#禍憑交換合作

です。
でっけえ剣がでるそうです。

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血塗れの刀

「ふう。これで最後かな」

「お疲れ様でした。今、茶を持ってきます」

 

瞬足で消える鳥飼来国次を横目に、男は一枚の紙を積まれた書類の上に置いた。

空我(くが)といういかつい名字を持っている割にまだ学生のような若々しさを持つ男は背を逸らして伸びをする。

 

「出費はあったが良い買い物だったな」

 

空我の視線の先には、一振りの刀が立てかけられていた。

露店で売っていたこの刀。曰く、この街の鍛冶屋が鍛えた物らしい。

 

「ううむ……! いつ見ても惚れ惚れするような佇まい! 抜き身であるのも良いが、ここに置いてあるだけでもかっこいい……!!」

 

また買ったのですか、と自身の務める御華見衆辺境支部の巫剣に言われたのは耳にタコができたが、それを引いても買っていただろう。

鞘に彫られた雪と湯気のような彫刻も、その刀の美しさを際立たせている。

その場に他の刀は無かったが、商人が言うにはその鍛冶師の刀の鞘には全て湯気が刻まれているのだとか。

 

「惜しむべきは、この刀に銘がないこと……なぜなんだ……」

 

大きく息を吐き出して、窓の外へ視線を投げ出して、完全に気を抜いていた。

だからこそ、面食らう。

 

「……なっ!?」

 

自身の血で赤く染まった装束を身に纏った巫剣が、こちらへ助けを求めるようにおぼつかない足取りで歩いていたのだから。

 

「ッ、鳥飼、救助!!」

「了解!」

 

階下から声が聞こえ、瞬時にその巫剣の元へ鳥飼が走り出す。

その姿を見て空我自身も隊長帽を被り、自身の保有する数ある刀の中から一つを握って表へ飛び出る。

鳥飼がその腕に抱えている巫剣は、空我という隊長の姿を見て安堵したようにその瞳を閉じた。

 

「大丈夫なのか!?」

「い、息はしている様ですが、巫魂が薄れています。しばらくは休ませていた方がいいでしょう」

「それならよかった……その巫剣は何か言っていたか?」

「『錆ついた刀の禍憑に気をつけろ』と……」

「錆びついた、刀の禍憑……か。報告になかった辺り、新種なのだろうか……鳥飼、その巫剣は客間で手当をしておいてくれ。菊となうそが戻り次第、捜索に出る。……小烏丸、聴こえているな?」

 

空我が視線を移した先にいた一羽のカラスは、承知したと言わんばかりに翼を広げて飛び立った。

空我の視線は、自身の派遣された地である護るべき場所を、すっと睨んでいた。

 

 

 

 

「これより、錆刀型の禍憑の捜索を行う。被害にあった巫剣は未だ目覚めていないために、禍憑の情報は錆びついた刀であるとしか言いようがない。人型か異形かもわからない以上、警戒は怠るな」

「「了解!」」

「鳥飼は巫剣の手当をしながらここを守り通せ。その禍憑が現れ次第、小烏丸のカラスに連絡をしろ」

「了解」

「では、出るぞ!」

 

一斉に走り出す。

並走するは、全てを護る今剣と、全てを貫く菊一文字則宗。

 

「隊長さん、禍魂は感じられますか?」

「あぁ……微弱だが、たしかにこの街から感じられる。巫剣や民間人の被害を出さないためにも、早めに討伐する必要があるな」

「はい」

「お菊、いざとなったら羽織を使う。準備をしておいてくれ」

「……はい」

 

久我の感じる禍魂と、巫魂の残滓が近くなっていく。

角を曲がった先、その奥の奥人など到底こない場所に……見つけた。

 

「総員戦闘態勢!」

 

二振が自身の刀を構えるのを見て、自身も刀を抜く。

まだ気づかれてはいないようで、空我はしっかりとその目で観察を始めた。

 

黒くゆらめくもやのようなものを纏った、瞳とも宝珠ともつかない何か。

そこから右腕だけが生え、その手には鍔のない大太刀が握られていた。

駆け込んできた彼女のものであろう、大太刀から滴り落ちる血。

 

禍々しい。

 

その表現が最も似合う、見ただけで背筋に汗が吹き出すような存在だった。

ごくりと唾を呑み込んだのは、自分か、それとも隣に立つ二人のどちらかか。もしくは、この場の全員かもしれない。

先程まで虚空を見つめていた赤い線を引く瞳が、ふらふらと宙を彷徨い。

 

───ミ ツ ルギ

 

瞬間、一瞬の間に菊と禍憑の距離を詰められる。

反応できたのはただ一人。

 

