『ブイッ!!』
『ゲンガァァッ!!』
ダイマックスイーブイとキョダイマックスゲンガーによるお互いを威嚇するための叫び合い。それだけなのに震える空気がこのバトルの最後の盛り上がりをいやがおうにも感じさせる。
「イーブイ!!『ダイアーク』!!」
先手はこちら。相手の方がダイマックスできる時間は短いから向こうから攻めてくることは恐らくない。ならばこちらから攻めて相手を動かすしかない。
イーブイから放たれるのはふたつの黒色波動。あくタイプの力を内包したそれは、ゲンガーに対してこうかばつぐんの技であり、かつメインウェポンであるノーマル技はゲンガーには効果がないため、現状イーブイがゲンガーを殴れる唯一のワザとなっている。
どちらかと言うと物理攻撃の方が得意であるイーブイにとって、ダイアークは追加効果が相手の特防を下げると言うこともあり、あまり噛み合っているとは言えないけど、贅沢は言ってられない。
「……大丈夫。……ゲンガー、地面に潜って」
対するゲンガーは元々下半身が埋まっているからか、地面に潜航することが可能なため、地面に潜って避けてしまう。
ダイマックス技は3回までしか打てない。
その貴重な3発のうち1発を空打ちさせられてしまうことに内心舌打ちをしてしまう。いきなり目の前から敵が消えたイーブイはその出来事に驚いて左右をキョロキョロしだす。
どこからゲンガーが襲ってくるか分からないヒリヒリした状況。
体中、嫌に重いプレッシャーがのしかかってくる。
「イーブイ!!落ち着いて!!」
(どのタイミングでどう攻めてくる……?)
イーブイを安心させながら頭を回転させていく。
イーブイしかいないフィールド。ゲンガーの位置を見つける手がかりになりそうな、ダイマックス特有の赤黒いひかりも地面に潜られているせいか、地面全体が赤黒く染まってしまいどこにいるかの検討もつかない。それは観客も実況も同じで、そのためこれから何が起きるのかを絶対に見逃さないためか、これだけの人数がいるのにも関わらず、会場は一切の物音が立たない無音の空間になる。
ここからどう動くのか。それとも先に動くべきなのか。
(どれが正解だ……?)
攻めるべきか守るべきか、迷っている間にオニオンさんとゲンガーがついに動く。
「……ゲンガー……今!!」
オニオンさんからの攻撃の合図にボクとイーブイが揃って身構える。しかしいつになってもその兆候が見られず焦りが募ってしまう。
(どこから……どう来る!?)
『ブイッ!?』
そんな時に突如イーブイから上がる驚きの声。何があったのか聞く前にイーブイが少し後ろに下がったのが気になって、イーブイの足元を確認すると、そこには赤黒いはずの地面の中にぽつんと紫色の影が見えた。その紫色の影は瞬く間に広がっていき、今度は広がった紫色の影の中心に赤色が現れて、同じように広がり始める。
その正体なんてはっきり見るまでもない。
地面から顔を出したゲンガーと、その口だ。
「イーブイ!!跳んで!!」
「……逃がさないで……舌で捕まえて!!」
ジャンプして足元からの攻撃をよけようとするイーブイ。ダイマックスゆえ動きがかなりゆっくりになってしまうものの、しっかりと体を宙に浮かせ逃げるイーブイ。が、その行動を阻止するべく、キョダイマックスしたことによってさらに長くなった舌をつかい、イーブイの足をゲンガーがからめとってしまう。
「……引き込んで!!」
「イーブイ!!落ち着いて!!ゆっくりでいいから舌を剥がして!!」
右前足に絡みついた舌を思い切り口の中に引き込むゲンガー。その行動によって地面に落とされるイーブイは、地面から顔の表面だけをのぞかせているゲンガーと目が合って軽くパニックになっている。そんなイーブイに対してしっかり声をかけることで大分落ち着きを取り戻してはいるものの、状況は悪いことに変わりはない。今もどんどんゲンガーの方へと引きずり込まれており、舌が巻き付いている足においてはもう口の中に入っているようにも見える。当然イーブイも必死に暴れて逃げ出そうとするものの、舌がほどける様子も全くない。
(っていうかこのまま口の中に引き込んで飲み込むつもり!?)
