【完結】ポケットモンスター 約束のためにもう一度   作:犬鼬

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370話

「ブーバーン、よくやった。戻ってくれ」

 

 グライオンが声を上げて喜んでいるところに響くコウキの小さな声。その言葉と共に放たれたリターンレーザーは、フィールドの真ん中で倒れるブーバーンを回収し、ボールへと収めていく。

 

「……ふぅ……やっぱフリアはこうでないとな」

 

 深呼吸をひとつし、嬉しそうな顔を浮かべたコウキは、すぐさま5つ目のボールへと手を伸ばす。

 

「さぁ行くぞ、マニューラ!!」

「ニュアッ!!」

「来たね……」

 

 コウキの5人目の仲間はマニューラ。

 

 こおり、あくタイプのポケモンで、耐久が低い代わりに素早い動きと強力な攻撃が得意な、典型的な高速アタッカータイプのポケモンだ。

 

 グライオンが1番苦手とするタイプのポケモンだし、タイプ上でもとてつもなく不利な相手。けど、泣き言を言ってられる状況でもないし、人数有利を取っているこちらは、少しでもこの有利を生かしたい。

 

「飛び上がって!!」

「グラッ!!」

 

 地面を殴って素早く飛び上がるグライオンは、天井付近まで昇って攻撃準備。

 

「『ストーンエッジ』!!」

 

 そこで両ハサミを打ち付けて、周りに石の弾丸を作り出し、マニューラに向けて一気に射出。雨あられと降り注ぐ攻撃は、マニューラにとってこうかばつぐんの技であることも加味して、なかなかの攻撃と言えるものだ。

 

 体力が少ないゆえに、さっき来ような岩を落とす攻撃はもうできないけど、これでも十分圧力にはなる。

 

「マニューラ。『でんこうせっか』」

「ニュ……ッ」

 

 と思っていたけど、降り注ぐ石の雨を前に、一切の動揺を見せないマニューラは冷静に声を零すと同時に、一気にトップスピードへ。

 

 地面の至る所にある岩の柱や残骸を足場に、ピンボールのように縦横無尽に飛びまわるマニューラは、気づけばグライオンの飛ばしている小さな石すらも足場として空に駆け上がってきた。小柄且つ素早いマニューラならではの行動だ。

 

(想像以上に速い……!!)

 

 そんなことを思っている時には、もうマニューラはグライオンの目の前にまで到達。

 

 天井付近で、グライオンを射程内に捉えたマニューラは、両足に冷気を纏いながら、最後の詰めを行ってくる。

 

「『トリプルアクセル』!!」

「『クラブハンマー』!!」

 

 おそらくガラル地方に来た時に見て覚えた新しい技を構えて来たマニューラに対し、水を纏ったハサミで迎え撃つグライオン。

 

 マニューラの右足の振り上げと、グライオンの右ハサミの振り下ろしがぶつかって弾かれ、次いで繰り出された左足と左ハサミも相殺して同じように弾かれ合う。

 

 トリプルアクセルは3連続のキック技だ。そのうちの2回を防げているので、あと1回耐えれば乗り越えられる。

 

「グ!?……ラ……ッ」

 

(くっ、さすがに体力がきつい……)

 

 しかし、蹴りを放つ度に威力の上がる効果も持っているこの技を止めるのは、今のグライオンにはかなりの苦痛だ。実際、2回目の蹴りを弾いた時、マニューラよりも大きく態勢を崩してしまった。

 

 これでは3回目の蹴りは防げない。

 

「ニュッ!!」

 

 そこを理解したマニューラは、その場で左回りに1回転し、勢いを乗せた一撃をグライオンに叩き込む。

 

「グッ!?」

 

 こうかばつぐんの最高打点を受けたグライオンは、そのまま地面に叩き落とされ、目を回して倒れる。

 

『グライオン、戦闘不能』

 

