Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
殺人鬼が放つ凶悪な呪いが虎杖の肉体を触れずに切り裂いてきた。殺人鬼に近づけば近づくほど、皮膚は裂かれ肉は割かれる。
(――何だ⁉ 何をされた⁉ 何をやられた⁉)
得物持ちの近接戦をしてくると踏んでいた虎杖を襲ったのは、触れずに切り裂くという不可思議な現象。
(――腕斬られた! 足も‼ 壊れちゃいけないと四肢を壊された‼)
因果逆転の攻撃が、虎杖にもたらしたのは致命的な激痛と理解できぬ混乱。
虎杖は既に否応なく突きつけられている。敗北を、死を。
直近の未来、確定しつつある現実が、怒りより恐怖を掻き立たせるが――――虎杖はズンッ! と更に一歩踏み出す。
(――分かった、俺の役割)
最期に果たすべき仕事を悟った虎杖は、胸中に乱れる恐怖も、怒りも、全て呪力へ変える。
死地にて得た、呪術師としての悟りだ。
(くれてやるよ、俺の命。だから――死んでもお前は祓う!)
この幼き殺人鬼に殺される、最後の人間は自分だと、そう決めて。
虎杖悠仁は突き進んだ。
――――そんな虎杖の道を遮る少女が二人、空から降り立つ。
「
薄い紫色の髪の少女が叫びながら、自分の身の丈より大きな円盾を構える。
盾から突き出した十字状の杭が大地に突き刺さった途端、魔を弾く城塞が虎杖の目の前に湧現した。
(女の子⁉ 空から⁉)
映画のような現れ方をした紫髪の少女に、虎杖は瀕死の身を忘れてパチパチと目を疑う。しかし次の瞬間には、虎杖の目に内包する疑惑は驚愕に変じる。
(――攻撃が、とまった……?)
進む度に奔っていた皮膚の裂傷が、肉の斬傷が、ぴたりと止まった。
なぜ、と浮かんで、すぐさま虎杖の視界に答えが映りこむ。
あの少女の盾が、殺人鬼の呪いを受け止め、防ぎこんでいるのだ。
「っ! もう止めてください! ジャックさん!」
紫髪の少女が盾の向こう側の存在に、声を掛ける。
しかし殺人鬼は少女の呼びかけに首を傾げるばかりで、一向に呪いの放出を止めない。
「……お姉さん、だぁれ?」
「マシュです! マシュ・キリエライト! どうして⁉ どうしてですか、ジャックさん!」
少女の悲痛な叫びが、虎杖の決意を揺らがせた。
事情は全く分からない。けれど、確かに少女の言葉には、あの殺人鬼と重ねてきた日々の重さを感じさせて。
「 ――お姉さんなんか、知らないよぉっ! 」
殺人鬼は、その重みを一蹴した。
ゴウッ‼ と放たれる呪いの圧が増す。
マシュと名乗った盾の少女が苦しそうに呻き、盾を構える腕に亀裂が生じる。
垂れるマシュの鮮血に虎杖は「おいっ!」と身を乗り出すが、そんな虎杖を押し留める者がいた。――マシュと共に降り立った、橙色の髪の少女だ。
「何してんだ! 早くしないとあの子が……」
「いっちゃだめ! あなたの治療が先よ!」
強い意志を秘めた茶色の瞳に、虎杖は射抜かれる。動きを止めた虎杖の胸板に、橙髪の少女は手を添える。すると、少女の手から緑色の光が溢れ出す。
「な、なにやってんの⁉」
「応急手当の治療魔術! 今はこれで……もう少し耐えてマ」
「――ご、めんなさい……先輩」
これまでマシュが塞き止めていた極黒の斬呪が、白亜の城壁を押し砕く。
砕破の余波が強風になって、その場にいる全ての者を吹き飛ばす。
盾を構えていたマシュが、虎杖と橙色の少女に向かって吹き飛ばされてきた。
「おっ⁉」
虎杖はとっさに身構えてマシュと橙色の少女、そして巨大な円盾の質量を受け止め、
「おぉぉおわぁぁぁーーーーっ⁉」
切れなかった。
思ったより大きかった盾の重量に踏ん張りが効かず、虎杖は後方へ吹き飛ばされ――――木の幹に後頭部を打ちつけた。
「いったた……」
「す、すみません先輩……やっぱり私」
「気にしないでマシュ。それよりこの人が……」
「へっ、わぁ⁉ だ、大丈夫ですか⁉ お気を確かに!」
(――わちゃわちゃしてるなぁ)
遠のく意識の中で、二人の少女が虎杖の胸の中で言葉を交わしている。
ぼんやりとそのやり取りを聞いて、二人の安否を確認すると、虎杖悠仁は意識を失った。