流石にそんなことをされたら戦闘不能になってしまうこと間違いないので何とか抜け出さないといけない。イーブイももちろん同じ思いなので先ほどよりももっと必死にもがくものの、それでも舌が外れることは一向になく、体の半分くらいが口の中に入ってしまう。
「……ゲンガー、咬んで!!」
「『ダイウォール』!!」
イーブイが口の中に入った瞬間に口を閉じて、その自慢の巨大な口と歯でかみつぶしてしまおうという向こうの考えを、ダイウォールによって何とか耐えていく。バリアと歯の擦れるギリギリという音が物凄くこちらの不安感を募らせていくなか、それでも何とか耐えきったイーブイがバリアを弾けさせるとともに、ゲンガーの口も顎が外れたのではと思ってしまう程勢いよく開かれた。
「……弾かれた……でも逃がさない……!!」
それでも足に絡みついている舌だけは決して解かれることはなく、引き続きイーブイは口の中に引き込まれていく。
(このまま守っていも仕方ない。せっかく口の中に引き込まれているのなら!!)
「イーブイ!!口の中に『ダイアーク』を叩き込んで!!」
「っ!?……ゲンガー!!『ダイアシッド』で……相殺!!」
完全に口の中に引き込まれ、飲みこまれそうになっている状況で、イーブイの体から黒色のオーラが解き放たれる。体の内側から襲ってくる攻撃はさすがに予想外だったのか、慌ててダイアシッドによる相殺を選択するオニオンさん。
しかし、ダイアシッドは自分の火力を上げる効果があるせいか、ほかのダイマックス技に比べて威力が少し控えめなことと、この相殺がゲンガーの口の中で起こっているため、その余波はすべてがゲンガーに直撃することとなる。最終的な損得を考えれば間違いなく得をしているのはこちらだ。
(密閉空間にいるという点でイーブイも決して少なくないダメージを受けているのは否めないけど、それでもまだ戦えるはず!)
ダイアークとダイアシッドのぶつかり合いのせいで起きた爆発により、土煙が上がっているためいまだに両者のポケモンがどのくらいのダメージを負っている確認はできないものの、少なくともお互いダイマックス技の制限である3発は打ち終わっているため、目に入るのは元の大きさに戻った2匹のはずだ。
「ブイ~~~っ!?」
「イーブイ!?」
なんて思っていたら爆発によって起きた土煙から茶色い影が……というかイーブイが飛ばされてきた。地面に落ちないように受け止めてあげたかったけど、ここで手を出しちゃうと反則になってしまうのでぐっとこらえて見送る。足元近くまで転がってきたイーブイに慌てて声をかけて安否を確認。体のあちこちに傷が見受けられるためかなり体力が削られていることがわかるけど、それでもすぐに立ち上がり、まだまだ戦えると意思表明するために声を上げて答えてくれる。
「よし、まだまだ戦えるね……期待してるよ!イーブイ!!」
「ブイブイ!!」
まだゲンガーの状態が見えるわけではないので何とも言えないところはあるものの、こんなことでくたばるわけがないという一種の確信めいたものがあるため、決して気を緩めることなく前を見る。
徐々に晴れていく爆風の先に目を向けると、そこにはイーブイと同じく、少なくないダメージによってかなり体に傷が見受けられるものの、それでもしっかりと両足で地面に立っているゲンガーの姿。肩で息をしているのがよくわかるところを見るあたり、やはりイーブイよりも受けているダメージは多そうだ。ただ、最後にゲンガーが選択している技がダイアシッドであったため、ゲンガーの火力が上がっているというところも注意しなければいけない。最終進化であるゲンガーと進化していないイーブイの素のスペックを比べれば流石に耐久、火力、ともにゲンガーに軍配が上がってしまうため、油断はできない状況ではある。
「……イーブイにここまで脅威を感じたのは……初めてです」
「脅威で済めばいいですね……悪いですけど、このままイーブイで突破します!!イーブイ、『まねっこ』!!」
まずは小手調べのまねっこ。最後に使われた技がダイアシッドであるため、まねっこするのはダイアシッドの元となった技だ。そのどく技が何かわからない以上ちょっとした賭けにはなるものの、ゲンガーが覚えるどく技なんて大体が特殊なので、正直牽制できる技なら何でもいい。
その予想が普通に通り、イーブイから放たれるのはベノムショック。毒液がイーブイから真っすぐゲンガーに向かって吐き出される。
「……ゲンガー。……『ベノムショック』!!」
対して相手も同じ技で応戦。ただ、タイプととくこうの高さが全然違うため相殺どころか、こちらのベノムショックを貫通してこちらに飛んでくる。
「『でんこうせっか』!!」
だけどそんなことはこちらだってわかっている。ベノムショックを打ち終えてすぐに突撃態勢に入っているイーブイは、ボクの指示を聞き終える前にクラウチングスタートのような状態から一気にトップスピードへ。こちらに飛んでくるベノムショックを紙一重でかわしながらゲンガーの懐へ飛び込む。
「……速い!!」
「『かみつく』!!」
「……『ふいうち』!!」
懐に入ったイーブイの牙と、ゲンガーの拳が交差してお互いにダメージを与える。思いのほかイーブイのスピードが高かったためオニオンさんのふいうちの指示が少し遅れてしまい、本来ならふいうちだけが成功する場面で両者痛み分けに。イーブイにもダメージは確かに入ったものの、ゲンガーは物理攻撃に関してはかなり低い方なのでまだ痛くない方だろう。この相打ちも総合的に見ればこちらが若干プラスに見える。
(だけどこっちのでんこうせっかにも反応できる技を持っているのはやっぱりつらい……ふいうち覚えさせてるの本当にしっかりしすぎだよ全く!!)