「ッ!!」

 

今剣であった。

硬質的な音が響き、割り込んで入った短刀が大太刀を弾く。

 

「大丈夫です……かっ、あっ、あああああああああッ!!」

「今剣!?」

「いたい、痛いです主様……!!」

 

空我が今剣へ視線を向ければ、その手に握られている刀が、かなり歪んでいた。

右肩から先が切り裂かれたように傷を負っている。

 

「このっ!!」

「隊長さん!」

 

空我が禍憑に接近する。

 

───イラヌ

 

要らぬ、と空我が理解した瞬間、眼前に大剣が迫る。

即座に横へ飛び、路地の壁を蹴って斬りかかった。

振り向きざまに、禍憑の刀がそれを阻止する。阻止した瞬間。

 

「馬鹿な!?」

 

空我のの持つ刀が軽くなった。

いや、軽くなったのではない。

()()()()()()()。鍔から先の刀身が、錆となって。

 

「巫魂の込められた、業物だぞ。それがなぜ……はっ!?」

 

───ウセヨ!

 

咄嗟に空中で両腕を眼前に構える。

斬る、叩くと言った言葉が稚拙に思えるような、骨の芯まで砕かれそうな衝撃が全身を襲う。

 

「……あっ、がっ!!」

 

思い切り激しく壁に叩きつけられ肺の空気を全て吐き出す空我。

自身の大切に思う巫剣の悲鳴を聞いて、我を忘れて斬りかかった結果として残ったものは、一撃でボロ雑巾のようにされた身体と、刀身のない刀のみ。

とっさに上げた視線に飛び込んできたのは、菊一文字が刀で刺し貫こうとしている光景。

当然のように気付く禍憑。

 

「刀が朽ちる!! 打ち合うな!!」

 

指示が届いた瞬間に菊一文字が体を捻った。

その次に、その華奢な体が紙切れのように吹き飛ぶのが見える。

 

「菊ッ!!!!」

 

───オオオオオオオッ

 

雄叫びを上げる禍憑。

それは歓喜の声のようで、嘆いているようでもあった。

 

「逃げろ今剣!」

「し、しかし!」

「逃げろ!!」

 

───ニガサヌ

 

「菊、戻れ!!」

「わ、わかりました……」

 

よろよろと立ち上がった菊一文字に大きな傷がないことを確認し、禍憑を睨みつける空我。

その手には小さな球が握られていた。

 

「これでも……ッ!」

 

地面に投げつけた瞬間に大きな煙が上がる。

巫剣を戦闘不能にさせられるよりも、その場から離れた方がいいという空我の判断による撤退。

必死に逃げる二人の背中を追って走り、その間も思考を巡らす空我。

 

「(街中にいたにもかかわらず、人間は襲われていなかった。果たしてそのような禍憑がいるのかはわからないが、恐らく奴の表的は巫剣……)」

 

全身に傷を負って大通りを走っているがために、道ゆく人が空我に好奇の視線を投げる。

ここでもし「逃げろ」などと言ったら確実に民間人は混乱し、位置が暴かれる可能性がある。

あの禍憑が追ってくるのかどうかは後にして、まずは逃げることを優先したのだった。

 

「あ。空我隊長、おつかれ様です」

「陸軍の……(さとる)

「はっ! 名前を覚えていただき光栄です! ……ところで、どうしてこちらに……?」

 

空我と同じく、短期間の派遣陸軍、暁。

数日前からやってきた彼は巫剣や禍憑の事情を理解して受け入れている数少ない人間だ。

 

「強力な禍憑が奥に現れている。今は一度撤退中だが、交戦を始めた際は住民の避難を」

「了解っす」

 

やがて走っているうちに御華見衆の拠点に辿り着き、空我は先に付いていた二人と合流する。

今剣は右腕を怪我し、菊一文字は全身に痺れを伴う痛みを負っていた。

 

「に、逃げ切りましたの?(ぜえぜえ)」

「どうやらそのようです。人を避難させた後、援軍と共に祓えたらいいんですが」

「今剣。近くの支部は?」

「全速力でも三日はかかると思われますわ」

 

カラスに状況を伝えつつ菊一文字が遠方を睨む。

今も、心臓を鷲掴みにされたような緊張感が体を蝕んでいる。実際に身体も痛い。

しかし、ここでやらねば、被害は大きくなる。かといって、今のまま斬りかかっても今剣のように返り討ちにあうのみ。

 

「隊長さん。ここは、最大戦力で挑むべきではないでしょうか」

「俺もそう思っていた。鳥飼!」

「お待たせしました、加勢いたします」

「きゃあ!?」

 