 当然耐えられるわけないグライオンはここで脱落。せっかく取れた有利が、一瞬で戻される形となる。

 

 ……が、グライオンは確かに、先に繋がる援護をしてくれた。

 

「ありがとうグライオン。……1()()()()()()()()()

「ニュッ!?……ニュァッ!!」

 

 マニューラは、コウキを心配させまいと自力でどくを治した。

 

「『どくづき』……尽くこの技にいいようにされたな」

 

 やられる間際に放ったグライオンの尻尾の毒が、マニューラのなつき現象の回数を削ってくれた。

 

 本当に、最後の最後まで素晴らしい活躍をしてくれた。

 

「ありがとうグライオン。本当によく頑張ってくれた」

 

 素晴らしい活躍をしてくれたグライオンに労いの言葉をかけながらボールに戻し、すぐさま次のボールに手をかける。

 

 グライオンが繋いだバトンを、しっかりと繋ぎたいから。

 

「いくよインテレオン!!」

「レオッ!!」

 

 その大事なバトンの繋ぎ先はインテレオン。

 

 ボールから飛び出すと同時に指先をマニューラへと向けてピタリと合わせるその姿は、もう既に準備万端であるということをこれでもかというくらい見せてくれている。

 

「『ねらいうち』!!」

 

 そんなインテレオンのやる気を汲み取って、早速攻撃開始。指先に溜め込まれた水の弾丸が、勢いよくマニューラに向かって突き進む。

 

「『つじぎり』!!」

 

 飛来する弾丸に対して、マニューラが行うのは居合切り。

 

 右手の爪を漆黒に染めた状態で左腰に添え、そこから振り払うように振り抜かれた爪は、水の弾丸の中心を通って切断。真っ二つに切られた水は、そのままマニューラの左右を通り抜けて後方で爆発。大きな水飛沫と衝撃音を奏でた。

 

「『でんこうせっか』!!」

 

 この音を合図に足を踏み出したマニューラは、一気にインテレオンへダッシュ。距離をぐんぐんと縮めていく。

 

「インテレオン!!こっちも行くよ!!」

 

 走ってくるマニューラを見たこちらも負けじと前進。マニューラに勝るとも劣らない速度で駆け出したインテレオンは、瞬きをした瞬間にはバトルフィールドの中心にて、マニューラとぶつかり合っていた。

 

「『つじぎり』!!」

「『アクアブレイク』!!」

 

 お互いの右手同士がぶつかり合い、甲高い鍔迫り音が響いた後に小さくノックバック。しかし、距離を離す気のない両者は、すぐさま1歩前に踏み出して殴り合う。

 

 マニューラの右手による漆黒の貫手が繰り出され、これを外に押し出すように、相手の肘の内側を右手でそっと押して逸らしたインテレオンは、そこから左足を振り上げて反撃。この蹴り上げをマニューラは左腕を右から左に凪ぐことで逸らし、その間に右手だけで着地し、同時にそこを軸に回転。逆さまのまま右足による強烈な蹴りを繰り出してきた。

 

 独楽のように回りながら飛んでくる蹴りは、地面を這うように寝そべることで回避。そのまま尻尾で逆立ちしているマニューラの右手を払い、マニューラの身体が少し宙に浮いたのを確認したインテレオンが、姿勢を低くしたまま身体を半回転させてソバットキックを放つ。

 

 これを避けれないと悟ったマニューラは両腕をクロスしてガード。けど、勢いよく蹴られたことでその身体は大きく後ろに飛ばされる。

 

「『ねらいうち』!!」

「『トリプルアクセル』!!」

 

 飛ばされたマニューラに追撃するべくインテレオンが放ったのは3つの弾丸。空気を切り裂きながら飛ぶそれは、寸分違わずマニューラへ飛んでいき、しかしこの弾に対して焦らないマニューラは、自身の背中に近づく岩の柱に爪をひっかけ、自身の飛ぶ方向を180°回転させてインテレオンの方に飛び出しながら足に冷気を装填。3回振り抜いて弾丸を凍らせながら全て逸らし、その勢いのままドロップキックを繰り出してくる。

