Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第1章 濃霧・奥多摩編
第1話 五里霧中


 

 虎杖悠仁は吉野順平の一件で思い知らされている。

【呪い】の悪意を、【呪霊】の本質を。

 だからこそ、分かる。

 

『お、かあさん……おかあさんおかあさんおかあさん! う、あ……わあああああ‼』

 

 母を求める、銀髪の幼女。

 彼女の悍ましい咆哮の中にある、悲哀。

 血涙に塗れた黄緑色の瞳の奥に宿っているのは、呪霊の悪意ではない。

 狂おしいほどの願望、その成就を切に願う祈りだった。

 それこそが、幼女が呪霊ではなく――――英霊である唯一の証左だった。

 

「っ……敵サーヴァント、ジャック・ザ・リッパー。来ます!」

 真っ赤に濁った視界の向こうで、紫色の髪の少女が、大盾を構えている。

 

 優しそうな声だった。

 切迫した状況を前にして、その声音が苦渋に塗れていても尚、生来の優しさが隠し切れない、声。

 戦いが怖い、戦うのなんてイヤだ。そんな健やかな弱さに満ちた少女を、一人で立ち向かわせてはならないと。

 

 祖父に掛けられた呪いが叫んでいた。

 

 遠ざかっていた虎杖の意識が帰還を果たし、バッと飛び起きる。

(本当に回復してる……)

 

 額から止めどなく流れていた出血は止まっていて、ギチリと常人離れした握力で拳を握り固める。切り裂かれていた腕の影響も無くなっていた。

 

 これなら、と虎杖はへそを起点に呪力を流す。すると蒼炎のような呪力が虎杖の拳から立ち昇った。

 そんな呪力が揺らめく様子を、虎杖の傍らでじっと見つめる少女がいた。

 

 虎杖は自分と釘崎を助けてくれた少女の方へ向き直る。

 藤丸立香と名乗ったその少女に、虎杖はもう一度だけ尋ねる。

 

「……本当にいいんだな」

 

 藤丸は小さくゆっくりと、でも確かに……首を縦に振った。

 藤丸の覚悟を受け取り、虎杖は立ち上がる。

 

「釘崎を頼む」

 

 虎杖の頼みを受け取り、藤丸は「まかせて」と告げた。大盾を構えるマシュの隣へと、虎杖は駆ける。

 

 異音が響き渡る。肉が捻じれ、骨が軋んでへし折れる。凄絶な痛みを支払い、銀髪の幼女は眼前の敵を解体する異形の構えを取った。

 

 腰を捻り、放つ回転の一撃。しかし、かの幼女は、その胴体を二転三転と捻じり切り、爆発的な剛力を溜め込んでいく。

 

 両手に握るナイフがぬらりと月光を孕んで――――次の瞬間、血潮を撒き散らしながら、渦の如き斬撃が虎杖目掛けて、突っ込んできた。

 

           ***************

 

「広域徘徊怨霊?」

「そうです。当初の予定だった埼玉の呪霊調査は別の術士に担当してもらい、虎杖君達には、こちらの件に向かってもらいます」

 

 虎杖達、東京校一年組を乗せて、伊地知は運転しながら今回の任務の詳細を話した。

 事件が起こったのは一週間前。

 東京・奥多摩町の各地で霧が連続発生した。

 

 それがただの自然現象なら良かったのだが、そうではない。霧が晴れると女性の死体が現れるからだ。

 

 被害者の共通点は三つ。

 ①女性 ②遺体はバラバラに切り刻まれている ③子宮がない

 

「短期間にこれだけの被害者……かなり活発ですね」

 

 資料に目を通して、伏黒は眉をひそめた。

 一週間で三人。

 

 元々、担当する予定だった埼玉の呪霊による被害が、三か月に三人であることと比べると、確かにこちらの任務の方が、優先度は高い。

 だが同時に危険度も高い。

 

