くと、そこにはもう彼の姿はない。聞こえてくるのは、彼と、恐らくその彼の友達と思われる人物の話声だけ。

 

 その肝心の声の主も、人ごみにまぎれてもう確認できない。

 

(もしかしなくても……凄い人に目をつけられた……?)

 

 まさかの展開に未だに実感の湧かないボクは、掌の上に置かれた石を見ながら、少しだけ固まってしまう。

 

 この石を渡された理由は?次に会ったら全力で戦うって?そもそも何でここに?

 

 色々な疑問が頭を渦巻くけど、いつまでもその疑問に取りつかれるわけにはいかないボクは、いただいた石をカバンに入れ、お手洗いに行って顔を洗った後にみんなに再合流。少しすっきりした表情に戻せたボクは、声をあげながらみんなの下へと戻っていった。

 

 人数は変わっていなく、ボクが離れた時と変わらない立ち位置にいたみんなは、ボクが返ってきたのを軽い返事をしながら受け入れてくれた。

 

 勿論、そこにユウリの姿はない。

 

 せっかくすっきりしたその表情も、この事実を改めてみると少しだけ陰ってしまう。

 

(けど、一応まだ時間はあるし……)

 

 ただ、このままテンションが下がったままでいるわけにもいかない。

 

 もう少しで別れの時なのに、その時までこのテンションを引きずるのはよろしくない。せめてその時くらいは、笑顔で別れたいから。

 

 けど、そのまま時間は経過し、いよいよ飛び立つ瞬間を迎えるボクたち。

 

 そこまで経っても姿を現さないユウリの事を考えると、流石に少しは暗くならざるを得ない。

 

「……ま、仕方ないか」

「フリア……」

 

 とはいえ、来ないものは来ない。こればかりは仕方ないので、ここまで来たら逆にあきらめがつくというものだ。

 

 横にいるヒカリが少しだけ微妙そうな表情を浮かべはしていたけど、そちらに視線を向けることなくボクたちは飛行機への道を歩き始める。

 

 フライトまで、もう時間はない。

 

(お別れかぁ……)

 

 もう目の前まで来た別れの時を前に、寂しさが込み上げてくる。

 

「いよいよだな」

「また来るのを待ってるけんね」

「ま、その時は歓迎くらいしてあげますよ」

 

 歩き始めたボクたちに声をかけるホップ、マリィ、ビート。その3人に振り返りながら、ボクたちも最後の言葉を交わす。

 

「ありがとうみんな。絶対にまた来るからね」

「今度会う時は、俺の威厳あるチャンピオン姿を見せてやるぞ!!」

「その時点で威厳はなさそうだけど……ま、それはいいとして、その時はコウキも連れてのんびりしましょう」

「ははは、おれはあんまりかかわっていないからな。機会があれば頼むよ」

 

 その言葉を合図に、ボクたちは搭乗口へ向けて足を進める。

 

 長かったガラル地方の旅も、これで終わりだ。

 

 後は飛行機に乗って帰るだけ。

 

 これをもって、ボクのガラル旅行記はひとまずの終わりを告げる。

 

(本当に……楽しかったなぁ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フリアっ!!」

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間聞こえて来る待ち望んだ声。

 

「行ってきなさい、フリア」

「……うん」

 

 同時に隣のヒカリからそう声を掛けられたので、頷きながら振り返るボク。

 

 その視線の先には、こちらに向かって走って来るユウリの姿。

 

 ようやく表れたその影を迎え入れるために、ボクはヒカリたちから離れて少し道を戻り、待つ。

 

「ユウリ!!」

 

 こちらに駆けて来るユウリは、ホップたちの止まっている場所を追い抜き、いよいよボクの目の前までやって来る。

 

 その姿を見てボクは、頬を綻ばせながら最後の言葉を交わそうとする。

 

「良かった。てっきり最後の挨拶が出来ないかとおも━━」

 

 けど、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

(……え?)

 

 瞬きをした瞬間、ボクの視界一杯に広がるのは、頬を赤く染め、目を瞑ったユウリの顔。

 

 本来なら、その後ろにいるであろうはずのホップたちの姿すらも確認できない。

 

 そこまで確認したところで、ようやくボクは気づくことが出来た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分の唇に、暖かく、少し潤いを纏ったものが当てられていることに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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