 

 この速度が思いの外速く、回避が間に合わないこちらはすぐさまガード。先程マニューラが飛ばされた姿をそっくりそのまま返され、今度はインテレオンの身体が後ろに飛ぶ。

 

「『でんこうせっか』!!」

「『ねらいうち』!!」

 

 飛ばされたインテレオンを追いかけるべく走り出したマニューラと、飛ばされている途中で近くの岩に尻尾を引っ掛け、軌道を操作して岩の間をするするとすり抜けて距離をとるインテレオン。

 

 さっきまでのインファイトとは一転し、今度はインテレオンが逃げ、マニューラが追いかけるチェイス戦に移行。

 

 岩と岩の隙間を走りながらマニューラに弾丸を放つインテレオンと、この弾丸を冷気を纏った両足で蹴り飛ばしながら迫るマニューラと言う図式が出来上がり、しばらくの間、瞬きすら許されない高速バトルが行われる。

 

 1秒経てば、それだけでお互いの位置は全然違う場所に変わってしまうやり取りを前に、ボクもコウキも、瞬きをせずに必死に目で追いかける。

 

 そんな拮抗したチェイスバトルの終わりは、インテレオンが先に停止したことで訪れた。

 

「インテレオン!!後ろ!!」

「っ!?」

 

 高速で逃げる彼の後ろから飛んできたのは1粒の氷塊。それは、インテレオンのねらいうちをマニューラの氷の足で蹴り飛ばされ、それが跳弾してきたもの。

 

 急に現れたそれを避けるべく足を止めてしゃがんだインテレオンは何とかこれを回避。しかし、代償にマニューラに接近を許す。

 

「『つじぎり』!!」

「ニュァッ!!」

「レオッ!?」

 

 右手爪を漆黒に染めたマニューラが、待ってましたと言わんばかりに右手を振り、インテレオンの顔面を殴りつける。

 

 ここに来て初のクリーンヒットを貰ったインテレオンは後ろに大きく吹っ飛び……

 

「ニュァッ!?」

「マニューラ!?」

 

 同時にマニューラも、インテレオンと同じように大きく後ろに吹っ飛ぶこととなる。

 

「……『アクアブレイク』」

「くっ、尻尾だけ水でコーティングして透明化させたのか」

 

 飛ばされた瞬間に微かに見えたのは、インテレオンの尻尾が消えていることと、何にも当たっていないはずのマニューラが急に弾かれた所。

 

 この2つの現象から答えにたどり着いたコウキは、悔しそうな表情をうかべながら、しかし直ぐに切替える。

 

「地面に『トリプルアクセル』!!」

 

 お互い後ろに飛ばされ、背中に立っている岩を巻き込んで倒れ、砂埃を立てながら地面に落ちたインテレオンとマニューラ。

 

 その両者のうち、マニューラは1歩早く起き上がって、足に冷気を纏って直ぐさま地面にかかと落とし。すると、表面を薄らと氷の膜が覆い、そこを中心に周りの温度を下げていく。

 

 あくまでも薄く、温度を下げるだけのこの現象は、インテレオンにダメージが入る訳では無い。が、下がった温度は水を少しだけ凍らせており、透明化しているインテレオンの尻尾にも薄く霜が降り注いでしまい、透明化の意味をなさなくなっている。

 

(やっぱ対策早い。けど、別にこれはいいか)

 

 しかし、元々こんな奇襲すぐに通用しなくなると踏んでいたこちらは、一瞬の驚きはあれど、すぐさま切りかえて前を見る。

 

「『ねらいうち』!!」

 

 マニューラが地面を凍らせている間にこちらも態勢を整え終わっているのですかさず攻撃。地面にかかと落としをしている状態で止まっている隙に3発のねらいうちを放ち、こちらの透明化を防いだ代償を取りに行く。

