最終話
扉を開き、外へと出たボクを迎えるのは眩しいくらいのお日様。
シンオウ地方付近にしては珍しく暑さすら感じてしまうほどの快晴は、これから新しい1歩を踏み出そうとしているボクにとってはとても縁起のいい天気だ。
「んん〜、いい天気〜……」
そんな太陽の下でぐぐっと背筋を伸ばして声を漏らすボクは、その一身にお日様を浴びた後にゆっくりと歩き出す。
目的地はここから少し距離がある場所なので、そこへ向かいながら、ボクは最近の出来事を振り返っていた。
ボクがコウキに初めて勝利したチャンピオンマッチが行われてから、実に1年が経過した今。ここまでなかなか忙しい日々が続いていた。
まず、ボクがチャンピオンの座についてから何が起きたかと言うと、恐ろしい回数のチャンピオンの交代だ。というのも、ボクが勝ってからジュンとコウキの負けず嫌いが大爆発。特に、久しぶりに負けて悔しいという感情を体験したコウキのやる気が一気に上がってしまい、猛特訓を始めてしまう。
ただでさえ天才である彼が、その上に多大な努力を積み重ねてしまえばどうなるかなんて答えは明白で、初めて彼に勝利して喜んでいたボクなんかあっさりと超えてしまい、1ヶ月そこらで追い抜かれてしまった。
さすがにそんな短期間で追い越されるとは思わず、物凄くびっくりしてしまったボクだったけど、今回は前のような絶望に囚われることなんてなく、むしろそんなコウキたちに触発されてしまったのかボクも猛特訓を初めて兎に角成長しまくった。その甲斐もあってか、その数週間後にはまたボクが勝つことができ、そこでまたチャンピオンが交代。けどこうなったらまたコウキが本気を出して、そしてこの時にはジュンもこの争いに本格的に参加し始めて……
お互いがお互いを最高のライバルと認め、研鑽し、高め合い、どんどんと成長していく姿は、ボクたち本人としてはとても楽しく、正しく旅立ちの時に交わした約束の理想系を辿ることが出来ていた。
それは本当に楽しくて、本当に幸せで、夢みたいな時間だった。
その日その日で誰が最強かが変わる、そんな白熱した戦い。もちろんそんな中でもコウキの勝率は少し高くはあったけど、それでも確かに食らいつくことの出来ていたその関係は、本当に心地よかった。
しかし、そんなボクたちの関係に待ったを唱える人がいた。それが、ポケモンリーグの人。
コウキが5、ボクが4、ジュンが2。
この数字が何かと言うと、それはボクたちがそれぞれチャンピオンの座に座った回数だ。
勝ったり負けたりを繰り返していくボクたちの能力の拮抗具合と、ガラル地方のようなシーズンがなく、権利があり且つ、四天王に勝ってさえいれば比較的簡単にチャンピオンに挑める(なおそもそも権利を取るのが難しい)システムになっているため、頻繁にバトルと交代が発生してしまっていた。
この期間がだいたい半年くらい。つまり、平均してしまえば2週間に1回の頻度でチャンピオンが交代していた計算になる。
チャンピオンが交代となったなら、その度に連絡やら調整やらその他諸々お仕事が発生するわけなのだけど……はい、リーグ関係者の堪忍袋の緒が切れたみたいで、それはもう盛大に怒られました。
いくらなんでもハイペースすぎたらしく、その度に仕事を作られたのではたまったものではないと判断したリーグ側は、ちょうどそのタイミングでコウキの5回目のチャンピオン就任が決まったため、ボクとジュンに対してチャンピオンへの挑戦権利の一時的な停止を決定。このことはシンオウ地方全土にも情報が拡散されてしまったため、盛り上がっていた3人によるチャンピオン争奪戦は一時的に幕を下ろす形となった。
この時のヒカリの大爆笑具合と、シロナさんの苦笑いの落差は今でも記憶に新しい。
さて、そんなこんなで急に競走の幕を急に降ろされたボクたち。
