Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変―   作:ビーサイド・D・アンビシャス

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第20話 この最強(ひとでなし)

『パンダァーーーッシュ! そらそら走れ走れぇーー!』

 

 縄で結ばれた藤丸とマシュを引っ張って、のっしのっしと白黒のあいつが走る。

 可愛い動物は人並みに好きな藤丸とマシュだが、可愛いと思うにはこのパンダ妙に人間っぽい。

 不気味の谷という程では無いのだが、それに似た困惑を二人は感じていた。

 

「あ、あの。パンダさんはその……どういう方なんでしょう」

「あ? パンダはパンダだ。それ以外なんもねーよ」

 

 おずおずと尋ねるマシュに、禅院真希は憮然とした顔色で応える。

 マシュはうぐっと口をつぐんで、それ以上何も言えなかった。

 

 そもそもファーストコンタクトが戦闘の時点で、すぐに打ち解けられる訳が無い。真希から警戒の意思を僅かに感じて肩身が狭かった。マシュ達はまだ彼ら呪術高専の生徒に完全には信用されていないのだ。

 

「ねぇ、もしかしてこの匂いってファブリーズ?」

『お、よく気付いたな』

「やっぱり! わぁぁ~~~、懐かしい匂いぃ~~‼ 種類って何使ってる? シトラス? リリー?」

「何やってるんですか先ぱぁい⁉」

 

 走りながらパンダの背中に顔を埋める藤丸にマシュは目を剥いた。肩を引き寄せて、白黒の体毛から剥がすと、マシュは藤丸にひそひそ声で詰め寄る。

 

「また彼らが敵対してきたらどうするんですか!」

「だって懐かしくなっちゃって……カルデアにも消臭剤はあったけどさぁ~。それにそんな心配要らないよ」

 

 あっけらかんとそう言って、藤丸はパンダを指さす。指先に釣られてマシュが見やると、

 

『やった……ちゃんと毎日ファブってて良かった……っ』

「しゃけ」

「いやまんま獣臭だろ」

 

 震えて感動するパンダに、狗巻棘はグッと親指を立て、真希は眉間にしわを寄せていた。そこに感じるのは談笑してる学生のような空気感だった。

 

「本当に()ろうと思ったら、こんな呑気に連れ回す訳ないし。まっ、もし危なくなったら、その時は……頼りにしてるよマシュ」

 

 首を傾げて、上目遣いで藤丸は笑いかける。マシュはそのヒマワリのような笑顔と信頼の言葉に円らな紫紺の瞳を更に丸めて、呟く。

 

「ずるいです」

 

 混じりっけの無い真っすぐな信頼に、マシュは否応なく応える覚悟を固める。頬を少し赤くして意気込み、いつ非常事態が起きても動けるように、縄を引き千切る準備をしておく。

 手首に縛られた縄が静かな悲鳴を上げたタイミングで、先行していた真希が振り返った。

 

「着いたぞ」

 

 連れてこられた先は、立ち並ぶ寺社仏閣の内の一つ。お堂の戸をくぐると、等間隔に並ぶ円柱と蝋燭が中をぼんやり照らしている。

 

 マシュはどこか仄暗いお堂の空間に馴染めなく、僅かに身を強張らせる。藤丸はこれまで何度か過去の日本にレイシフトした経験か、特に気圧されてる様子も無く、きょろきょろと見回していた。

 

「おい! 言う通り連れてきたぞ、バカ! 話済ませるならさっさとしろ!」

 

 罵倒交じりの真希の呼びかけが、お堂の円柱の間に響き渡る。元が静寂な空間だっただけにマシュは大声による振動を鮮明に肌で感じ取る。大気の揺れが収まり、凪のような静寂がお堂内に戻っていき、

 

    「――ん、ごくろーさん。じゃあ、みんな戻ってて良いよ」

 

「ったく、おつかいとかガキ扱いかよ」

『ふぃー終わった終わった。俺ほとんど何もやってないけど。おつかれ二人とも』

「高菜」

 