 

「『つじぎり』!!」

 

 飛んできた弾に対して漆黒の爪を構えたマニューラは、頑張って弾くために腕を振るう。が、さすがに反応が間に合わなかったのか、1つ目と2つ目を弾くことには成功したものの、3つ目に被弾。眉間に直撃したそれによって、態勢を崩す。

 

「『アクアブレイク』!!」

 

 この間に懐に潜り込んだインテレオンが、右拳によるアッパーを繰り出し、マニューラの身体を無理やり空中へ持ち上げ、そこにさらに追撃を入れるために、尻尾に大量の水をまとって強烈な一線を繰り出す。

 

 目標はマニューラの鳩尾。

 

 槍よりも鋭く解き放たれたその一撃は、無防備なマニューラの身体に吸い込まれるように飛んでいく。

 

「『トリプルアクセル』!!」

 

 が、その攻撃が当たる寸前で意地を見せたマニューラの右足によるかかと落としが尻尾を捉え、軌道を少し下に逸らした。

 

「ニュゥァッ!!」

 

 そのまま尻尾の上を右足で滑ってインテレオンの目前まで来たマニューラは左足のなぎ払いを繰り出す。

 

 この攻撃に咄嗟に判断したインテレオンは左腕を盾にするものの、急に来た攻撃だった故に力が入っておらず、あっけなく弾かれ、続いてマニューラが放った3発目の蹴りに被弾。インテレオンの身体が後ろに飛ばされ……

 

「離すなマニューラ!!」

 

 蹴られた衝撃で飛ばされようとするインテレオンの尻尾をキャッチし、離れる行動を阻害。右手でしっかりと掴んだマニューラは、そのまま勢いよく引っ張って、再び自分の目の前まで引き寄せながら、左腕につじぎりを携えてインテレオンに襲いかかってくる。

 

「落ち着いて『アクアブレイク』!!」

 

 いきなり引っ張られたことに動揺するインテレオンだったけど、ボクの声を聞いて冷静になった彼は、迫り来る漆黒の爪に対して無理やり屈んで避け、マニューラの真下をキープ。そこから右足に水をまとって真上に突き出し、マニューラの身体の中心点を蹴って空中に打ち出す。

 

「『ねらいうち』!!」

「『つじぎり』!!」

 

 被弾して右手を離してしまったマニューラは、そのまま空中に打ち上げられる。そこを追撃するべくマニューラに向かって次々とねらいうちをインテレオンは行い、さらなるダメージを狙っていく。

 

 一方のマニューラも、必死に爪を振り回して水を弾いていくものの、空中という慣れないフィールドであるのが災いし、最初の数発こそ上手くいなしていたものの、徐々に被弾が増え、ついに身体の中心に直撃。大きな爆発とともに、マニューラの身体がさらに打ち上げられる。

 

 マニューラは、コウキを悲しませまいと耐えた。

 

「2回目!!インテレオン!!そのままもう1発『ねらいうち』!!」

 

 なつき耐えの兆候を確認したボクはさらに追撃を指示。天井付近まで打ち上げられたマニューラに向かって弾丸を放ち、最後のなつき耐えの発生を狙う。

 

 今までと違って威力を込めたその弾丸は、たとえマニューラ本人に当たらなくても、天井に着弾した時に生まれる衝撃波でダメージを与えられるくらいサイズが大きい。空中という逃げ場のない場所というのもあって、尚更避けるのは難しい。

 

「諦めるなマニューラ!!『でんこうせっか』!!」

 

 が、その難しいを超えてくるのがコウキというトレーナー。

 

 迫ってくる弾丸を前に、足に冷気をまとって一瞬だけ弾丸に足をつけ、表面を一瞬凍らせてそこからジャンプ。天井付近にいた自分をさらに上に押し上げ、天井に足に裏を着けたと同時に、再び思いっきり足を蹴り出して、水の弾丸とすれ違いながら地面にダッシュ。