コウキがチャンピオンである以上簡単に勝負を挑むことが出来ず、かと言ってチャンピオンではないもの同士で戦いまくるのもどこか味気ないということで、悶々とした気持ちを急に抱えることとなったボクは、どうすればこの悩ましい状態から脱出することが出来るのかを考え続けた。
地位や役職に囚われずバトルができ、しかし公式戦のようなフルバトルほど規模が大きいものではなく、さりとて公式戦のように燃え上がるようなバトルをするにはどうすればいいのか。
凡そ簡単に答えの出ないその疑問に対して、暫く悩み続けていたボク。
そんなボクに、1本の電話とともに手を差し伸べてくれた人が1人いた。
『もしよろしければ、こちらに来てみませんか?フリア様』
その言葉と共に誘ってくれたのが、コクランさんだ。
ガラル地方での一件が終わり、元の場所へと帰ったコクランさんがいる場所。
その場所の名前は、バトルフロンティア。
コクランさんからの招待。その内容は、ボクの、フロンティアブレーンへの招待だった。
☆
「……ここが、今日からボクがトップを担う場所……」
これまでを振り返りながら歩いてきたボクの目の前に現れたのは、ひとつの大きな建物。
洋館のような綺麗な見た目をした建物の最上部の側面に飾られた大きな時計が目印のこの建造物の名前はバトルクロック。
バトルフロンティアの一角に建てられたこの建物は、ここに存在するだけあって、他のバトルファクトリーやキャッスル同様、ポケモンバトルに特化した施設のひとつとなっている。
この建物内で起こるバトルは、まずお互いの手持ち6人を見せ合い、その後にバトルに参加させる3人の仲間を頭の中で選定。決めたあとは、選ばなかった3人の仲間は別のところに預け、その上で3対3のバトルを行うというもの。そしてさらに重要なのが、このポケモンを選出するときとバトルするときに制限時間が設けられるというもの。
選出時間は2分でバトル時間は20分。この限られた時間で戦略を練って戦うという今までと違った戦い方を体験できる施設。それがこの時計塔、バトルクロックだ。
まだできたばかりで、真っ白の綺麗なこの塔は、バトルフロンティアに、そしてポケモンバトル界隈に新たな風を流そうと、その扉を開く時を今か今かと待ちわびている。
「……」
その建物を下から見上げるボクがこの建物に思うのは、緊張と期待。
さっきも言った通り、ボクは新しいフロンティアブレーンとしてここに呼ばれ、そしてこの新しい施設のトップ、タイムキーパーとして勤めることとなる。
コクランさん曰く、シンオウチャンピオンの経験があり、現在どの役職にも着いておらず、その上でまだまだ強くなることに貪欲な思考を持っている人間であるボクなら、この新しい施設を任せるのにピッタリなのではと判断して貰えたがゆえのこの推薦だ。
この施設に勤める以上、強さを求めて挑んでくる世界中のトレーナーと手合わせをする機会が絶対にやってくる。そうなれば、ボクの足跡はさらに多く刻まれる。それは、ボクが強くなるためにここまで頑張ってきたものをさらに強く後押ししてくれる。
(こんな素晴らしい機会をくれたコクランさんには、本当に感謝だ)
「ジーーーーー」
「ってわぁっ!?ネジキさん!?いつの間に!?」
なんて感傷に浸っていると、物凄い視線を感じたのでそちらの方に視線を向ける。
そこにいたのはバトルファクトリーのヘッドを担うフロンティアブレーン、ネジキさん。
この施設を建てるにあたり、バトル内容やルールを作るのに一緒に考えてくれた頼もしい先輩だ。
「きみが来る前からちょとねー。大切な可愛い後輩の記念すべき活動初日だしー」
「あ、ありがとうございます……」
ネジキさんらしい少しのんびりとした口調から放たれる、ボクに期待するかのようなその発言に少しだけ照れを感じながら、バトルクロックとその周辺を見渡してみれば、新しく活動する施設と、そのヘッドを担う新しいフロンティアブレーンを1目見ようと集まっている人集りが確認できた。