 わいわいと解散する三人。

 

 しかしマシュはお堂の奥の方から響く男の声を聞いて、盾を掴む手を強く握った。警戒心を露わにして、闇に目を細めるマシュ。

 

 奥の闇は蝋燭の灯りも届いておらず、真希が「バカ」と呼んだ男の姿は見えない。しかし、奥の男は軽薄な笑い声を出して、

 

「そんな警戒しなくて良いから。悪いけど、君らの方から来てくれない?」

「……先輩、私の後ろに」 

 

 千切れかけていた縄に止めをさしてから盾を構えると、マシュは藤丸を自身の背中で隠す。藤丸はマシュの盾の裏に重なると、振り返って去ろうとしているパンダ達に問うた。

「ねぇ、あなた達の先生って、どんな人?」

 

 それはこのお堂の奥にいると聞かされた人物について。ここに来るまでの道中で、呪術高専や呪術師のことは最低限教えてもらった

 

 だからこそ学生の呪術師がいるならば、パンダ達を教え鍛える教師もいると早い段階で予想していた藤丸。しかし、()()()()()()()()()()()()()――――――――――。

 

 片目を吊り上げ、しばし考えこんでから、真希はただ一つの言葉で教師なる人物を表す。

 

「最強」

『最強だな』

「しゃけ」

 

 三者三様の答え方、しかしどの答えも誇張でもなく世辞でもなく、厳然たる事実を口にしただけという響きを伴っていた。

 

 三人はあっさりとお堂の扉を閉めて出て行く。名目上は侵入者であるマシュと藤丸を教師に会わせようと言うのに、拘束の縄の確認もせずに。

 

 二人を縛っていた縄は、パンダ達がお堂まで連行するための場繋ぎであり、教師の安全を確保するためのものではないということ。それはもしマシュと藤丸が、その教師に襲い掛かったとしても、何も問題なく対応できるということでもあった。

 

 何より、奥からひしひしと漂ってくるこの魔力は――――――サーヴァントのものだ。

 

「マスター」

「マシュ、大丈夫」

 

 言わなくて良い、と言外に伝えられ、マシュは口を閉じる。盾越しから肌が粟立ち、臓腑が芯から冷えていく。この荒々しい狂奔の魔力を、かつてマシュはアメリカの大地で味わったことがある。

 

 バクバクとうるさい鼓動を深呼吸で抑えて、マシュはお堂の奥へ進んでいく。藤丸も付いて行き、一本二本と円柱を視界の端で見送っていく。

 

 そうして蝋燭の灯りが届かないお堂の深奥まで行きついて…………ぽうっと目の前の地べたに置かれていた蝋燭の火が灯った。

 

「――君らにさ、聞きたい事あるんだ」

 

 藤丸とマシュの双眸にいたのは、ヤンキー座りで頬杖を突く20代後半の男だった。銀髪を逆立てて、目を黒いバンダナで隠している。それなのに、しっかりと眼前に辿り着いた藤丸とマシュを認めて、男……呪術高専の教師はヘラヘラと軽い口調で尋ねる。

 

「こいつ、君らの仲間?」

 

 そうして男は、自分が椅子代わりにしている倒れ伏した大男を指さした。

 

 2メートルに迫る屈強な肉体を彩る赤黒い紋様の入れ墨。両腕と下半身を覆う黒い外装には魔獣の如き赫棘が形成されており、臀部からは藤丸の胴など簡単に縛り潰せそうな尾が生えている。虚ろで殺意しか満たされていない瞳は、空絶の白に染まっており、完全に気を失っていた。傍らにはへし折られた魔の朱槍が無造作に転がっている。

 

 歩く災厄。

 鏖殺の狂王。

 虚無と荒廃の化身。

 かつてアメリカの大地で敵対したラーマから『魔王(ラーヴァナ)』と称された狂戦士(バーサーカー)――――クーフーリン・オルタが現代最強の呪術師の下に組み伏せられていた。

 

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