ボクを実力者と認めてくれるのはありがたいけどもう少し手加減してくれてもいいでしょなんて悪態を軽く吐きながら、すぐにそのことを頭から追い出して戦況を分析。
「……『ベノムショック』!!」
かみつくとふいうちの相打ちによってふたたびお互いの距離が離れ、仕切り直しに。こうなってしまうと有利なのは遠距離攻撃に分があるゲンガー。
さっき受けたような不意の技を喰らわないようにしっかりと距離を管理しての攻撃。先ほどよりも明らかに鋭い毒液がこちらめがけて飛んでくる。
「イーブイ、とにかく大量に『スピードスター』!!」
「……スピードスター?」
それに対してこちらはイーブイの尻尾からまるで流星群とでも言わんばかりの星の大津波を発生させる。スピードスターは今やボクのイーブイの得意技で、まねっこを除けば一番威力の高い技。だけど、当然とは言えこれでもベノムショックを受けきることはできず、せいぜいが少し勢いを止める程度。
ただそれだけの時間を作ることができれば避けることは難しくない。それにベノムショックとスピードスターの弾の量を比べた時、大量に作ることを指示したこちらの方が多く、ベノムショックに消されてなお、ゲンガーの周りをドーム状に包み込んで、舞わりを飛び回るスピードスターの群れが目に映る。
自分を中心に星形弾の竜巻が起きているように見えるゲンガーにとっては何が何だかわからない状況のため思わず周りをきょろきょろしてしまう程だ。
「……ゲンガー落ち着いて……スピードスターはノーマルタイプ……君には当たらない」
そんなゲンガーに対してオニオンさんは冷静に指示を出す。確かに彼の言う通り、ゴーストタイプであるゲンガーにノーマルタイプのスピードスターは当たらない。
だけどこの技は、
「今!!『かみつく』!!」
「……かみつく?……どこから」
「ゲェン!?」
「……ゲンガー!?」
ボクの指示に怪訝な声を漏らすオニオンさんだけど、その空気をすぐに壊すゲンガーの叫びが響き渡る。星の嵐で若干視界が確保しづらいものの、しっかりと見るとゲンガーの頭の頂点をしっかりとかみついているイーブイの姿が目に入る。
「……上から!?」
「もっと『かみつく』!!」
「っ!!……『ベノムショック』を地面に!」
さらに追撃を叩き込もうとするイーブイに危機感を感じたゲンガーが地面に攻撃を放ち、その衝撃でイーブイを飛ばす。空中に飛ばされたイーブイは無防備となり、このままではさらに放たれるであろうベノムショックをよけることはできない。しかし……
「『でんこうせっか』!!」
忘れてはならないのがゲンガーの周りを覆っているスピードスターの嵐。空中で動きが取れないのならば、動けるように足場を作ればいい。自分の打ったスピードスターの上に着地したイーブイは、そのスピードスターを足場に、星から星へとでんこうせっかで飛び回る。その姿はさながら狭い部屋の中を縦横無尽に跳ね回るスーパーボールのようで、視界が星のせいで狭くなっていることもあってイーブイの姿を視認しづらい。
先ほどゲンガーの上から一気に接近した正体もこれだ。
「……なんて器用な」
「工夫して器用に戦わないと勝てないので!!」
それでも素早さに自信のあるゲンガーはまだイーブイの動きを目で何とか追っている。イーブイの動きから見て次に着地するであろう星形弾の位置を予想しその位置に先打ちされるベノムショック。対するイーブイはそれを何とか紙一重で避けながら接近してかみつく態勢へ。攻撃の予感を感じたゲンガーはすぐさま振り向き、こちらもふいうちの構えを取る。最初の時と比べて明らかに反応速度が速いため、このままでは一方的に打ち負けると判断したイーブイがすぐに踵を返してでんこうせっかで下がる。
この後退を見たゲンガーが、今度は相手の足場を奪うためスピードスターを消す目的のベノムショックを四方八方へとまき散らす。それに対し、攻撃にこそ当たらないものの、このままでは機動力を失ってしまうイーブイは、それをさせないためにさらに追加でスピードスターを放ちまくる。それもただ増やすだけではなく、すでにあるスピードスターをゲンガーの足元に尻尾で弾いて飛ばし、土煙を上げることで視界を封じて敵の攻撃を中断させるおまけつき。