あそこにいる人のほとんどが、自分こそが最強だと自負して挑みに来るトレーナーなのだと思うと、少しワクワクしてしまう。
「フリア様、ネジキ様、おはようございます」
「おーコクラン。おはよー」
「おはようございます!!コクランさん!!」
そんなワクワクに心を踊らせていると、挨拶とともにコクランさんも来てくれので、ボクも頭を下げながら挨拶を返す。
「ワッハ!お二人共お元気そうでなによりです。特にフリア様は今日から活動ですからね。初日というのはとても大切な日ですので」
「あ、あまりプレッシャー掛けないでくださいよ……半分ワクワクしてはいますけど、半分は緊張で震えてますからね?」
「お嬢様も、大変期待しておられますよ」
「だからコクランさん!!」
そこから始まるのはコクランさんの丁寧ながらもこちらをからかってくる言葉。一見ただただ雑談しているだけに見えるそれは、ボクの緊張を程よく解す役割を担っており、コクランさんの優しさをしっかりと感じとれた。
「やあフリア君。いよいよ今日だな!!まさか君とこうやって肩を並べる日が来るとは……なんだかなー!」
「あなたがどれだけ好きを貫けるのか……本当に楽しみね」
「ケセラセラ!!笑顔で頑張ればなるようになるヨ!!力みすぎずに気楽にネ!!」
3人で賑わっていれば、いつの間にかクロツグさんにケイトさん、ダリアさんまで来ており、ここにフロンティアブレーン全員が集結することとなる。
偉大な先輩たちがみんな、笑顔でボクのデビューを迎え入れてくれた。その事が嬉しくて、緊張なんかいつの間にか吹き飛んで、いつもの自分を取り戻しながら元気よく返事をする。
「はい!!フロンティアブレーン、タイムキーパーのフリア、皆さんに楽しんでもらい、そしてボク自身も楽しめるように頑張ります!!」
その宣言とともについに、ボクの新しい道が始まった。
☆
「ふぅ、こんなところかな?」
活動開始初日。
バトルクロックが開かれると同時にたくさんのトレーナーが訪れ、とりあえずは大盛り上がりをしてくれたことと、ひとまず今日するべきことが終わったことに対して息をつくボク。
まだまだ初日故に仕事はあまり多くはないけど、慣れないことの連続ではあるためそこそこの疲れは溜まっている。
「ひとまずは順調!!だけど、もっと頑張らないとね。そのためにもしっかり休憩を━━」
「お〜いフリア〜!!遊びに来たぞ〜!!」
「ん?」
その疲れを落とすために、バトルクロックにあるボクに当てられた部屋で一休みしていたら、急に部屋の扉が音を立てて開け放たれた。
その扉の先からやってきたのはジュン。
此方の返事を待たず、傍若無人に入ってきた彼に『変わらないなぁ』と思いながら溜息を一つこぼし、少し久しぶりな幼馴染との会話のために身体を起こす。
「わかってたけど相変わらず常識がないよね」
「ん?ちゃんと挨拶したぞ?むしろ挨拶を返さないお前の方が非常識だぞ」
「無駄よフリア。こいつは何言っても聞かないから。ちなみにわたしはここに入る前にノックしたからね?」
「右に同じく」
「2人のノック音はちゃんと聞こえてたよ。いらっしゃい、ヒカリ、コウキ」
「オレは!?」
「2人とも適当なところに座ってよ。今お茶出すからさ」
「無視すんなよ!?ったく、なんだってんだよー!!」
と、いつものジュン虐のようなことをしつつ、なんだかんだ落ち着くいつもの3人を招いたボクは、部屋にあるソファとテーブルの所に案内したのちにお茶を出して、ゆっくりくつろいでもらう。
「にしても驚いたな。まさかフリアがフロンティアブレーンになるだなんて……」
「ははは、ボク自身もびっくりだよ。いい機会をくれたコクランさんには本当に感謝だね」
「幼馴染とオヤジが同僚って……なんかちょっと複雑だな……」