いつの間に今剣の背後にいたのか。

しれっと会話に挟まってきた鳥飼来国次は手のひらをぐーぱーと握ったり開いたりし、瞑想するように瞳を閉じる。

 

「……ふぅ。これでなんとかなりそうですね」

「そうですわね。なにせ……」

 

 

 

「「此処(ウチ)最大火力(とっておき)、ですから」」

「───主様の懐刀……鳥飼来国次、出れます」

 

 

 

 

 

ニガサヌ、と誰かが聴いて首を捻る。

見れば周りの者も、この不可思議な声を聞いたらしく、首を捻っていた。

何者かが激しく戦ったかのような、陶器や木材、石や土の瓦礫の中。

 

───ミツルギ

 

(あか)く線を引いた瞳が。

 

───クライ

 

鍔のない、血錆の付いた刀を、蛇が首を上げるかのように持ち上げ。

 

───ワガ

 

純粋で穢れのない、憎々しく泥のようで粘りのついた呪いをその身に込め。

 

───ヒガンヲ

 

一つの禍魂の塊が、大通りに飛び出した。

 

 

 

 

 

「鳥飼!!」

「はい!」

 

瞬間、幾数の影のような物がそれぞれ彼を襲い、その巨躯を吹き飛ばす。

 

「みなさん、逃げてください!!」

「なっ!?」「ばっ、化け物!!」「だ、大丈夫なのかよそいつ!?」

「早く、皆様こちらに!! (ぬし)様、もう少し時間を……!」

「わかってる! ───目標、錆刀型禍憑、名付けて大錆物(オオサビモノ)!! ちゅんちゅん、派手にやれ!」

「了解!!」

 

増幅させた巫魂を辺りに散らし、鳥飼が鋭い視線で大錆物を貫く。

 

───ミツルギッ

 

それに怯んだか、滾ったか。

大振りの、しかし素早い動きで刀が振われた。

 

「遅いですね」

 

が、そこに鳥飼はいなかった。

 

「はぁっ!!」

 

溜めに溜めた巫魂を、影に込めて放出する。

それこそが、空我でさえも戦慄し、「ちゅんちゅん砲」と呼ばれる所以である。その真髄は……。

 

───ッガアアアアアア!?

 

どこにあたろうが、何を斬ろうが、全てを破壊し、蹂躙する突破力。

空我の懐刀を自負するだけはある、と、その場の誰もがその力を認めた、絶対破壊の、変わらない力である。

 

「ちゅんちゅん、右!!」

「はいっ!」

 

その場に幻影を残し、宙へ舞った忍装束。

そのまま体を捻って一回転しながら苦無を投げた。

 

───ヒガンヲッ

 

返す刀。空中の鳥飼に逃げ場はない。

空我でさえも、身構えた。

 

「甘い」

 

しかし、そこに鳥飼はいなかった。

 

見れば先程幻影のあった位置に移動している。瞬間移動か、それとも元から宙を舞っていた鳥飼自体が幻影だったのか。

それを考える暇など、大錆物には与えられなかった。

 

「そこっ!!」

 

襲いくる連撃。

しかし、潰そうと思っても当たらない。

このまま勝てる。空我にも、鳥飼にも、余裕の笑みが浮かんでいた。

 

……そう、浮かんで()()

 

「空我隊長、遅れたっす!!」

「我ら陸軍も加勢します!」

「鉄砲で怯んだ隙に!!」

 

空我に並ぶように、(さとる)を始めとする陸軍が銃を構え始めた。

 

「全軍……ッってぇ!」」

「待て、刺激するな! 奴は巫剣にしか……!!」

 

───ガ

 

鳥飼には当たらないように、しっかりと狙われた弾。

それが間違って鳥飼に当たるかすれば……もしくは、狙いが外れさえ、すれば。

 

───ッガアアアアアアアア!

 

脳が揺れそうなほどの叫び声が直接頭の中に響く。

 

「全員この場から離れろ! 奴の標的から───」

 

空我の視線の先に、(さとる)はいなくなっていた。

代わりに、首のない胴体だけが残っていた。

 

「ッ主さ……っ、しまっ……!?」

 

一陣の生温い風が抜け、反応できない空我の首に凶刃が迫る。

その攻撃から空我を庇ったのは、鳥飼であった。

自身の刀で、受けて。

 

「ッがっ、ぐっ、───ッ!!!!」

「鳥飼!!」

「ぐ……させ、ませんッ!!」

 

自身の刀身を蝕む禍魂に全力で抵抗しながら、鳥飼が叫ぶ。

 

「宵闇に散れッ!!!!」

 

