Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
『霊基パターン一致。間違いなく眼前にいるのは、カルデアで消失を確認された二十騎のサーヴァントの一騎。クーフーリン・オルタだ』
マシュの耳のインカムから極小の音量でホームズの声が流れる。お堂から流れてきた魔力を感じた時から、マシュは何かの間違いだと思いたかった。
しかし今こうして対峙すると、カルデアの分析を待たずとも分かってしまう。
太陽神ルーの息子にして、アイルランドの光の御子。「アルスターの猛犬」と謳われた、間違いなく『大英雄』と称されるに足る英霊だ。
その
それが、目の前の目隠しの男の実力。
この特異点における最強。
「青森で派手に暴れてるやつがいるっていうから行ってみたら、こいつがいてさ。いやぁ、うっとおしかったなぁ。幾らボコっても起き上がってくるし。だから奥の手を使わせてもらったよ。数日はこのまんまでしょ。――――で、もう一回だけ聞くよ」
男がおもむろに目隠しをずらす。
そこから覗いたのは、眼孔に閉じ込められた天空。
有り体な言葉では形容できない、埒外の美しさを秘めた双眸から、轟然たる圧が放たれる。
「こいつは、君らの仲間か?」
マシュの全身の肌がビリビリと痺れる。明らかな格上。人間より完全に上位に位置する存在からの眼圧に、藤丸とマシュは吞まれてしまった。
答えない二人に、男は肩をすくめて目隠しを戻した。
「この眼はちょっと特別でさ。まぁ、色々よく見えんの。で、こいつと……そこの盾の君。ほぼほぼ同じ
ごく一部の人間しか知らない筈の、自分の正体をあっさり見透かされ、マシュはびくっと肩を震わせた。
マシュはデミ・サーヴァント。召喚した英霊と子どもを一つの存在にして、英霊の「人間化」を目指した実験の唯一の成功体だ。
そこまでの詳細を、たった今男が見抜いた訳では無いと思うが、それでも男の目が特別である証左にはなった。
「でもさぁ~、妙なんだよ。呪霊の体って呪力で出来てんだけど、君やこいつは呪力で構築されてないんだよね~。体の組成は一緒なのにね。なんなの? 反転術式で生まれた生のエネルギーに似てるけど」
「……それが、クーフーリンを、私達を消さない理由?」
息を整え終えた藤丸が、軽薄な声音と言葉を交わす。男は顔の前で手を組んで、さらりと言ってのける。
「うん。正体不明のエネルギーじゃなかったら、君もこいつも構わず殺してたよ」
「―――っ!」
マシュが動いた。
円盾を大きく振りかぶって、十字杭による殴打を男に繰り出す。
男はクーフーリンを下敷きにしたまま、ぼぅっと自分の膝で頬杖を突いていた。
(当たる!)
そう確信したまま、マシュは杭を振り抜き――――――見えない何かが男と杭撃の間に挟まった。
「僕には触れらんないよ? 君との間にある『無限』がある限り」
「なっ……」
「気済んだ? ちょっとカマ掛けただけだーけ。僕は生徒想いのナイスガイで通ってんの。生徒と同い年のガキんちょに早々手は出さないさ」
「~~~っ、マスター! 直ちに離脱」
「私達のこと全部教えたら、私達の仲間を探すの手伝ってくれる?」
切迫したマシュの声を遮って、藤丸は目を逸らさずに最強の男を見据え続ける。藤丸は頭ではなく本能で分かっていた。
今この場で、武力において彼に敵う者はいないと。
だからこそ、それ以外の所で負けないように、対等である気構えを固める。
自分より遥かに強力な【英霊】と言葉を交わし続け、交流し続けてきた藤丸だからこそ、この短時間で男に気圧されることなく、条件を提示できたのだった。
男は、藤丸のそんな瞳を興味深そうに見つめ返した。
「ふ~ん……面白いね」
「さっき青森って言ってた。それって呪術高専って組織は、日本全国に情報網を敷けてるってことでしょ? いなくなって、散り散りになった皆を探すのにうってつけ」
「北海道だけは別。あそこはアイヌ呪術連の管轄だから。でもそれ以外なら、大方君が言った通りだ。うん、いいね。細かい条件詰めとか、
「バレてるって、ダヴィンチちゃん」
『うそぉ~~? なんでぇ?』
藤丸は肩をすくめて、カルデアの通信機を起動させる。するとすぐに青い立体映像が投影されて、仰天してるダヴィンチちゃんが映った。
「おぉ、未来感」と感心してから男は、初めて藤丸達に名を明かした。
「五条悟。東京都立呪術高専の一年担任を務めるグッドルッキングティーチャーさ。惚れられても困るから、そのつもりで」
「藤丸立香。こっちの可愛い子はマシュ。私の後輩。大丈夫です、この二年くらい美形に囲まれ過ぎたから」
こうしてカルデアと呪術高専、初の交渉の場が開かれたのだった。