Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第13話 黒釘拳閃

 異音が響き渡る。

 肉が捻じれ、骨が軋んでへし折れる。凄絶な痛みを支払い、ジャック・ザ・リッパーは眼前の敵を解体する異形の構えを取った。

 腰を捻り、放つ回転の一撃。しかし、かの殺人鬼は、その胴体を二転三転と捻じり切り、爆発的な剛力を溜め込んでいく。

 

「……マシュさん、だっけ。一瞬だけあれを止めて欲しい。そしたら俺がやるから」

「それ、は……どういう」

「くるぞ!」

 

 虎杖の警告が、マシュの刹那の疑問を振り払い、盾を構えさせた。

 そして間髪入れずに、ジャック・ザ・リッパーは溜め込んだ力を開放。

 バウンッ‼ と殺人鬼は己の身を人肉削る削岩機(ドリル)と化して、虎杖に突っ込んだ!

 

「ふっ!」

 

 鋭く息を吐き、マシュは虎杖とドリルを結ぶ直線状に割り込んだ。軌道上の虚空を細切れにしながら、迫る螺旋斬撃がマシュの大盾にぶつかった。

 そびえる岩盤の如き大盾を削り切らんと、削岩機(ドリル)の如き斬撃が真っ赤な火花を散らせる。

 

「ぐっ、うぅううぅう!」

 

奥歯を噛み締めるマシュの顔が照らされる。凄まじい衝撃がマシュの踵を地に埋め、そのままマシュごと後方へ押しこめて行く。このままでは受け止め切れない!

 

「あぁぁああああああ!」

 

 薄弱な喉から張り叫んだ咆哮が、マシュの血を沸かせ、筋肉を膨張させた。

 

(止められないなら!)

 

 衝撃を、受け流す。――――真上へ!

 

 腕力だけでなく全身の力を連動させて、マシュは盾を真上へ振り上げた!

 貫かんと前進していたドリルの切っ先が、天へと昇らされる。斬撃が逸らされ、螺旋が解かれると……月光に照らし出されるのは、腰椎がねじれた幼き殺人鬼。

 

『うぅぅ~~~っ!』

 

 獣のような呻き声をあげて、ジャックは上空からマシュを視線で射抜く。幼くも愛らしい相貌を憎悪に歪ませ、吼える。

 

『邪魔をっ! しないで!』

 

 ゴギギンと前後反対になっていた下半身が元に戻る。そして黒い医療用ナイフ(スカルぺス)を投擲しようと、腰のポーチに手を潜らせた、その刹那。

 

 ――月光を遮る虎杖が、ジャックの双眸に影を落とした。

 

「ナイスガード、マシュさん」

 

 ジャックが空中で身を捻り、指の間に挟んだ医療用ナイフを上空の虎杖へ投げつける。否、投げつけようとして――先に振り下ろされた虎杖の踵が土手っ腹にめり込んだ。

 

 血反吐を吐きながら、ジャックは地面に叩き落とされる。小さな体躯が弾んだ直後、降り立った虎杖が拳を放つ。

 

 加速する正拳突きが、未だ宙に浮かぶジャックの横っ腹にめり込む。

 

 くの字に折れ曲がり吹き飛ぶ殺人鬼。虎杖の踏み込みが地面を陥没させた。

 迅雷の如き加速を見せた虎杖が、ジャックとの間合いを瞬時に潰すが――――くるりと虎杖の目の前でジャックが宙を回った。

 

 軽やかに身を翻し、あわや激突寸前だった木の幹を足の裏で蹴りつけた!

 

『しゃあっ!』

 

 反転したジャックがナイフを横薙ぎに振るう。虎杖の視界の端から迫る、鋭利な切っ先。踏み込み加速し切った今、虎杖は勢いを殺せない、ブレーキを掛けられない。

 

 それを認識した途端、虎杖の脳は思考を止める。その強靭な肉体に刻まれた格闘センスが脊髄反射で最善手を選び取る。

 

 膝を折り畳み、背中を思いきり逸らす! 

 下がった視界の中で、月光を孕んだナイフが煌めく。両者の突進は交差し、虎杖は木の幹に激突した。

 

「ぶっ」

 

 ジャックは爪先が地面に触れた瞬間、時計回りに回転して突進の勢いを流す。

 虎杖は即座に振り向いて、木の幹を背にした。

 

 再び相対する両者。

 視線の交錯は一瞬。

 宵闇の中で、互いの眼光が残像となる。

 

 殺人鬼は跳梁跋扈する鎌鼬を思わせる動きだった。闇より出でて斬撃を繰り出し、闇に隠れて医療用ナイフ(スカルぺス)を投げつける。

 対する呪術師は剛柔一体の拳法家の如き立ち回りを見せる。手首や肘を用いて斬撃を受け流す様は疾風の如し、投擲されたナイフの隙間を縫ってジグザグに距離を詰める様は迅雷そのものだった。

 

(――すごい)

 

 マシュはそんな両者の戦闘を、驚愕を以て見つめる他なかった。

 虎杖を助けなければと思っていた。彼は英霊ではなく、人間なのだから。サーヴァントの動きについていけるはずがないと。

 

 しかし実際はどうだ。

 寧ろマシュの方が二人の動きについていけない。連携するには虎杖の動きが早過ぎる。

 

 虎杖とジャックの戦いはますます速度を増していく。木の幹を跳ねまわり、樹上へ飛び出して攻撃を交わし合い、周囲の環境をフルに活用していく。

 

 マシュは激化する両者の戦いに追い縋りながら、虎杖の言葉を思い出す。

『そしたら俺がやるから』

 

「……だめ、だめです。それは違います……っ!」

 

 マシュは悲痛な表情で首を振る。紫の毛先が右へ左へと跳ねた。それは本来、自分が果たさなければならない業だ。それは虎杖が背負う必要のない重みだ。

 かつての仲間の間違いを正し、咎める役目をマシュ・キリエライトは背負わなければならないのだ。

 

 だから。

 

「――待ってください、虎杖さん!」

 

 制止の声を呼びかけた次の瞬間、マシュの瞳に映ったのは―――――天から翔ける英霊と大地に足を下ろす呪術師の、最後の攻防。

 

 枝葉の天蓋を突き破って斬りかかるジャックと蒼い呪力を纏った拳で迎え撃つ虎杖。

 呼びかけられた制止の声に、虎杖の右腕がピクリと震えた。

 その揺らぎは、迎撃に致命的な遅れを生み出す。

 

 マシュは後悔に囚われるより速く、盾を持って両者の戦いに介入せんとする。

 しかし、間に合わない。

 振るわれたジャックの斬閃が、虎杖の首に吸い込まれていく。

 

『死んじゃえぇぇええええええ‼‼』

 

 殺意と憎悪が叶うこの一瞬に叫ぶ殺人鬼。

 

 ―――その喉の内側から炸裂する黒い火花。

 

        火花の名は、【芻霊呪法・共鳴り】

 

『            えっ?』

 

 白黒と点滅する、ジャックの瞳を捉える虎杖悠仁。

 致命の遅れを縫い止めた釘の一撃を後押しするように、虎杖は拳を撃ち放つ。

 

 そうしてマシュは……ジャック・ザ・リッパーを貫く、黒い閃光を目の当たりにした。

 




 すみません、今回は1話だけ……
 謎の悪寒で書けませんでした。
 体調不良が直り次第、2話分の投稿を来週までに投稿しようと思います。
 
 申し訳ありませんでした。
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