「それを言うならジュン、あんたが四天王っていうのも違和感凄いわよ?」
お茶を飲みながら行われる会話は、ボクとジュンのこれまでの話。
ボクと同じフロンティアブレーンのクロツグさんの子供であるジュンは、ボクが尊敬する父親と一緒の地位にいるのが変な感覚らしいけど、他の3人であるボクたちからしたら、ヒカリの言う通りジュンが四天王と言う方が不思議な感覚だ。
ジュンが四天王にあがった代わりに四天王を引退したのはキクノさんだ。
元々そろそろ引退を考えていた彼女は、成長したボクたちを見て、安心して任せられると判断しての交代らしい。
ボクたち3人なら誰に渡してもよかったみたいなんだけど、コウキはチャンピオン、そしてボクはフロンティアブレーンになってしまったので、余ったジュンに目途が立ったというわけだ。
みんな、また少しずつ前に進んで成長している。
このまま成長して、再び戦えるようになった時が本当に楽しみだ。
「成長したと言えば……フリア、あれは勿論見たわよね?」
「あれ……?」
「まさか見てないの!?」
そんなボクたちの成長を確認しているところに投げられるヒカリからの言葉。その言葉の意味をいまいち理解できなかったボクは、頭にハテナを浮かべ……
「おいおい、流石にオレでも知ってるぞ!?」
「ヒカリの言いたいことならおれも知ってるぞ……?」
「ちょっとまって……ああ!!もしかして!!」
ジュンとコウキにここまで言われてようやくヒカリの言いたいことを思い出したボクは、それを口に出す。
「ガラル地方の!!」
「よかったぁ。流石にわからないって解答されたらひっぱたくところだったわよ」
「あはは……フロンティアブレーンの準備が忙しすぎて、その試合を観れたの今朝だったんだよね……」
「ああ、そういう事なら納得だわ」
ボクの発言に納得したような顔を浮かべたヒカリは、少し憐みのこもった視線を送ってくれた。
「ってことは、おめでとうとかの言葉はまだ送ってないのか?」
「コウキはともかくとして、オレとヒカリはもう送ったぞ!!」
「そうなんだ……いや、ジュンの予想通りまだ送ってないんだけど……」
「成程ね、ここまで遅れたのなら、いっそ直接言っておきたいと……」
「まあ……ね?」
そこから話はさらに派生し、最後にヒカリからにやにやした表情で言葉を投げられたので、少しだけ歯切れが悪い態度で言葉を返す。
ここにいる面子は空港でのあの出来事を見ている。だからこそ、ユウリが優勝したことの意味を理解している。
特に、こういった話が大好きなヒカリは嬉々として弄って来るだろうことは、想像に難くない。
正直この件に関してはいくら弄られても仕方がないと思っているので、甘んじて受ける所存だ。とはいえ、ボクが言葉を返すにしても、問題が1つある。
「問題は何時言葉をかけるかなんだよね……」
フロンティアブレーンとなったため、ボクはしばらくここを離れられない。となると、声をかけるタイミングがしばらく遠い。
「どうしようかな~……」
「「「ふっふっふ……」」」
「え?……ど、どうしたの?」
どうしようかなと考えていると、突如笑い出す3人。その姿が不気味で、思わず引き気味に声を出す。すると……
「「おじゃましま~す!!」」
「失礼しますよ」
「え!?」
突如部屋内に響き渡る3人の声。それに反応して入口の方に視線を向ければ、そこにはホップ、マリィ、ビートの姿。
「マリィにホップ、それにビート!?どうしてここに!?」
「フリアがなんだかすごい役職に就いたって聞いて、様子を見に来たと」
「フロンティアブレーンってコクランさんと同じ役職だよな!!」
「セイボリーさんもクララさんも、マイナーリーグとはいえジムリーダーになりましたしね。みなさんちゃんと順調に強くなっているみたいで」
「そっか……まぁ、もう1年経ってるもんね……そりゃみんな変わっているか……」