攻撃が止んだ一瞬の隙をついて3度接近するイーブイ。かみつくの構えを取り、今度こそ致命打を与えようとするものの、それをも読み切ったゲンガーがふいうちの構えをすでに土煙の中でとっていた。技を中断することができないイーブイはそのままふいうちの直撃を貰い弾き飛ばされる。
体重の軽いイーブイはそのままスピードスターの壁まで吹き飛ばされ、
先ほどよりもさらに速いスピードで縦横無尽に駆けまわるその姿は、もはや残像しか残っておらず素早さに自信のあるゲンガーですらしばしば見失う程。そのスピードを維持したイーブイはとにかく駆け回ってふいうちすら追いつかない速さでゲンガーのそばを通り抜け、その間にかみつくを当ててすぐに離れる。
完全なるヒット&アウェイ戦法に、やはり相手の足場を壊すしかないと判断したゲンガーが再びベノムショックをまき散らす。
こうなっては再びさっきの出来事を繰り返すだけと思いきやそうはならず、むしろ速くなりすぎたことによって制御が難しくなったイーブイがそのベノムショックに掠る回数が増えていく。自分を狙っていない攻撃故、その軌道を読みづらいため必然的に体の傷が増えていく。むしろクリーンヒットがないのが奇跡なくらいだ。また、これだけ早く動いているとスピードスターを打つ体制を取るのも難しく、星の壁は確実にその密度を減らしていっていた。
「『でんこうせっか』で3回跳ねて『スピードスター』をまた地面に打って目くらまし!!その隙にさらに『かみつく』!!」
「……『ベノムショック』で星を追い払って!……6時の方向を向いて『ふいうち』の構え……返したら今度は右斜め上からくるからそこに『ふいうち』!!」
荒れ狂う星の中で行なわれるハイスピードバトル。
ボクとオニオンさんの叫びにも似た指示も常に飛び交っているため息つく暇もない。
(一時的にとはいえイーブイがカブさんとのバトルでこうそくいどうによる高機動の戦いを経験していたのが吉とでてよかった!……けどこの戦いいつまで続くの!?頭と目が酷使されすぎて悲鳴を上げてるんだけど!?)
けどそんな泣き言を言っても戦況は待ってくれない。
激化をたどっていく戦い。
さらに飛び交うお互いの指示。
そしてそれを上回るスピードで繰り出されるお互いの技。
いやがおうにも興奮するオーディエンスによってスタジアム内はもう地震と遜色ないレベルで震え始める。
紙一重。皮一枚。
一つのミスが致命的になりそうな状況下で、しかしそれでもこのバトルもゆっくりと終わりに近づいていた。
「ブ……イッ!」
「ゲン……ガァ……ッ!!」
(イーブイのスピードとゲンガーの火力が落ちてる……どっちももう限界が近いんだ)
お互い限界を超えて行動しまくっているせいでとうとう底が見え始めてきた。次に何か一発でも決まればその瞬間終わりになるだろう。
(勝負に出るなら……ここしかない!!)
「イーブイ!!星を尻尾で弾きまくって!!」
ボクの指示を聞いたイーブイが今まで自分たちの周りを周回していた星たちを次々と尻尾で打ち返していく。特に何も狙いを決めずに行ったその行動によってさっきまでイーブイだけが跳ね回っていた状況から一変し、数え切れないほどの星たちまでもが縦横無尽に跳ね返り始める。
こうなってしまえばもうイーブイの動きを視認するのは不可能だ。
完全にイーブイを見失ったゲンガーは次のイーブイの攻撃をよけられない。
「イーブイ!!『かみつく』!!」
すぐ後ろまで接近し、口を大きく開けて攻撃態勢に入るイーブイ。
(もう避けるのは間に合わない!!)
このままかみつくが決まって勝ち。
そう思った。しかし……
「……待ってた!………絶対後ろから攻撃するって!!……ゲンガー、後ろに『さいみんじゅつ』!!」
「なっ!?」
(今まで隠していたのか!?)
