Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第11話 五里霧中―盾

 

 殺人鬼が放つ凶悪な呪いが虎杖の肉体を触れずに切り裂いてきた。殺人鬼に近づけば近づくほど、皮膚は裂かれ肉は割かれる。

 

(――何だ⁉ 何をされた⁉ 何をやられた⁉)

 

 得物持ちの近接戦をしてくると踏んでいた虎杖を襲ったのは、触れずに切り裂くという不可思議な現象。

 

(――腕斬られた! 足も‼ 壊れちゃいけないと四肢を壊された‼)

 

 因果逆転の攻撃が、虎杖にもたらしたのは致命的な激痛と理解できぬ混乱。

 虎杖は既に否応なく突きつけられている。敗北を、死を。

 直近の未来、確定しつつある現実が、怒りより恐怖を掻き立たせるが――――虎杖はズンッ! と更に一歩踏み出す。

 

(――分かった、俺の役割)

 

 最期に果たすべき仕事を悟った虎杖は、胸中に乱れる恐怖も、怒りも、全て呪力へ変える。

 死地にて得た、呪術師としての悟りだ。

 

(くれてやるよ、俺の命。だから――死んでもお前は祓う!)

 

 この幼き殺人鬼に殺される、最後の人間は自分だと、そう決めて。

 虎杖悠仁は突き進んだ。

 

 ――――そんな虎杖の道を遮る少女が二人、空から降り立つ。

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)!」

 

 薄い紫色の髪の少女が叫びながら、自分の身の丈より大きな円盾を構える。

 盾から突き出した十字状の杭が大地に突き刺さった途端、魔を弾く城塞が虎杖の目の前に湧現した。

 

(女の子⁉ 空から⁉)

 

 映画のような現れ方をした紫髪の少女に、虎杖は瀕死の身を忘れてパチパチと目を疑う。しかし次の瞬間には、虎杖の目に内包する疑惑は驚愕に変じる。

 

(――攻撃が、とまった……?)

 

 進む度に奔っていた皮膚の裂傷が、肉の斬傷が、ぴたりと止まった。

 なぜ、と浮かんで、すぐさま虎杖の視界に答えが映りこむ。

 あの少女の盾が、殺人鬼の呪いを受け止め、防ぎこんでいるのだ。

 

「っ! もう止めてください! ジャックさん!」

 

 紫髪の少女が盾の向こう側の存在に、声を掛ける。

 しかし殺人鬼は少女の呼びかけに首を傾げるばかりで、一向に呪いの放出を止めない。

 

「……お姉さん、だぁれ?」

「マシュです! マシュ・キリエライト! どうして⁉ どうしてですか、ジャックさん!」

 

 少女の悲痛な叫びが、虎杖の決意を揺らがせた。

 事情は全く分からない。けれど、確かに少女の言葉には、あの殺人鬼と重ねてきた日々の重さを感じさせて。

 

「 ――お姉さんなんか、知らないよぉっ! 」

 

 殺人鬼は、その重みを一蹴した。

 ゴウッ‼ と放たれる呪いの圧が増す。

 マシュと名乗った盾の少女が苦しそうに呻き、盾を構える腕に亀裂が生じる。

 

 垂れるマシュの鮮血に虎杖は「おいっ!」と身を乗り出すが、そんな虎杖を押し留める者がいた。――マシュと共に降り立った、橙色の髪の少女だ。

 

「何してんだ! 早くしないとあの子が……」

「いっちゃだめ! あなたの治療が先よ!」

 

強い意志を秘めた茶色の瞳に、虎杖は射抜かれる。動きを止めた虎杖の胸板に、橙髪の少女は手を添える。すると、少女の手から緑色の光が溢れ出す。

 

「な、なにやってんの⁉」

「応急手当の治療魔術! 今はこれで……もう少し耐えてマ」

「――ご、めんなさい……先輩」

 

 これまでマシュが塞き止めていた極黒の斬呪が、白亜の城壁を押し砕く。

 砕破の余波が強風になって、その場にいる全ての者を吹き飛ばす。

盾を構えていたマシュが、虎杖と橙色の少女に向かって吹き飛ばされてきた。

 

「おっ⁉」

 

 虎杖はとっさに身構えてマシュと橙色の少女、そして巨大な円盾の質量を受け止め、

「おぉぉおわぁぁぁーーーーっ⁉」

 切れなかった。

 

 思ったより大きかった盾の重量に踏ん張りが効かず、虎杖は後方へ吹き飛ばされ――――木の幹に後頭部を打ちつけた。

 

「いったた……」

「す、すみません先輩……やっぱり私」

「気にしないでマシュ。それよりこの人が……」

「へっ、わぁ⁉ だ、大丈夫ですか⁉ お気を確かに!」

 

(――わちゃわちゃしてるなぁ)

 

 遠のく意識の中で、二人の少女が虎杖の胸の中で言葉を交わしている。

 ぼんやりとそのやり取りを聞いて、二人の安否を確認すると、虎杖悠仁は意識を失った。

 

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