Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第12話 呪術師と魔術師

「虎杖さん! 起きてください、虎杖さん!」

 

 マシュ・キリエライトは自分達を守って気絶した虎杖を心配して、肩を揺する。

 けれどすぐに橙髪の少女――藤丸立香が「起こさないで」とマシュの動きを制した。

 

「丁度良かったかも。……わたし達が味方だって、説明してる暇無かったから」

 

 藤丸立香は虎杖が気を失ったのをこれ幸いと、魔術礼装を起動した。手をかざせば、治療魔術の発動を意味する緑の燐光が溢れる。

 

 虎杖の身体に刻まれていた夥しい量の裂傷が少しずつ塞がっていく。その傷の深さに沈痛な表情を浮かべながら、マシュは確信した。

「やはりダヴィンチちゃんの言う通りでしたね。――ジャックさんは弱体化しています」

 

 宝具。

 それは、人理にその存在を刻み込んだ【英霊(サーヴァント)】が有する伝説の象徴、物質化した奇跡。

 人間の幻想を核に創り上げられた武装の開放は、伝説と神話の再現と同義である。

 虎杖悠仁――こちらの世界の人間が、それを受けて瀕死程度で済んでいることが、カルデアの技術顧問ダヴィンチの分析を正しく裏付けた。

 

「強制的な受肉によるステータス下降。セイレムの時に似てるかも」

 

 藤丸はこれまでの経験則の中で、最も今回の状況に近しいケースを挙げる。亜種特異点セイレムでは、共に同行したサーヴァントがレイシフトと同時に受肉した。

 おそらくこの受肉現象を引き起こしているのは――――魔力とは異なるこの世界独自のエネルギー【呪力】によるものだ。

 

 これから続々とやってくる味方も弱体化してしまうが……今、藤丸はこの弱体化に心から感謝していた。

 

「なんとかしてみせる……っ! マシュ! 周囲の警戒!」

「了解しました、せ――――先輩!」

 

 マシュの絶叫が耳をつんざいて、藤丸は虎杖を抱き寄せて、訳も分からずその場から飛び跳ねた。トトトトン、と軽い音が虎杖と藤丸がいた場所に突き刺さっていた。

 

「黒い医療ナイフ(スカルぺス)……」

(ジャックちゃんだ)

 

 共に戦ってきたカルデアの仲間の得物を目にした藤丸の背後から――逆手に握られたナイフの一閃が迫る。

 

 藤丸の首筋とナイフの僅かな隙間に、マシュが円盾を滑り込ませる。ガキィン! と火花が散り、マシュはジャックの一閃を防いだ。

 

「っ! 先輩、私がジャックさんを食い止めます。その間に虎杖さんの治療を!」

「わかった!」

 

 藤丸はマシュの言葉を受けて、すぐさま中断した治療魔術を再開する。緑の燐光とジャックを結ぶ線状に、マシュは割り込み、盾を構える。

 

 ナイフを携え、じりじりと回り込むジャック。マシュは常にジャックを視界に納めながら、じりじりとジャックの動きに合わせる。

 

「ジャックさん! 攻撃を止めてください! 私は、あなたと戦いたくないんです!」

「…………」

「どうして……少し前まではカルデアで遊んでいて……ナーサリーさんとバニヤンさん、オルタリリィさんも、みんなあなたを待ってます! かくれんぼの続きをしようって」

「――――なに言ってるのかわかんないよ」

 

 視界から、ジャックの銀髪が消える。

 

 マシュは直感に従って、盾を真上に振り上げる。甲高い金属音を響かせて、飛び掛かってきたジャックの斬撃が盾と衝突した。

 

「その人はおかあさんをころした」

 殺人鬼が縦横に跳ねて、マシュを切りつける。

「わたし達のお願いを、初めて叶えてくれたおかあさんだった」

 孤影の軌道を視界の端に納め、マシュは斬撃を防いでいく。

「わたし達にとって! 一番大切なものだったんだ!」

 

 ガギギギギギン! と回転を加えた六連撃の衝撃を、マシュは斜めに受け流した。

 子どもの体躯から繰り出されたとは思えない重い衝撃に顔を歪める。それでもマシュは、ジャックを攻撃しない。

 

 徹底的に攻撃を防ぎ、進行方向を遮り、治療が終わるまで凌ぎ続ける。

 言葉を、掛け続ける。

 

「その日々はっ! カルデアでの日々よりも大切だったんですか⁉ ――おかあさん(マスター)のことも忘れてしまうほど⁉」

 

 ――――金属音が、鳴り止む。

 ジャックは円らな瞳を丸めて、呆然とマシュの盾の向こう……橙色の髪をした少女を見つめる。マシュはジャックのその表情に、一縷の希望を見出した。

 

「思い出して……くれました、か?」

「あの人が……わたし達のマスター? ほんとうの……おかあさん?」

「そうっ! そうです! ジャックさん、もうこんなこと止めましょう? ……カルデアに帰りま」

 

          「それは駄目だよ、マシュ」

          「それは駄目だ、ぜったい」

 

 意志と言葉を同じくした虎杖と藤丸。両者の声が、ジャックを説得するマシュの背後を厳しく打ち据えた。

 

「ジャックちゃんは、もう取り返しのつかないことをした」

「あんた達には悪いけど、俺達はそいつを見過ごす訳にはいかない」

「命は決して――還らないから」

「報いは――受けなきゃいけない」

 

 魔術師と呪術師は、共に沈んだ顔で、共に同じ結論を告げる。

 マシュは戦いの中で忘却していた、目を逸らしていた――――3人の犠牲者の存在を噛み締める。

 

「て、敵性サーヴァント確認。真名……ジャック・ザ・リッパー」

「なぁんだ。結局、お姉さんも、わたし達を捨てるんだ」

 

 ロンドンの殺人鬼は、だらりと両腕を垂らして、どす黒い呪力を開放する。

 黄緑色の瞳から血涙を流し、敵と断じた盾の少女と呪霊を祓った呪術師、そして――――かつておかあさんだった橙髪の少女へ純全たる殺意をぶつける。

 

「いま、仇を取るからね、おかあさん…………お、かあさん……おかあさんおかあさんおかあさん! う、あ……わあああああ‼」

 

 母を求める悍ましい咆哮に込められた、悲哀と憤怒。

 血涙に塗れた黄緑色の瞳に宿るは、呪霊の悪意ではなく、英霊としての願い。

 虎杖は本質的にそれを理解した上で、尚拳を握る。

 

「……本当にいいんだな」

 

 藤丸は小さくゆっくりと、でも確かに……首を縦に振った。

 魔術師の覚悟を受け取り、呪術師は立ち上がる。

 

「釘崎を頼む」

「まかせて」

 

 仲間を託し、虎杖はマシュの隣に並び立つ。

 かの幼女に取り巻く罪を祓い、呪いを祓う。

 それが――呪術師だから。

 




たいあっぷに出す長編の直しマジきついマジどいひー

そんでもって、今更ながらルビの振り方をしりました!
これから修正祭りです! ご迷惑おかけします。

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