Fate/CurseRound ―呪怨天蓋事変― 作:ビーサイド・D・アンビシャス
申し訳ありません。先週、「次回からバトル書きます」と言いましたが、頭の中のモノを掻きだしたら、もう1話だけバトルへのお膳立て回が必要でした。
明日の25時から、サーヴァントと1級術師のタイマンが始まります。
是非読んでください、お願いします……
深く沈み込んだ意識は口を閉じることまで忘れさせる。しかし口内から溢れ、顎を伝う唾液の気持ち悪さによって、藤丸の目蓋がノロノロと持ち上がった。
「ふぁ?」
深い熟睡によって、頭はぼーっと霞に包まれている。
パシパシと瞬きを繰り返し、辺りを見回す。
四方の壁をびっしりと埋め尽くす、呪印が刻まれた札。黄色い灯篭が正方形の室内を照らしているが、この光量では、真上に広がる、どこまでも昇っていけそうな闇を暴くことは叶わない。
寝ぼけた頭でも、藤丸は何となく『深い井戸の底にあるような部屋』だなと思った。そうして熟睡が取り除いてくれた肩の疲労に気付いて、次は熟睡に至る前の記憶を思い出そうとして……
「あれ?」
眠る直前の経緯が思い当たらない。
そもそも藤丸とマシュは虎杖達と共に、補助監督の伊地知清隆の車で呪術高専に送迎されていたはずだ。確かに車内で眠気に襲われたが、抗えない程では無かった筈。
「ていうか……あれ?」
口周りのべとべとした感触に不愉快さを感じ、またなけなしの乙女心から拭おうとして――――腕が動かないことを知る。
というか、藤丸は部屋の真ん中の椅子に座らされ、後ろ手に荒縄で縛られていた。
「あっれーーーーっ⁉」
身じろぎすると、ギッギチと霊験あらたかそうな荒縄と呪印の札が藤丸の腕を逃がさんと縛り付ける。
熟睡から覚め、すっきりした頭の中がサァッと冷えていく。混乱することも「なにこれ」と動揺することもせず、藤丸は的確に自分の現況を把握した。
(――あ、まずいやつだコレ)
場数を踏んで、肝っ玉はついた自覚はあるけれど、だからってこの状況を打開する力が藤丸にあるかと言うと、そんなものは皆無だ。毎度のことながら、打てる手が無い自分自身を歯がゆく思う。
「やっと起きたね、藤丸立香」
「っ! 五条さん!」
飛んできた声の方向は正面。
藤丸の椅子と向い合せに位置する椅子の背に、五条は顎を載せて座っていた。
一気に、藤丸の喉元に疑問や言葉がせり上がり、渋滞を起こす。けれどそれらが飛び出る前に、五条はタッハーと笑いながら現状を端的に伝えた。
「君らの存在、上にバレちゃった。だから藤丸立花――――君の秘匿死刑が決定した」
死刑。
幾度となく命の危険に晒されてきた藤丸でも、ここまで無機質で機械的に降り注がんとする死の予感は感じたことがなかった。
システムに殺される感覚が脳裏に重く圧し掛かり、
「――で、何を条件にして助けてくれたんですか?」
意にも介さず、死の予感を他力本願に跳ねのけた。
目隠しの裏で、五条が目を見開いた気がした。
藤丸は安心した心持ちで、五条に微笑みかける。
「だって、死刑ならわたしが寝てる間にやった方がいいでしょ。
前に言った通り、わたしには令呪がある。サーヴァントと隔離させたところで呼び寄せられるもん。なのにわたしが起きるまで五条さんは待ってくれてた。ていうことは、何か条件付きで死刑を引き伸ばしてくれたんでしょ?」
「……聡い子だね」
「ふふっ、ありがと。嬉しい」
「それにイカレてる」
「あーそれは嬉しくない」
「褒めてるんだよ? 呪術師ってのは多少のイカレ具合が必要だ。ねぇ、君さ、魔術師じゃなくて呪術師になんない? 向いてるかもよ?」
「買い被りだよ。わたしは、立ち止まれないだけ。……まだ自分の『答え』を見つけてないだけだから」
瞳を伏せると、浮かぶのは激昂した狼人の相貌。
『――負けるな。こんな、強いだけの世界に負けるな』
あの異端のヤガの言葉が胸にある限り、藤丸立香が立ち止まることは、絶対に無い。
震える唇をキュッと引き結び――――最強の前で気丈に微笑んでみせた。
「――君も面倒な呪いに掛かってんだね」
「え?」
「なんでもないよ」
五条は椅子から立ち上がると、藤丸の前まで歩いて来て、その場にしゃがみ込んだ。
「今回、上が測りかねているのは【英霊】の戦闘力とその制御。あの老人共は臆病でさ。【英霊】の戦闘力を危惧してるのさ。1級から特級相当の存在が少なくとも二十体以上。それに……君、奥多摩で自分の【英霊】祓ったんだって?」
「――うん」
「頼んだ身として心苦しいけど、まずかったね。あれで上層部はマスターとしての君の能力を疑った。【英霊】の制御が出来ていないって捉えたんだ」
「うーん、まずその制御って考えが違うんだけどなー」
藤丸は首を傾げる。
藤丸はこれまで一度だって、【英霊】達を、英雄を、怪物を、自分の制御下に置こうとしなかった。しかし、藤丸の考えは本来の英霊……サーヴァントとしての扱いとしては間違っているのだ。
主人と使い魔。明確な主従が為されていれば、上層部も【英霊】を『藤丸立香を介して、制御可能な力』として扱えていたのだ。
「ってことは、わたしに見掛け倒しでもいいから『英霊を従えられる』ところを見せれば、死刑を免れる?」
「そゆこと。出来る?」
五条に可否を問われ、藤丸はむーと唸る。
(事情を知ったら、大体の人は従ってくれると思うんだけど……AUOとかコロンブスとかがなー。我が強いからなー。でも令呪があるから、見せかけるだけなら……)
そういう手合いのサーヴァントが怖いのは令呪を使った後なのだが、そこは目を瞑るしかない。
「出来ると、思う。それに今回みたいなことは、もう嫌だから」
藤丸は自身の胸元を見下ろす。そこに抱きしめた銀髪の幼女の姿を思い描く。
(あんなことは――――もう二度と起こさせない)
藤丸の意気込みを見て、五条は「その意気や良し!」と首を縦に振った。
「じゃあ、後は上層部に示すだけだ。【英霊】の戦闘力、その有用性を。ということで」
小気味よい手拍子を打ち、五条は立ち上がる。そして藤丸の後ろに回り込むと、ガラガラと荷台に乗せたブラウン管テレビを押してきた。
(え? どっから出したの?)
藤丸の疑問をよそに、五条はリモコンをテレビに向ける。プツンと電源がオンに切り替わる音が鳴り…………映ったのは、ローマの円形闘技場を連想する場所だった。
コンクリート製のフィールドに対峙する戦士は、
「始めようか、大人な交流会」
呪術界を牽引していく1級術師と、カルデアの英霊だった。
はい、バトルのお膳立ては整った。書くぞー!
でも、ここでご報告です。Vtuberデビューによる生活リズムの変化により、更新頻度を変更させていただきます。
金曜・土曜・日曜の25時を目途に、3日間で1日1話ずつ更新していくことにしました。
これからも、拙作の応援よろしくお願いします。