Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
藤丸達が呪術世界にレイシフトしてくる前となります。
これ書くためにFGOのイベントシナリオを読み返したけれど……やっぱよく出来てるなぁ
もっと自分も工夫を凝らして頑張ろうと思いました。
では、どうぞよろしくお願いします。
第16話 天空に境無し
広く、広く。
高く、高く。
誰に望まれた訳でも無く、ただ吾はそのように在り、ただ吾はそのように至った。
ここは、果て無き蒼穹。
青く色づくことで在るように見せかけた虚空。
何もないが故に、人間は果てに夢想を託し、手を伸ばし、歩き続ける。
ある者は黒き海を求めて上へ、ある者はまだ見ぬ地平を求めて横へ。
昇り、進む。
あな、怨めしい。
行くという行為。自らを、自らでない場所へ至らしめる行為。
それは自他の境界を確立しているが故に可能な行為。
どこにでもいて、誰でもある吾には、程遠い、行為。
それを容易く行う汝らが――――――――怨めしい。
この呪いこそが、唯一、吾が吾であることを裏付ける楔。
余りに心許ない、一つの楔。
だが、こと今に限って言えば、これで良い。
【人間を呪う吾と、人間を愛する汝。この相違さえ在れば、今は良い。そうだろう?――――――藤丸立香】
そう言葉を結んで、蒼天に座していた法衣を纏った男は空を仰ぎ見る。
まるで自らに語り掛けるかの如く。
そうして、その相貌を覆う藺草の笠を……天蓋を外す。
天蓋の下より現れし隠された相貌は―――――橙の髪に茶色の瞳をした、藤丸立香その人だった。
*********
「―――――――――はっ!」
寝台から飛び起きた拍子に、額から流れていた寝汗が散る。
藤丸は荒い呼吸を繰り返しながら、自らの胸に手を当てて……規則的な鼓動を手の平に感じると、ホッと胸を撫で下ろした。
「……夢、かぁ」
照明を落としたマイルームで独り呟く。
藤丸立香は、事あるごとに夢を見る。
時間も空間も自他の境も飛び越えて、藤丸はこれまで幾度となく誰かの過去や想いを見てきた。誰かと問われれば、「色々」としか答えられないほどだ。
こと夢を見るということに関しては、ちょっと特技と言っても差し支えないのでは。そう冗談半分でも思ってしまうほど、『夢見』の経験を積んできた藤丸。
その豊富な経験の中でも、今しがた見た夢はうなされるに足る『異常』だった。
なぜならば、これまでの夢見では必ず二つの存在があった。
藤丸立香と、藤丸が記憶ないし想いを共有する相手。
自他の境を飛び越えて、藤丸は相手の記憶や想いを追体験したことは幾度かある。だがその時も、あくまで藤丸は『自分は自分だ』という自意識があった。
しかし、かの夢は違った。
あの法衣の男に『藤丸立香』と呼ばれるまで――――――藤丸は完全に、あの男と同化していた。
自分とあの男は同じ存在だと思っていた。
男が語ることに共感するのでなく、自分自身の過去のように思っていた。
あの男に名を呼ばれ、分かたれることで、藤丸は藤丸に戻れたのだ。
しかし夢の最期で目にした、あの男の素顔は間違いなく。
「………………」
暗闇の中で藤丸は自身の顔に触れる。
頬をつねり、閉じた目蓋を撫で、鼻をつまみ、唇を指でなぞる。
それでも尚、藤丸は不安に苛まれる。
果たして、今の自分は本当に自分なのか? と。
上体をずらして、寝台から足を下ろし、立ち上がる。
ペタペタと自分の顔を触りながら、マイルームにある鏡を覗き込む。
「あー……ひっどい顔ぉ」
寝起きの自分の顔に苦笑する。
セミショートに切った橙色の髪はぴょこぴょこと跳ねていて、猫のような茶色い目の目元には枕のしわが刻まれてる。
自分以外には見せられない乙女の顔の一つに苦笑いして、ようやく藤丸は自分が自分だと思えた。
そう確かに、あの男と自分は同じ顔だった。藺草で編まれた笠を外したら、ぴょこぴょこ乱れた橙色の髪が広がって、枕のしわを刻んだ眠たげな眼でこちらを見ながら語り掛けて…………