大錆物を囲む、大量の鳥飼の分身。

その全てが大錆物に殺到し、先程のようにその巨躯が吹き飛んだ。

 

(ぬし)様、避難が済みまし……た……」

「隊長さん……」

 

先程と違うところは、弾くどころかまともに鍔迫り合いをした鳥飼の右半身が、赤黒い血で染まっていること。

そして、とっくに戦場と化したこの場所で、人の命が失われたこと。

 

人の死は突然。なんの面白みもなく訪れ、そしてそれは都合よく捻じ曲げられたりしない。

空我の手が、そして何より魂が震えている。

怒りと正義感に満ちた瞳が、大錆物を睨みつけた。

 

「……どうやら、ここでどうにかする以外に道は無いようだ」

(ぬし)様……」

「命のツケは、払ってもらわないとな」

「…………」

「みんな。作戦通りに」

 

その一言で、巫魂が揺さぶられる。

空我の意思は伝染し、彼女たちの闘志を何倍にも膨れ上がらせる。

いつでも戦える。この身が朽ちても、必ず。

 

「行きます」

 

カチ───カチカチ、カチ、カチカチ……カチ。

今剣の持つ懐中時計の針が、不規則な動きをした。

ふっと今剣の体がぶれ、次の瞬間には大錆物の腕部の手首を裂く

翻る大錆物の刀。

今剣の体が急加速し、大太刀を避けて再度攻撃。

 

今剣固有の、時間に干渉する異能。

自分以外の全ての時の流れを遅くしたことにより、超速移動の実現を可能とする。

そして、禍魂のもやとも言える部分に……今剣の刀身が、刺さる、

 

「はぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

───ガッ、オオオッ!!

 

「っぁ、ぐ……う……!!」

 

蝕む禍魂を祓うかのように、巫魂の波動が溢れ出る。

もやは霧が晴れるように消え始め、刀と心臓部の要望が露わになっていく。

 

───ワタセッ!!

 

何を渡せと言うのか、全身に巫魂を浴びて尚、大錆物がその身に纏う禍魂を増幅させて刀を突き立てようとする。

 

カンッ

 

「ッ……忘れてもらっては、困ります……!! っぐ、あ、が……!!」

 

その間に滑り込ませるように鳥飼が自らの刀を差し出した。

禍憑に蝕まれ、二振の巫剣のもう半身が情けもかけられずに切り裂かれていく。

だが、巫魂の波動は止まらない。全身が痛みを訴えようが、意識が朦朧としようが。

信じ、愛し、護りたい、救いたいと願った、たった一つの信念のために。

 

「「はあああああああああッッッ!!!!!!」」

 

大錆物を、ぶん投げた。

 

「───やれ」

 

そして、慣性の法則に従い大錆物が向かう先に。

太陽を浴び輝く鉢金と、風に揺らめくだんだら模様の浅葱色の羽織。

銀の髪が揺れ───。

 

「一閃!!」

 

赤く線を引いていたもやの中心を、一太刀の元に斬り伏せた。

全身から力が抜けたように二度三度大地を跳ねる巨躯はやがて。

 

「眠って、いろ」

 

空我に触れるか触れないかのところで、その動きを止めた。

 

「…………」

「…………」

「……(どきどき)」

「…………」

 

 

 

 

 

任務完了、だな?

 

 

 

 

「「「やった!!!!」」」

 

少女の声に華が宿る。

大錆物の体は禍魂となって散っていき、青い空へと、吸い込まれていくのだった。

 

 

 

 

「鍛治職人、雪雲帳旗郎(ゆくもちょうはちろう)

 

そこは、最初に大錆物と遭遇した、路地の奥の奥、ひっそりと佇む小さな鍛冶場だった。

戦いの影響で瓦礫だらけ禍魂だらけとなったそこは、既にあらかたの瓦礫が撤去され、禍魂も祓われている。

 

「かつて、巫剣を目指した者よ」

 

名を残したかった男が、一心不乱に鉄と向き合いながら鍛えた刀があるらしい。

だがそれも、後に作り出した作品のどれにも、神聖な不可思議の力は宿らなかった。

 

「あなたが奪った命は六つ。陸軍の(さとる)菜助(なすけ)善文(よしふみ)勘十郎(かんじゅうろう)琴道(ことみち)。そして、民間人の(らん)

 

そうして誰にも知られずに死んだと言う。

寿命で、ではない。

 

「愚かです。あなたは」

 

首を切った。

 

「…………では」

 

崩れた家の中心部に、墓石のように立てた、一振りの鞘。

 

そこには、湯気の彫刻が彫られていた。


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