 

「そのまま衝撃も利用しろ!!」

「まずっ!?インテレオン構え━━」

 

 さらに、今しがたすれ違った水の弾丸が天井に触れて爆発した衝撃を逆に利用し、自分が地面に突っ込む速度の推進剤に変換。でんこうせっかだけでも強烈なのに、それを更に上回る速度を持って急接近。やばいと思って声をあげるものの、その時には既にマニューラはインテレオンの目の前まで落ちてきていた。

 

「『つじぎり』!!」

「ニュ……ァッ!!」

「レオッ!?」

「インテレオ……ぐぅっ!?」

 

 そこから繰り出されるマニューラの右手による強烈な斬撃。

 

 着地のことなんて一切考えていなかったせいで、爪を振りながら落ちてきたマニューラは、地面に激突する隕石かのように着地し、辺りにとてつもない衝撃と砂埃を撒き散らしていく。

 

 マニューラは、コウキを悲しませまいと耐えた。

 

 当然そんなことをすれば自身にもダメージが返ってくるはずだけど、そこは最後のなつき耐えを利用して戦闘不能を回避。砂埃が晴れた先では、ボロボロになりながらも何とか耐えたマニューラが、懸命に両足で立っていた。

 

 そんなマニューラに足元には、目を回し、地面に突っ伏すインテレオンの姿。

 

『インテレオン、戦闘不能』

 

 そして告げられる機械音声。それが、このバトルの敗者の名前を明確に告げる。

 

「ありがとう、インテレオン……戻って」

 

 まさかの逆転負け。途中まで明らかに流れが良かっただけに、ここに来て返されたということに少なくないショックを受ける。

 

(本当に……強いなぁ)

 

 インテレオンにリターンレーザーを当て、ボールに戻し、そのボールを見つめながら改めて思う。

 

 決して油断していたわけじゃない。ただただ、コウキの方が1枚上手なだけ。

 

 まさか衝撃を強くするために水を大きくしたのが裏目に出るだなんて思ってもみなかった。

 

(いや、ボクがなつき耐えの消費に動くことを逆に利用したんだ。自分の武器を餌にするなんて……)

 

 3回目のなつき現象を発動したため、もうマニューラが耐えることは無い。正真正銘、あとひとつ何かが掠ればそれだけでマニューラは倒れる。けど、足の速いマニューラ相手にはその一撃を当てるのが難しい。しかも、そうやって苦労してマニューラを倒しても、その後ろにもう1人いる。

 

 対するこちらは最後の1人。正真正銘最後のポケモン。

 

(追い込まれてる……はずなんだけどなぁ)

 

 ピンチなのに、それでもボクの表情が笑顔から崩れることは無い。

 

 今が、楽しくて仕方がない。

 

 そして不思議と、負ける気がしない。

 

(約束……したからね)

 

 首元に揺れるネックレスを握り、口元に受けた感覚を思い出し、最後のボールを手にする。

 

「行くよ……ヨノワール」

「……ノワ」

 

 静かに、小さく呟いた言葉と共に現れるヨノワール。

 

「来たか……ヨノワール」

「ニュァッ」

 

 赤のモノアイを光らせながら見つめてくる姿を見て、コウキもさらに笑みを強くしながら指示を出す。

 

「『でんこうせっか』!!」

 

 残り少ない体力にムチを打ち、一気に駆け出したマニューラは、岩石や天井を足場にしてヨノワールの周りを飛び回り、圧倒的速度でかき乱そうとしてくる。

 

 足が速い方では無いヨノワールに対して、1回でも多くこうかばつぐんの技を与えようという魂胆だろう。マニューラがあくタイプという、ヨノワールに対してこうかばつぐんをとることの出来るタイプというのも大きい。おかげでこちらは、たった一つのミスが致命的になってしまうのだから。