さいみんじゅつ。
相手を眠らせる、今この状況において下手な攻撃技よりも凶悪な技。
オニオンさんの指示に疑いの余地すらなく振り返り、すぐにさいみんじゅつを放つゲンガー。本来なら当てるのが難しいその技も、かなり接近されたうえここまでのバトルによって体力をかなり削られたイーブイによけるすべはなく、催眠術によって眠りについてしまう。
「イーブイ!!」
眠ったことによって勢いが失われ、地面に落ちていくイーブイ。
「……これでとどめ……!!ゲンガー……『ベノムショック』!!」
ゲンガーの口元に毒の塊が生まれる。あの技が放たれればイーブイは間違いなく戦闘不能になるだろう。
自分ののどがつぶれるのもお構いなしに叫び声をあげるが、イーブイは起きない。
この熱いバトルもついに、ゲンガーの勝利という形で終止符が打たれる。
誰もがそう予想した。
イーブイが弾き、暴れまわっている星の一つがこつんと、
「ブイッ!?」
「ゲンッ!?」
頭に星が当たった衝撃でイーブイの体が少し横にそれ、ベノムショックが体を掠って通り抜けていく。その一連の動きが原因でイーブイも目が覚め、不格好ながらもゲンガーのすぐ近くの地面に着地しようとしていた。
たった一瞬の出来事。けど、急に起きたイレギュラーなことにすぐに脳が反応できず、まるでスローモーションのように流れる景色。ボクもオニオンさんもゲンガーも、そして観客までもが時を失われたかのように固まってしまう。
「ブイッ!!」
「ッ!!」
そんな中で響くイーブイの声に、弾かれたような衝撃を受けたボクはすぐに指示を出す。
「イーブイ、『でんこうせっか』!!」
「……っ!!……『ふいうち』!!」
地面に足をつけると同時に加速するイーブイ。一瞬遅れてゲンガーとオニオンさんにも時が戻り、ふいうちの構えを取る。でんこうせっかで近づいて、そのあとにしてくるであろうかみつくに対してカウンターをするために。
当然だ。でんこうせっかはノーマルタイプの技だからゲンガーにダメージは入らない。だからどこかでかみつくに変更する必要があり、そこを狙えば確実にふいうちは成功する。そうなってしまえば、イーブイの敗北が決定する。
だから……
「……なっ!?」
「ゲッ!?」
でんこうせっかはゲンガーに当たらない。なら、でんこうせっかを解除しなかったらゲンガーをすり抜けて後ろ側に回ることができる。
そして、ふいうちの構えを取ってしまい、隙だらけとなっている後ろから攻撃すれば……
もうふいうちも間に合わない。
「イーブイ!!『かみつけ』ぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
「ブイイイイィィィィッ!!!」
慌てて振り返り、何とか対抗しようとするものの、気合の入ったその一撃は的確にゲンガーの体力を削りきる。
渾身のかみつくを当てたイーブイは、その後ボクの足元まで飛んで帰ってきてゲンガーを見つめる。
今この場にいる全員の視線を集めたゲンガーは、目を回しながらゆっくりとその体を地に沈めていった。
それはつまり……
『ゲンガー戦闘不能!!勝者、イーブイ!!よってこの戦い、フリア選手の勝利!!』
この長い戦いが、ボクたちの勝利によって幕を閉じたことを意味していた。
キョダイゲンガー
地面から顔を出して、敵を飲み込むという技はポッ拳でゲンガーが使う奈落落としから。
あの技大好きです。
スピードスター
星を足場にするのはアニポケのコンテストでこんなのあったような気が……あるような、ないような……でもできそうだからいっか。という考えの元。
イーブイの機動力マシマシですね。
ちなみにこの立体機動自体は、アニポケのサトシピカチュウ対ショータギルガルドの、木の破片を足場に飛び回るピカチュウの姿を参考にしています。
でんこうせっか
ゴーストタイプを振り切る描写はアニポケのサトシピカチュウがノーマルZのウルトラダッシュアタックでグラジオゾロアークのむげんあんやへのいざないを振り切っていたシーンを参考にしています。
ノーマル技とゴースト技は干渉できないからこそ、ピカチュウがゴーストZの手を振り切って攻撃できたと解釈してこの描写を。
実は別の案で、ゲンガーの体内ででんこうせっかを解除し、体内をかみつくというのも考えたのですがさすがにダメかなと思い没に。
ゲンガーの体内に残るってイーブイも倒れてしまいそう……。
ようやく決着。
次はもうちょっと短くまとめられたらなぁと思ってたり……
たぶんできないんだろうなぁ……