ジュンたち以上に久しぶりに会う面々を前に感動しながらも、この1年で確かに感じた変わり具合に、少しだけ感慨深い気持ちになるボク。
ボク以外のみんなもなにか思うところがあるらしく、一緒に少しセンチな気持ちになっていると、ふと気になることが産まれ、同時に少しだけ心音が加速する。
「そういえば……その……ユウリは?」
その加速を少しでも落ち着かせようとしながら、気になった内容を口にする。けど、そんな考えのボクとは裏腹に、心音はどんどん加速し、同時に体温が上がっていくのを感じる。
「ユウリ……ね?」
「ああ、ユウリだな!」
「ユウリですか」
ボクの言葉に目を合わせ合うガラル三人組は、嬉しそうな表情を浮かべながら頷き合い、そしてこの部屋の入口に視線を向ける。
その視線につられて入口の方にボクも顔を向ければ、そこには、開かれた扉の陰から顔だけを覗かせ、恥ずかしそうにこちらの様子を伺っているユウリの姿。
「ユウリ!!」
「うん。えっと……お邪魔、します」
ボクが声を上げると、ユウリも頷きながら身体を出して、部屋の中に入ってくる。
それを迎え入れるべく駆け寄ったボクは、ある程度ユウリの近くまで寄ってから足を止めた。
どくん。と、また1つ、心音が速くなる。
「えっと……チャンピオン就任おめでとう!!凄くいい試合だったよ!!」
「あ、見ててくれたんだ。忙しそうにしてるって話だったし、お祝いの連絡も無かったから、てっきり見れてないのかなって……」
「それはごめん……実は今日の朝にようやく見れてさ。それにここまで来たら、こうやって直接会って言いたいなって、思っちゃって……」
「そっか……」
久しぶりの再会を果たしたボクは、まず言うべきことを口にして、言葉を交わしていく。
再会を喜びながら行われる会話は、しかしどこかぎこちなく、けれども嫌な感覚は全然しない。
ドキドキして、同時に心の奥から温かさを生み出しながら、そうやって言葉を交わしていくボクたち。
「……約束も、あるしね?」
「っ!?……そう、だね」
けど、いい加減答えを返さなくてはいけない。
約束という言葉を合図に、ボクもユウリも、顔を少し俯かせる。
きっと今のボクは顔が赤くなっているし、少し顔を上にあげれば、同じように頬を染めたユウリが目に入る。
後ろからはヒカリたちの視線が気になるし、正直恥ずかしさから逃げてしまいそうになる。
でも……
(1年も待たせたんだ。もう、待たせちゃいけない……)
胸に手を当て、貰ったネックレスを握りしめ、勇気を振り絞って顔を上げる。
「ユウリ」
「……はい」
ボクの言葉を受けて、ユウリも顔を上げたので、視線を合わせる。
「約束通り……チャンピオンになって迎えに……あれ?でも今チャンピオンじゃない……?じゃあ約束は……んん?」
「……ぷっ、あっはは」
と、ここまで来て今更自分が、『チャンピオンになって迎えに行く』という約束を守れているのか怪しくなったことに気づいてしまい、少し困惑してしまう。すると、真正面のユウリが、吹き出しながら笑い出してしまう。
その姿を見て急に恥ずかしくなったボクは、また顔をそらせながら言葉を無理やり続ける。
「ち、違うんだ!!チャンピオンの交代が激しすぎたのと、リーグの人から制限されちゃったから噛み合わなくて……でも、約束は守れてなくて……いやでも……」
が、どうも言葉が纏まらずに、変なセリフしか喋れない自分の口。
明らかに動揺してしまったボクの心は、しかし、急に両手を包んできた温もりによって一気に落ち着いた。
「大丈夫だよ。シンオウ地方で凄いことになってたのは私も知ってる。それに、フロンティアブレーンはチャンピオンになるのと同じくらい誇っていい事だと思うよ!!それよりも、私の方こそ、またせすぎてごめんなさい」
ボクの両手を握りながら頭を下げるユウリ。