「 あれ? 」
記憶の中の、あの男の素顔が、鏡に映る自分の顔と重なる。
拭いかけた不安が、ブワッと洪水のように湧き上がる。
どんどん同じように思えてきて。
自分とあの男が同一人物のように思えてきて。
藤丸の脳裏でとある願望が急速に膨らむ。
「きよひーちゃん⁉」
藤丸は寝台のシーツを剥ぎ取る。気づけばいつも隣に潜り込んでいる清姫だが、その姿は見当たらない。
「静謐ちゃん⁉」
今度は寝台の真下を覗く。いつの間にか闇に潜んでいる静謐のハサンだが、その双眸は暗中に浮かび上がらない。
「頼光ママ⁉」
寝台に登って、天井の板を外す。いつもだいたい天井裏から見守ってる源頼光だが、その母の微笑みは存在していない。
いつもいる筈なのに見当たらない他者の面影に、藤丸は歯噛みしてマイルームから飛び出す。
とにかく誰かと出会いたかった。
とにかく自分以外の他者と出会いたい。
そうすることで、自分は自分だと――――藤丸立香だと証明したかった。
自我が際限なく引き伸ばされていく。
自己という概念が広くなっていく。
氷が水となり、蒸気となり、雲になるように。
視界に映る、カルデアの廊下も天井も照明ですら、『藤丸立香』という存在の一つの側面のように思えてくる。
「馬鹿げてる……っ!」
頭の中に一瞬でも浮かんだ考えを一蹴する藤丸。しかし、それでも頭の片隅に引っ掛かるこの奇妙な、呪いのような感覚に侵され続ける。
切り離したい。
この万物と繋がったような感覚を。
自分は自分だ、とそう言えるように……自分じゃない他者と出会いたい。
普段なら絶対に思わない、気にしたことも無い願望を抱えて、藤丸は走り、そして。
「あ、先輩。そんなに急いで、どこに向かわれ……ぷわっ⁉」
マシュに抱き着いた。
激走の勢いそのままに抱き着いたため、藤丸とマシュはそのまま廊下に倒れ込む。
「ちょっ、先輩っ⁉ どうしたんですか突然こんな」
「わぁぁぁあーーーーーーん! マシューーーーーー!」
ぎゅうっと、マシュの柔らかな体を抱きしめる。
藤丸はぐりぐりと、マシュのふくよかな胸に顔を擦り付けて、何度も名を呼ぶ。
「マシュ!」
「は、はい!」
「マシュマシュマシュ、マシュ!」
「はいはいはい、はい!」
困惑の只中にあるマシュはとにかく藤丸のテンションについていくしかない。何のことやら分からなくても、今の藤丸にとってこの呼びかけと抱擁は何よりも重要なことだった。
自分以外の名を呼び、自分以外の人の身体を抱きしめる。
自分と他者との確立こそ、藤丸に罹っていた呪いを祓う最良の方法だったのだ。
「お、落ち着きました?」
ためらいがちに、マシュは藤丸の頭を撫でながら問いかける。マシュの胸に顔を埋めたまま固まっていた藤丸は、黙ったままコクリと頷いた。
「ありがと、ほんとに助かった……マシュのマシュマロのおかげだよ」
「頷き辛い返答をしないでくれません⁉」
羞恥に頬を赤らめたまま、呆れ混じりの言葉を放つマシュ。藤丸はマシュの谷間から顔を上げて、そのままニヘッと笑った。その上目遣いの笑顔に、マシュは肩をがっくりと落とした。そして経緯を聞こうと口を開いた途端……。
『緊急事態発生、緊急事態発生。マシュと藤丸ちゃん、至急ロビーに集合してくれないかな』
けたましく鳴るアラーム音と赤いランプ。深刻な緊急性を告げるそれらの装置に反して、その呼びかけは実に可愛らしく、のんびりしていた。
だがしかし、それを聞いた二人の反応は迅速そのもの。
「マシュ」
「はい、先輩」
鋭く名を交わし合い、二人は颯爽とその場を後にする。
七つの特異点を調停し、五つの異聞帯を踏破してきた人類最後のマスターと契約サーヴァント。その二人の切り替えはさながら歴戦の戦士のようで、年頃の少女とは一線を画すものだった。
最近のFGOのイベントシナリオでは、ノーチラスのシナリオが一番好きです。
かなり影響受けてるというか、あんな風にしたいなって思って書きました。
ただ……うーん
この藤丸とマシュ、えらいフランクやなぁ!(完全に自分の手癖)