誰もいないその先を目指して   作:セントレイズム

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お久しぶりです。
リアルがヤヴァイ状態だったのが何とかなり始めたため小説が書けるようになりました。(なおプロットなどないため方針不明)


決意

「君のトレーナーにならせてくれ」

 

そう言いながら頭を下げる男を見ながら、俺は頭を抱えていた。

唐突だから、考えてなかったから、そもそもそれ以前にまともにレースをしたことがない俺を何故スカウトするのか。頭を抱える理由は両手でも数えきれない。

 

「あの模擬レース、俺も見てたんだ」

 

「さっきも言ったか」

そう言いながら頭を上げて頬をかく男。

何処か、何故か懐かしさを覚えるその姿に胸の高鳴りを覚える。

 

「君の走りに当てられたなんて言わない。素人目から見ても君の走りは粗削りだし、無駄が多かった」

 

突然のダメ出し。なら、何故俺をスカウトする。

 

「な、なら」

 

不安から声が震える。もやは言葉を取り繕う余裕はなかった。

 

「なんで、俺なんだ?」

「粗削りだからこそ一緒に完成させたくなった。君のあのガムシャラに前に行こうとする走りに夢を託したくなった。ダメか?」

 

瞳を輝かせる少年のような、昔見た懐かしい雰囲気を放つ男を直視できなくなくなる。

 

「...」

 

どう答えていいのかわからない。

 

「__少し、考えさせてくれ」

「いきなりで悪かった」

 

問題の後回し、それはきっと男も理解していたのだろう。

心配そうな表情をしながら男を横目に、俺は保健室から退出した。

 

「...俺、どうすればいいんだ」

 

決して俺は優秀ではない。ウイポで言うなら全部のステがCくらいしかないウマ娘だ。

地元ではまともに競う相手はおらず、初めての並走は負ける終わる。そんなウマ娘だ。いきなり夢を託されても、夢を託されそうになっても、きっと重さで潰れてしまう。

 

だから最初は慣らしてから徐々に、徐々に人の期待を背負えるようなウマ娘になっていこうと考えていた。

 

「ままならないな」

 

理想とする生き方と実際の生き方。

当たり前だがその差は歴然で、いくら運動しても痩せられない体重調整をイメージさせる。

 

「走るか」

 

現実逃避。

数多くある取れる行動の中でそれを選ぶ。

 

 

 

 

「あ、授業___走るか」

 

現実逃避しかできなくなった。

 

 ∴ ∵ ∴ ∵ ∴

 

 

「自由だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

何も考えないで走る。

そこに(目標)はない。ゆえに速度は上がらず、意味もない。

自主練習という目的でもないダッシュは思考を停止させるには十分だった。

 

「ハァ___ハァ__ハァ__」

 

授業をさぼって走るのは楽しいか?と聞かれれば罪悪感でそれどころではないと答えたくなる。

初日から授業をさぼってトラックで走り続けるとかそれはもうただの練習狂いなのよ。そんな奴、好き好んで関わる奴いないだろ俺も関わりたくないわ__って俺だわ。

 

「初日から授業さぼるとかやべぇよやべぇよ」

 

現実を見ればもうやばい。

頭おかしい挨拶から飛び降り、そして初日授業をさぼる。もう断トツで奇行ウマ娘入り確定な感じを醸し出している現状に頭を抱えたくなる。

 

「...はぁ」

 

走りの疲労とは別の息が漏れる。

 

一人では会話が続かない。

メタっぽい話だが、普通こういう流れだと友達が出来てーとか色々あるはずなのだ。

だがどうだ?今の自分に友達がいるかと言われれば「いません!」と大声で言える程に自分の周りには誰もいない。

 

「...友達が欲しい」

 

ネタとかメタとか関係なく、ただただ友達が欲しい。

笑い合い、競い合い、助け合う。熱意をぶつけ合う友情を俺はいつから感じていないのだろうか。

ウマ娘になる前、それこそ俺が俺であったころでさえも友達だといえる存在はいなかった。

ウマ娘になってからも、中身の年齢の差のせいか友達は出来ず、トゥインクル・シリーズを目指す子もいなかった為に競い合うことも熱意のぶつけ合うこともなかった。

 

いつからだろうか?

他人との接し方が分からなくなって、自分から話しかけることができなくなったのは。

 

いつからだろうか?

友達が欲しいと言いながら行動しなくなったのは。

 

宣戦布告した自分に驚いたのは、自分の言葉で話したからだ。

自分の意志を、紛れもない自分の言葉で相手に伝えたからだ。

 

ウマ娘。

人と比べ闘争心が高いウマ娘だからできたのかはわからない。だが、もしかしたらこれは神様が自分にくれたチャンスなのかもしれない。

自分を取り戻すチャンス。

前世に何もできなかった男に神様がくれた大きなチャンス。自分を変えることができる最後の時間。

 

これが夢か現かわからなかった自分への道筋になるだろう。

 

レースに勝って、故郷の皆へのお土産話にする。

レースで競い合い、自分を取り戻す。

 

この両方が俺たちの目標なのだろう。

 

胸に手を当てた。

”スィルスワロー”は今も俺の中で眠っている。

いつ目を覚ますのかはわからないが、それでも確かに俺の中で彼女は眠っているのだ。

だから、いつ目を覚ますかわからない彼女のためにも俺は(トレーナー)とともに走ろう。

 

誰もいないその先に消えるまで

 

「___よし、走るか!」

 

最初と同じ言葉のはずだったのに、心はとても軽かった。

 

 ∴ ∵ ∴ ∵ ∴

 

『少し、考えさせてくれ』

 

そう言い放ち消えてゆく葦毛の彼女を、俺は止めることができなかった。

 

相手が女性だったからではない。

相手がウマ娘だったからでもない。

 

ただ、

 

「なんで、あんなに辛そうな表情をするんだ...」

 

アグネスタキオンと走っていた時の彼女とは正反対の何かに耐える表情。

それほどトレーナーが付くのが嫌だったのか、と疑問に思うが答えはわからない。

 

 俺は彼女を知らなすぎる。

ただ、走りを見てトレーナーになりたいと思ってここまで来た。

だから知らないのだ。何故彼女が走るのか、トレセン学園に到着してから走り続けるのか。一体何が彼女を突き動かすのか俺は全く知らないのだ。

 

「本人に聞くのは...やめた方がいいか」

 

あって間もない人間に色々聞かれるのはストレスがたまるだろう。

そういう判断で選択肢を切り替える。

 

別の選択肢をと思えば、たづなさんに聞くかシンボリルドルフに聞くかの二択だろうか?

彼女の過ごした場所に行くという選択肢もあるかもしれないが、ソレはもう少し仲良くなってからの方がいいはずだ。

 

行動しよう。

二択の選択をするまでもない。できるならば両方を取るべきだ。

 

『チャンスを手にするための努力は惜しんではいけない』

 

胸に刻んだ言葉は俺の方針となり今も生きている。

 

「見ててくれ、祖父ちゃん」

 

あの前を走ることしか考えてないウマ娘と一緒に、祖父ちゃんを超えるから。

 

声に出さない決意は誰にも聞かれることはない。

それでも目標は胸に刻まれた。




なんでしょうね、これ(遠い目)

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