「でもこの資料、肝心の呪霊の情報少ないわね。こんだけ暴れてる奴なら、もっとあっても良いんじゃないの?」

 

 右から割り込んできた釘崎が資料を覗き込み、『呪霊』について書かれた項目を指さす。釘崎の指摘を聞いて、反対側に座る虎杖も資料を覗き見て、

 

「あー確かに」

「離れろ、お前ら」

 

 両側から両者に迫られ、眉間にしわを寄せる伏黒。でも、二人とも伏黒の言うことを聞かずに、運転席の伊地知を見つめていた。

 

 やがて伊地知が苦虫をかんだような声で答える。

「それがですね……件の霧を調査していた窓の報告が不明瞭なんです。というより、記憶がないのです」

 

 窓とは、呪霊を見ることはできるが戦闘能力を持たない、呪術高専の協力者のこと。

 彼らに霧の中への侵入は指示されていなかったが、霧の規模が想定外の大きさで、誤って内部に入ってしまった。

 幸い、窓に被害は出なかったが、霧を発生させた呪霊に関する記憶が消えていた。

 

「なので、現時点では、呪霊の危険度は被害の規模でしか推定できないのですが……」

「――――術式持ちですか」

 伏黒の声色が緊張によって強張る。

 

 1級呪霊と2級呪霊には明確な違いがある。それは、術式の有無だ。

 たとえ呪力量・総合的な強さが1級クラスであったとしても、術式が無ければ、その呪霊は2級に認定される。

 

 更には――――記憶消去の術式。

 対策が取れない、厄介な術式だと、伏黒は知らず知らずの内に、手に力がこもる。

 

 自分たちでは荷が重い可能性がある。

 それでも、この任務が回ってきた理由は……

 

「おそらく、今回の任務は虎杖君の成長を加味した上での任務です。しかし、任務の主要な目的は『祓う』よりも『調査』の意味合いの方が強いです」

 

 つまり、戦闘能力があり、術式を有している術師が霧に入った場合、記憶はどうなるのか。それを明らかにする任務であって、呪霊を祓うことは第一目的ではない。

 

「……個人的には撤退を進めます。そうなった場合、君達には埼玉の八十八橋にいるとされている呪霊の任務に取り掛かってもらいます」

 強気な気性ではない伊地知の語尾がいつもよりも強かった。

 

 そう、伏黒達は一度、自分たちの等級以上の任務を受けたことがある。

 六月の少年院の件……この任務で虎杖悠仁は一度死亡している。

 その時の補助監督も伊地知だった。

 

 自分よりも幼い子供たちを送り出した結果、命を落とさせることになった悔恨が、彼の口調を強張らせたのだ。

 

 伊地知のその心情は理解できる。理解できるからこそ、伏黒は口をつぐんだ。伏黒も、虎杖が死んでからの二か月を、伊地知と似た感情を抱いて過ごしてきた。

 

「 駄目だ 」

 

 しかし、左側から飛んできたきっぱりとした声色が、二人の哀愁を消し飛ばした。

 

「これ以上、被害者出すわけにはいかないだろ」

「久々に祓い甲斐がありそうじゃない。やってやるわよ」

 

 自らの命よりも迷わず他者を思いやる虎杖と、大胆不敵に口の端を持ち上げる釘崎。

 二人に挟まれた伏黒は、脳裏に渦巻いていた感情を、重いため息に変えて吐き出す。

 

「……無茶だと感じたら、すぐに退かせるぞ」

「「うぃ~っす」」と軽い言葉が重なって返ってきた。

 

 伏黒は、生徒を引率する教師のような気持ちになって、がっくりと肩を落とした

 

 





 アニメ呪術廻戦で八十八橋編突入!
 これを機に、ずっと考えてきたFGO×呪術のクロスオーバー小説の投稿を決意しました。
 初投稿、ドキドキします……
 色々、ご意見あると思いますが、
 八十八橋編(二次創作)を頑張って書いていこうと思います。
 
 お手柔らかに、よろしくお願いします。
 
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