 

 そんな手に汗握る緊張の瞬間……のはずの一幕。しかし、そんな中でも、ボクとヨノワールの心に乱れは無い。

 

(さぁ……行こう……ヨノワール)

(ノワ……)

 

 気づけば、ボクとヨノワールの周りには黒い風が巻き起こり、ボクたちの身体をゆっくりと包み込む。

 

 包み込んできた風たちは、ヨノワールの身体に優しくまとわりつき、ヨノワールの身体に変化をもたらした。

 

 赤色のモノアイは、ボクの瞳と一緒の水色へ。首元へ集まった黒の風は、そのままボクが身につけるマフラーの形へ。身体全体は黒色をより濃くし、お腹の大きな口の両端からは、青色の焔が盛れ出しているその姿。

 

 もう、何も意識しなくても自然と成ることの出来るその姿は、むしろヨノワールとの繋がりを感じ、安心を超えてこれが通常状態と錯覚すらしそうなほど染み付いている。

 

「来たか……『きずなへんげ』……!!マニューラ!!」

「ニュアッ!!」

 

 初めて相対するボクとヨノワールのこの状態を前に、嬉しそうな表情を浮かべながら声を張り上げるコウキと、その声に反応して更に速く走り出すマニューラ。

 

 本当にその身体の、そしてその体力のどこにそんな力を隠していたのかと驚いてしまいそうになるその動きを前に、しかしボクとヨノワールは自然体を貫き、ゆっくりと右腕だけを上にあげていく。

 

(確かに速い。目で追いかけるのも大変だし、その動きに追いつこうとするともっと大変だ。多分、普段のヨノワールなら苦戦する可能性がすっごく高いだろうね)

(ノワ……)

(ふふ、分かってるよ。キミはボクの最高の相棒だから、それでもちゃんと勝てるって信じてる。けど……)

 

「マニューラ、『つじぎり』!!」

「……ッ!!」

 

 周りを高速で飛びまわり、こちらを翻弄しきったところで突っ込み、黒い爪を構えるマニューラ。しかし、その動きは、視覚や聴覚、触覚などなど、あらゆる感覚を共有しあい、敏感になっているボクたちの前では意味をなさない。

 

(今のボクたちなら、もっと簡単に勝てるよね)

(ノワ!!)

 

「ヨノワール、『かわらわり』」

 

 つぶやくように一言。指示を落としながら、まるで指揮者が指揮棒を振るかのように軽やかに、身体の向きを50°程右に傾けてから、ボクの右腕と白く染ったヨノワールの右腕が縦に振られる。

 

「ニュッ!?」

「マニューラ!?」

 

 その攻撃は、マニューラが飛び込んできた位置にピタリとはまり、マニューラの身体を地面へと叩きつける。

 

『マニューラ、戦闘不能』

 

 当然相手はダウン。こうかばつぐんであり、なつき現象も使い切っている相手に耐えられる道理は無い。

 

「ありがとうマニューラ。……それが……お前の今の全力か……」

 

 マニューラをボールに戻しながら、姿の変わったヨノワールを見て一言。

 

 嬉しそうに、楽しそうに、気持ちよさそうに、どんどん笑顔を強めていくコウキは、大きな声で叫ぶ。

 

「ずっと待ってた、このときを!!ずっと願ってた、この瞬間を!!そして……ようやく戦える……!!」

「待たせてごめん。……ようやく追いつけた。だから……思う存分やろう!!」

「ああ……ああ……!!とことんやるぞ!!フリア!!」

 

 念願のバトルもいよいよ最後の一人。

 

 泣いても笑っても、これで今日の勝者が決まる。

 

 そんな、ボクとコウキにとって何よりも優先される最高のバトル。

 

「行くぞ!!ドダイトス!!」

「ドダアアアァァァッ!!」

 

 その最後の幕が、コウキの切り札の登場とともに、切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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