この声と姿を見て、完全にいつもの調子を取り戻したボクは、深呼吸をひとつしながら、言葉を続ける。
「ううん。全然待ってないよ。むしろ1年でチャンピオンになっちゃうのが凄いよ。もしかしたら、今はボクの方が下かも」
「そうかな?……ふふ、でも、下かどうかはともかく、隣にいれたらいいな」
ボクの言葉を受けて、微笑みながら顔を上げるユウリ。
その微笑みがとても可愛くて、視線を奪われる。
そうやって数秒見つめあったボクたちは、ついに言葉を紡いでいく。
「ユウリ」
「フリア」
喋り出しは同時に。
「チャンピオンになったよ」
「チャンピオンになれたよ」
約束の場所を踏んだことを相手に伝える。
「だからボクと……」
「だから私と……」
そして、約束を超えた先に秘めた想いを、告げる。
「「付き合ってください」」
言葉を言い終えたボクたちを包み込むのはちょっとした静寂。
風の音と、ほんのりと聞こえてくるバトルの音だけが微かに聞こえてくる、そんな空間。
「「……ふっ」」
しかし、そんな空間も長くは続かず。
「「あっははは……」」
お互い同時に笑い出すことによって霧散する。
それは、なれない空気を作ったことに対するおかしさからか、はたまた、ようやく伝えることが出来た達成感からか、いや、ここに来るまでに遠回りをしすぎという自分たちへの呆れからか。
(きっと、全部なんだろうなぁ……)
そんなことを考えながら、一通り笑いあったボクたちは、再びゆっくり目を合わせ、言葉を交わす。
「これからもよろしくね。ユウリ」
「うん!!フリア!!」
ボクの言葉に対して、飛びつきながらハグをすることで返してきたユウリをしっかりと受け止めたボクは、温もりを感じるように強く抱きしめ返す。
そうして少し、お互いに感傷に浸ったところで身体を離し、そして、その距離を再びゼロにする。
今度は、空港の時のように不意打ちではなく、お互いがしっかりと意志を持って。
「……あはは」
「……えへへ」
2回目のそれは、1回目の時よりもさらに、甘く感じた。
ちなみにこの後、この光景をずっとみていたヒカリたちにいじられ倒されたのは、また別のお話……。
☆
バトルフロンティア。
それは、数多のトレーナーがさらなる強さを求めて訪れる場所。
あるものはその壁の高さに心が折れ、あるものはその地での刺激に中毒を生み、その結果名試合を量産する、まさに聖地。
「ユウリ〜。そろそろ起きて〜。ご飯だよ〜」
「う〜ん……」
そんな場所でも、確かな日常は存在し、そこではとても平穏な時間が流れる。
しかし、その平穏が唐突に変化することは、往々にしてある。
「全く〜……ん?ポストになにか入った音がした?」
けど、その変化は決して悪いことでは無い。だって……
「手紙だ……今時珍しい……え〜っと……」
それは新しい冒険の始まりであり、成長のチャンスなのだから。
「オレンジアカデミーからの招待状……フロンティアブレーンによる特別講師の依頼……?」
この日、2つの地方をかけた少年の元に、3つ目の地方からの招待の風が吹いた。
to be continued…
to be continued…
だなんて、におわせた文がありますが、ちゃんと最終話です。現状この先を書く予定もないということは明記しておきますね。
ではなぜこんな終わりにしたかと言うと……やはりポケモンの終わりはこれがふさわしくないですか?アニポケリスペクトです。
と言うことで、長らく続きました本作品、これにて最終話でございます。ここまで付き合っていただき、ありがとうございました。
一応この後あとがきも1つ、別枠で出すつもりですが、そちらは読まなくても全然問題はございません。読み切ったという空気感を大事にしたい方は、スルーを推奨します。
ではでは、重ね重ねになりますが、ここまで見ていただきありがとうございました。またどこかで縁があれば、よろしくお願いします。